インフィニット・ストラトス~漆黒の代替品~   作:保志白金

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起動

朝食を足早にとり終えて、昨日と同じようにして授業が始まった。

 

ついさっき、相席していた篠ノ之さんが一夏のことを鬼の形相で睨んでいたのは、気のせいだったと思い込みたいところだが、昨夜、俺が下水道の中を駆け回っていた間に何かあったのかな?

 

それにしても、ISって便利だよなぁ。ーー今、山田先生に基本知識についてを講義してもらっているのだが、改めてそう思う。どんな理屈で宇宙空間での呼吸を可能にしているのか、そこが一番気になるところだ。

 

「ISには人の意識と似たようなものがあり、お互いの対話。つまり、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特製を理解しようとはたらきます」

 

それはつまり、シンクロすることも簡単というわけなのだろうか?そう考えると、男である俺も是非乗ってみたくなる。……一夏はいいなぁ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「あっ、もう時間ですね。次の時間では、空中におけるIS基本制動をやりますので」

 

もう終わり?人間は楽しいとか、面白いと感じると、時間を短く感じるって聞くけど、本当なんだなぁ。

 

 

 

「ところで神楽。お前の機体はいつ届く?」

 

休み時間に入り、織斑先生にふと訊かれる。

 

「え~と……わかりません。『今日学校が終わり次第ASEビルに来い』と言われたんで、その時に訊いときます」

 

「そうか。しかし、6日後までには間に合わせてもらうようにしろ。いいな?」

 

人の都合くらい、少しは考えてほしいものだが、

 

「……はい」

 

結局それに応じるしかなかった。

 

 

 

「安心しましたわ。あなたが専用機持ちということなら、気兼ねなく戦えますわね」

 

織斑先生がここから去ると、今度はオルコットさんが俺に話し掛けてきた。

 

「まぁ、勝負は戦う前から見えていますけど?フェアではありませんものね」

 

「えっ、そうなの?」

 

「あら、ご存じないようですのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくしはイギリスの代表候補生。つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

なるほど、国の代表だもんな。そのために専用機のひとつぐらいは用意されるのは当然か。

 

「ふふ、怖じ気づいて言葉も出ないようですわね」

 

そういうわけじゃないんだけど、反論したら面倒なことになりそうだし。まぁ、そういうことにしとこう。……一夏がこの場にいたら、また揉め事になってたかもしれないな。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「今日は何を食べようかな」

 

学食は凄く混んでいて、大行列をなしている中で昼をどうするか悩んでいた。

 

一夏はクラスの女子に囲まれて質問攻めにあったり、篠ノ之さんに投げ飛ばされたりと、忙しそうだったので、こっそりと抜け出して一人で並んでいる。

 

「よし、今日は蕎麦だな」

 

券売機で食券を買った後、カウンターに置く。

 

「はいよ、天ぷら蕎麦お待ち」

 

「あっ、どうも」

 

ふふふ。いつもならかけ蕎麦を頼むけど、昨日一万円入ったところだし、今日くらいは豪勢にいこう!ーーってなわけで、今日は天蕎麦にした。

 

俺は空いている席を見つけて、そこに座った。最大なら4人まで座れるところではあるが、すぐに食べてどければ問題ないだろう。……多分。

 

「か、神楽君、相席していいかな?」

 

不意に声をかけられた。そこには、同じクラスメイトの女子、三人(たしか布仏さん、谷本さん、相川さんだったかな?)がいた。周りを見渡しても、空席が見つからないし、まぁいいか。

 

「うん、どうぞ」

 

俺がそう言うと、小さくガッツポーズをとったり、「やった~」と小声で聞こえてきたりした。ーーそんなに嬉しいことなのだろうか?蕎麦をすすりながら俺はそんなことを思った。

 

「ねぇねぇ、ぐらぐらは今日、牛丼食べないの?」

 

