クラス対抗戦の組み合わせが決まって、数週間近くが経っていた。っていうか、今日はクラス対抗戦当日だ。そして、俺はピットに置かれたリアルタイムモニターの前に立っている。
こんなに日が経っているというのに、ASEの人達から仕事の連絡が来ないということは、俺にとって奇跡に近いことだった。
(ようやく、あっちも俺のことを学生と見てくれるようになったんだな。うんうん)
俺がしみじみそんなことを思っている中、第二アリーナ上空では、既に一夏と凰さんが互いに睨み合っていた。
(一夏は彼女に勝てるのか?)
凰さんの『
しかし、足らない分を補おうと一夏はここ数週間、俺や箒さんセシリアさんを相手に模擬戦をして鍛えていた。
『それでは両者、試合を開始してください』
ゴングの代わりなのか、ブザーが鳴り響き、試合開始を合図した。それと同時に一夏と凰さんは動いた。互いの得物ーー日本刀(?)と青龍刀(?)が交差する。
そして、一夏が距離をとるような動きを見せるが、彼女のISの浮いている肩のアーマーが開き、発光を起こした。その瞬間、白式はぐらりとよろめく。再び、肩のアーマー発光を起こすと、今度は地面に叩きつけられていた。
「なんだ、あれ?」
思わず、声に出してしまうほど驚いた。
「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成。余剰で生まれる衝撃そのものを砲弾化させて撃ち出す。つまり、砲身も砲弾も目に見えないのが特徴ですわ」
いつの間にか隣にいた、セシリアさんが親切丁寧に解説してくれた。音も予備動作も一切無しに襲ってくる弾丸か。かなり厄介だな。
突然、俺のケータイが振るえ出した。
「う~ん、こんなときに誰だよ?」
廊下に出て確認すると、画面には非通知と表示されていた。
「もしもし」
『久しぶりね、悟』
聞こえてきた声は俺の師匠であり、上司でもある百舌鳥遥さんだった。
「百舌鳥さん!ってことは……任務ですか」
『ええ、そうよ。しかも今入ったとびきり新鮮のね』
「鮮度のいい任務なんて欲しくありませんよ。それに、今学校にいるんですからね。わかってるんですか?」
『もちろん、知ってるわよ。今日からクラス対抗戦が始まることも。それに伴ってあなたが今暇だということもね』
……相変わらずだな。なんで知ってるんだろう?
『話を戻すけど、アンノウンのISを一機撃墜してもらうのが今回の任務。そして、そのISの目的地は恐らく、あなたのいるIS学園』
よりにもよって、この対抗戦が開催されているタイミングでか。
「アンノウンって、どこの国のものとか識別できないんですか?」
『ええ。コアは未登録のものと見て間違いないわ。とにかく、急ぎなさい。今から送るデータの座標に向かうのよ、いいわね?』
「了解です」
俺は誰もいない廊下を全力で駆けていき、漆黒の鎧を装着した。
◼◼◼
「指定されたところはこの辺りか?」
学園から少し離れたところの空中が百舌鳥さんに指定された場所だった。
『気を付けなさい、来るわよ』
「えっ?……うおっ!」
オルタナティブに通信が入ったと思ったら、いきなり前方からビーム砲が真っ直ぐ飛んできた。その先を見つめると、全身を装甲で覆っているISが、通常では考えられないスピードでこちらに向かってくる。
灰色っぽい少しくすんだ色で、手が異様な位に長いのが特徴的なISだ。おまけに通常のISよりも大きめに設計されていて、人間らしくない形をしている。
「あんた、何者だ」
俺は正体不明の敵に訊くが、返ってきたのは言葉ではなく、砲撃だった。
「ああ、チクショウ。やるしかないのか!」
(急な仕事で悪いけど、力を貸してくれ。お前に
『ソードベント』
右手にスラッシュダガーを展開させて、俺は加速した。
(敵の反応が遅い、これならやれる!)
オルタナティブの機動力を活かして、一気に後ろへと回り込み、剣を振り抜こうとした。しかし、剣を振り抜こうとした瞬間に、奴はいきなり反応を見せて、腕を盾代わりに使うために動かした。
(なんだ?いくらなんでも動きが無茶苦茶過ぎる!)
後ろに回り込んだ段階では動こうともしなかったのに、攻撃されると判断したら、奴は急に動いた。
「聞こえてますか?百舌鳥さん」
『なにかしら』
「ISって人がいなくても動きますか?」
『そんな前例はいままで無いわね。でも、私もそう思ったわ。なにせ、常軌を逸した推進力まで持っているものね、その子』
やっぱりか。百舌鳥さんもそう言うなら、これには人が乗っていないと断定してよさそうだ。しかし、そうなってくると、火力不足が心配だ。追加の装備は届いたけど、あれはあくまで手数が増えたようなものだからな。
『言い忘れてたけど、確実に仕留めるためにもう一人エージェントを呼んでおいたわ。もう少し時間がかかるけどね』
おお!さすがです。……でも、ISに対抗できるものをオルタナティブ以外にうちの会社が持ってんのか?まぁ、今は考えてる場合じゃないな。行こうか!
