インフィニット・ストラトス~漆黒の代替品~   作:保志白金

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地下水道ー2

なるほど、オフロードバイクと同じスタンスの方が動きやすい……か。コーナーはバイクと同じ体重移動で行える。それに波頭に合わせてアクセルワークすればスピードも乗る……と。

 

「うん、こいつは面白い!できれば、きれいな海で乗ってみたかったな!」

 

こんな汚い場所でなければ、もっと色々と技を試せるんだけどなぁ。

 

『遊んでる場合じゃないでしょ!早く犯人を追いかけなさいよ!』

 

通信がこのジェットスキーに入ってくる。声の主は当然、初音だ。俺はその場でジェットスキーを停車させて聞いた。

 

「言われなくても、わかってるよ。……でどこら辺にいるのか目星はついてるのか?」

 

『犯人なら……入ってきた情報が正しければ、そこら辺にいるはずよ』

 

そこら辺って言われてもなぁ。

 

…………ん?右の道からエンジン音が聞こえてくる。ってことは、

 

「そっちだ!」

 

俺は再びアクセルを全開で回した。

 

俺がどんどん奥へ進んでいくと、徐々にエンジン音は大きくなっていく。

 

すると、ついに犯人達が姿を見せた。暗くてよく見えないが、俺の前をジェットスキーで走っている。数は3人か?

 

しかし、あちらも俺の接近に気づいたのか、スピードを上げてくる。

 

「くそっ、速くて追い付かないぞ!」

 

どうやら、あちらの機体の方がマックススピードは速いらしい。そして、前方と右に別れている道を犯人達は右に曲がっていった。

 

俺も曲がろうとしたのだが、銃を構えている犯人達が目に写り、右に切ったハンドルを無理矢理元に戻した。

 

「うわぁぁッ!」

 

撃ってきやがった。ってか、あいつら銃なんか持ってたのかよ!

 

『ちょっと、大丈夫?死んでないわよね?』

 

「バカ野郎。奴らが銃を持ってるなら、最初に教えてくれよ!」

 

『なによ!強盗なんだから、そんなの持ってて当然でしょ?だから、ボディに特製の六連ゴム弾を収納してあるんじゃない』

 

ボディの横を見ると、たしかに拳銃らしきものがそこにはあった。それこそ先に言ってほしかった。……といっても、こいつを操縦しながら使うのは難しそうだ。

 

しかし、エンジン音がまだ聞こえる以上はターゲットもまだ遠くには行ってないはず。それにやつらの武器もある程度は識別できた。

 

「よし、しっかりナビ頼むぜ、初音!」

 

(絶対に逃がしはしねぇ!)

 

追跡を再開すると、すぐに前からひとつの明かりが近づいてくる。俺を始末する気満々だな。なら、ここはひとつ、技を試してみるか!

 

俺はS字にジェットスキーを蛇行させて、バイクで例えるなら、「ハイサイド」のようにその反動で飛び上がり一回転させる。

 

「バレルロールだと?そんな馬鹿な!?」

 

相手も驚いているようだった。俺は浮かせたジェットスキーを水面に叩きつけて、前に大きく水しぶき(汚水の)を上げた。この目潰しをまともに食らったら、たまったもんじゃないだろう!

 

そして、相手が怯んだ隙に、そのまま体当たり。見事に命中して、ノックアウトさせることができた。テレビで見た技を見よう見まねのぶっつけ本番でやってみたけど、上手くいくもんだな。

 

「初音、ターゲットを一人なんとか取っ捕まえたぞ。とりあえず、警察に連絡頼むわ。おそらく、あいつらのゴール地点はどこかの浄水場だから、今のうちに、網を張っておいた方がいい」

 

『それは駄目。犯人全員を捕まえる契約なんだから、その調子で残りも捕まえてきてね』

 

「お、おい。勝手に切るなぁ!」

 

一方的に通信は切られた。次も上手くいくかわからないんだから、こっちの事情も理解してほしいところだ。

 

「まぁ、なるようになるか」

 

俺は下水道のその先へと進んでいった。ーーしばらく進んだ後に、

 

\パァン/

 

「なんだ、これは銃声か?」

 

さっき俺を襲った時と同様の乾いた音が突然鳴った。しばらく進んでいくと、誰かが岸に這いつくばるようにして倒れていた。仲間割れか?

