モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

1 / 67
幼年期編:0歳~10歳
鈴木悟(モモンガ)→モモン


 DMMORPGユグドラシルのサービス終了日。俺は一人で、ナザリックの見回りをしていた。記憶に焼き付けるのは、懐かしいとも感慨深いともいえる景色の数々。自分の半生が詰まった場所であり、楽しい思い出に彩られている。

 

「終わってしまうんだな」

 

 寂しさを一つ言葉に乗せて、俺はナザリック第九階層ロイヤル・スイートの廊下を歩く。目に映るのは煌びやかな装飾に彩られた芸術品の数々。かつてここにはたくさんの人がいた。なのに、今は俺しかいない虚しく空虚な廊下が続く。

 

 ここを共に歩いた友の一人も、つい1時間前に最後のログインを終えて消えていった。またどこかで会いましょう。そんな空虚な言葉だけを残して。

 

「どこか……ね。ヘロヘロさんは、もうゲームで遊んでいる暇もないじゃないですか。それで一体、どうやってまた会うんですか」

 

 少しだけ愚痴が口から零れてしまうが、俺だって本当はわかっている。時間がない中、わざわざ来てくれただけでも有難いのだ。

 

「それでも、言えば良かったのかな。最後に、一緒に遊びませんか……俺の我儘だな」

 

 しょせんゲームデータに過ぎないかもしれないが、それでも俺の半生がここにはある。それらがあと10分もすれば終わってしまう。サービス終了の名と共に。

 

 楽しかった思い出も。アインズ・ウール・ゴウンの仲間と共に、築き上げた全てが、全てが塵になってしまう。それらが名残惜しいと思うが、終わってしまえば明日からまた仕事をして、何にもない日々を過ごす毎日が始まるのだ。

 

 だから楽しかったなと独り言を言おうとして

 

「ぐ……な、こ……がぁッ!!」

 

 突如として胸が痛む。痛いのが止まらない! 激痛に俺は地面に這い蹲ってしまう。手足が動かない、脳すら痛みに軋む。

 

「ぎぃ!」

 

 呼吸がおかしい。めまいがする。立ち上がれない。明らかな体の異常が起きている。ユグドラシル内で、こんな痛みが発生することはない。つまり

 

(リアルの体に……異変が!!!)

 

 心臓の痛みが止まらない。現実の心臓の鼓動が不規則に動く。痛い痛い……ログアウトのボタンに手が伸びない。意識が混濁する。

 

(俺……死ぬのか?)

 

 あまりの激痛に死の一文字が頭に浮かぶ。嫌だ……こんなところで死にたくない。家族も出来ず、ゲーム外での友もいない人生のまま死にたくない。でも、手は動かない。意識が……遠く…………

 

 

 

 

 

「────────」

 

 なんだ? 何かの音がする。何の音だろうか。

 

「────────」

「────────」

「────────」

 

 音……と言うより、これは声だろうか。誰かが俺に話しかけている? そう言えば……そうだ。俺は確か心臓が痛くて、胸が張り裂けそうになって……そのまま気を失った?

 

「────────」

 

 そうなると、この声は上司だろうか? 気絶した俺を見つけて、意識があるのかを確かめている?

 

 意識はあると声を挙げようとするが、胸が詰まったかのように音が出ない。手足に力を籠めようとしても、まるで麻痺しているかのように動かない。

 

(当たり前か。あんな激痛が心臓にはしったんだ。何かしらの後遺症が残ってもおかしくはない)

 

 後遺症次第ではあるが、まともに動けない人材に会社は優しくはない。ほぼ確実に、俺は仕事を首になり、明日から路頭に迷う事になる。今の社会構造を鑑みれば、ほぼ死んだも同然だ。

 

 それでも生きている以上は仕方がない。死んでいた方が楽だったかもしれないが、生きているならどうにか生きる方法を模索するのだと、重い瞼を開く。

 

 光が目に染みてぼやけるが、それでもなんとか目を見開いて

 

「ひらいた……開いてくれたぞ! 俺たちの……俺たちの子が」

 

 そこにいたのは、上司ではなく、医者でもない、見た事もない青年が俺を覗き込んでいた。

 

 

 

 

 

