インフィニット・ストラトス~漆黒の代替品~   作:保志白金

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実習開始

「ねぇ、あの噂聞いた?」

 

「うん!聞いた」

 

「えっ、何のこと?」

 

「だから、織斑君と神楽君の話」

 

いつものように食堂はかなりの賑わいを見せていた。それも今日はいつも以上に盛り上がっている。

 

「なんだ?すごい人だかりができてるけど」

 

「なんでしょうね。皆さんでトランプでも楽しんでいるのでは?」

 

俺はセシリアさんと一緒に夕食をとろうとしているところだった。一夏はどっかに出払っていたし、一人で食べるのも味気ないからな。

 

「ええぇっ!それマジなの?」

 

「嘘っぽいけど、これがマジなのよ」

 

「ど、どうしよう!」

 

……なんだか、さっきよりもヒートアップしている気がする。そうなってくると、やっぱり気になるところだ。まぁ、あそこに入ってまで訊く勇気は無いんだけど。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「なぁ、悟。俺達何か噂されてるみたいなんだけど、なんか知らないか?」

 

次の日の朝。教室で一夏は俺に訊いてきた。

 

「そうなのか?俺もわからないなぁ」

 

噂されてるとか、俺初耳だったし。……ん?そういえば、昨日の女子達はあの噂がなんとやらとか言ってたっけ?でも、昨日の話とは別の何かかなぁ?

 

「悟がなにかやらかしたのかと思ったんだけど、違ったか」

 

「いやいや。むしろ、俺は一夏が問題を起こしてそうな気がするけど?」

 

箒さんとか鈴さんに毎度のことながら怒鳴られたり、技をかけられてるからね。

 

「諸君、おはよう。今日からは本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるが、ISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように」

 

織斑先生(とその後ろから山田先生)が教室に入ってきたことでこの教室の空気が引き締まった。とうとう、実技メインに授業もシフトしていくってことか。退屈な座学が減ると考えれば大歓迎だ。

 

「では、山田先生、ホームルームを」

 

「は、はい。ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!」

 

当たり前のようにざわつく教室。そもそも、鈴さんのことも考えれば、転校生が短い期間に二人も来たことになる。転校してくる人達が多いってわけじゃないが、珍しい気がする。

 

そんなことを考えていたら、教室のドアが開いた。

 

「…………」

 

無言で入ってきたのは、左目に真っ黒の眼帯をつけた銀髪の女の子だった。なんとなくだけど、ただの女の子じゃない気がする。漂っているオーラとかが……ね。

 

「…………」

 

「え、ええと、あの……」

 

彼女は挨拶も何もせずにただただ黙り続けているので、山田先生も戸惑っている。

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

それを見かねて、織斑先生が挨拶をするように促した。すると、軍人のような振る舞いで敬礼をしてそれに応じた。……でも、さすがに「教官」は無いだろ。

 

「ここではそう呼ぶな。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

織斑先生は溜め息をつきながら、彼女に指摘した。

 

「ラウラ・ボーディヴィッヒだ」

 

そして、ようやく自己紹介を始めた。……のだが、

 

「…………」

 

一番最初の一夏の自己紹介のように、名前だけ口にして黙ってしまった。しかし、それは何を言うべきか悩んでいる訳ではなく、もはや、なにも言う必要が無い、とでも言いたげな態度を示していた。

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

山田先生もこの空気をどうにかしようと、笑顔で問いかけるが、ラウラさんはピシャリと即答した。山田先生は今にも泣きそうな顔をしていてとてもかわいそうだ。

 

「……ッ!貴様が」

 

一夏の方に彼女が顔を向けると、突然、目を見開かせ、こっちへ歩いてきた。そして、一夏の前までたどり着くと、

 

バチッ

 

頬に鋭い平手打ちを放った。理由もわからずにぶたれた一夏はかなり混乱していた。

 

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

 

このクラスにいる全員が彼女の行動と言動に唖然としている。でも、「あの人の弟」とか言ってるってことは……う~ん、さっぱりわからないな。

 

「おい、いきなり何すんだよ!」

 

「フン……」

 

一夏は彼女のその理不尽な行動に怒り出すが、無視して立ち去っていった。さっきのはなんだったんだ?

 

「あー、ゴホンゴホン!今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。各人は第二グラウンドに遅れず、着替えて集合するように。解散!」

 

クラスの微妙な雰囲気を強引に断ち斬るように織斑先生が指示を下した。

 

「一夏、早いところ移動するぞ」

 

「……あぁ、だな」

 

未だに腑に落ちない顔を浮かべている一夏にそう言い、俺達は第二アリーナの更衣室へ足早に向かった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」

 

「はい!」

 

今日の授業はふたつのクラスが合わさっての実習だ。単純に人数もいつもの倍いるので、出てくる返事も心なしかいつもより大きく思える。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。そうだなーー」

 

キィィン

 

織斑先生が説明を始めたタイミングで甲高い風切り音がそれを遮った。

 

「ああぁぁーっ!ど、どいてください~っ!」

 

あれは……ISを装備した山田先生か?それで、落下地点はここら辺だし、このままだと直撃コースじゃないか!

