水の都で命は踊る   作:盆回

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高らかなる輪舞曲

 

『手配の背景は知れたが、分からないのは貴様の考えだ』

 

 ぱちん、と。

 四度目の、紙風船が割れる音。

 痛みはなくとも反射的なものだろう、カッスンが右手首を押さえながら中将を睨み付ける。

 

 

『懸賞金が掛けられたのは変えようのない事実としても、市民に紛れて隠れるでもなく革命軍に身を置くでもなく、海賊団を結成したのは貴様の意思の筈』

 それに怯む気配を微塵も見せずに睨み返す女将校は、責めるような語調で更に言葉を重ねる。

 

 

『何故貴様は海賊に堕ちた? 海に出て何を求める、復讐か、それとも略奪か?』

『そんなことは考えたこともないッ! そりゃ天竜人は憎いが、だからといって外道に成り下がるのは違うからな!』

『ならば最後に言ってみろ! 貴様の行動、その真意を!』

 

 二人は啖呵を切った後、取っていた距離を詰めるようにお互いに向かって駆け出した。

 

 今まで回避に徹していたカッスンだが残りの紙風船は頭上の一つだけ。攻勢に出なければ厳しいと本人も分かっているのだろう、剣の柄に片手を回している。

 

 

『は、ようやっと武器を抜く気になったか!』

 紙など簡単に切れてしまう刃物を携えた相手に対応すべく、中将はハリセンを持った腕を引き、体勢を受け身に変える。相手が外せばすぐにでもカウンターが出来る構えだ。

 

 

 

 一度きりの攻撃機会を躱されれば必ずその隙を突かれるというプレッシャーを受けながら、双剣使いは逡巡の欠片も見せずに真っ直ぐ突撃していく。

 

 体当たりでもするかのような勢いを衰えさせないまま、一直線に肉薄するカッスン。速度が攻撃に乗るといえど、この状況ではメリットを帳消しにして余りある読まれやすいというデメリットを含む動作である。……先の啖呵を皮切りにして幾分か冷静さを戻したように見えていたのだが、気の所為だったのだろうか。

 

『戦闘は苦手か? 随分な愚策だな!』

 おれと同じ思考をしたのだろう。

 カッスンの持ち方からして居合の如く抜き放たれるであろう剣に備えて、中将が構えをとる。

 

 

 

 電伝虫越しに聞こえたのは、ふ、と短く息を吐く音。

 

『確かに戦いは嫌いだが……それはどうかな?』

 

 

 言葉の意図を誰かが掴む間もなく、カッスンは中将の眼前で双剣を抜く──ことはなく、そのまま。

 

 

 

 

 

『、んな』

 ──そのまま思い切り地面を蹴って、中将の頭上をくるり、と宙返りで飛び越した。

 

 

 

 

「ひゅう、意表の突き方大胆! さっすが船長、やるネ!」

 ひらひらと華美な衣装が宙を舞ったのを皮切りに、話題の暗さのせいで負の方面に向かっていた観客席のざわめきの色がまた変わる。隣から流れる、私情を多大に含んだ実況に、軽く明るい口笛が混じった。

 

 

 聞こえているだろう地上の声を気にする素振りもなく、すたんと靱やかに着地した男は奥の扉へと駆けていく。

 

 彼等にとっての勝利条件は宝の奪取、それを背に守っていた番人が呆然としている今、残りの障害物は何も無い。

 

 

 

『っは、しまった! 待て!』

 呆気に取られていた中将が我に返って叫び、後を追おうと足を踏み出した時には。

 

 

 

 先程は手を添えられていただけの双剣の片割れが、カッスンの元で白い刃を晒していた。

 

 

『待たん! ──これで、閉幕だ!!』

 その標的は真正面の鉄扉。

 

 一閃。

 遅れて、重い音。

 

 

 

 

 

『…………鉄を切るか。懸賞金は、どうやら伊達ではなかったらしい』

『お褒めに預かり恐悦至極、というヤツだな』

 

 

 一文字に切り裂かれ半分を蹴り飛ばされた鉄扉が、ぱらぱらと細かな残骸や埃を落とす。その奥の仄暗い空間から出てくる影を認めて、中将は不要となったハリセンを横に投げ捨てた。

 

 

 動揺の消えた顔。

 彼のどんな表情より見覚えのある自信満々な笑みを湛えて、手のひらサイズの宝箱を堂々と天に掲げたカッスンがスクリーンに大きく映し出される。

 

 

『さて、中将。先程の……最後の質問に答えよう! 復讐、海賊行為? 違う、おれ達の行動原理はただ一つ!』

 

 

 

 

『我らが旗を掲げたのは、ケードウの名声を永劫に伝え広めるため!──折角だ、今ここに宣言しよう!』

 

 

 微かでありながらくっきりと人物を照らす光源も、彼が乗り越えた中将という壁も。舞台効果の全てが、サー・カッスンという役者を輝かせるための演出であるかのよう。

 

 

 

 

『国とは民であり、王である! 王が、我らが生きている限り! ケードウが滅びることは決してない、と!』

 

 

 

 

 

 無意識的に、しかし確かに整えられていた民衆からの支持という地盤は、カッスンの大見得によって完成する。

 

 割れんばかりの拍手を誘爆させた広場の端まで響き渡る高らかな演説は、まるで元々ステージのフィナーレとして用意されていたかのように、この場に良く馴染んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──それで? 海兵はおれ達を捕まえなくていいのか?』

『言ったろう、わたくしは見極めに来たのだと。まァ手ぶらで帰れば支部長からのお叱りは避けられそうにないが、その分の見返りは十分に得た』

『……中将でも怒られたりするんだな』

 暫くぶりの日光に目を細める二人の赤毛は、観客に聞こえる声でどこか抜けた会話を交わす。空気感は和やかなものへと変わり、険悪さもほとんど消えたように見える。

 

 

「なに、そんな事はどうだっていいんだ。知りたいことを知れた、わたくしの夢も成就した。これ以上のことはない……挑戦を受けてくれて感謝する、サー・カッスン』

「こちらこそ、ってな! こんな特別仕様の大舞台に立つことが出来たのも──我らがケードウに興味を持ってくれたことも。ありがとう、フィル中将!」

 

 

 

 お互いに一礼、観客に向き直ってまた一礼。

 事情を知らず、見たままを享受しただろう人々からの喝采を贈られながら。

 

 

 観劇じみたステージの幕は、円満に下りる。

 

 

 

 

 

 ……さあ、本題はここからだ。

 




自分だけが楽しい小説になっていないかという心配。
でも趣味ってそういうものだよね!変わらず自分の趣味を詰め込んでいきます。許せサスケ
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