 ふぅ……と俺は息を吐く。鈴木悟としての生を終え、エモット夫婦の息子、モモン・エモットとして生を授かってから6年が過ぎた。今では自分の足でしっかりと歩けるようになり、言葉も話すことができる。今日の作業の薪割りを終えた俺は、真っ二つにした薪を倉庫まで置きに行く。

 

「転生か。ペロロンチーノさんと、そんな話もしたことがあったな」

 

 ユグドラシルでは、かつての友とそんな話をしたこともある。死んだら終わりではなく、意識を保ったまま次の人生へ。そんな現象を自分が体験したのだと気づいたのは、生まれ変わってから三日ほどしてからだ。

 

最初は戸惑った。見たこともない女性に抱えられているのだ。それは戸惑うし、何が起きているのかも不明でひどく警戒もした。逃れようにも生まれたての俺は赤ん坊で体も小さく、まったく体に力も入らない。

 

 そうこうしてるうちに村長に祝福されたり、あなたの名前はモモンよと名付けられたりしていれば、だいたいの状況も掴めてくる。自分は赤ん坊になっているのだと。

 

 前世、つまり鈴木悟としての俺はおそらく心筋梗塞か何かで急死したのだろう。それで人生は終わりだった筈なのに、気が付けばモモンとしての新たな人生をスタートしていた。

 

「モモンとしての人生を歩み始めてから6年も経ったんだよな。早いもんだ。しかしモモンか。6年経っても、どうにも慣れない名前だな」

 

 ユグドラシルで使っていたプレイヤーキャラのモモンガに酷似した名前に、いまだに慣れない。偶然なのか、それとも作為的に名付けられたのか。どちらにしろ、今の名前はモモンかと思い直す。

 

 村の共有倉庫に薪を置いてから、俺は村の中を歩く。

 

 俺が新しい人生をスタートさせた場所はカルネ村といい、リ・エスティーゼ王国の都市であるエ・ランテル領の片田舎らしい。らしいというのも、俺はこの村から出たことがない。6歳の子が村から離れるというのも不自然なので、俺は子供らしく振舞うようにしている。

 

 ここが過去の地球なのか、それとも異世界なのか。それらを知りたい気持ちは持っているが、それはあまりにも不義理すぎるのでやってはいない。

 

「モモン! こっちに来て手伝いなさい!!」

「はーい!!」

 

 家の近くまで近づくと、母であるミカ・エモットに呼ばれたので、そちらに向かう事にする。仮に俺が村を離れてしまえば、今の両親、つまりミカと父であるオルガは心配して探しに出てしまうだろう。

 

 転生などという偶然とは言え、俺の新しい親であり家族になったのだ。それを差し引いても、二人は善良といえる人物。そんな両親をできれば心配はさせたくはない。

 

「もうすぐお父さんが帰ってくるから、お皿を出しておいてね」

「わかった」

 

 前世であれば、了解したや承知したと固い言葉を返したかもしれないが、今の俺は6歳の子供。両親に対して敬語で話すのは不自然なので、子供らしく話すように心がけている。

 

 母に言われたとおり、俺は乾かしておいた皿を食卓に並べていく。父が農業から帰ってきたら、いつも通り薄い塩味のスープと、少し硬いパンを全員で食べる。けっして豪勢とは言えないが、前世のサプリで栄養を取っていたことを思い返せば、ちゃんとした本当の野菜や麦を味わえるのだから上等だろう。

 

 そうして他愛ない話をして、明かりが勿体ないので日が暮れたらすぐに就寝する。そんな生活を続けてきたし、これからも続いていく。

 

 そういう日々を送っていると、ふと思うことがあるのだ。前世では、こんな風に家族と話したことがあっただろうかと。

 

 結論から言えば全くない。薄情に思えるかもしれないが、俺は前世の両親についてほとんど覚えていない。朝から晩まで二人とも必死で働いていて、父など年に数回顔を合わせるかどうかで、母も似たようなもの。顔すら思い出せはしない。それに二人とも、最後は過労により倒れてこの世を去ってしまった。だから家族らしい団らんとなると、とてもではないが無かった。

 

 皿を並べながら、包丁を持つ今の母をちらりと見る。この世界は結婚する年齢が早く、まだ20代前半の母は俺の享年よりも若い。そんな人物に対して、母親への愛情を俺は持っている。もともとが、前世の母の記憶が薄かったこともあったのだろうが、それよりも

 

「どうしたのモモン? こっちを見て」

「なんでもないよ」

 

