水の都で命は踊る   作:盆回

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決着

 

「ルフィ!! お前何やってんだよォ!! 起きろルフィッ!!!」

「ウソップ……!? お前……来てたのか……!?」

 

 再度六王銃をまともに受けて突っ伏した麦わらと、その名を呼ぶ鉄骨上の長鼻を、荒くなった息を整えながら交互に睨む男の後ろ。

 

 

 がらがら崩れる壁の方から、小さくかん、と瓦礫の動く音を気にするような者はいない。誰も立ち上がると思わなかった人間のことは、もうとっくに意識の外だろう。

 

 

 降り掛かる塵をそのままに上体を起こす。

 背を屈め、足の重心を移して体を支える。

 苦しくなどない、痛くない。痛みなんて、今勝つ為に必要のないものは思考の外に追いやってしまえ。

 

 

 息を吸って、吐いて。

 痛みと一緒に、心に掛かった錠前を跳ね除ける。

 

 

 

 

 

 長鼻の挑発に敢えて乗ってやろうとでも思っているのか、豹の脚先が外へと向いた。

「やめろよ!! お前、あいつに手ェ出すな……!」

「……既に敗北した貴様に用はない。どの道全員殺すんだ」

 奴の意識は、動けずとも止めようと叫ぶ麦わらにあった。その隙に近寄って。

 

 

 

 右手を握り指を立てても、もう手が震えることはない。大丈夫、おれが誰かを殺めることはもう二度と。

 

 その証明をここに。

 

 

「指銃、『黄蓮』」

 

「ッな、ん───!?」

 

 ざく、と呆気なく。

 豹の体毛を通り越し指が体温へと触れる、いとも容易く肩の皮膚を貫く。

 ひとつ撃ち込んだそれを皮切りにして連撃を重ねて。ふたつ、みっつ、今までの意趣返しのように傷を刻んで、ニヤリと笑ってやる。

 

 

「戻ってきてやったぞ、『ロブ・ルッチ』ッ!!!」

「貴、様ァッ!!!」

 

 振り返った体へとダメ押しとばかりに拳をぶち込めば、獣の巨躯は吹き飛び壁へと激突した。

 

 

 

 

 

 

 もうもうと砂埃が立ち上る中、影が一瞬揺らめき掻き消えた。足に鉄塊を掛けて構えた数拍後にガキン!!! と、金属のぶつかり合う音が響く。

 

「ッチ、あれくらいじゃあ倒れちゃくれねェか!」

「いや、不意打ちは中々に効いたぞ……立ち直るとは思っていなかったからな」

 一呼吸分の短い鍔迫り合いは、おれが弾かれることで終わる。お互いにぼろぼろの様相である、技量の差が諸に現れた故の力負け。

 

「ぐッ……!」

「だが無駄だ。お前も麦わらも、その仲間も! 一人残らず同じ地獄へ送ってやる!!」

 

 片足でふらついた所を突かれる前に、だんと地面を蹴って距離を取り姿勢を立て直す。即座に飛び掛かって突き立てようとしてくる爪を紙絵で躱し、カウンターのように斬撃を伴う蹴りを放った。

 

 当たる、当たらない、当てる、当てられる、吹き飛ぶ。六式を熟知した者同士による本気の戦闘は先読みと判断の高速化を強いて、身体的にも精神的にも疲労を翳す。構わない、そんなもの脳内麻薬で押し流せ。

 

 

「こんなところでおれは死なねェ、お前を倒すまで殺されても死んでやるものか!!」

「立っているのがやっとなんだろう? いい加減沈め、虚勢を張るのも大概にしろッ!」

 

 激化する戦闘に過熱されて互いに荒く息を吐きつつ、拳に加えて舌戦……というにはあまりに罵倒ばかりが多く目立つが、重ねて放つ。

 

 

 

「貴様一人がどう足掻こうが! おれには、世界政府には勝てやしない!!」

 有利を幾度も覆された故か、おれ以上に苛立ちを募らせた対峙者ががなり吐き捨てるように叫ぶ。それに頷くことなんてしてやらない。

 

 

 

 だって、まだ声が聞こえる。

 

 

「爆煙で黒くたって空も見える、海も見える、隣にヒョウ太が立って戦ってる!! ここが地獄じゃあるめェし! お前が死にそうな顔すんなよ!!」

「……わかってる、ここは地獄でも何でもねェ……!!」

 

 

 

