クラス代表決定戦が終わった翌日の朝。山田先生が開口一番にこう言った。
「はい、一年一組代表は織斑一夏君に決まりました。いや~、一繋がりでいいですね!」
俺はクラス代表の任をなんとか免れることができた。そもそも乗り気ではなかったことと、「アルバイト」があるという理由を織斑先生に伝えると納得してくれた。
一夏も暗い顔を浮かべているし、悪いことをしたのはわかってるけど、俺よりもそういった仕事をするのにむいている気がするから、応援しているぞ。
っと、それとーー
「昨日はごめん」
俺はオルコットさんの前に立ち、頭を下げた。
「……なぜ、あなたが謝るんですか?」
「オルコットさんの機体を予想以上に傷付けてしまったみたいだから。そのせいで最後の試合もできなかったみたいだし」
俺がそう言うと、彼女はきょとんとした顔をした……と思ったら、今度はクスッと笑った。
「真剣勝負だったのですから、あれ位は仕方のないことですわ。わたくしの方こそ、あの時助けてくれてありがとうございました、悟さん」
あれ?彼女、雰囲気が変わったかな?数日前にはあった刺々しさがなくなったような……。
「それと、その……わたくしの苗字はいちいち呼びにくいでしょうから、これからは名前で呼んでくださいな」
言われてみれば、たしかにそうかもしれない。「ッ」が入っているからかな?
「うん、わかった。これからはそうさせてもらうよ」
(それと、代表決定戦が終わってからより一層クラスの雰囲気が良くなった?)
なんとなくではあるが、俺はそう感じたのだった。
◼◼◼
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、神楽。試しに飛んでみせろ」
数日経ったある日、俺達はグラウンドに出て、織斑先生の授業を受けている。
俺は手早くベルトを出現させて、バックルを差し込んだ。セシリアさんも先生の指示の後、すぐに装備を終えていた。
「早くしろ。できていないのはお前だけだぞ」
一夏は展開させるのに苦労しているようだった。もちろん、その数秒後には展開を完了させたんだけど。
「よし、飛べ」
全員の準備が終わったことを先生は確認すると、すぐさま指示が飛ぶ。それにすかさず反応して、俺はオルタナティブを飛翔させた。その後を追うようにしてセシリアさん、一夏が順についてくる。
「織斑、何をやっている。神楽の機体ならともかく、オルコットの機体よりは出力が上のはずだぞ」
やや遅れ気味の一夏に織斑先生が叱咤する。
「一夏、経験あるのみだ。馴れてくれば自分のやりやすい方法だってきっと見つかるさ」
俺は空の上で停止させて、下にいる一夏に向かって言った。
「へぇ、そういうもんか。……ってか、お前こそなんでうまくやれてるんだよ?」
「それはわたくしも気になっていましたわ。悟さん、操縦に馴れてるというか、凄くお上手ですもの」
一夏だけでなく、セシリアさんまでもが俺に対して訊いてくる。
「う~ん、よくわからないけど、できるもんはできるんだよなぁ。ハハハ……」
自分でもわかる。これは答えになってない。だってなぁ……、
「今度は急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10センチだ」
「では、お先にわたくしから」
セシリアさんがそう言って、一番最初に地上へと近づいていく。地上にいるみんなの反応を見ると、完全停止もうまくできたようだ。
「よし、次は俺が行くよ」
次に、俺が地上に向かって加速させる。目標は10センチだったな。…………ここだ!
