水の都で命は踊る   作:盆回

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旅に出よう

 

 

「──体はクローン、でもって中身は別の世界? の……正真正銘ルッチ……?」

 全ての身の上を打ち明けるため、先んじて前提から説明をしてみたのだが。

 ……全員見事に大層困惑している。いくらグランドラインという奇天烈な環境に身を置いていると言っても、異世界なんて単語は唐突だっただろう。当事者であるおれだって最初は信じられなかったのだから仕方ない。

 

「今までが大体演技だってのは……まあ承知したが、それをクローンとしての050って人格が受け継いで……?」

「整理すると、別世界のルッチがヒョウ太を名乗ってたらヒョウ太にそっくりな050が出てきて……ヒョウ太がルッチで050がヒョウ太? やべェ混乱してきた」

 更にその意味不明さに拍車を掛けたのがクローンの話、それに絡み合った演技関連の影響である。関わっている人数は片手に収まるというのに、自分で話している分にも訳が分からなくなりそうだ。

 

 

 

 

「おぉゥ、おお〜〜うゥ……! オメーどんな思いで黙ってたのかってのはおれにゃ計り知れねェけどよォ、少なくともそれを裏切りなんて思う奴はいねェよ〜〜!!」

「ンマー……なんでお前が一番泣いてんだフランキー……」

 話の最中、手元の精緻な動作は一切狂っていない器用な状態で泣かれたり。

 

 

 

 

「はァ!!? 味覚以外にも悪いって、聴覚と触覚が!!? 聞いてないぞォヒョウ太!!!」

「触覚って、おいお前大怪我してたよな!? あの時から!? 今は大丈夫なのかよ!?」

「問題な、っ揺さぶるんじゃ、……やめろ!!」

 作業を一旦中断までして肩を掴まれ、ガタガタと揺さぶられたのを振り払って拳骨をかましたり。

 

 

 

 

「しっかし四六時中演技たァ、よく出来たなそんなこと」

「生徒会長として潜入捜査をする機会が多くてな。演技に関しちゃ学園祭で主演男優賞を取ったくらいだ、……なんだその目」

「いや平和だなと」

 全員ある程度落ち着いてきた頃に元の世界の話を零して、微笑ましいものでも見るような目で見られたり。

 

 

 

 

 

 

 日が落ちて、水平線の向こうに暮れていっても尚鳴り止まぬ木槌の音。

 

「……コーラが動力の船、理解できねェおれがおかしいのか? いっそ常識は捨てるべきか?」

「おれというサイボーグがコーラをエネルギーにしてんだ、船に応用出来ない道理はねェだろうよ!」

「常識は捨てるなってヒョウ太、その感覚正しいから」

 

 

 

 

 月と星明かりのみが頼りの中でも澱みなく進んでいく手は早く、しかし丁寧に。

 

「そういやヒョウ太がこんなに造船に関わったのは初めてだよな? 職人と同等じゃねェか、雑用やらせてたのが勿体なくなってくるぜ」

「その理由はドジだから、だろう。全て演技だったんだ、おれがそう仕向けてたと言ってもいい。気にするな」

「でもよォヒョウ太」

 

 

 

 

 重労働の中でも口数多く、会話が途切れることもなく。大量の機能を積んだ特別な船は着々と組み上がっていく。

 

「おれァ……お前と一緒に船を造るのがこれで最初で最後になるなんて、これっぽっちも考えちゃいなかった」

「……パウリー」

 

 

 星空を見上げた男が呟いたのは、順調に完成へと向かう作業とは裏腹な感傷だった。

 

 

「それだけじゃねェ、もう……やっぱりおれも小旅行とやらに着いてっていいか!!?」

「あっズルいぞタイルストン、ならおれも一緒に行く!! 護衛なら任せろ!!」

「タイルストン、ルル……お前らは仕事しろ」

 冷てえぞヒョウ太ァと声を揃えて口を尖らす彼らに少し笑い、手元に集中を戻して話を切る。

 

 

