水の都で命は踊る   作:盆回

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眩む戦線

 

 ボガァンッッッ!!!、と。

 

 吹き飛ぶだけでは飽き足らず、背にしていた石造りの頑丈であろう壁を盛大に破壊して奴は吹き飛んでいく。開けた先に広がるのは海、落ちてくれれば万々歳といったところか。

 

 

 

「不意打ち、成功した? 小細工こそするけど、六式を使わないとは言ってないからさ~!」

 その言葉は瓦礫と共に飛んでいったオリジナルには届かないだろうが。目で追っていれば惜しいことに海には落ちず、一帯を包囲している軍艦へと落下したようだ。

 

 

「本家には遠く及ばない、ルッチの指示と麦わらさんの攻撃に相乗り、上乗せ……それでようやっとこの威力だけど。まァ器用貧乏にしてはいいんじゃない?」

(……言っておくが、威力はどうあれ数回見ただけで六王銃を放てるのは異常だからな?)

「それってルッチとオリジナルの元のスペックがおかしいからだと思うけどね、おれ」

 

 

 

「よし、追うぞヒョウ太! ……んん? ぜろごーぜろ? なのか?」

「あー……ややこしいしおれの事もヒョウ太でいいよ、麦わらさん」

 身体から蒸気を上げたままぐいぐいと屈伸し、目線は軍艦に固定しながらも、麦わらが此方の呼び名に困ったのか首を傾げる。名前に関しては混乱するのも致し方ないほどに込み合った事情であるから、ここで説明するのも手間。050もおれと同じ考えの元に返答する。

「んじゃヒョウ太! 銃弾はおれが弾くからよ、さっきみたいにアイツの邪魔しといてくれ!」

「りょーかい!」

 

 指示を出して飛び出すように先行したゴムの体は、軍艦から撃ち込まれる海兵からの弾丸に一瞬へこみ、すぐに元の形へと反発して戻る。自由自在に伸び縮みとはつくづく便利な能力だ。

 

 

 

 

 ズドンと粉塵を上げて着地し、息もつかずに両手を長く伸ばす。狙いは甲板に落ちたオリジナル、そして周囲を取り巻く雑兵。

 恐らく広範の攻撃に巻き込まれることがないように宙を蹴り滞空すれば、直下。

 

 ぐるん、と赤い光を帯びた腕がしなり、甲板全体を薙ぎ倒す程の勢いで一周する。

 

 

 

「ゴムゴムの〜〜、大鎌!!!」

「うわあァァァ!?」

 

 

 わあぎゃあ悲鳴が上がる中、上へと跳ねて離脱する影を捕捉した。確認するまでもなく奴である。

 

(お前が近距離で勝てる相手じゃねェ。やるならヒット&アウェイだ、いいな?)

(分かってる、逃げの確保しとけってことでしょ!)

 目線は眼下の麦わらへと向いている、つまり今いる場所は死角だが……気付かれているとみて差支えはない。距離を保ち様子見を続けるよう050に言い含めた。

 

 

 マストの支柱へと飛び乗ったオリジナルがすかさず右脚を振り上げて、下方に斬撃を飛ばす。

 標的が危なげなく上体を逸らして躱したのを視認したのかしていないのか、ともかく当たらないことを悟ったのだろう。たん、と足音を残して下へ飛ぶのを観測した。

 

 同時に見えたのは、身体の変化。

 頭も手足も何もかもが先程とはまた異なった、完全に獣の靱やかなものへ。ネコ科の体格は細く、しかし凶暴さを滲ませている。

 

(麦わらの体勢がさっきので崩れた、補助に入れ)

(ほいほい、っと!)

