水の都で命は踊る   作:盆回

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落下、或いは開幕

 

「……え? ホントに落ちた?」

 

 目を疑う光景だったが、事実カッスン達はこの場から消え去っていた。

 ステージに走り寄り、幕で客には見えない部分の床に触れる。……しっかりとしたフローリング、しかし注視すれば中心に深い溝があった。底が抜けたのではなく、トラップドアのような下向きに開く構造のようだ。

 

(……コレって普通にあるヤツ?)

(ンな訳ねェだろ)

 普通の舞台にこんな機能があるものか、明らかに手を加えられている。

 

 

「なんでこんな大掛かりな仕掛け……」

「あちゃあ、皆見事に落ちちゃったネー」

「どわあっ!?」

 至近距離から降ってきた声に飛び退き振り向くと、いつの間にやら海賊団員の一人が気配もなく立っていた。

 

 

「……っと、コンフィさんは無事だったんだ」

「自分が逃げるだけで精一杯だケドネ、申し訳ないコトに」

 本人曰く非戦闘員らしいが、あの場面で咄嗟に動けたとは。頭を搔くコンフィの表情は動作と異なり気落ちしているようには見えない。楽観視、というよりも信頼だろう。

「皆のことだから問題ないヨ、きっと。……さて、説明はしてくれるんだヨネ、フィルサン」

 

 

 

 

『皆々様方、突然演者がいなくなって驚いたと思うが!まずはコチラをご覧あれ!』

 中将は指先まで芝居がかった仕草で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の電伝虫を取り出し起動。ざわざわと渦巻いていた観客の混乱は一声で静まった。

 

 

『よし、しっかり映っているな……このスクリーンには監視電伝虫によるリアルタイムの映像が逐次送られてくる』

 舞台袖、横からの画角では見え難いが、ステージの壁に投影されているのは暗がりに照らし出された檻のようだ。……電伝虫越しに聞こえる薄らとした悲鳴は、段々と近付いてくるような。

 

『先程も言った通り、彼らは迷宮に落下した。わたくしの用意した障壁を越えられればあちら側の勝利、抜け出せなければそのまま連行!』

 

 ドスン、と衝撃音。落とされた連中がわあだのぎゃあだの叫びながら牢の中に放り出されたようで、画面が一瞬でカラフルになったのを視認する。

 

 

 

『それと、折角だ。舞台袖の二人! 落下を回避したならば上がってこい!』

 

 ……改めて、当然のように厄介事に巻き込まれそうだ。やはりもう帰ってた方が良かったんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 返答を促すが如く放り投げられたのはマイク。ぱしりと受け止めたコンフィが、流れるようにスイッチを入れた。

「床が開くようなステージにはもう足着けたくないんだけどナー。罠に嵌め損ねたヤツにワンモアチャレンジ?」

 自分は受け身取れるかも怪しいから怖いネと軽い調子で拒否する男に、中将は首を左右に緩く振る。

 

『そんなに卑怯じゃないさ。お前達に危害を加えることはしない、ここにいる観客達に誓ってもいい』

「あー……ハイハイ、そこまで言われちゃ出るしかないネ」

 納得が早過ぎないかと隣を見守っていれば、お前はどうだと言わんばかりの目線を向けられた。コンフィから渡されたマイクに、050がおっかなびっくり声を入れる。

 

『ええと、おれも? ずーっと言ってるけど、おれってば一般人なんだわ』

『それが本当でも嘘でも、交流自体はあるんだろう? ……安心しろ、これはエンターテインメント。お前にも楽しい時間を保証するとも』

 

 

 ……成程。

 実直で誠実なよく通る声、此方に真っ直ぐ向けてくる視線、逆光にはためく白い正義のコート。

 つい先程騙し討ちで相手を地下へ落とした女と同一人物だというのに、ストレートな信頼要素のオンパレードには確かに納得しそうになる。全て意図していたのなら恐ろしい話、随分と人心掌握術に長けた奴だ、と身が竦む。

