水の都で命は踊る   作:盆回

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お久しぶりです。定期的に更新が止まったり進んだりします。ワンピ学園の方で天竜人出てきちゃったんですがもう気にしないで行きます。許してくださいってかあ!?はい



【挿絵表示】

フンダリー・ケッタリー様から支援絵をいただきました!!!!何だこの神絵!?!?あまりにも爽やか 見なよ 俺の(考えた衣装を着た)ヒョウ太(050)と海賊団を……ありがとうございます…………


けいかほうこく(イラスト有)

 

 そも、悟られていない方がおかしい。

 

 

「なん、で……そう思ったか、聞いていい?」

 悪足掻きのように表情を笑顔に固定した050は、声を震わせないようにして促す。

 

 

「……最初の違和感は朝、あの中将に見つかった時。アタシの知るアンタなら少しは戦おうとしたはずで、逃げるなら逃げるで上手く立ち回れたはず」

 おれが選択した最適解は弱者のそれ。自分を足手まといであると理解していたからこそ、闘気の欠片も向けず、飛んできた剣を弾くことも出来ず。

 

「階段程度で息を切らして、躓いて。少しの間とはいえ歩けなくなるくらいの怪我なんて、するわけないだろ」

 以前の姿を少しでも知っていれば分かる異常だ。この調子であれば、恐らく──いいや。間違いなく他の船員にも、多かれ少なかれ不調はバレているだろう。あの場にいなかったディオンに、階段での怪我の詳細を教えた者がいるということだから。

 

 

「でもホラ、おれってばドジだから! ディオンさんも知ってるでしょ?」

「ドジだろうと強かっただろ、アンタは。少なくともアタシよりずっと」

 医師は沈んだ声のまま、平坦に言葉を返す。050は何も言えず、ディオンも何も言わず、再度の沈黙。

 

 

 

 

「……その反応で分かったよ。誤診じゃないんだってな」

 苦虫を噛み潰したようなどこまでも厳しい顔が、ゆらゆらとこちらを見据える。

 

「どこか悪いんだって確信してはいたけど。……歩けるのさえ不思議な体なんて、病院のベッドで管に繋がれるくらいしてないとおかしい状態だなんて、信じられなくて」

「……そこまで分かっちゃったんだ」

 おどけることも口角を上げ続けることも出来ずに、050が息を吐く。もう誤魔化せないのだと諦めたらしい。

 

(ルッチは予測してたの、こうなること。先に忠告してくれたってよかったじゃん)

(……)

(また無視する……)

 そりゃあ、おれが助言していたのなら唐突に腹を括らされることもなかっただろうが。悟られているであろうことを教えれば、問い詰められる前にこの船から逃げ出していただろ。

 

 

 

「ソレは、いつから?」

「みんなと初めて会った時には、もう、かな。悪くなったのは最近だけど」

「……病気なのか? 治せる、ものなの?」

「体質、そういう生まれっていうか。多分、普通の治療じゃどうにもならないんだわ」

 だから気に病む必要なんてないと、眉を下げる。血が出そうな程に握り締められたディオンの手を取って、吹っ切れたように050は笑う。

 

 

「おれはだいじょーぶだから! おれの道はそれしかないし、とっくに決めたことだし!」

「アンタ、……っそんな、なんで!!」

 

 何故受け入れられるのか。

 何故笑っていられるのか。

 

 

 ああ、分かる。痛いくらいによく分かる。

 どうしようもない理不尽に晒されていて、死にたい訳ではないとさえ言うのに、仕方ないと笑って自分の死を許容する。いっそ当たり散らしてでもその考えを拒絶したくなるよな。

 

 けれど当人が決めていると朗らかに話すから。それが正義なのだと語るから。確固たる理由があるからと頑固に道を定めた050をおれでは否定出来なくて、説得も出来なくて、おれはとっくのとうに諦めた。だから共に覚悟したんだ。

 

 

 

 だから、頼む。

 

 

 

「そんなの、」

 ぎゅう、と。取った手が、祈るように握りこまれる。

 

 

「そんなの、いやだ」

 おれには言えなかった言葉を、代わりに。

 

 

 

「死ぬなよ、ヒョウ太ぁ……友達がいなくなるのは、もう、やだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 延命措置はおれが拒否した。

 突然生きられる道を突きつけられた時には酷く迷ってしまったが、二人で決めたことだから。

 

 

「な、……なん、で?」

「当たり前だろッ! そんな悲しいこと、寂しいこと……!」

 

 

 050も、一瞬の逡巡なく断った。

 創造主である科学者のため、おれが元の世界に帰るため、ガレーラカンパニーの味方でいるために。

 

 

「寂し、い?」

「死ぬなんて、っもう二度と会えないなんて、アンタだって寂しいだろ、辛いだろ!? 遊ぶことも話すことも、何も出来なくなるんだぞ!」

 

 

 おれも、ガレーラの連中も、050が命を捨てる選択に救われた立場だから。何とか否定しようとしても、誰もお前が死ぬのは辛くて寂しいなんて、死なないでくれだなんて、伝えられなかった。壁を壊せなかった。

 

 

 

 ……そう。

 ぼろぼろと大粒の涙を零す彼女は、この海賊団は。寿命の問題を知る程に踏み込めて、それでいて050の生存を無責任に願える唯一だ。

 

 

 

 

──────…………

 

 

 

 

 知り合いが傍にいないのは寂しいこと。

 まだ意識の奥で見ていただけの時に、ルッチの心に重苦しく伸し掛っていた負の感情は、理解しているつもり。

 

 

 だけど、おれの傍にはルッチがいる、ガレーラの皆も、今は師匠達だっている。

 最期まで一緒にいてくれるのに、それなのに、寂しい?

 

 

 

 ……分からない。

 理解はしていても分からない、筈なのに。

 

 何故だか、すとんと腑に落ちる。

 

 

 

 胸に残る冷たい凝りは、師匠との約束を破る罪悪感だと思ってた。

 なのに、それが消えた後も残り続ける、薄暗い塊。おれの目の前で、おれを想って泣くひとを見て、重なるもの。きりきりとした痛み。

 

 

 

 ディオンさんの激情を見た。

 涙と悲しみに触れた。

 言葉を、聞いて。

 

 

 

「あ」

 

 

 理解、した。

 してしまった。

 

 

 もしかすると、とっくに分かっていて。

 けれど無意識に押しとどめていたのかもしれない、負の感情。

 そう思えてしまう程に、心の中に溜まっていた、塞き止められない濁流のようなこの苦味、は。

 

 

 

 

 

 寂しい、んだ。

 辛いんだ。

 

 

 

 師匠達にもう会えないこと。

 ガレーラの皆ともう働けないこと。

 ルッチと、もう話せなくなること。

 

 

 

「あ、あ」

 

 

 こんな感情、知らなくてよかった。

 こんなこと、自覚するべきじゃなかった。

 

 

 そんなつもりで始めた旅じゃない。

 むしろ、『それ』を振り切る為の旅だったのに。

 

 

 

 考え始めたら止まらない。

 誓った筈の正義が揺らぐ。

 

 

 

 募る。

 

 積もる。

 

 

 

 

 ──途方もない『未練』が。

 際限なく、積み重なっていく。

 

 

 

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