水の都で命は踊る   作:盆回

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ド日常回です。
掲示板の方で??ゲージと称してダイスを振っていました。??に入る言葉がこの章の軸、なんとなーく推測したりしなかったりしてみてください。


港にてふたたび

 

 自分の声掛けによって派手に転倒した知己にあわあわと目を白黒させ、手を伸ばそうという素振りを見せて。ガラスこそ無いものの仕切りとして存在する壁やテーブルに阻まれ、男は届かない腕を気まずく引っ込める。

 

「すまん! 急に声掛けちまったから驚いたよな」

「いやいいの、師匠は悪くないの! おれが勝手にひっくり返っただけ、……うあー……忘れて……」

 バツが悪そうに赤い頭を搔く男──カッスンを直視できずにいる050からは、あーだのうーだのはっきりとした言葉にならない煩雑な思考が流れ落ちてくる。半年振りの再会に相応しい形でないのは確かだが、うだうだしているのも大概恥だぞ。

 

 

 

 

 

 

 窓枠越しに会話を続けるのも邪魔になるだろうと、店を出てカッスンと合流する。料理は既に食べ終えていたことが功を奏した……というか、いつからこの男はここにいたのだろうか。先程の声掛けは、食べ終わるまで待っていたとしか思えないタイミングの良さだったが。もしやずっと見られていた?

 

「まァなんだ、改めて久しぶり、だな! 折角近くまで来たんだし、用が終わればウォーターセブンに会いに行こうと思ってたんだが……手間が省けた」

 磊落な性格に見えて、存外細やかさも持ち合わせているのがカッスンという人間。今しがた起きた事故にこれ以上触れられたくない、と全身で訴えかけてくる弟子に合わせてやることにしたらしい。

 

「ここには観光か、それとも仕事だったりするのか?」

「観光、だね。今は小旅行中ってとこ!」

 首を軽く振って気を取り直した050も吹っ切れたようで、いつも通りの振る舞いに戻る。あれだけ悩んでいたのに、事故であっても会いさえすればまごまごとした躊躇を捨て去れる思い切りの良さは、果たしていいのか悪いのか。

 

 

「もし行先が決まってないなら、良かったら一旦おれの船に来ないか? きっと皆喜ぶぞ!」

「もっちろん!」

 旅の内容を話す中でかけられた誘いに、渡りに船だと二つ返事で頷いた。彼らに会いに行く主目的を忘れてはいない、ヘールシャムに関してのの報告である。

 

「……実は元からそのつもりだった、って言ったらびっくりする? 師匠達がプッチにいることは知ってたんだ〜」

 こんなに早く会えるとは思ってなくて、結果アレだった訳だけど、と050が零す。

 

「そうなのか!? そりゃまたどうして……おれも賞金首だし、噂が立っていてもおかしくはないだろうが」

「あ、いやァそういうのじゃなくって──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なるほどな、ヘールシャムが……数奇な縁もあったもんだ」

 裏港へ向かう道中、サン・ファルドでヘールシャムに会い伝言を預かったことを詳細は省いて話す。最初は頭に疑問符を浮かべてばかりいたカッスンも、聞いているうちに理解が及んだとばかりに頷いた。

 

「てなわけで。あっちから連絡なくても心配しないで! ……そういや番号忘れてったって言ってたけど、気付いてた?」

「はっはは、いや全然!」

 音沙汰なかったら気付かないまま迎えに行ってただろうな、なんて能天気極まりない声色で呵々と笑う男は繊細な所もあるのに大雑把、しっかりしているようで抜けている。先日の同行者と波長が合いそうな事だ。

 

(お前の知り合いこんな奴ばっかだな)

(言い返したいけどなんも言えないよ〜……)

 

 

 

 

 

 

 街を抜け人の気配が途切れた辺りで、ふと。

 

「そういやちょっと前、ディオンさんも賞金首になってたよね? どしたのアレ」

「ン……ああ、それか」

 以前新聞に挟まっていた手配書を思い出して、050がその実態を訊ねる。

 

 

 彼らがウォーターセブンを離れて数ヶ月が経った頃のことだ。習慣となっていた手配書収集の最中に見知った派手な姿を思いがけず見つけ、ガレーラ連中と驚きを共有しながらファイリングしたのをよく覚えている。

