ドタバタはあったが無事に──いや水路に落下している時点で全く無事にではないが──とにかく造船所へと到着した。車椅子の車輪が石畳を叩く音に振り向いた人々が、揃って水を滴らせた二人を二度見するのが中々に辛い。
「……一番最初に職場に来たのがこんなびしょ濡れの状態って、大分恥ずかしいね……」
掛け値なしの本音をぽつり呟けば、無言でぽす、と肩に手を置かれた。やめろ同情するんじゃない。こうなった以上仕方ないだろうと割り切ろうとしてるんだこっちは。
「まァ気を取り直して行くぞ! 我らが社長兼、ウォーターセブンの市長に会いにな!!」
「待ってそんな偉い人相手にこの格好で!?」
それは聞いてない。正気か両方ともびっしゃびしゃだぞ。
止めようにも今のおれは大男自身が操る車椅子に着席している。おれの言葉に耳を貸すこともなく、無骨で賑やかな造船所にがたりと踏み出した。
「おーやっと来たのかお前ら、……なんでびしょ濡れなんだ?」
葉巻を燻らせながらおれ達を迎え入れたゴーグル男の明るい顔が、瞬時に怪訝そうな表情に変わる。それがどうにもいたたまれなくなって目を逸らした。
「ぬはは、ちょっとドジっちゃって……」
この台詞自体は『服部ヒョウ太』として潜入している際に何度も言ったことのあるもの、けれど素でやらかしたことなどこれが初めてである。こちらでは取消しようもないが、元の世界に戻ったら墓場まで持っていこう。
「ドジって水路にって、悪魔の実の能力者だろお前?……病み上がりみたいなモンだから仕方ねェかもしれねえがよ」
「そう! そうそう! しばらく体動かしてなかったからさ〜〜!」
……そうだ病み上がりだからだ。体が思うように動かなかったせい。これで正当な理由を手に入れた。
「気ィ付けろよ、また病院に逆戻りでもしたら笑えねェぜ」
「あっはは〜だいじょぶだよ、今日が珍しいの!ぼくドジだけどさ、今までだって落ちたことなんてなかったもん!」
がしがしと金の髪を掻き乱し、呆れたような忠告。言われずとも分かっている、二回も同じ轍を踏んでたまるものか。
「まァいいか。今日は顔合わせに来たんだろ?ドックの奥の方にいるからよ、こっちだ」
そう言って背中を向ける彼に車椅子でついて行く。
「おゥ!忙しくはなさそうか!?」
「……話は通してあるんだ。リスケはやってくれンだろ」
「忙しいんじゃないそれ……?」
とんてんかんてん木材と槌の音が高く鳴る傍を、職場の説明であったりのたわいのない話をしながら車椅子を転がしながら奥へと進む。見えた二つの影に金髪がぶんぶんと手を振り、大男が呵呵と笑った。二人ともその影の主を慕っていることがよく伝わってくる。
「連れてきましたよー!」
「あァ、お疲れさん」
その姿と、声を見た瞬間。
「せ、」
──先生。
思わず言葉が零れる前に、はし、と口を押さえた。
……あ、ぶなかった。今まで会った知り合いではない顔見知りは皆、身長であったり匂いであったり、記憶とはどこか違っていたから。こんなことにはならなかったのに。
彼──アイスバーグ先生、いや、ガレーラカンパニーの社長は、声から姿から服装まで寸分違わず同じだったせいで頭が誤認してしまいそうだった。
「……どうしたヒョウ太?なんか言ったか?」
覗き込んできた葉巻の匂いにはっとして、手をひらひら振りながら笑う。
「いやァ、くしゃみ出そうになっちゃってさ!危ない危ない!」
「そんなびしゃびしゃでずっといるからだろ!」
「風邪か!?早く着替えた方が良かったか!?」
そう伝えれば突然騒がしくなる隣の二人。大丈夫だと言って、もう一度社長に向き直る。
「初めまして!こんなカッコでごめんなさい、ぼくはヒョウ太言います!」
にっこりと笑った顔は、完璧なはずだ。
「ああよろしく、おれはアイスバーグ。ガレーラカンパニーの社長でウォーターセブンの市長をやっている。ンマー……で、なんで二人ともびしょ濡れなんだ?」
「水路に落ちました!」
「それを助けました!!!」
「ハキハキと言うことかのぅそれ……」
