水の都で命は踊る   作:盆回

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祭りのあとで

 

 お祭りの喧騒を、パレードを追い掛ける人波の一部となって過ごす。

 道すがら出店に立ち寄って買い食いしたり、大技を決める役者に盛り上がったり。

 

 

 時間は何とも早く進み──移動ショーがクライマックスを迎えたころには、もう日付が変わってからしばらく経っていた。

 

 

 

「もう終わりかあ」

「そうだな。今日を過ぎたらこの街もいつも通りだ」

熱気は残り香にさえならず、人の輪も屋台も徐々に撤収していく祭りの後はどうしたって侘しくて、いつだって名残惜しい。

 

 

「……明日から君はどうするの? もうウォーターセブンに行く?」

 

 このまま宿屋に入るのも何となく嫌で、ヘールシャムにそう訊ねてみる。行き当たりばったり気味の彼は特に決めていなかったらしく、どうしようかな、と呟いて。

「……うーん、うん、じゃあウォーターセブンに。世話になるんだから、なるべく早めに挨拶しといた方がいいはずだよね、多分」

「りょーかい。だったら色々教えなきゃだから、……メモはっと」

 ヘールシャムは首を小さく捻りつつ、おれの言葉を復唱するように先を決定した。

 

 

 でもってそこにおれは着いていけないから、今の内に色々根回しが必要だろうとペンを取り出して紙に必要事項を走らせる。ガレーラの場所……は、いいか。分かりやすいし。

 

「ガレーラカンパニーは島の中心にあるからね、そこで一番ドックのパウリーさんに用があるって言えば対応してくれるはず。額にゴーグル付けた人が出てきたらヒョウ太の知り合いだって伝えて……」

「ちょっ、と待って」

 考えていることをそのまま口に出していると、段々隣の気配が揺らぎ始める。ん? と疑問を呈する前に。

 

「ヒョウ太兄はウォーターセブン、行かないのか? 一緒じゃないの?」

 ペンを動かす手を止めて、動揺交じりの声に顔を向けた。あれ、言ってなかったっけ。

 

「おれはまだ帰んないよ。次にプッチ行ってー、セント・ポプラ行ってー、それから戻るつもり」

「あ、そ、そうなのか……僕の思い込みだ、ごめん」

 首に巻いたマフラーを口まで持ち上げ、少し恥ずかしそうに目を逸らすヘールシャム。か細い謝罪が微笑ましくて、気にしないでとひらひらと手を振った。

 

 

「えと、プッチに行くんだよな? それならちょっと、頼まれてほしいことが一つあって」

「頼み事? おれに出来ることなら、何でも」

(お前はまたそう安請け合いして……)

 頭を振って立ち直ったヘールシャムの言葉を反芻してそう答えると、溜め息に近い声が呟かれたのは受け流す。酷い無茶振りはしてこないだろうっておれなりの考えがあるんだから。……とはいえおれはプッチに縁もゆかりも無いんだけど、それでもいいのだろうか。

 

 

「いや内容くらい聞いてから決めなよ……ダメならダメで構わないんだ、僕もプッチに行けば済む話だから」

 遠い目をして、金銭的に厳しいだけで、とぼやくヘールシャム。家出少年の彼にとっては海列車の往復代金さえ痛い出費らしい。

 

「それで内容なんだけど……伝言を、頼みたくてさ」

 すぐに意識を引き戻しておれを見る目からは、若干の後ろめたさが読み取れた。

 

 

 

 

「プッチには僕をここら辺まで船で乗せてってくれた人達がいるんだ。『居場所があるならそれでいい、でもそうじゃなかったら家に送り返す』って言われてて……」

 戻るつもりがなくてもせめて話し合えとかを色々言われただとか、ド正論だし助けて貰ってる手前反論出来ないだとか、眉間に皺を寄せながらヘールシャムはもごもごと呟く。

 

「へェ、協力者みたいな?」

「まあ、うん、そんな感じ。で、どっちにしたって一段落したら連絡してくれって電伝虫の番号渡されたんだけど」

 一旦話が切れる。──何となく、展開が読めたような。

 

「……だけど?」

「……その書かれたメモ、置き忘れて……」

 口篭りながらの答えは、見事に想像通りだった。中々のドジっ子みたいだ、ヘールシャムも気付いていないらしい協力者とやらも。

 

 思わず半目になって見やれば、ヘールシャムは肩を縮こませる。だけど別段おれが怒る筋合いもない。

 

 申し訳なさそうに萎縮した彼の緊張を解く為に、ばしりと音が鳴るくらいに背を叩いた。

「わ、っ!?」

「いいよォ伝えるだけなら、行くついでだし。これも監督責任ってヤツ?」

 快く了承を告げれば、ぱ、と俯きがちだった顔が上がる。明らかに血色の良くなったヘールシャムは本当に分かりやすくて、これでルッチと同年代なんだと思うとその違いがちょっと面白い。

「ほ、本当か!? 助けてもらってばっかりでごめん、ありがとう!」

「いいよいいよ、ガレーラに労働力で返してもらえばそれでいいんだわ!」

 

 

 こくこくと頷くヘールシャムに、そうと決まればと話を先に促す。

「それで、協力者さんはどんな人なの? 大体どこら辺にいるとかって分かるかな」

 そうだなァ、と目線を上に向けて思い出しながらといった風に出てくる情報群に耳を傾けた。

 

 

「正規の港に居ないのは確かで……あの島には奥まった方にも港があるから、そこに停泊してたな。船自体結構目立つから分かりやすいと思う」

「ふーん、ってことは若干アウトローだったり?」

 少し引っ掛かったことを聞いてみる。

 ウォーターセブンでも、海賊や非正規船、そうでなくても影を持った連中は基本裏の港を使うものだから。

 

「そう、海賊。……今更だけど言ってなかった、ごめん。父さんの知り合いって印象の方が強くて……悪人じゃないからそこは安心してくれ」

「ここまで君を面倒見てくれたんでしょ? 心配してないよ」

 おれ自身はガチガチの海賊嫌いという訳でもなし、ルッチも色々あって毛嫌いと言う程でもなくなったしで、それが断る理由にはならない。話を聞く限り相手は至極真っ当そうなのでまあ、大丈夫だろう。

 

「それに職業柄、海賊にはそこそこ詳しいんだ〜。もしかしたら知ってるかも!」

「そうなの? まあ知ってる人は知ってるか、手配書も出てるし」

 一般や政府だけでなく海賊も顧客とする造船会社に身を置いているのに加えて、情報収集の一環として新聞のチェックを欠かしたことがほぼないルッチがここにいる。その上手配書が出ているなら大抵は分かりそうなものだけど──

 

 

 

 

「カッスン海賊団って人達。知ってる?」

「…………、え」

 

 

 

 




思い残すことがないようにするための旅、清算の旅。
そんな中でやっと出てきた再会フラグ。
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