水の都で命は踊る   作:盆回

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過ぎにし日々の残光

「まったく……このバカ達がバカやってごめんなさいね、ヒョウ太くん」

「ああ、まったくだ」

 

 海賊狩りが三本の刀を構える後ろで、オレンジ髪が心底呆れ果てたという風に溜め息を吐くのに同調する。麦わらの一味の面々は揃いも揃って、どうしてこうもトラブルを起こすのか。共に行動してそう経っていないのに、直面した問題行動が最早数え切れない程積まれているのはどういう訳だ。

 

「でももうここは心配いらないわ、私達で片付ける! あの鳩男のとこに行くんでしょ? ルフィの加勢をお願い!」

 アイツはあんなでも強いんだけど念には念を、と付け加えられる。その無条件とさえ思える信頼は経験則から来るものだろうか。

 

「……ここは任せて大丈夫なんだな?」

「もっちろん!」

 自信に満ち溢れた表情に背中を押された心地になる。こく、と頷いて出入口の方向へと足を向ければ。

 

 

「待てヒョウ太、ルッチの所には行かせんぞ!……ッ」

「余所見なんざしてる場合かよッ!! てめェの相手はおれだ!」

 おれという獲物を追い縋るようにして此方へと飛んで来そうになっていたキリンを、刀をぶん回す緑頭が遮った。

 

 

 

「どちらかを狙えばもう片方に遮られる、即興じゃろうに随分厄介な布陣じゃのう!」

 行動を阻害されることにいい加減飽き飽きしたのか、腹立たしさを隠そうともしない態度と共にいつもより数段低くなった声でカクが唸る。

「そりゃどーも! ……こっちはおれが倒す、お前はさっさと行ってこい!」

 ぎり、と鈍く音が響く鍔迫り合いの中、海賊狩りが目だけでおれを振り返りオレンジ髪と同じように行動を促す。

 

 それに一旦こくと頷いて、しかし言葉に反するようにその場に留まって仁王立ちをした。

 

「ああ。……ただ、一つだけ。言っておくことがある」

 ……必ず達成すると、約束したことがあるのだ。怪訝そうな顔は見て見ぬふりをさせてくれ。

 

 

 

 

「パウリーからの伝令だ」

 

 真っ直ぐに見据える先は、帽子の鍔が影を落としたカクの瞳。奴からすれば不可解だろうおれの行動に警戒していた裏切り者は、出てきた元同僚の名前に瞠目する。

 

 何がしかの揺れは測れても、詳しい心中は読めない、が。

 

 

 構わず続ける。

 己の口で託された言葉を、言いたいことを、くっきりはっきり間違いなく。

 

 

 

 

 

「大工職職長カク! 木挽き木釘職職長ロブ・ルッチ、そして社長秘書カリファ! てめェら全員クビだとな!!」

 

 

 

 

 

 

 元より丸い目が見開かれた。

 おれの宣言に返すのは最初から政府の人間だという正論か、そもそもそんなポストは要らないという開き直りか、それとも他の言い訳か。例えどれにしたって、おれは返事を聞きたいわけではない。

 だから睨み付けつつ言うだけ言って、言い捨てて。カクが何か言葉を発する前に、その場から最高速度で離脱した。

 

 

「クビ、か……」

 

 

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 

 門への行き道を探そうにも手掛かりはなし。麦わらは見当たらないが、放送から無事オリジナルの所に辿り着けたということだけは知っている。……一体奴はどうやってあちら側まで行ったのだろうか、おれのように跳べる訳でもないだろうに。

 司法の塔から正義の門までは距離こそあるが、さしたる問題ではない。月歩による空中歩行に足の動きを切り替えようとしたところで。

 

 

 丁度、ぱと目に入った、灰色で積み重ねられた塔にはそぐわない色があった。壁にペンキで描かれたのであろうそれは。

「……矢印?」

 

 短い間隔で点々と描かれた黄色い印は、入った時にはなかったはず。事実ペンキは乾いておらず、つい先程付けられたものだと見て取れた。現在この塔からはCP9以外は出払っており、他にいるのは海賊と車掌の一家のみ。そして、道標となるような落書きをするとなれば前者は考え難い。

 

 ふむ、と一拍考えて、指し示された方向へと爪先を向ける。

 先行した者と合流出来る可能性も鑑みて、この矢印に従うとしよう。

 

 

「こっちか……地下、でいいんだな」

 

 ひゅん、と耳元で鳴る風切り音を聞きながら、行き止まりの見えない地下通路を駆ける。

 

 

 ある程度進んだところで、前方に見覚えのある後ろ姿を捉えた。踵でブレーキを掛けつつ速度を落とし、大中小三つの影の隣で完全に停止する。

 