 頭のてっぺんから爪先までを四足歩行のそれへするする移行し麦わらへと飛びかかろうとしている豹に、ひゅっと最低限の風切り音を鳴らして釘を投げ付けた。

 

 

 

 しかし、その弾は軽々と避けられる。

 

「ああもう、当たんないなァ!」

 主目的である攻撃の妨害は果たせているが、此方の攻撃が通らないかというあわよくばは叶わない。今現在飛び交っている銃声などよりずっと静かであったはず。それでも此方を見てもいないのに上手く回避しているのは、獣の聴力で聞き取った故だろうか。己ながらとことん厄介な相手である。

 

 

 

 

「嵐脚『凱鳥』ッ!」

「JETスタンプ!!」

 オリジナルの様子を見るに、麦わらへの猛攻を続けながらもおれの立ち位置を確認しているらしい。大立ち回りを繰り広げる傍で妨害を飛ばしてくる戦力外は鬱陶しいことこの上ないだろう。当然先に排除してしまおうという考えに至るのも承知済みだ、一箇所に留まらないよう跳びまわる。

 

(奴がやりづらい場所は分かる。攻撃されなければ直前で回避する必要もない)

「狙いを付けられないような動きってわけね、言うのは簡単だけど難しくない!?」

 麦わらの攻撃も鑑みて縦横の動きを逐一指示すれば、その通りに移動する動きは滑らかである。050が慣れていないだけで身体は戦闘向きなのだ。

 

 

 

 

「……チイッ」

 オリジナルから舌打ちが飛ぶ。決定打どころか、斬り倒したマストだの何だのに巻き込むことも出来ないでいる事実へ焦れたようだ。

 ぎりと此方を睨みつけた後、警戒はある程度向けたまま敵を一つに──麦わらにと定めたらしい。

 

 

 ……試しに釘を投げるよう050に言う。放たれた金属は今までとは一転、豹人間の肩から血を流させることに成功するが──それに対しての反応がない。

 

(流石に、気付くか)

 この状況下には最も簡単な攻略方法がある。邪魔を完全に無視することだ。多少の傷や痛みは捨て置いて真っ先に厄介者の麦わらを倒し、その後におれ達を殺しに行くという考えに至ったのである。……そして、その結論への対処法はない。此方が首や心臓といった致命傷を狙っていればこの方法は取れないだろうが、おれ達がそうしない、出来ないことを奴は理解している。

 

 

 

 

 麦わらに専念されてしまえば、集中を乱す役目も薄れることになる。かといって先程の不意打ちじみた六王銃で警戒されているであろう近距離での戦闘は、明らかにこの場の誰よりも劣った050ではいっそ麦わらの邪魔になる。つまり手を出せるのはここまで。

 

 

 ……いっそ戦闘を全て麦わらに託してしまおうかという、普段ならば有り得ざる諦めが滲むのは、やはり精神が弱っている故だろうか。引くにしろ追うにしろ、判断を即決するのは危険な盤面となるだろう。一旦安全圏に移動しようかと050に声を掛けようとして。

 

 

 

 バチン! と、ゴムの収縮音が降ってきた上空。

 

「う、わ──!」

「……いいだろう、見せてやる」

 

 

 見上げれば、二つの影。宙に飛び出しての攻撃を躱され体勢を大きく崩した麦わらへ、両の拳が向けられていた。

 

 

「先程の紛い物とは違う、六式の全てを極限まで高めたものの最強の体技!」

(、な)

 

 

 

 動揺は、オリジナルが六王銃を使ったからではない。

 手早く勝負をつけたいのならば技の出し惜しみなどしないだろうから、驚くことなどない。

 

 

 

 

 

(な、にしてる、050ッ──!?)

 

 

 

 読み取る隙など何も無い、空白の思考のままに()()()()()()()()()()が問題であって。

 

 

 

 

 その先は当然、オリジナルと麦わらの間であり。

 

 

 

「…………!!」

 全ての動きが下へ流れる光景ごとスローモーションに見える中で、照準のブレない腕が腹へと当たる。

 

 余裕も回避の暇もなく、気休め程度の鉄塊すらも掛かっていない状態でのソレは、死を齎しかねないもので。

 

 

 

 

 

「六・王・銃!!!」

 

 

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