 

 

『というか、パフォーマンス勝負じゃなかったの?これじゃ一方的に師匠達を見てるだけじゃん』

『勝負だが? ほら、画面を見てみろ』

 

 

『というか中将!!私達までこの方法で落とされる必要ありました!!?』

『ふ……フィル様の茶目っ気だ、享受しろ』

 

 

『──部下も下に落としてある。つまりこれは競走だ』

「ええ……」

 

 

 

───────…………

 

 

 

『とまあ、そんなことはどうでもいいとして! コチラの声は聞こえているか?』

「どうでもよくないですけどお!!?」

「ゴーイングマイウェイ……フィル様の為にあるような言葉だな……」

「褒め言葉かい? それ」

「当然だ、エクエス」

 フィルの声を流す音声通話用の電伝虫に叫ぶミュジー、隣で何故かドヤ顔を晒すジカル。ぽこぽこと怒りながらもどこかこなれた様子の海兵が連絡を取る傍らで、物珍しさに当てられたウィンドは辺りを見回す。

 

 

「へえ、牢獄。こんなものが地下に埋められてたのか?」

「ブッチに元からあったにしてはなんか不自然〜。もしかしてだけど、ここってステージごと海軍の物だったり」

「……トラット、発想飛躍しすぎ。理論展開くらいしなさいよ」

「あ、ほとんど正解ですよ」

「合ってんのかよ!」

 突然檻の中に落とされたのに至って冷静に状況把握に移行するのは、流石偉大なる航路を進む海賊というべきか。

 

 

「ひとーつ、私たちが落ちた経路ってダクトみたいな滑り台だったでしょ〜? ステージからここまで繋がってる設計じゃないとそうはならないよね〜」

「表側の飾り付けが随分と簡素だったことが二つ目。仕掛けの可能性を無意識に排除させ、私達を油断させるための偽装だろうな」

 

 説明してくれという視線に応え揚々と話し出すトラット、乗っかって言葉を引き継ぎ二つ指を立てるリフター。二人の解説に、まだ少女と言えるような年頃の若そうな海兵──トリアンが感嘆を零した。

 

「よく気付くッスね〜、フィル様の意図まで汲み取って。頭脳犯ってとこッスか?」

「言い方が悪すぎるな! ……ちなみにほとんどっていうのは? 何が違ったんだ?」

『気になるか? 答えよう! 設計から制作費捻出まで全てわたくしプレゼンツ、つまり海軍の物ではなく私物だ!! しばらくの間一文無しになったがな!!』

 

 

「……アンタらの上司イカれてんじゃねェの?」

「ぐうの音も出ないッス、ぐう」

「出てるじゃねーか」

 

 

 

 

 

『聞こえているなら良し。折角の海賊相手、クリア条件は地下一階にある宝箱の奪取とする!』

 ぎぎい、と牢屋の扉が開いた。等間隔に配置された燭台が照らす突き当たりには『B3』、地下三階との文字が彫られている。

 

 

『そして……落下の回避を称え、コチラの少年には謎解きをしてもらうとしよう。関門突破に必要となるクイズを手元で見ることが出来る役だ、海賊達に適宜答えを教えて構わん』

『どえっ!? おれ責任重大じゃない!?』

『なに、迷宮内に設置されているものと同じ問題だ!解けずとも進行不可にはならない、気楽にやるといい!』

 聞こえてくるヒョウ太の声に無事だったかと安堵する者、巻き込んでしまったかと眉を顰める者、緊張しているなと笑う者。けれどあの子ならなんだかんだ何とかするだろう、という信頼は海賊皆共通して持っている。

 

 

 

『さあ進め! 司会進行はわたくし海軍支部中将フィル! 実況解説はカッスン海賊団コンフィでお送りする!』

『こっちも結構な無茶振りだネ! いいヨ、任された!』

 

 

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