 

「ああ……もう!」

 

俺は黒いパワードスーツを出現させて、その場を速攻で離脱した。しかし、俺の隣にいた一夏はただボーッと突っ立ったままだ。

 

『スイングベント』

 

このままだとどうしようもないと思い、俺はアンタレスを使って間一髪、なんとか一夏を引き上げた。

 

「悟、……悪い、助かったよ」

 

「まったく、一夏は白式持ってるだろ?使えばいいのに」

 

理由もなく突っ込んできた山田先生も問題だけど、避けようともしない一夏も悪い。それにあれぐらいだったら一夏の実力なら対応できたはず。

 

……って、いかんいかん。いつの間にか仕事をしてる時の考え方になってる。この年齢で職業病ってのはシャレにならない。あ、そういえば山田先生は地面に墜落しちゃったけど、絶対防御があるんだし大丈夫……だよな?

 

「よし、展開しているついでに神楽、それと凰も前に出ろ。お前達に実演をしてもらう」

 

えっ、マジ?

 

「げっ、なんであたしが……」

 

鈴さんも露骨な程に嫌そうな顔をしている。ちなみに俺は表情には出していないのだが。

 

「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。それに…………」

 

織斑先生は最後の方は小声で鈴さんにしか聞こえないように、何かを伝えていた。

 

「まぁ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

なんだ?手のひらを返したかのように、鈴さんのやる気が最高潮に達している。なんかで買収でもされたのかなぁ?

 

「それで、相手は誰なんですか?」

 

「山田先生が何の理由もなくISを装備していると思うか?」

 

それは薄々感じてたけど二人呼んだってことは……、

 

「お前らにとって『数的には』有利な二対一だ。準備はできてるな?」

 

なるほど、俺と鈴さんのタッグチームで山田先生を相手にするのか。しかし、あの山田先生だ。さっきの様子をやいつもの雰囲気を見る限りでは、あまり強そうには見えない。ほんとに戦えるのか?

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。油断してるとすぐ負けるぞ」

 

織斑先生がそう言うんなら間違いなさそうだな。そんなわかりやすい挑発に乗るわけが……って、鈴さんの頭にさっそく血がのぼってるんですけど……。

 

初音のレクチャーが正しければ、あの山田先生が今装備しているISはラファール・リヴァイヴ。日本名では疾風の再誕という、フランスのデュノア社が開発した第二世代型最後期のISだ。

 

第二世代型の機体だが、スペックは初期につくられた第三世代型には負けていない。豊富な後付武装により安定した性能と高い汎用性を持っていることが地味ではあるが最大の特徴である。つまり、格闘、射撃、防御といった全タイプの役割を一機でまかなえる。

 

その特徴や他にも操縦の簡易性があることにより、世界第三位のシェアを持ち、様々な国々で使われている。

 

「では、はじめ!」

 

『悟、この勝負は絶対に勝つわよ!』

 

織斑先生から開始の合図が出ると、鈴さんから通信が飛んできた。

 

「まぁ、やれるだけやってみるよ。だからーー」

 

「落ち着いて」と言おうとしたが、その前に切られ、即座に鈴さんは飛翔していった。……うん、この模擬戦は勝てないかもな。

 

鈴さんは山田先生に衝撃砲を撃ち込むが、それはあっさりとかわされてしまう。

 

『ソードベント』

 

(う~ん、今日は適当に済ませようか)

 

右手は空いていないので、左手にスラッシュダガーを装備して俺も飛翔していった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「もう!あんたのワイヤーが邪魔なのよ!」

 

「いや~、ごめんごめん」

 

結果から言えば俺達の負け。その要因はいくつかあるけど、やっぱり連携がうまくとれなかったことが一番大きいだろう。……次に俺のやる気の無さかなぁ?

 

「これでIS学園教員の実力を理解できただろう。以後は敬意を持って接するように。では、次に五つの八人グループに分かれて実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?」

 

織斑先生がいい終えると、俺と一夏に今ここにいるほとんどの生徒が詰め寄ってくる。

 

「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

「神楽君の操縦テクを是非教えてほしいなぁ」

 

「ね、お願い!同じグループに入れて」

 

なんとなくこうなる予想はしていたけど、その予想以上の人数が俺達を取り囲んでいる。一夏も苦笑いを浮かべながら、かなり困っている。……結局、この場は織斑先生の一声で収拾がついた。

 

 

 

「よろしくね、神楽君!」

 

「操縦の手取り足取りを教えてっ」

 

「ねぇねぇ、神楽君のISって珍しい形だよね。どこで開発されたの?」

 

…………無事グループに分かれたのはいいが、さっきと状況は変わらなかった。

 

「そうだな……まず、出席番号順に実習をやっていこう。だから、わかりやすく並んでおいてくれ」

 

そう指示を出して、俺達の班の実習は始まった。




シャルは後から必ず出ます。
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