水の都で命は踊る   作:盆回

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見返してたら斜体見づらくてワロタ ワロエナイ
直しました 特殊文字って使い所難しい


嘘と本当の境界線

 

『おいそんなに押すな! 何なんだコレ!?』

『よくぞここまで辿り着いた。貴様の実力を認めよう、サー・カッスン』

 ステージ上から去った中将はスクリーン内の地下へと移動したようだ。色めき立つ広場の空気を、電伝虫越しの怜悧な声が切り裂いていく。

 

 

『……ッあ、……中将? どうしてここに……』

 

 かつ、かつりと靴を鳴らし淡々とした態度で開けた部屋に陣取った姉とは対照的に、扉から海兵に押し込まれるようにして入ってきた──何故か両腕両足、そして頭上に紙風船をくっ付けた弟。

 

「……何アレ?」

「さあ……ホント、フィルサンは何考えてんだろーネ」

 目を離していた隙に何やら愉快な格好を強制させられている海賊船長に、表に戻った050も隣のコンフィも理解が及んでいない様子で顔を見合わせた。

 

 

 

 会場全体がきょとんと静まったのをいいことに、中将が口を開く。

 

『わたくしは貴様に問いたいことがあるんだ。内容は……ここまで楽しんでくれた皆には悪いが、ともすればショーの蛇足となるだろうな』

『……ほう? それは余計だと分かっていても、今でなければならないことか?』

 舞台に厄介事を持ち込まれることを厭ったのだろうカッスンが眉根を寄せる。

 

『ああそうだとも。貴様と真に相対し見極めたいことがある、白日の元に晒したいことがある!』

 

 

 問いを投げることが奴にとっての最後の仕上げ、と? ……意図が分からないな。今見えている情報だけでは推察もままならない。

 

 

『とはいえ、席に座って対談などしてもつまらんだけだろう? 答えは戦いの中で聞かせてもらおうか。さあ、掛かってこい! わたくしという障壁を乗り越えて、宝を奪い取ってみせろ!!』

『……エクストラステージという訳だな、いいだろう!!』

 

 スイッチを入れたように駆け出す体勢を取ったカッスンに頷き、すらり、とどこからか取り出した獲物を構える中将。

 

 

 それは先刻、店で見た剣ではない。

 白く、たわみ、波打っている、あの場に似つかわしくないのに、ある意味あの場から存在を想定出来た装備──

 

 

 

『いいとは言ったが、武器がハリセンなのは格好つかなくないかッ!!?』

 

 

 

 ──それはそうだが頭と手首足首に紙風船着けたお前も大概だろ。

 

 

 

 観客の意見を一致させたに違いない二人が地面を蹴ったことで、紙風船が全て潰れれば負けという、殺傷能力が極端に低い戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

『無手で勝てるとでも思っているのか!』

「ああっと攻撃がヒットした! あんなトンチキ武器に負けるんじゃないヨ、サー!!」

『っまだ風船は割れてないぞ! 紙相手に剣は抜けないさ!』

 

 戦況は中将の支配下にあるようだ。カッスンは腰に双剣を提げているものの、抜き放つつもりはないのだろう。回避に重点を置いた戦闘態勢で紙風船を割られないように立ち回りつつ、どうにか通り抜けようとしている。

 

 

『身のこなしは巧いが、少々脇が甘いな!』

『ぐ、ッ!』

『これで、一個!』

 隙を突くように振りかぶられたハリセンによって左足に着いた紙風船がぱひゅ、と萎む。

 

 

 

『それでは一つお聞かせ願おう』

 それを合図に、温度のない問いが飛ぶ。

 

 

 

 

『五年前。貴様らの国、ケードウが滅びたのは何故だ?』

『……ッは、何を言い出すかと思えば』

 

 ………………滅びた?

 

 

 しん、と会場が水を打ったように静まり返る。

 彼等の故郷が滅亡しているなんて話は聞いていない。そもそもケードウという国の名自体、カッスン達からしか聞いたことはないが。

 

 

 

「コンフィさん、どういう……」

「…………」

(……どういう、こと?)