 背中ごしなのに、俺がみていたことに気づいていた。それはつまり、息子である俺にずっと気をかけているということ。それは母の愛情と呼ぶのだろう。

 

(生みの親より育ての親……だったかな。いや、前世の母も、俺のために文字通り死ぬ気で育ててくれたから、やはり立派な人なんだ。だけど、ミカだって俺のために、いろんなことをしてくれている)

 

 思いやりの心というのだろうか。息子なのだから気を配って当然……などと俺はいうつもりはない。俺が新しく生まれたこの世界には、ゴブリンやアンデッドといったユグドラシルにしかいなかったようなモンスターがいる。村長曰くエ・ランテルはそうでもないらしいが、他の領では厳しい重税に苦しんでいる村もあるらしい。つまり、この世界は過酷なのだ。

 

 過酷な世界で、それでも子を育てようとする精神。それは立派というのだろう。そういう風に思いやりを持たれてしまえば、俺だって応えたくなってしまう。本当の意味での息子ではないかもしれないが、それでも義理の母のようなものなのだ。

 

「帰ったぞ」

 

 父が帰ってくる。それをきっかけに夕食の時間が始まり今日も終わる。食事が終われば水で濡らした布で汗を拭き、いつものように就寝する。

 

 朝がくれば父は農作業に行き、俺は薪割りや水汲みなどの雑作業だ。前世であれ6歳の子供が働くことはさすがにあまりないが、この世界の普通の村は違う。

 

 ぶっちゃけカルネ村の人口は少ない。全部で120人ほどの25家族で、同い年の子供など一人もおらず、一番年齢が近くても上は3つで下は2つ離れている。人口が少ないと言う事は、子供であっても遊んでいる暇はない。子供でもできる雑作業を任されるのだ。

 

 これが女の子であればまた違ったのかもしれないが、男の子にはそれなりの労働も課せられる。それを別に苦にも思わない。なにせこの村で一番の怪力は誰かと言われたら、間違いなく()になるのだから。

 

「ん?」

 

 ふと、何かに見られていると気づく。俺が気づいたわけではない。俺が村の周囲に配置している、()()()()()()()()()()()()が感知したのだ。生者の感知に特化した中位のアンデッドが、複数人の気配を察知して、それとリンクしている俺も同様に感づいた。それだけの話なのだ。

 

「……気配からして、様子見か。そうなると……下見だな。決行前の」

 

 大方野盗か何かだろうと俺は推測する。この世界では、盗賊山賊野盗など珍しくもない。重税がある村から逃げ出して、そのまま犯罪者になる人物など想像に容易い。ある場所から奪うほうが楽なのだから、人間は簡単に流されてしまう。

 

「やるか」

 

 下見であれば、向こうも日が落ちるまでは動かないだろう。こちらにも時間的な猶予がある。ならば

 

死の暗殺者(デス・アサシン)。向こうの動向を探れ。手を出す必要はない。あくまでも動向を探るだけだ。ねぐらに帰るようであれば、追跡してアジトを抑えておけ。いざという時のために、相手の帰る場所を潰す準備はしておく」

 

 俺がそう命じると、家の影で何かが動く。それはゾゾゾとわずかに音を立てて、この場から離れていく。これで準備はいい。

 

 あとはあれとあれをこうしてこう。村の草抜きをする傍ら、俺は襲撃しやすいであろうポイントに一体ずつ中位アンデッドを再配置しておく。

 

 あとは家に帰り、晩まで待機してから

 

「<睡眠(スリープ)>。ごめん、父さん、母さん。俺がいないのに気付いて起きられたら困るから、ちょっとだけ眠っていてくれ……不穏分子どもを片付けてくる。精神作用無効オン。上位物理無効化Ⅲ起動。刺突完全耐性オン。毒無効オン……」

 

 これから人を殺すかもしれない。もしかしたら戦いになるかもしれない。なので、普段は諸事情から切ってあるパッシブスキルを全て作動させる。起動と同時に

 

「<完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)>」

 

 これで姿も気配も音も、感知能力持ち以外は俺に気づけなくなる。もしかしたら向こうにレンジャーなどがいるかもしれないが、どちらにしろカルネ村を守るためには俺が戦うしかない。この村にいる戦力は、一番強い狩人でも正直なところ普通の人に毛が生えた程度だ。