 

 

 『足元(あしもと)()らず』サー・カッスン、5954万ベリー。

 『断脚(だんきゃく)』ディオン、2299万ベリー。

 

 

 写真と情報はそのまま2000万程増額された船長に、新しく手配されたらしい船医。たった二人、されど両手の指で足りる船員しか居ないことを考えれば比率は高くなる。

 市民に危害を加えるような連中ではないからこそ、懸賞金額の増加、そして追加手配はトラブルに巻き込まれた結果としか考えられないと、薄茶の紙切れを前にして此奴は酷く気を揉んでいた。

 

 この海賊団にはおれとしても同じような印象を持っていた、のだが。

「……そうだなァ、どう言えばいいか。やらかした、とは言いたくないな。発端はおれだし」

「やらかした?」

 普段は黙っていても喧しく思える男の僅かに陰った表情に、その印象に少しの懐疑が生じる。050も珍しく歯切れを悪くして言い淀むカッスンを不思議がって軽く首を傾けた。

 

 

 その仕草を促されたと取ったのだろう。何かを迷うようにんんと低く唸り、咳払いを一つしてからぽつぽつ話を進めだした。

 

「おれ達が海軍に、ある程度お目こぼしされてるってのは知ってるだろ?」

 こくり、頭を縦に振る。

 カッスン海賊団は天竜人の一方的な被害者である、と周知されているらしい。どのような経緯があって見逃されるまでになったのかは知らないが、あれ程派手に行動しつつも彼らが長期間ウォーターセブンに滞在出来ていたのは、そういった裏の事情があったから。

 

「とはいえ海賊は海賊。敵意を向けられるのは当然。海軍とトラブっちまってなァ、普段はなるべく交戦は避けてるんだが」

 眉と共に下がった声のトーンは追想によって気分が引き摺られているからだろう。とはいえ、重くはない口振りからして危機的状況だったというわけでもなさそうだ。

 

 

「その時は逃げなかったの?」

「本当はそのつもりだったんだが……あちらさんから、まあ何とも宜しくない罵声がおれに飛んできてな。真っ先にディオンがキレて、こう、グチャっと」

「ぐちゃっと」

(ぐちゃっと)

 ぱちん、とカッスンが両手で空気を潰した音に続いて思わず復唱した擬音は、中々の惨状を想起させるもの。……確か彼女は足技使いだったはず、カチ割ったとか、そういうことだろうか。

 

「誰も死んではいないからな、誓って言うが!」

 呆けた顔に慌てたようなフォローが入っても、一度思い浮かべたイメージは凄惨なままである。二つ名も『断脚』だ、潰れたトマトだのギロチンだのと具体例が頭を過ぎって仕方ない。

 

 

「とまあ、そのまま近くの支部に乗り込もうとするのを止めて、何とか逃げた数日後。手配書が発行されたって訳だ」

「ディオンさんってそんなに……そんなだっけ」

 空笑いで締め括られた話に、050は言葉を濁して呟く。見ていた限りは確かに短気で喧嘩っ早い性格であったけれど、そこまで狂犬じみた女ではなかったような。

 

「突撃未遂に関しちゃ、他の奴らも一緒になって向かおうとしてたから何とも……ま、仲間に想われてて嬉しい限りってな!」

「いいんだそれで」

 ……穏健であるこの海賊団が海軍の駐屯地に押し掛けそうになる程の暴言、とは。一切想像がつかないが、そのあたりは掘り返すべきではないだろうと口を噤んだ。

 

 

 

 

「お尋ね者になったこと自体には、ディオンさんはなんて?」

「それは本人に聞いてみるといい! ほら、着いたぞ」

 

 言われてようやく辺りに意識が向く。顔を上げて見渡せば、少しばかり荒れた船着場には見覚えのある船が一隻。小さな傷が増えてはいても、それは殆ど記憶と同じもの。

 

 

「おおーーい! 帰ったぞーーっ! はっはー驚けお前達ー!!!」

「……懐かしい、なあ」

 

 誰が顔を出している訳でもないのに大きく腕を振って叫ぶカッスンの背を目で追って、小さな嘆息を洩らす。

 