「ほう、9,9センチ。まぐれか?」
くそぉ、1ミリ行きすぎたか。おまけに織斑先生はニヤッと笑みを浮かべながら、皮肉まで言ってくるし。
最後に一夏の番だ。白式を勢いよく急降下させて、こちらに向かって、向かってーーそのまま地面にめり込んだ。あー、しょうがない。ドンマイだ。
「馬鹿者が。授業が終わったら、穴を埋めておくようにしろ」
「……すみません」
「まぁいい。次に織斑、武装の展開をしろ」
そんな些細なトラブルはお構い無しと言うように、授業は順調に続いていった。途中でセシリアさんが近接用の武装を展開させるのに苦労していた際に、織斑先生から批評を受けていた。その時に、なぜか俺のことを睨んでいたんだけど、その理由はいまひとつわからなかった。
◼◼◼
「というわけで!織斑君クラス代表決定おめでとう!」
「「「おめでと~」」」
(女の子ってこういうパーティー開くの好きだよなぁ)
コップに注がれたコーラを飲みながらそんなことを思っていた。
今は夕食も食べ終わり、なんでもできる自由時間。一年一組のメンバー全員が寮の食堂に集まり、『織斑一夏クラス代表就任パーティー』というものを催していた。主役であるはずの一夏は浮かない顔をしているが。
ほぼ強制的に参加を強いられたわけだが、とっとと抜け出して早く寝たいところだ。別に主役でもないんだから、俺が抜けたって別に問題は無いよな!うん。
俺はこっそりとドアに近づき、開けようとした。が、しかしーー
「はいはーい、お邪魔します、新聞部でーす。話題のニューフェイス達にインタビューをしに来ました!」
……タイミングが最悪過ぎる。まるで、俺が帰ることを見越していたかのようだ。
「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。では織斑君。クラス代表になった感想を、どうぞ!」
逃げられないと判断した俺は、仕方なくここにとどまることにした。まぁ、インタビューほとんどが一夏に集中していたことが不幸中の幸いだったけど。
でも、唯一訊かれたあの質問はなんだったんだ?緑色の飛ばないISとか知ったこっちゃ無いし。
◼◼◼
「二組も専用機持ちがクラス代表なの。そう簡単には優勝できないから」
ん~、誰かが通せんぼをしていて、教室に入れない。わざとではないのはなんとなくわかるけど、少しは他人のことを気にしてほしいところだ。
「お前、鈴か?」
すると、教室の中から一夏の声が聞こえてくる。どうやら、そこの彼女と知り合いらしい。いやいや、そんなことは関係ない。そろそろ織斑先生が来る頃だから、早めに入った方がよさそうだ。
「そうよ。中国代表候ーー「ちょっと、話してるところゴメンよ。そこを通してほしいな」
彼女の言葉を途中で遮るように教室の中へ入っていった。こんなことをして申し訳ないけど、命に関わるんだ。そこだけは理解してほしいね。
「誰か知らないけど、あたしの邪魔をしないでよ!」
なんで、俺が怒られてんだ?まさか、そんなに大事な会話だったの?
「ゴメンゴメン。でもさ、ほらそろそろSHRの時間だろ?だから、戻った方がいいと思うよ」
「なによ。まだ3分も残ってるじゃない」
そういう問題じゃないんだ。頼むからーー
「ほお、ずいぶんと時間に余裕がありそうだな」
あー、遅かった。彼女の後ろには出席簿を今にも降り下ろそうとしている織斑先生の姿があった。俺は心の中で合掌をした。
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。それに神楽が言うように、さっさと戻れ」
「す、すみません」
さっきまでの覇気はまるで感じられず、織斑先生に怯えているようだった。
それから、一夏にクラスの女子達が群がってきた。当然ながら、その彼女らに向けて、織斑先生の出席簿アタックが飛んできたのは言うまでもないことだ。
◼◼◼
(一夏の幼馴染みでおまけに中国の代表候補生ね)
昨日の朝の時間に入り口の前に立っていた女の子は凰鈴音という名前で、一夏曰く、セカンド幼馴染み(ファーストは箒さん)とのこと。そして、今頃になって転入してきたらしい。
なぜ、最初から入学しなかったのかが疑問ではあるが、それなら一年一組の担任が誰かわからなかった理由にだということが理解できた。
そして、クラス対抗戦のトーナメント表が今日から張り出されていたわけなのだが、一年一組の対戦相手はよりにもよって一年二組だった。