水の都で命は踊る   作:盆回

84 / 98
青にして君を想い(イラスト有)

 

 用意された会場についてから、暫く。

 

 

「なァんでこんなに人が集まってんだか……」

 

 舞台袖で待機をしていれば、そう経たない内に設営とやらが完了したらしい。広場の中央に元からあったステージにはあれやこれやと即席の装飾が施され、一体何事かと集まってきた見物客は人集りを形成する程ではないが、疎らとはとても言い難い。

 海賊と海軍、本来ならば武力でもって対立する筈の者達がこのイベント擬きの主体ということまでは広まってはいなさそうだが、それも時間の問題だろう。

 

 

「観客というか、野次馬というか。何をするのかさえ公表されてないんだろ? ……というかおれ達も知らないんだけどな、さっき連れてこられたばっかだし」

「そりゃあもう、我ら海賊団の隠れていても溢れ出す魅力が! 人を惹き付けてやまないということだろう! 催事が始まれば広場が埋まるかもな? よーし前説の余興でもしてきてやろうか、っぐぇ!?」

「やめろサー」

「く、首根っこ掴まなくたっていいだろリフター……」

 そしてこの喧しさから分かる通り、首を捻り警戒しながらもどこかそわついた様子のカッスン海賊団の全員と合流を果たせた。これで一旦は、身の安全を確保できただろう。

 

 

 

「このステージを用意したのは海軍中将だったか、変わった海兵もいるものだな!」

「まあ、うん。結構変な人で……アンタと気ィ合うんじゃない?」

 

 船員に襟元を掴まれたまま、船長はきょろきょろと辺りを見回す。ディオンの言ったそれは遠回しな貶しではなかろうか、とは思うが誰も気にしていない。

 

「ほほう……尚更気になるな! ここには居ないようだが、どういう奴なんだ?」

「海賊相手にエンタメ勝負挑んでくるようなぶっ飛んだヤツだよ、さっき電伝虫で話した通りだけど。でもって多分相当強くて、男装してて。後なんだっけ? 乗馬が趣味?」

「フィル様の話か!!?」

「うわびっくりした」

 ディオンが指折り数えて特徴を列挙していると、見張り役として配置されていた男海兵が突然声を張り上げた。

 

 

 

「あの方のことなら僕に聞くといい! 何故なら僕は、フィル様ファンクラブ第一号なのだから!!」

 

「恥ずかしいから止めてジカル!」

「そしてこっちはファンクラブ第二号、ミュジーだ!!」

「止めてって言ってんでしょうがバカ!!」

 

 

 ……ただでさえ会話の途切れない舞台袖が更に煩くなった。今まで黙っていたのは何だったのか、タイルストンと似たり寄ったりの声量に耳を塞ぐ。

 

 

 

「ファンクラブ? 海軍ってもっとこう……お堅い感じじゃないっけ」

「勿論海軍内じゃ非公認だけどね! 強く気高く美しく、ミステリアスでありながらお茶目な一面もある……そんなフィル様をもっと盛り立てる為に僕が! 個人的に! 設立した!」

「ホントにもう、身内の恥が騒がしくてすみません……」

 小首を傾げたクラウの疑問に眼鏡を光らせ、ジカルと呼ばれた男海兵は胸を張る。もう片方の女海兵、ミュジーとやらは頭痛に苛まれているような顔で額に手を当てた。

 

 

「それで、フィル様に興味があるってことでいいのかな。何か知りたいことでも?」

「……この人達海賊なんだよ、敵方だよ? あんまり情報与えないでよね」

 同僚の睨みを意にも介さないジカルの問いにしばし考えを巡らしてみる。彼女自身への興味、ではないが……聞きたいことは幾つか。それを050に伝えれば小さく頷き、おれの代わりに挙手をする。

 

「じゃあ、はい! 質問! こういうイベントっていつものことなの? なんか当然みたいに準備進んでるし、慣れてるのかなって」

「む、それは違うね。珍しいどころか初めてだよ、こんなことは」

 恐らく全員が疑問に思っていただろうそれをまず聞けば、ジカルは眉を顰め即答した。

 

「フィル中将の趣味でショーを興すこと自体はしょっちゅうなんですけど、そこに海賊を引っ張ってくるなんて今まで一度だってありませんでした。理由も……話してくれなくて」