 たった半年、されど050にとってはきっとひどく長い空白期間。水平線へ消えていったこの船には、二度と相見えることはないと諦めていたからこそなのだろう。じわり深層にまで染みてきた喜びは先程の再会よりも地に足が付いていて、そしていっそう色濃く感じられた。

 

 

 

 

「なんだ朝から喧しい……」

 大声に呼応するように船上から降ってくる足音と訝しげな声に、いち早く反応した相手を目視せずとも把握した。扉が開閉する気配がない辺り見張り番でもしていたのか、すぐに甲板の柵から黒髪が覗く。

 

「散歩にしては長かったが、また面倒事でもひろっ、て……?」

「リフターさんだ! ひっさしぶりー!」

 真紅の目を見開いて言葉を途切れさせた男の名を、050が喜色満面で呼んだ。

 

 ──リフター。大道具を主に担当する裏方かつ、この団の殆ど実質的な取り纏め役である。

 

 不意打ちによる硬直からすぐ立ち直ったリフターは、一呼吸置いてから柵を乗り越え、すたんと軽やかに目の前へと着地した。

「……驚いたな。ヒョウ太、何故ここに?」

「依頼をこなしに!」

 

 

 

「ふふん、びっくりしただろ? おれも見つけた時は驚いた!」

「どうしてお前が自慢気なんだ。……それで?」

 すっかり平静を取り戻した船員からの"どういうことだ"と問う視線が、腕組みをして鼻を鳴らす船長を刺す。それをカッスンは涼しい表情で流し、高い位置にある方へと手を置いた。

「詳しいことは全員の前で話してもらうさ。てことで皆を起こして回るの手伝ってくれ、リフター!」

「はァ……了解だ、サー」

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

「朝だよ〜〜! 起きてー!」

 カンカンカン、と海に響く金属音は手元から。それに合わせてリズムを取る楽器の音色は背後から。

 

 

 カッスンが面白がって持たせてきた調理器具を叩きながら、船室前の廊下を渡る。こうやって起こすのも乙なモノだ、なんて050に吹き込んだ派手男はハンドベルを、乗り気でなかったように見えた堅物男はタンバリンを、何故かそれぞれ後ろに付いて来ながら打ち鳴らしていた。何だこの光景は、サーカスか? サーカスか。

 

 

「その起こし方やめてよカッスン〜……ん? んん?」

「なにもう、うるっさいな、あ……? ……あ、夢か」

「ちょああっ、部屋戻んないで寝直さないで!?」

 既に起きていた者とまだ布団に篭っていた者が半々らしかったこの船は、朝支度だけではないばたばたとした騒がしさに満たされていく。

 

 

 

 

「…………夢じゃなかった」

「まーだ言ってるヨ、ディオン。しっかし嬉しいサプライズだったネー! サーには後で話があるけど」

「何でだ!?」

 

 大して時間も掛からないうちに全員が起床し、各自わあきゃあと好き勝手話しながら甲板に設置された机を囲む。そんな賑やかな中でも、彼彼女らのカラフルな視線のほとんどは此方に向けられていた。

 

 突然のことへの驚きに、再会の喜び。色合いは様々だが、一様にして好意的な感情を受け止めて050の頬が綻ぶ。

(変わらねェな、ここは)

(うん。……良かった)

 

 

 

 

 

 喜色で浮かれた空気の中、注目を集めるようにとん、と机を叩く指があった。

 

「積もる話も色々とあるだろうが、まずは説明を頼む。さっき言っていた依頼とは何のことだ?」

「あ、うん! そうだね、依頼っていうか……連絡事項?」

 会話が一瞬途切れた隙に場を引き締めたのは、リフターのよく通る一声。そういえば用事があったのだと気を取り直し、050が姿勢を正す。

 

 

「メッセンジャーを承ったんだ。偶然も偶然、サン・ファルドでヘールシャムに出会ってね!」

 

 

 




手配書出てる海賊キャラを出すからには二つ名が欲しい!と思って付けてみたけど、考えるのが大変難しい。
何が難しいってネーミングセンスのない中二病だから最初にパッと思い付いたものが全部アカン。ワンピのシンプルカッコイイ二つ名ナイズする難易度ェ……
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