 あの男は立ち上がる、立ち上がれるのだから。

「一人じゃねェんだよ、おれは」

 

 

 熱の篭った蒸気を上げてゆらり立ち上がった姿を横目で認め、はくと目の前の男が息を飲む。六王銃を二度も喰らいながらも意識を保っているような相手は前代未聞なのだろう。

 

「……だが、どちらも死に体であることには変わりない……!」

 ぎりりと歯を食い縛り、自分に言い聞かせるような色までも混ざった呟きを洩らして巻き直し、狙いを定めるように両の腕を此方へと向けた。

 

 

「まずは050、貴様からだ!!」

 放たれんとしているのは、つい先におれの体に重傷を負わせた技。

 

 

「その大技を警戒していない筈がないだろッ!!」 

 決して大振りという訳では無い、練度の高さ故か威力に反して隙は少ないがしかし、予備動作に介入の余地はある。拳が当たる前、衝撃波が訪れる前に逆に接近して奴の懐へと潜り込んだ。

 

 

 前傾姿勢で踏み出して腕を伸ばす、そっくりそのまま同じ体勢で、声を張り上げ技の名を叫ぶ。

 

 

 

「最大輪、六王銃!!!」

 

「──ッ!!」

 

 防御不能の内部破壊。それも先程の050のような見様見真似のものではなく、一撃必殺として成立しうるということは間違いなく察しているだろう。

しかしおれが奴の六王銃を躱せるということはそれ即ち、おれ以上の修練度を誇るこの男も同じく回避が可能であるということ。

 

 現に今手の甲に触れるのは、獣の体毛を掠めて身体ではなく空を叩く感覚。咄嗟に体を横へと逸らして逃れる体を肌感で認識して。

 

 

 

 

「それで、いい……!」

 想定通りの動きに口角を上げる。

 

 

 

 

 同時に。

 

 

 

 

「な、……こ、れは──!?」

 

 おれの袖口から、通り過ぎた背後から。しゅる、と縄の滑り巻く音。

 お前も知っているだろう、いっそおれよりも長く見てきたのだから。豹人間の身体を拘束するようにぎちりと巻いたこの荒縄と、それを扱う技を。

 

 

「タップ・ノット。小道具も小細工も仕込んできたと言わなかったか? 使えるものは使わせてもらう!!」

 

 

 おれの六王銃がこの状況で何よりの脅威として映っているのなら、回避するのは当然の帰結。そして寸時の反応には癖が出る、おれなら読める程の微かな癖が。

 

 

 であればそこを突けばいい。正面から六式勝負を仕掛ける必要などなく、勝つ為に不意を取れればそれで構わない。

 幾らガレーラの縄とはいえ引き留められるのはほんの一瞬、即座に引きちぎられる強度でしかない、が。

 

 

 

 隙は一瞬で十二分。

 今はそこに、勝機がいる。

 

 

 

 縄に込めた力はそのまま、振り返って真っ直ぐ見据える。

 敵ではなく、その向こう側にいる味方である男を。

 

 

「行けルフィ、お前の全力で!!」

 

 

 

 

「──ギア、3」

 がちと骨を噛んで空気を吹き込むようにした手が、風船のようにぶわりと膨らむ。

 見上げるほどのそれはまさしく、巨人の腕。

 

 

 

「ぐ、邪魔、ばかり……!」

 今更になって本命の攻撃を察知したとしても、縄を千切ってすぐの状態では対処のしようなどない。奴に出来るのは、迫る拳を甘んじて受け入れることのみ。

 

 

 

 

 

「ギガント・ピストル!!!」

 

 

 

 

 ズガァァァァンッッッ!!!!、と。

 

 ルフィの全力は石造りの塔の床をぶち抜いて、最後の敵を今しがた作り上げた瓦礫へと叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこからでも見えるような大穴の中。

 ぱら、ぱらりと降る瓦礫の欠片を払うことも出来ずうつ伏せた男の背に、何処からともなく真白の鳥が舞い降りる。戦闘力を持たない鳩が奴の傍へ寄り添ったことで、ようやっと確証を得られた。

 

 

「は、ァ……終わった、これで、いいんだ……」

 

 膨らんだ体はそのままに、力を使い果たしたかのように仰向けで倒れながら。

 政府の中枢へと殴り込んだ海賊船長は、思い切り息を吸い込む。

 

 

「一緒に帰るぞ!! ロビン!!!!」

 

 

 おれ達の勝ちだ、世界政府。

 

 

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