 

「おーい、大丈夫か?」

 

その場にジェットスキーを止めて、その人を引き上げた。

 

「君はいい奴だな。犯人の一味である僕を助けてくれるなんて」

 

その人の肩からは血がにじみ出ていた。

 

「こんなばっちい所で溺れてる奴を放っておくわけにはいかないからな。……で、なぜ撃たれたんだ?」

 

俺はその男に訊いた。

 

「あの人は変わってしまった。マリンスポーツのショップとスクールを開設したんだが、不景気で経営に失敗してしまってね。挙げ句の果てにサラ金に手を出し、借金に追われる日々。そして、牛丼一杯食う金すらなくなった時、金を借りていたヤクザに持ちかけられたのが今回の計画だよ」

 

うわ……なんだよその話。俺の生活よりも酷いじゃん。やっぱり現実はこんなもんなのか。

 

「危ない!逃げろ!」

 

「えっ!?」

 

いきなりの警告に、俺は後ろを振り向くと、最後の一人が銃をこちらに向けていた。そして、発砲してくる!

 

俺はすぐさまジェットスキーに飛び乗り、寝ているハンドルポールを起こした。

 

『ちょ、ちょっと、神楽!あんたやられちゃったの?生きてんなら返事しなさい!』

 

初音の通信が再び繋がる。

 

「大丈夫だよ。まだ生きてる。お前がハンドルポールを固い素材で補強してくれてたおかげで助かったぜ」

 

ハンドルポールを盾にして、銃弾を防いだ。通常のジェットスキーだったら、弾丸が貫通して、俺は死んでただろう。

 

なんとか死ぬことは避けたわけだが、この状況はよろしくない。俺も飛び道具を使うか?いや、射撃が上手くない俺にとっては、このまま突っ込んだ方が勝算があるか。

 

俺はアクセルを吹かして、銃を持っている男に向かって突き進んでいく。

 

「馬鹿め、まさか、無策で突進してくるとはな!」

 

奴はまた銃弾を放ってくるが、俺もまたハンドルポールを上げてその銃撃を防ぐ。

 

あんたの方が馬鹿だよ。策もなく突っ込むはずがないだろう!

 

ジェットスキー同士がぶつかる手前でハンドルを一気にひねり、大きくターン。それによって大きな波と水しぶきを発生させた。

 

「くっ、味な真似を……うおおっ!」

 

そして、後ろ向きのまま体当たり。奴のジェットスキーを吹き飛ばし、転覆させた。

 

「どうだ。テレビで見た技パート2。あんたも汚水を十二分に味わいやがれ!」

 

これで終わってくれれば楽なんだけど……そうはいきそうにないな。奴は汚水の中から顔を出し、ジェットスキーの車体を起こした。

 

「ククク、面白い。こうも見事に『立ち乗り』を操るとはな。あいつが倒されたのもうなずける!だが、お前の顔はどのゲレンデでも見たことはないな。どこかのチームにでも所属しているのか?」

 

ゲレンデ?チーム?なんだそれ?

 

「何だかわからないけど、あんたは凄く勘違いしているようだな。俺、ジェットスキーに乗ったのは今回が初だ。ま、こんな素人相手にやられてるようじゃ、あんた達のスクールに生徒が集まらないのもうなずける」

 

俺の言葉を聞き、驚きの表情を浮かべるが、すぐにその顔は不敵な笑みに変わる。

 

「なるほど、噂で聞いたことがある。とある会社にエンジンのある乗り物なら何でも簡単に乗りこなす特殊技能者がいると。それがお前だったとはな」

 

俺ってそんなに有名なの?