 ……勘づかれはしなかっただろうか、これ以上続けたくない話であることを。

 身も心も、自分で失笑出来る程には弱っているらしい。ある筈のなかった未来を語る一言一句が枷になる、名残惜しむ表情ひとつで後悔が生まれそうになる。おれにとっても050にとってもきっと良くない感慨を植え付けるそれを、どうか伝えないでいてくれと自分勝手に願った。

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

「アーニキ〜〜〜!! 呼んできたわいな〜〜〜!!」

「ん? ……来たか」

 特徴的な語尾が遠くから飛んできて、うとうとと降ろしていた瞼を上げる。

 

 途中からの手伝いであったおれとは違い、丸三日ぶっ続けで作業をしていた職長に社長、そして主に力仕事を請け負っていたカエルのヨコヅナは平たいガラクタの上で鼾をかく程に寝入っていた。が、大声はしっかり届いたらしく皆目を覚ます。

 

 

 呼んできたスクエアシスターズの案内を追い越し、たたたっと軽やかな小走りの音をさせて、船の所有者となる麦わら帽子を先頭にした一味が向かってくるのが見えた。

 

「おーーい来たぞフランキー!! 船くれーーっ!!」

「ンマー、来たな。あいにくフランキーは外しててな、だが船は出来てる」

 腕を大きく振り上げたルフィが呼ぶ名前は今この場にはいない。代わりにしゃんと起き上がった社長が応対する。

 

「……この船は凄いぞ、図面を見た時目を丸くした。あらゆる海を越えて行ける、世界の果ても夢じゃねェ」

 

 

 

「フランキーからお前への伝言はこうだ、麦わら」

 アイスバーグ社長は船を覆う布に手を掛け、急かすルフィの期待を背後に口角を上げる。

 

「『お前はいつか海賊王になるんなら!この百獣の王の船に乗れ』!!」

 

 

 ばさ、と勢いよく白布が翻れば、隠れていた姿が現れ出る。

 デフォルメされた百獣の王──ライオンが骨に支えられた、海賊らしくないようで自由な海賊らしい船首、がっしりと高く聳えた縦帆を携えたスループ船。

 

 

「うおーーっ!!! でけーーー!! かっこいい〜〜〜!!!」

 

 船長の雄叫びを皮切りに続々と上がる歓声はどれもきらきらと輝き、心からの喜びに満ちていた。これだけの反応を受ければ船大工冥利に尽きるというやつだろう、おれの横に座り込んだ職長たちも嬉しそうにからからと笑っている。

 そんな中一通り船上ではしゃぎ回り終わったのか、ルフィがデッキの手摺りから身を乗り出して下へと声を掛けてきた。

「なァアイスのおっさん! フランキーどこだ? 礼も言いてェのに!!」

 礼を言うにしても伝える相手がいなくては仕方がない、という訳だ。しかし、奴がここから離れていったときの態度からして──

 

「──もうお前らに会う気はねェらしい。麦わら、あいつを船大工として誘う気なのか?」

「うん! よくわかったな!! おれ、あいつに決めたんだ船大工!!」

「それを察したようだ」

 

 面と向かって誘われれば断る自信がない、だからこそ会わないように。……面倒な精神性だ。過去に起こした後悔への償い、それに縛られているのだという。あの不良解体屋のバックボーンと思うと首を傾げてしまうが、昔馴染みである社長の言うことだ、事実だろう。

 

 

「もし本当にあいつを連れてく気があるんなら手段を選ぶな、力尽くで連れてけ。それがあいつを解放できる唯一の手段だ」

「無理やり? そんなんでいいのか!?」

 

 

 

 

 

 力尽くで連れて行くと麦わらが堂々と宣言した、そのすぐ後の騒ぎは最悪の一言で片付けられる。

 

 ほとんど復興の終わっていた裏町が盛大に破壊されることから始まって、飛び交う罵声と共に文字通りカッ飛んで来た諸々の汚らしい事柄から顔を逸らしたり、痛々しく見苦しい場面があったりとまァ色々と、本当に最悪な一幕であったが。

 

 

 

「さァ乗れよフランキー! おれの船に!」

「──仕方ねェ! 世話してやるよ!! おめェらの船の船大工!! このフランキーが請け負った!!」

 