俺は恐らく無人であろうISを相手に斬って斬って斬りまくった。シールドエネルギーは削れているはずなのだが、一向に動きの衰えを見せない。そして、なぜか敵は俺に背を向けた。それはまるで心底興味を失ったかのよう……いや、別の何かに興味を示したかのように。
(あいつ……まさか)
俺の嫌な予感は的中した。俺のことは一切無視して、IS学園がある方角へ振り向いた。
「くっ、行かせてたまるか!」
『スイングベント』
追加された新たなカードをスラッシュさせると、左腕にアンカー状の装備ーーアンタレスが出現した。そして、そこからワイヤーを射出して敵に巻きつけ、奴を引っ張り返そうとした。
(やっぱりダメか)
しかし、圧倒的な馬力の差を見せつけられ、動きをやや鈍らせることはできるものの、逆に俺が引かれていく。だったらーー
(この力を利用させてもらうだけだ)
脚部のジェットを停止させ、抵抗をせずにわざと引っ張られる形をとった。ある程度の加速がついた段階で、ジェットを再点火。強烈なGが体にかかっていることを意識せずとも体感できるほどのスピードで、スラッシュダガーを前に構えながら奴の中心線を狙って突っ込んだ。
バリアもろとも機械の体を刺し貫いた、確かな手ごたえを感じる。ーーが、狙っていたコアからは逸れて、スラッシュダガーが刺さっていたところは左肩部分だった。
「チッ!」
舌打ちをしつつも、相手の肩を貫通してあるスラッシュダガーでそのまま左腕を捻り斬った。その後、小爆発が起こると同時に敵は間髪入れずに、俺を残った右腕で掴んできた。拘束を振りほどこうと手を打つが、その力には全く歯が立たない。
そして、俺を自分の体の前へと持ってくると、さらに機体の速度を上げた。
「……っ!」
くそっ、息がつまる!それにこのままじゃ、学園まで行かれてしまう。それだけはさせない!
左腕に装備されたアンタレスをパージして、新たなカードをスラッシュする。
『アクセルベント』
『ソードベント』
長大な黒い槍ーーウイングランサーを空いた左手に新たに出現させて、俺を掴む無機質な右腕を十字に斬り裂いた。
(もらった!)
槍と剣ーー両手に構えた得物でターゲットのコアを今度こそ確実にピンポイントに捉えた。それでも、奴はガクガクときしませながら頭を動かし、俺を視界にとらえる。これでも、まだ一押しが足りないのか……。
奴の不気味なモノアイが赤く光り、胸部の砲台もエネルギーのチャージを始めたその時だった。
大きな爆音が突然響いたと思ったら、奴の背面から炎と煙があがる。何が起こったか把握しきれていなかったが、即座に対応して、その場からすぐさま飛び退く。
すると、もう一発同じ音の爆音が鳴り、今度はターゲットが完全に爆散した。
『まったく、これだからキミと一緒に仕事をするのは嫌なんだよ』
この口調に、この声は……
「さっきの砲撃はオウルだったのか!助かったよ」
『フン、いつもいつも緊張感のない男だなキミは。まぁ、今回は大したトラブルもなく任務を達成できたから良かったが』
こいつ……偉そうに語りやがって。トラブルをつくる原因はほとんどオウルの方だと俺は記憶してるんだけどなぁ。
『とりあえず、ミッションコンプリートだ。神楽、キミは早いところIS学園に戻りたまえ。僕だけで後始末を済ませるから心配はいらん』
「そうか。じゃ、後は任せた」
俺はそう言って通信を切ると、もと来たルートを引き返していった。
◼◼◼
「一夏、負けちゃったのか」
学園に戻ってみると、対抗戦は順調に進んでいて、終わっていた。俺が出ていった後、一夏はある秘策を使って凰さんに勝つことができたものの、最後の試合で負けてしまったようだ。詰めが甘いというのは一夏らしいというか。
「はぁ、学食のデザートが……」
クラスメイトの誰かが嘆くように呟いた。
そういえば、この対抗戦で優勝したクラスは「学食デザートの半年フリーパス」なるものを景品として配られる予定だったんだけど、一年一組と一年二組が同立で優勝となってしまったので、その景品は無くなったのである。
3ヶ月間に期間を縮めて両クラスに配布すればよかったんじゃないか、と俺は思っているが、なにせあの織斑先生が決めたことだ。文句を言おうにも誰もが言えなかった。
「神楽。第一試合の途中、お前はどこで何をしていた?」
織斑先生が突然俺の前に現れ、質問をしてくる。百舌鳥さんにも通ずることがあるけど、織斑先生の勘の良さも異常過ぎる。
「そのことは百舌鳥さんから訊いてください。ある程度の察しはついてるんですよね?」
「やはりそうだったか。しかしーー」
パァン!!
「授業時間の途中にアルバイトとは、いい度胸だな」
ぐぅ~。はじめて出席簿アタックを食らったが、これほど痛かったのか。「無人のISと戦ってました」なんて言えば、これは無かったかもしれないが、仕事の内容はあまり口にするなと百舌鳥さんは言っていた。俺だってみんなにあんまり迷惑かけたくないから、ここは我慢しておこう。
「アハハ、今回はすみませんでした。それじゃあ、失礼します」
頭をさすりながら、俺は寮の自室へ帰っていった。
スイングベントーーG3のアンタレスそのまんまをイメージしてくれればいいです。
オウルについては後々語っていくので、知ってる人も知らない人も気長にお待ちください。