 

「知ってるんだったら、話が早い。大人しく捕まってくれないか?頼みの拳銃も汚水の中だろ?」

 

そう。さっきの体当たりによって、拳銃を水中に沈めることができていたのだ。しかし、あの表情から察するに、まだ、手段を残しているのだろう。

 

「フン、俺の未来を切り開く武器は拳銃だけじゃねぇんだよ!俺と貴様、どちらが生き残るか勝負だ!」

 

やっぱりそうか。今度はコンバットナイフのような刃物を奴は腰から抜き出した。怪我人もこの場にはいるし、こうなったら、もう少し遠ざけてからが本番だな!

 

「馬鹿め、逃げられるものか!運動性能ではこちらの分は悪いが、スピードに関しては俺の機体(ランナバウトマシン)の方が……お前の機体(スタンドアップ)よりはるかに速い!」

 

そのことは百も承知だったが、俺の予想よりもあいつ速いぞ!できれば、やりたくなかった手ではあるが、覚悟を決めるしかない。

 

 

俺はわざと水中に潜った。

 

 

こんな汚い中で目を開けることはできないが、音を頼りにすれば、どこにいるかは見当がつく。そして、音が近づいてきたタイミングを逃さなかった。フルスロットルでエンジンを回し、水中から飛びかかる。

 

しかし、この絶妙のタイミングと思った一撃は間一髪でかわされてしまった。

 

「マジかよ、こんな汚水に漬かったっていうのに、かわされた!」

 

「ハッ、馬鹿が!そんなトリックプレーにひっかかると思ってーー」

 

何かを言いかけた途中で、奴は空中に投げ出されていた。すると、そのまま壁に激突して、次に飛んできたジェットスキーの下敷きになってしまった。

 

最後の最後で自分の相棒に裏切られた……か。こんな汚い場所でこいつ(ジェットスキー)を悪用してきた報いだな。

 

「とりあえず、救急車でも呼ぶか。初音、聞こえてるか?……返事しろ!」

 

何も返ってこない。さっき汚水に漬かったことで故障でもしたか?

 

……不意に背後からの殺気を感じ取ったので、銃を自分の機体から取りだし、振り向きざまにトリガーを引いた。俺の放ったゴム弾は奴の額に命中して、確実に意識を絶たせた。

 

『……ら?…………神楽?生き……ん……ら、返事しなさい!』

 

全てのターゲットを撃退したタイミングで、通信機能がかろうじてではあるが復活した。

 

「ああ、生きてる。とりあえず、俺の任務は完了した」

 

お前(ジェットスキー)もお疲れさん。銃弾にも汚水にも見事に耐えてくれて、ありがとう。今度はきれいな海でお互い会いたいな。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「今回のミッションによる神楽悟への支給額は200万円になります。いかがされますか?最終的に彼の査定をするのはあなたですから」

 

「う~ん、そうねぇ。まぁ、初めて操縦した乗り物で犯人全員を叩きのめしたのは誉めてあげるけど……、機体に傷をつけたことと、汚水まみれにしたのは大きなマイナスね。それを踏まえて今回のあの子の支給額は……これぐらいね!」

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「おはよう、悟」

 

「ん?おう。おはよう、一夏」

 

あの後、自宅のシャワーを使ってから、学園の寮に向かった。ちなみに、部屋は一人部屋で俺の住むアパートなんかと比べ物にならないくらい広くて、きれいで、立派だった。

 

……しかし、あれだけ死ぬ思いをしたってのに、バイト料は一万円。な~んか納得できないよなぁ。……そもそも、うちの会社が世界的な企業なのかすらも疑いたくなってくる。

 

「早いとこ、朝飯食いに行こうぜ。女子達に囲まれると色々厄介だから」

 

「ああ、そうだな」

 

寮の食堂はタダだ。当然と言われれば当然だが、貧乏人の俺にとって、それは最高なことだった。

 

よし、今日からは金のことを気にせず、たくさん食べれるぞ!俺は意気揚々と食堂へ歩いて行くのだった。

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