 彼の端的な言葉を補足するように、ミュジーも心底不可解だというような声音で口を開く。

 

 このような前例はなく部下にも伝えず……無駄に不信感を駆り立てるような人間には見えなかったのだが。兎にも角にも、この見世物には何らかの裏の意図があるのは間違いないだろう。

 

 

 

「あの方が何を考えているのかは分からないけれど、原因の目星くらいは付いているさ。そこの海賊!」

「……おれか?」

 

 語調を強めてジカルがびしりと指を突きつけた先、何やら気を逸らしていたカッスンは驚いたように顔を上げる。考え事でもしていたのか、カツカツと靴を鳴らして歩み寄り、鬼気迫って睨んでくる相手への対応に意識が追いついていないらしい。

「そうだサー・カッスン、貴様だ!! 貴様の首に賞金が懸かってからというものフィル様は何と言うかこう、おかしい! 執務室に手配書を貼り、それを眺めながら憂い気な表情をしたり……! 悩ましげな姿も麗しいのだがそれはそれとして!」

「お、おう?」

「最近になって中将に昇級なされた途端! 我々少数精鋭を連れ、貴様ら海賊団を私的に追い始めて! そうして捕捉したのが今だ!!」

「は、はあ……そうなのか」

 滅茶苦茶な言い掛かりを重ねながら詰め寄るジカルの剣幕に気圧されつつ、助けを求める視線を船員とおれに向けて投げる船長。何やら、随分前から狙いを付けられていたらしい。

 

 

「……つまり恋だネ?」

「黙りな恋愛脳」

「フィル様は海賊に懸想なんぞしないが!!??」

「そろそろホントにうるっさいジカル! というか中将のプライベートバラしてんじゃないわよ!!」

 助け舟となってくれることを期待していただろうその仲間は、妙にキラキラした顔で火に油を注いでいる訳だけれど。

 

 まァ、聞いている分にはそう捉えるのが普通だろう。……拒絶反応だろうか、どうにも寒気がしてきた。恋だの愛だのから来る問題事にはもう金輪際関わりたくない。

(えと、シャアナさんがごめんね?)

(逆にどうしてお前は平気なんだろうな……)

 

 

 

「……」

「? 師匠、さっきから上の空だけど……」

「え、あ? そうか?」

 ぎゃんぎゃんと騒がしい渦中に立たされている男は、この状況に反して心ここに在らずだった。

 

 普段の快活さが鳴りを潜めているのが不思議に映って呼び掛ければ、横から追撃が飛ぶ。

「そうそう、カッスン大丈夫? いつもだったら『すまない、おれが魅力的すぎるせいで!』だとか言い出すところじゃん」

「いや心配するような事じゃない! ただ、その中将の名が知り合いと同じなのが少し複雑、というか」

 聞く限りじゃあ人となりは全然違うんだがな、と苦笑し頬を掻くカッスン。そういうものかと納得する050の傍らで、クラウは怪訝さを薄れさせながらしかし更に首を捻った。

 

 

「んー、んん……言われてみればフィルって名前、聞いたことあるような、ないような」

「クラウが覚えてないのも無理はないぞ。十数年前にいなくなったきりだもんなァ、おれの──」

 

 

 

 

 

 ブツ、と。

 拡声器のノイズが突然響いたものだから、続く筈の言葉は途切れた。

 

 

『聞こえているな? ──皆々様方、お集まりいただいたことに心から感謝を。わたくしは興行主のフィル、見ての通り海軍だ』

 いつの間にかステージの中心には白い影。ざわついていた広場は一声で静まり返り、視線は一点に集中し。

 

『おっと、言っておくがサボりではないぞ。とある海賊に挑戦状を突き付けた上でのステージ、つまりは職務の一環だとも! ……と、まあ。言い訳はこのくらいにしておこうか』

 気さくに進むオープニングトークは、将校としての気迫を掻き消す軽快さを湛えて流れていく。

 

 

 本来ならば否が応でも聞き入るような声、それが今はBGMにしかならないのは。

 

 

 

 

 

 

「…………姉、上?」

 

 

 

 ステージに釘付けになった目の前の男からぽつりと零れた、その言葉に気を取られたから。




めっちゃ前に描くだけ描いて仕舞っといたイラストを放流。
中将とヒョウ太とUMAラフ

【挿絵表示】

カッスン

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。