横からよく知った声のツッコミが入る。……もう一つの影の正体、カク。多分に呆れを含んだ声と一緒に、どこから取りだしたのか、白いタオルを二枚投げ渡してきた。
「おわっと、ありがとう! ええと?」
「カクじゃ。……しっかし、ウォーターセブンに来た途端に入院。退院したかと思えば水路に落ちるなんぞ不運なやつもいたもんじゃなァ」
しかも能力者ときた、と。かんらからと揶揄い笑う目の奥で、仄かに疑いの色が透けたような気がする。まだ確証は持てないが、……元の世界と照らし合わせて見れば、こちらの世界の内情は読み取れるのではないだろうか。
そしてその目線で見れば目の前の長鼻もまた怪しくなる。なんせ『ロブ・ルッチ』と同じ生徒会の『カク』を知っているのだから。自分の幼馴染は確か船好きであった為、純粋に船大工となっていてもおかしくはないのが見分け難くなる原因となってはいるけれど。それで言うと若干『パウリー』も怪しくはなってくるのだが、彼らほどの警戒は要らないと思いたい。
「そういやヒョウ太、なんで落ちたりしたんだ?」
「え? 普通にヤガラから滑って」
「綺麗に滑ってったな!!」
「アホなんか?」
何も嘘のない馬鹿野郎共の会話。疑いの目が若干薄れたような気がする。少し心外である。
──────…………
「──なァルッチ。あの子どもがお前のクローンかもしれんという話じゃがの」
四年の間ですっかり街並みに馴染んだ潜入の為の酒場。情報収集だけでなく秘め事の話し合いにも向いたその場所で、影に潜む者達の集いが行われていた。
「わしにはさっっっぱりわからん!能力者の癖して水路に落ちるなんぞ真正ドジをやらかすような奴じゃが、それで可能性を切り捨てるにしちゃあ顔が似過ぎとる!」
長い鼻の青年──カクは不貞たように椅子に凭れ、グラスの酒を舐める。あのヒョウ太という不穏分子は、幼馴染視点からしても目の前の同僚とあまりにも似ている、どころか同じなのである。正確には少し若い頃のルッチに、だが。
「そんなに?二人ともがそう思うくらいなら相当ね……」
昼間、珍しくアイスバーグと共にいなかった秘書──カリファは少し残念そうに首を傾けた。その隣でブランデーを手の中で揺らし顔を顰めたルッチが低い声を出す。
「ガレーラで働く以上いずれ会うことになるだろう、早いか遅いかの違いだ」
「それもそうね」
「しかし、水路に落ちたのかあのガキは。一昨日の筋トレといい……おれと同じ顔でバカやってんじゃねェよ」
それまで静かにカクからの報告を聞いていたルッチが深く息を吐いた。それには色濃い呆れが乗っている。
「お前さんも大概天然ボケじゃがのう」
「なんだと?」
「ポッポー!」
「ハットリまでカクに同意を……!?」
コントのように会話を交わす二人と一羽に苦笑しながら、今までグラスを拭いていた酒場の店主──ブルーノが会話に混じる。
「ルッチがボケかどうかは置いておいて……滑り落ちたってのが演技かもしれない可能性は頭に入れとかねェとな」
「む」
「……ああ、確実に助かる状況だったなら、信用させる為に自分からというのも十分にありえるな」
……真実はただのドジであるのだが、深読みした諜報員達によって警戒は取り下げられることはなかった。いやまあ結果的に演技をしているという疑いら正しいのだけれど。
兎にも角にもそうして夜は深まる。
彼彼女らが潜入捜査を開始してから早四年。
──期が起こるまで、あと一年。
【パウリー(ワンピース学園)】
自称生徒会をまとめている男。自称なので誰にも認められてはないようである。なんかパウリーが勝手に言ってるだけっぽい。なんでそうなったのか知りたいよ俺ァ。
【アイスバーグさん(ワンピース学園)】
ワンピース学園には一回も出てきたことない。はず。
なので先生してるとかは完全に幻覚。今後の展開で水の都の市長です!新セカ中とはなんにも関係ありません!とかになったら自分は爆発四散する。この物語は単行本7巻くらいまでの情報で書いています。
この世界の学園ではアイスバーグさんは先生!以上!閉廷!