 プロジェクター似の電伝虫を今にでも叩き壊さんとばかりに睨んでいるコンフィに、050の呼び掛けがはたと止まる。途切れた言葉に当然返答はなく、彼から話すつもりはないのだと悟った。

 

 ……華々しく良い思い出だった海賊団の裏事情など、今更知るべきではない話かもしれない。けれど、050の関わろうという意志は依然変わっていない。

 

 

 

『聞きたいのは経緯か、犯人か?』

 こうなれば、画面の向こうにいる男から聞くしかないのだろう。

 

 

 

 

『そもそもケードウは、辺鄙な島の小さな非加盟国だった。そんな国が滅ぶなんざこの時代にはよくある話、世経新聞の片隅にすら載らなかったってのに……よく知ってたな』

『最初から貴様の手配には違和感があった、それを突き詰めていく内に知っただけ。わたくしが聞きたいのは真相だ』

 

 

 彼彼女らは姉弟の筈。ならば中将の故郷もケードウという国だろうに、画面越しのカッスンの態度は一貫してひどく他人行儀。まるで、関係を断絶するかのように。

 

 

 

『……お前達だよ。ケードウを滅ぼしたのは海軍だ、世界政府だ!』

 それは、仇の組織に所属した血縁を恨んでいるから、か?

 

 

 

 ……いや、その結論に辿り着くのは早い。ステージに上がる前の奴は、多少気が動転していながらも海軍の格好をした姉の生存に喜び、話し合いを望んでいたのだから。むしろ海軍中将という立場を慮っての言動という可能性の方が高い。

 

 

『そうか、前情報と一致する。では次』

 無感情に頷いた中将は直ぐにカッスンへと肉薄する。

 咄嗟にバックステップで迫るハリセンから逃れていったものの、目標である扉は遠ざかっていくばかり。

 

 

『前情報? っ待て、まだこの話はッ……!』

『順序はわたくしが決める、文句なら後で聞いてやるさ』

 曲芸のように逃げ回る男の動きに涼しい顔で対応する中将が腕を振り上げる。

 

『では次』

 その動作は緊迫した空気感に似合わない、ぱしりという軽い音とともにカッスンの左手を捉え。

 

 

『貴様が吹聴していた天竜人との関係は、国の滅亡と直結しているな?』

 また一つ、紙風船が潰れた。

 

 

 

『どこ、まで、知ってるんだか! そうだ、全ては天竜人のせいと言っていい! 奴がケードウに漂流なんてしてこなければ、気に入ったりしなければ、恩を仇で返さなければ、おれ達はッ』

『取り乱すなよ、感心しないぞ。わたくしが白けさせているとはいえここはステージ上だ』

 錯乱しかけていた回答者は、質問者の言葉にひゅっと息を詰め、一拍の後に大きく吐き出した。

 

『……は、ああ、そうだな、すまん。……貴女の言う通りだ。首輪の拒否、その先にあったのが族滅だった。天竜人の業を理解出来ていなかっただけの話だ』

 非加盟国などはあってないようなもの、世界政府を敵に回せばそれが当然の結果。それがこの世界の常識であることは情報として知っている。

 

 ……だが、そんな簡単に凄惨な出来事を引き起こすのが天竜人だというのか。そんな奴らが、神なのか。

 観客達の静寂は今や解かれ、ざわざわと波紋が広がっていく。海賊達の境遇への同情、天竜人へ向けられた怒りや恐怖にそれらを咎める震えた声。様々な色があれど、会場のムードは明らかにカッスンへと傾いていた。

 

 

 

『成程。因みにだが、貴様の言う元凶である天竜人がその出来事を境に行方不明になったことに、心当たりは?』

『……? さあ、それは知らん。っと! あの時は海軍にサイファーポール、それに火事場泥棒とばかりに海賊が暴れていたんだ。戦火にでも巻き込まれたのかもな!』

 一度感情を発露させかけたからかカッスンは先程よりかは冷静に答え、そして攻撃を回避している。まだ何時もの笑顔を浮かべられる程の余裕はないようだが。

 

 

『ふむ。……では三つ目といこう』

 またもハリセンを振り被らんとした中将の腕を、警戒してタイミングを図っていたのだろうカッスンが掴む。力は拮抗しているらしく、中将はその拘束を振り解くことが出来ないようだ。

 

『ほう?』

『そう何度もやられはしないさ! こうすればっ、手出しは無理だろ?』

 

 

『それは、どうだろうな』

 僅かに目を見開いた後、中将はゆるりと口角を上げ。

 

 

 

 

『……っな、』

 思い切り、カッスンの足首を蹴り抜いた。

 

 