「あ、ヒョウ太にーちゃーん! 道標見つけてくれたんだ、よかったー!」

「ニー!」

「ああ。チムニーが描いてくれていたんだな?目印、助かった」

 振り向いた少女がペットと一緒になってぴょんこぴょんこと飛び跳ね、バケツを持っていない方の手を大きくおれに振る。その横で酒瓶と気絶しているらしい小さなトナカイを抱えた酔っ払いが濁声で笑いかけてきた。……非戦闘員である彼女らには、出来ることならば早めに逃げていてほしいのだが……当の本人達が、欠片もここから離れる気がなさそうだ。

「無事だったようでよりらねェ、んががが! ここを真っ直ぐ行った道が、正義の門への通路! 丁度さっきフランキーが通り抜けてったよ!」

「了解、真っ直ぐ、と」

 道に加えて付け足された先行者の情報に頷いて、止めていた足をまた動かし始める。

 

 

「ではお先に」

 

 振り返って軽く手を振り、瞬間ひゅるる、と。常人の目には追えない速度による人工の風の音だけを残して、先の通路へと消えた。

 

「……消えちゃった」

「あんなに足早かったんらねェ、ヒョウ太」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くからこおん、こおん、と石造りを叩く音が密閉された廊下で反響している。気にすることもなく先へと進んでいれば、そう時間もかからない内に喧しく忙しない足音としておれの前方へと現れた。勿論、音源の主と一緒に、である。

 

 

「……随分とボロボロじゃないか、解体屋」

 再度速度を落として並走しつつ、息を切らした男の顔を覗き込む。常々最低限しか身に付けていない布切れでは、殊更血の滲んだ肌を隠すことなど出来ないのだろう、分かりやすくズタボロだ。

 

「ゼェ、ハァ……! 、ア!? てめェ、ルッチ!?」

 声を掛けられるとは思いもよらなかったのか。びく、と肩を跳ねさせた後にようやっとおれを認識……いや誤認し、砲口の付いた手の平を此方へ向けてくるのを手で制す。

 

「違うから銃口を仕舞え。……ぼくはヒョウ太! 分かるよね? ガレーラの雑用の。会ったことあるでしょフランキーさん!」

 ついでに以前関わっていたときと同じ対応を。それでようやく理解したのか、丸く開かれた目がおれを凝視する。

「は!? 雑用のヒョウ太……って、相当にキャラ違くねェか!?」

「……いい加減面倒だな、この下り」

 詳しい説明は今はいいだろう、と溜め息を吐く。そんなことをしている場合ではないのだ。

 

「お前もこの先に用がある、ということでいいんだよな」

「あ、あァ! ニコ・ロビンの手錠の分かも知れねえ鍵の、3番と4番がここにある! なんとか間に合わせねェと……!」

 おれの問い掛けに気を取り直して、といった風に大男が頷く。鍵の総数から考えるに少なくとも三人を倒したのか、想定よりずっといい成果だ。盤面把握は着実に出来ている。次に必要なのは行動だ。

 

 

「成程、分かった」

「おう──ン?」

 

 腕を伸ばし、ひょい、とおれよりもずっと大きな体躯を肩へと担ぎ上げる。

 改造人間なだけあって確かに常人よりは重くある、が。問題は無い。

 

 

「舌を噛むなよ」

「な」

 

 

 その程度の重量を抱えたところで落ちる速度ではないのだ、急ぐのならばこれが最も合理的。

 

 

「剃ッ!」

「なあああああァァァーーッ!!?」

 

 片腕を奴の腹に回して固定するのもそこそこに。

 薄らと埃が舞う床を蹴り飛ばし、更に喧しくなった男を煩わしく思いつつも、取り落とさないよう駆け出した。

 

 

 

──────…………

 

 

 先方に小さくアーチ状の光が見える。長い道はこれで終わり、次は。

 

 ──鈍い殴打に、破砕。近付く程に大きくなる戦闘音。大男を抱えた腕に力を入れ、一層スピードを上げる。

 

「出口だ、……構えろ!」

「構えろっつったって抱えられてちゃ、うおお!?」

 

 明かりの元へ出て、本能的に飛び退いた瞬間。

 

 

 

 

 

 ダァンッッッ!!! と。

 

 先程までいた入口の柱に何かが叩き付けられて、人一人分の穴が空いていた。ばらばらと大小の瓦礫が舞う。

 

「ウガァ!!」

 すぐに麦わら帽子を被った男が跳ねるように、今しがた作られた穴から飛び出してきた。そのぼろぼろさを見ていればそれなりの時間を戦っていたことは分かる。──そして、その相手も。

「おめェ、麦わら!!」

「ヒョウ太に、……あ、フランキー!! 何しに来たんだフランキーコノ野郎!!」

「おれを嫌うのも大概にしろてめェ!!」

 がやがやと味方同士で言い争う肩の荷である男を降ろし、麦わらが飛んできた元を見据える。

 

 

 

 

 

 ぱたぱたと旋回する真白の鳥の下、扉の前で余裕を携え立つ男。

 睨み付ければ口端を歪めた笑みが返ってきて、眉間に皺が寄るのを自覚した。

 

 

「生きていたか……050」

「残念ながら。貴様を倒すまでは死なねェと、覚悟を決めたものでな」

 

 

 

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