水の都で命は踊る   作:盆回

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立ち止まる日

 

「気配はあっち、きっかり二人分!」

 カッスン達の所在に目処がついたらしく、心の中で行なっていたおれ達の会話は途切れた。クラウが指し示したのはステージの裏側、舞台袖を出て回り込めばすぐの場所。

 

 

 

 壁の向こうに雪崩込む。

 確かにカッスン達は、そこにいた。

 

 

 

 

 

「……どうかあの世で、わたくしのことを恨んでくれ」

 ──それも、想定していた内の最悪に分類される姿で。

 

 

 

 

 息を飲む音は誰の喉から聞こえたものか。

 

 

 呆然と地面へ腰を落としたカッスンが見えた。

 双剣は離れた場所に落ちて、武器はおろか防具も身に付けていない。

 

 

 鮮血を流している腕で握った剣を、無防備な男の首に振り被る中将が見えた。冗談や脅しの類いではない、寸止めの素振りはない。

 

 

 おれのすぐ側には静止を叫ぶ者、声を上げる時間さえ惜しんで走り寄ろうとする者、急いで自身の得物を取り出そうとする者。

 

 

 

 介入しようとするそのどれもが間に合わないと、冷静な思考が走る。

 

 このままでは、あの男は。カッスンは死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 右手が銃の形を作っていた。

 

 

 

 

 指で空気を弾く技術を持たない050が咄嗟にした構え。

 ……今の身体の筋力を思えば不発に終わる可能性がある。今の身体の脆さを思えば、無理に放てば反動で手がダメになる可能性がある。

 

 

 

 

 

「────指銃、『撥』ッ……!」

 それでもおれは、望みに応えなければならない。

 

 

 この体のことは自分が一番分かっている、以前と同じようなやり方では標的まで到底届かない。十分な威力を出すためには、……変則的な筋肉の使い方が必要。

 

 

(ああクソッ、何が悲しくて自傷を計算に入れなけりゃならねェ!)

 

 

 空気が飛ぶ音、金属音。悪態を吐きながら今まで以上の力を込めて放った空気弾は、狙い通りに中将の剣を弾き飛ばす。

 

 

「……これはっ」

「……?」

 意識外からの攻撃によって手元の武器が叩き落とされたからだろう。警戒と困惑を湛えた中将と固く閉じていた瞼を開いた海賊頭は、思わずといったように此方を見て、そしてどちらも硬直した。

 

 

 

「ッは、間に合った、ね」

「今何したのヒョウ太!? 、……ううん、今はそれより、ええと──」

 それは、ここにいる筈のない者達が息を切らして立っているから? 一般人であるはずのおれが、空弾を撃ったような体勢をしているから?

 確かに要素の一つではあるだろうが、本題ではない。

 

 

 

「とにかく! 双方構えを解きなさい、これは命令です!」

 なにより、彼彼女らにとっての王が、堂々とそう宣言したから。

 

 

 

 

 

 

 ……これでひとまずは安心だろう、050もカッスンも。

 恐らく暫く続くことになるだろう痛みを噛み殺しながら、細く息を吐いた。

 

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

「く、クラウ!? 皆もなんでここに、眠らされてたんじゃないのか!?」

「確かに仕掛けは作動させた筈、どうして……それに、今の技は」

「そっちの疑問に答えるのは後! キミらがこの状況を説明するのが先!」

 

 ウィンド達が地面に散らばった三本の剣を回収し、警戒を前面に押し出すように各々の武器を構える。そうすれば隙を探っていた様子の中将も、人数差の上に武器のない己の不利を認めたらしい。観念したように両手を挙げ、拘束されることを良しとした。

「うわ、ザックリ…一応手当はしておくけど、後で縫合してもらわなきゃね~」

「…」

「ね?」

「…ああ」

 

 

 

 ……さて。この短時間で何故殺し合いにまで発展したのか、彼らの口から直接聞く必要がある。

 とはいえ、万が一にも外野には知られたくない事情がこの海賊団にはある。何があったのかを聞くならばと、外部から切り離された場所──地下迷宮へと逆戻りすることとなった。

 

 

「いい? 何があってこんなことになったのか、包み隠さずぜ・ん・ぶ! 話してよ!」

「話す、話すから揺さぶるなって!」

 何にせよ、眠っているであろう残りの海賊、海軍連中を改めて回収しなければならない。

 

 

 道すがらに姉弟二人を問い詰めていけば、今回の騒動の始まりから先程の光景に至るまで、全てが語られた。

 

 

 

 

 

 結果。

 

 

 

 

 

「あーもーーー! 姉弟揃って破滅願望もってるんじゃないよ!!」

「ちょ、」

「国を守れなかったケジメ? お前を殺して私も死ぬって!? ウチの騎士団はヤクザじゃありません!! 弟は弟で単身でマリージョア襲撃企てるし、なんなのもう!!」

「おいっ、さらっとバラすなおれの黒歴史!!!」

「ヒョウ太達にはもう言った!」

「えっ」

 

 

 クラウがキレた。

 どちらに怒っているのか分からなくなるくらいには、それはもう盛大に。

 

 

 

 語られた経緯は概ね、クラウとトラットの予想通りだったらしい。

 ……責任を取るため、復讐を果たすため、自身の弟の首を取る。

 悲惨な結末しか見えない未来へ、仲間を巻き込んで進もうとしていた知己に怒りが沸くのは当然だろう。

 

 

 激情が込められた言葉を受け、手を後ろに縛られ俯いていた中将がバッと顔を上げた。ぶつけられた怒りより気を取られる発言があった、とばかりに。

 

 

「マリージョア、襲撃を? ……カッスンが?」

「あう、あー、そこ掘り返さないでくれ姉上……」

 薄暗い空間ではあるが、宿った驚き程度は読み取れる。

 

「あ、そうだヨ自分も聞いてない!」

「おれも。姉さん達との秘密だったんだって?」

「うぐ、ぐ……カッコ悪いから言いたくなかったんだ!」

 当の本人であるカッスンは居心地悪そうに身じろいでいたが、クラウに肘でつつかれて肩を落とした。話す他はないと悟ったようだ。

 

 

 

 

 

「……更地になったケードウを見て、この先に希望は無いと思った」

 

「おれも、姉上と同じだった。自分の命に価値は無いと思い込んでいた。生きようが死のうがもうどうでもよくて、せめて世界政府なんて理不尽に一矢報いようとした」

 この男にしては、ひどく後ろ向きな思考。

 先程は黒歴史、などと軽い表現ではあったが、抱えた闇は確かなものだろう。

 

 

「だが、一人で船を出そうとしたところでトラットにバレて怒られて、クラウに伝わってボコられて……説得されちまったからな、止めたよ」

「な、ぜ。何故止めた?」

 動揺。それに、責めるような語調。

 中将はまだ目的の達成を諦めていないのだと、それだけで分かる。

 

 

 

 

 

 

 敵意を向けられていることを悟ってなお、カッスンはフィルの前に立つ。

 金色の目と目を合わせ、堂々と。

 

 

 

「何せ、我らの国はまだ残っているからだ! 全部言っていいか? クラウ」

「当たり前でしょ! さっさと話してれば死にかけなくって済んだじゃん、全く……律義なんだから」

 

 




移行、これにて完了!
書き溜めないです ここから更新が本当に遅くなります
でもって遅筆です ゆるして
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