 ガンッと鈍く入ったダメージのついでに紙風船が弾ける。

『い゛〜〜〜ッ!!! そ、それっ、アリか!? ハリセンじゃなくていいのか!?』

『いつわたくしが武器を指定した?』

『詭弁!』

 くるぶしを押さえてもんどり打っていたカッスンは、短い文句を叫んだ後にすぐさま跳ね起き距離を取った。

 

 

 

 ……何かおかしい、と頭の中にある違和感の材料を整理する。

 わざわざ卑怯とも取れる手段を選ばずとも、紙風船を割る程度何とでもなるだろうに、迷宮攻略で海賊達が見せた活躍により少なからず観客からの見方がフラットになったところのコレだ。

 

 

 おれの目には中将の行動が、あえて観客のヘイトを集めるような真似をしているようにも映る。

 

 場の空気を掌握し操れる程に人心把握に長けている、というのが中将に対するおれの所見だ。指先までの身振り手振り一つさえ相手の好感を誘発しようとする、そんな人間が今の自分の言動がどう見えているのかを理解していないとは到底思えない。

 

 

 

 特殊な舞台を用意し多くの観客を集めてまで、自身を含めた世界政府を悪に貶めカッスンに民意を傾けようとしている。おれの推測が当たっているのならば、その行動の意味は?

 

 

 

(難しいこと考えてるねー……話聞くだけでいっぱいいっぱいだよ)

(当たり前だろ、お前にとっては慣れない状況だ。おれもまだ全ては処理できちゃいねェがな)

 ……元よりどこか芝居がかっているあの姉弟の所作のせいで、今繰り広げられているステージが演技であるかそうでないのか見分けるのが困難というのがどうにも腹立たしい。それさえ分かれば、安堵するでも050を引っ張ってでもこの場を離れるでも出来るのに。

 

 

 

『わたくしのような一介の支部所属が探るのは骨だったが、調べは粗方付いた。その天竜人の親はケードウの王族の身柄を求めている。責任追及に加えて、最後の通信で連れて帰ると話されたらしい……なんでも赤色と金色が綺麗なのだと』

 掴まれていた腕をぐるりと回して調子を確かめた中将は、無表情に戻って問い直す。

 

 

 

『改めて三つ目だ、確認と言ってもいい。貴様はその国では騎士団長だったのだろう?』

『……ああ、サーの称号で分かる通りに』

 

 

『政府とは別筋で、ケードウ国の騎士団長は王族であるとの情報を耳にした。貴様の手配はこれらの理由で間違いないな?』

 

 

 

 

『…………ああ、ああ、そうだ! 何も間違ってやしない!! だから何だ? 貴女は亡国の零落を暴きたいが為にここまでしたのか!?』

『話を逸らそうとするなよ、まだ聞きたいことが聞けていない』

『ッ!!』

 激昂し荒らげたカッスンの声を中将が切り捨てる。間の抜けた装備くらいでは中和出来ないほど殺伐具合が増していく映像に、観客の喧騒と050の緊張とが比例する中で。

 

 

 

 はあ、と隣から溜め息。

 気疲れがキャパオーバーでもしたのかと一瞬考えるが、違う。自身の船長と敵陣営の者が争い、秘密とも言えるような事を暴露されている状況で含む色では無い。

 

 

 

 本来想定される感情とは真反対のそれは。

 

 

 

(……安心、って、なんで?)

 050が反射的に横を見やると、眉間を押さえるコンフィがいる。

 手で隠されて観客からはどうやっても見えないだろう顔に浮かんでいる表情は、やはり安堵だ。

 

 

「……あー……ちょっと、詳しい説明は出来ないケド」

 視線に気付いたからか、変わらず光を灯さない瞳がこちらを向く。コンフィは内緒話をしたがるようにマイクを切り、バツの悪そうな声を潜めて。

 

 

 

「今のでわかった。フィルサンは、自分らの偽装に付き合ってくれてる」

 だからそんなに不安がらなくてもイイヨ、と。

 

 

 

 真意のぼやけた耳打ちは納得には足り得ないが、終幕まで腰を据えてこの観劇を見届ける切っ掛け程度にはなった。

 

 此奴らの言う偽装とは何なのか、中将が見たという夢は? 全て明かさなければ気が済まないという性質でもないが……こうなれば騒動が終わるまで、とことん付き合ってやる。

 

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