 

 もしも野盗側にまともな戦力がいたら、死ぬのはこちらかもしれないが……

 

「見捨てる選択肢はないからな」

 

 6年間、そう6年間だ。それだけの時間があれば新たな両親にもたしかな愛情を持つし、村の住民にも好感しか持たない。会う度にモモンくんは利発そうだねと褒めてくれる隣のお婆さんが、野盗に襲われて死ぬかもしれない。

 

 そんなのはごめんだ。俺が守らないとなくなるのかもしれないのであれば、守らない選択肢などない。

 

 リンクさせたアンデッドが、複数人の気配をすでに捉えている。そちらに向かって<転移>すると

 

「寝静まってるな」

「こんな時間だ。起きてるやつもいねえだろうさ」

「あんな村襲ったところで、金になるのかねぇ?」

「少しぐらいなら蓄えもあんだろ。それに若い女もいた。お前らも、そろそろ抱いときてえだろ」

「ちげえねえ」

 

 全部で8人ほどの男が、カルネ村の様子を伺っていた。どう聞いても話している内容からザ・盗賊な連中なので、不意打ちで全員始末しておきたいが、殺すのは人間なのだ。念のために、いちおう事情ぐらいは聞いておくかと思い

 

「<集団人間種支配(マス・ドミネイト・パーソン)>」

 

 両親や村人とたいして変わらない相手であれば、これだけで十分。もしも抵抗(レジスト)する相手であれば、有無を言わさず速攻で片付ける。果たして効果はというと、覿面だった。その場にいた男全員が、例外なく虚ろな顔をする。

 

 攻撃行動をとったことで俺の不可知化も解除されたが、精神作用魔法が通ったなら別に問題もない。

 

「おい。お前たちは、近辺を荒らしている野盗か」

「はい、そうです」

 

 集団の一人が、いきなり現れた俺に驚くこともなく質問に回答する。その結果に、問題もなさそうなので俺は質問を続ける。

 

「どうして野盗なんてしている?」

「貴族の横暴に耐え切れず、領を出たからです。ですが、俺にできることなんてありません。こうして他人から盗むので精一杯です」

「その行為に良心の呵責はあるか?」

「最初はありました。でも、今はありません」

「これからも、他人を襲い、殺して回ったりするか?」

「します。そうしなければ、俺が飢え死にします」

「そうか。それはお前の仲間全員も同じか?」

 

 俺の質問に全員が頷きを返す。貴族の横暴と聞いて、たぶん前世の企業連合のエリートみたいな連中、それもウルベルトさんが嫌いだったのと似たような連中と同じなんだろうなとは思う。

 

 重税に苦しみたくはない。だから領を出た。そこまでは理解できる。だが、それで同じような村を襲い、奪って殺す。その中にはカルネ村のみなもいるのだろう。

 

「……俺とお前たちは立場が違う。俺には、生まれついての力がある。だから選ぼうと思えば、いろんな道を選べはする。そんな俺が説教できることもないだろう……それでも、お前たちを見過ごせば、野盗にならなかった人も死ぬ……残念だよ」

 

 ここで見逃したところで、いずれは冒険者にでも殺されるだろう。それを抜きにしても、俺の姿を見て子供が位階魔法を使えるのだとこいつらは知ってしまった。あらゆる意味で許す理由もない。

 

「やれ」

 

 俺が虚空に命じると、闇がうごめく。それらが野盗を呑み込み、闇が晴れた時には損壊した死体だけが残っていた。自分が殺人をしたことに心がざわつくが、精神作用無効のおかげですぐに精神が平常状態に戻る。

 

 一度心が落ち着いてしまえば、目の前の死体を見ても何も思わない。よくも、わるくも。

 

「蘇生されても面倒だからな。悪く思うなよ。中位アンデッド創造」

 

 死体をアンデッドに変化させる。こうしておけば、万が一蘇生されてからの情報漏洩もない。変化させたアンデッドは、新たにカルネ村の防衛戦力として人にみつからないように潜伏させておく。

 

「あとは、こいつらの拠点だな」

 

 そちらにも出向き、残っていた野盗たちに同じように支配魔法をかけてから尋問し、情状酌量の余地がないことを確認してから、殺してアンデッドに変えていく。

 

 これが今の俺の日常。モモン・エモットとしての新しい人生だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。