俺の方を向いて、布仏さんは喋り出す。

 

「ぐ、ぐらぐら?それって、俺のこと?」

 

「うん~」

 

珍妙なあだ名をつけられたもんだなぁ……。別にいつも体を振動させてるわけじゃないんだけど。

 

「それで、牛丼は?」

 

「あのな、牛丼好きだからって俺はいっつも食べてるわけじゃないんだよ」

 

「あ~、なるほどねぇ~」

 

今更ではあるが、この子は俺以上に鈍いというか、マイペースというか。あ、これだから、一夏からはのほほんさんって呼ばれているのか。……しかし、この質問自体、どういう意図で彼女は訊いたのか謎しか残らない。

 

他にも別の質問が飛んできたが、それらは前者ほどぶっ飛んだ内容のものではなかった。

 

「ご馳走さまでした……と。じゃあ、お先に失礼するね」

 

3人よりも一足先に来ていた俺は、昼食を食べ終えて、先にここから立ち去った。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「昨日の今日でごめんね、神楽」

 

授業が終わりASE本社に行くと、昨日も見た顔がそこで待っていた。なんか『ASE』って文字が書かれたアタッシュケースを手に持ってるし、まさか、また初音と組んで任務なのか?

 

「今日は仕事で呼んだわけじゃないから、身構えなくても大丈夫よ。『オルタナティブ』をあんた用に調整する作業も終わったから、渡そうと思ってね。次の週に早速使うんでしょ?」

 

なんと、訊こうと思っていたことが既に解決していたので驚いてしまった。

 

「それ、マジ?」

 

「ええ、マジよ。逆にそんな嘘ついてどうすんのよ?」

 

こうも都合よく簡単に事が運べば、疑いたくもなってくるもんだ。

 

そんなどうでもいい話をした後、初音は持っているアタッシュケースを開けて、中身を取り出した。そこには腕輪と四角くて平べったい何かの2つが入っていた。

 

「これらが……なんだ?」

 

「なんだ……って、これらがオルタナティブなのよ。ISみたいに、乗ってから調節するもんじゃないの。まぁ、あんたに言ってもわからなさそうだし、とっととこいつをつけなさい」

 

「へいへい」

 

俺も聞いたところで無駄だと判断して、早速腕輪を右手にはめた。これをつけた時点で、特に変わった様子はない。

 

「次に、これをその腕輪にかざす。はい」

 

そう言って、四角くて平べったい何かをフリスビーを放るように投げてきた。機械的なつくりをして重そうに見える外見とは裏腹に、手で取ってみると案外軽かった。

 

「腕輪にかざすっと……。これで何か変わるのか?」

 

初音に言われた通りに動作をしているが、未だに変化が現れない。

 

「はぁ~……。腰を見てみなさい」

 

ん?腰?ーー俺が視線を下に下ろすと、機械的なベルト装着されていた。そのベルトの中央部分には、何かをはめ込むことができそうなくぼみがあった。

 

「最後に、左手に持ってるそれをベルトの中央に挿す」

 

俺は滑り込ませるように、横からそれを挿し込んだ。すると、急に視界が暗転して、すぐに明るくなる。何かが変化したことに気づいた俺は、後ろにあるガラスの窓に写る自分の姿を確認した。

 

ガラスには、全身を(くろがね)の鎧に身を包んだ俺が写っていた。

 

オルタナティブ(代 替 品)……か」

 

「そう。これが男であるあんたでも使える、IS擬きーーオルタナティブよ!」

 

初音がIS擬きと呼ぶオルタナティブは俺が想像していたものよりもシンプルなつくりのパワードスーツだった。ISほどゴツゴツしていないし、形状的には俺の好みである。

 

「性能面では、第三世代型のISとも互角に渡り合える代物で、特性的に考えると第二世代型のISに近いわね」

 

第三世代型は『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵器を実装』を目標としているIS。それらは今、各国が躍起になって開発を急いでいると聞く。つまりは未だ試作段階である。