 

 そんな最悪を送り出す声援が耐えない辺り、海賊の船出としては悪くない……のかもしれない。

 

 

 

 

 そして。

 

「やっと全員揃った! さっさとこんなに砲撃抜けて!! 冒険にいくぞ野郎共〜〜!!!」

 

 

 そして結局、海軍に追いかけ回されるなどという慌ただしい出航の真っ只中で、この数日間続いていた一味内での悶着も締結したらしい。街をうろちょろと彷徨っていたウソップも、きちんと船の上に立っている。

 

 

 

 鉄の弾丸が海に上げる飛沫を避け、最後には飛翔して。

 あっという間に見えなくなった海賊船に背を向ける。

 

(最後、ルフィさんなんか言ってたね?)

(聞こえる訳があるか、あんだけの距離で)

 飛び跳ねながら何やら叫んでいた彼奴の行動が少々気になったが……前の健康体ならばいざ知らず、今の聴覚は常人とそう変わらないんだ、分かるはずがない。どうせウォーターセブンへの礼の言葉辺りだろう。

 

 

 

 

 海賊達が居なくなった途端に静寂を取り戻した海を、しばし野次馬と共に眺めていた。

 住民が一人、また一人と景気良さげに人混みから散り始めたのを合図に、ルルがほう、と息を吐いて自身の大工道具を拾い上げる。

 

「いい仕事したな」

「そうだな……さァ職場に戻るか! ヒョウ太はどうする?」

 ぐっと伸びをして肩を鳴らすパウリーに声を掛けられ、こきり首を回しがてら返答する。

「帰って旅支度、だな。明日にでも町を出る予定なんだ、悠長にはしてられない」

「そうか明日……明日ァ!?」

 驚愕したように跳ね上がった声を浴び、此方が驚かされる。……そういえば形だけとはいえ休暇申請をしに来たのに、期日についての話が抜け落ちていたことに、今気付いた。

 

「素でも大概抜けてんじゃねえかお前……」

 言っていなかったなと呟けば呆れ顔が向けられた。偶々忘れていただけだ、その評価は些か心外である。

 

 

 

「まァ……サン・ファルド、プッチ、セント・ポプラ。全部回るんだよな? それぞれ二、三日づつとしても、確かにそんくらい早めに出なけりゃ間に合わねェ、か」

「そういうことだ」

 金髪をがしがし搔きながらの確認に頷く。……が、あーだの何だの呻く彼奴は明らかに納得が行っていないと言いたげで、その曖昧さに眉を顰めた。

 

「なんだ? はっきり言え」

 少し語調を強めて問うてやれば、歯切れ悪く唸るのを止めて身をかがめ、視線を合わせてくるパウリーに肩を掴まれる。

 

 

 

「……お前は、ちゃんと帰ってくるよな?」

 

 

 アイツらとは違って、とでも続きそうな言葉だった。

 実際は、一文字に結ばれている口が二の句を紡ぐことはなかったけれど。

 

 はァ、と短く息をつく。

 此奴はこんなに心配性だったろうか。お節介ではあるが根っからガサツで適当なパウリーという男に見合わぬこの態度、含まれているのは根本からの心配と、恐れ。ひょっとすると『ロブ・ルッチ』の顔がトラウマにでもなっているのかもしれない。

 

 

「……安心しろよ、パウリー。エニエス・ロビーからだって無事に帰っただろう? それにおれも050も、ここを終の住処にすると決めたと言ったろ」

 

 ウォーターセブンにもお前らにも迷惑を掛けるがな、なんて言ってみればパウリーはぶんぶんと首を横に振る。

 

「迷惑だとか悪ィとか、ンなこと思う必要全くねェ! むしろもっと頼れっての! ……ちゃんと帰ってくるんだな?」

 念を押すような言葉と共に、肩に掛けられた手がふっと緩む。

 

 

「なら良し! 気ィ付けて行ってこい!」

「言われなくとも」

 




ウォーターセブン編、完!
次回から完全オリジナルになっていきます。
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