 

それに対して、第二世代『後付武装による多様化』を目標とされたもの。どんな状況においてもある程度幅広く適応可能で扱いやすく、現時点で最も量産されているISだ。

 

「まぁ、第二世代型に近いその理由は武器の展開とか、特殊動作の発動をカードを介して行うからなの。バックルの中にカードが入っていて、それを右手のリーダーに読ませれば、効果を発揮する仕組みになってるわ」

 

……なるほど、さっき挿し込んだものはバックル兼カードケースなのか。試しに確認してみると、中にはカードが2枚入っていた。ーー槍のような剣のようなものが描かれたカードとオルタナティブの残像が写っているカード。

 

「ごめんね。今のところ、2枚しか準備できなかったの。だから、その2枚だけで次の試合は乗りきってね」

 

頭を下げてから、舌をペロッと出す初音。……まぁ、なんとかなるだろう。それに勝たなくてもいいわけだし。

 

「それとーー」

 

その後も俺の体感時間にして一時間近く、オルタナティブに関する説明やレクチャーが長々と続いた。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

ついにこの日が来たか……。乗り気はしないし、万にひとつ、俺が勝つことはないだろうけど、初の実戦だ。色々試すだけ試してみるか。

 

それで、試合の順番は、

 

一夏対俺

 

オルコットさん対一夏

 

オルコットさん対俺

 

という流れで進んでいく。

 

こうなった理由としては、「男子共はまだ操縦に慣れてないだろうから、少しでも慣らすためにもウォームアップを兼ねて、先にさせてやる」という粋な?計らいみたいだ。

 

……しかし、もうそろそろ始まるというのに、未だに待機するように言われている。どうやら、一夏のISがまだ届いていないらしい。

 

「この際だからしょうがない。アリーナを使用できる時間が限られているから、先にオルコットと神楽の試合を開始する。各々準備をしろ。準備が完了次第、始める」

 

織斑先生からの指示を受け、俺は第三アリーナのBピットに向かった。

 

 

 

「……セットアップ」

 

俺は四角いカードケースに話しかけるように呟くと、俺の腰にはベルトが現れる。ーー自分の声紋で特定の単語を認証させても、こいつは起動できるらしい。

 

ベルトにカードケースを挿し込み、オルタナティブを身に纏い、準備完了。

 

『神楽、準備はできたようだな。なら行け。お前の実力、見せてもらう』

 

突然、織斑先生からの通信が入る。大分急いでる様子だし、とっとと終わらせようか。

 

脚部に搭載されたバーニアを吹かして、俺は空へと飛び上がった。

 

「あら、来ましたのね」

 

アリーナの空中には、すでにオルコットさんが待っていた。

 

「ひとつ、言っておきますわ。わざと負けたりしたら、わたくしの奴隷にしますわよ」

 

…………は?なんだよそれ!それだけは絶対に嫌だ!ちくしょう、本気でやるつもりはなかったのに、本気にならざるおえないってか?

 

(よし、行くぞ!オルタナティブ。お前に生命(いのち)を吹き込んでやる!)

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

そう言って、スナイパーライフルのような長い銃器を構えて、レーザーを放ってきた。

 

それにすかさず反応してそれをかわす。そして、バックルからカードを抜き取り、それを右手の籠手にスラッシュさせた。

 

『ソードベント』

 

女性のような声をした電子音がなると、カードは青い炎に燃やされて消え、代わりに右手には長大な槍のような剣が出現する。

 

「中距離射撃型のわたくしに、接近戦で挑もうだなんて……笑止ですわ!」

 

「生憎、これしか持ち合わせがないもんでね」

 

この状況はたしかに不利か。しかし、今までも困難な任務をこなしてきたんだ。それらを思い出せば、やれないことはないはず。

 

それに、この試合はまだ序曲にすら差し掛かっていない。

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