モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
その話はすぐにスレイン法国にも伝わった。王国辺境の村に、英雄に到達し得る才ある子供……もしかすると、それすら凌ぐ逸脱者や神人候補がいるかもしれないと。ただの噂なら捨て置く案件だが、その話を持ち込んだのは六色聖典の中でも、風花と並んで情報収集に特化した水明聖典だ。
王国、法国、聖王国、帝国。商人や神官に扮し、各地の情報を集める彼らは才能の発掘も担当している。私達は人類守護のために、才ある人間を心の底から欲している。私が漆黒聖典第三席次として命を賭して戦うのも、そうしなければ人類の明日が閉ざされるからだ。
「聞いているかい、剛腕剛力。もしかしたら、神人が見つかったやもしれぬそうだね」
「これは千眼千視殿。らしいですね。英雄級でも十二分ですが、本当に神人なら神官長たちは本腰を入れて調査します」
神殿の廊下を歩いていると、漆黒聖典の同僚であり、先達の千眼千視に話しかけられた。今年で85にもなる彼は漆黒聖典を引退してもおかしくないのに、持ち得るタレントの有用性で今でも引っ張りだこな人物だ。
そんな彼の言う神人。神人とはかつてこの地に降臨し、我らの祖先を御救い下さった六大神の末裔のことだ。六大神の血を引くものはそれなりに多いのだが、大半は普通の人間と変わらない。そんな中で、尊き血を大覚醒させて人類の領域を遥かに飛び越えるのが神人だ。
英雄ですら喉から手が出るほど欲しいのだから、神人ともなれば話が違う。
「ひょっとして、けっこう詳しい話を知っているのかい?」
「次期神官長ですからね。神官長様達のお話が、耳に入る機会は多いです」
「そうかそうか……詳しい話、良ければ僕にもきかせてくれるかい?」
「千眼千視殿が御望みであれば……今から半年ほど前に、カルネなる村で一つの事件が起きました。エ・ランテルの薬師と冒険者が、森の賢王に襲撃されると言う悲しき事件が」
「森の賢王か。あやつは駆除せず、生かしておいた方が僕たちにとって有益だから見逃しているけれど、そう言う事件が発生しているのを知ると、正しいのかは分からなくなるね」
「違いありません」
森の賢王。記録では随分と前からトブの大森林に住みつく魔獣だ。非常に強力な魔獣で、冒険者が使う難度では90を僅かにだが超えている。もしも森の外に出たら、数多くの村が被害にあう。それを知りながら法国が抹殺に向かっていないのは、かの魔獣が一種の防波堤になっているからだ。
わたしたちは常に人手不足。森の賢王を恐れた亜人共は、あの魔獣がいる方面からは滅多に外へ出てこようとしない。ならばそれを利用する。駆除はせず、亜人や異形への備えとして放置しておいた。仮に人間が殺されるとしても、いまのところ被害者なのは危険性を認識しながら森に突入する冒険者や一部の物好き。彼らには自己責任として頑張ってもらうしかない。
「薬師たちはそこで亡くなる筈でした。しかし村の少年があとを追跡していて、森の賢王から彼らを救おうとした。それを見て感銘を受けた賢王は、少年の勇敢な行動と才をいたく気に入り、今は弟子として育てている……これが行商人としてエ・ランテル領を見回る、水明聖典隊員の報告です」
「賢王……異形が人間を育てるか。僕個人の意見としては面白いと思う反面、漆黒隊員としては危険かも……としか言えないね」
「同意見です。才ある人間の子が、もしも賢王に殺されたらと思うと……その少年は要観察対象として、調査中です。もしも本当に神人なのであれば。神人ではなくとも、逸脱者や英雄に到達し得る子であるならば、私達法国が引取育てるべき。王国の、しかも辺境の村には置いておけません」
「親元から引き離す意見に賛成はし辛いけれど、王国はねぇ……エ・ランテルはランポッサくんの直轄領だからまだましだけれど、他の領地でそんな貴重な才能が使い潰されたらたまった物じゃない。お馬鹿な貴族の重税で餓死したり、野盗にでも襲われて死亡すれば人類全体の損失だからね」
千眼千視の言うとおりだった。王国は腐りきっている。元から貴族の手綱を握れてはいなかったが、ランポッサ王が年を取り衰え始めてからは腐敗が加速した。水明の調査によれば、王のお膝元である王都で、八本指なる犯罪組織が台頭し始めてもいる。
「王国を命を賭してでも守るのは、あの国から人類を守れる人材の出現を願って。カルネのモモン……その子は我ら法国が待ち続けた、人類を脅かす異種族に抗い戦ってくれる勇者かもしれません」
それからもカルネ村には引き続き水明の行商人が訪れては、モモン少年の動向と才を見守り続けた。それから半年がさらに過ぎ、水明の調査によりその才は本物だと断定された。行商の時に賢王ハムスケとの訓練風景を見る機会があり、そこではまだ9歳になったばかりの子供がアダマンタイト冒険者並の動きを披露した。
これは驚愕の事実だ。二桁もいかない子供がアダマンタイトなど普通ではない。憎きエルフ王の子供にアダマンタイト相当がいると言うのは有名な話だが、向こうはエルフ。見た目が子供なだけで、実年齢は50歳ぐらいが当たり前だったりする。
「前に言っていた、カルネのモモンくん。あの子を僕が見に行くことになったよ」
「千眼千視殿がですか?」
「本物の神人かもしれないからね。神官長達は、僕に見て確認して貰いたいそうだ」
「貴方のお眼鏡に適うといいのですがね」
「はは、眼鏡はかけてないけどね」
非常に強力なタレントを有しており、視ると言う事に関しては彼以上の存在はこの国にはいない。法国内でまだまだ幼いが、占星術への高い適性を持つ子供が最近見つかった。その子が仮に成長したとしても、タレントまで持ち合わせる千眼千視には届かないだろう。そう思わせるほどに、彼は観察のプロだ。
漆黒聖典を派遣するほどに、モモン少年は重要視されている。水明聖典隊員と合流し、行商人の仲間としてその村まで千眼は向かい……顔を青ざめさせながら戻って来た。
「……あれは。あれはなんだ。あんな……」
「どうされましたか千眼千視殿。何やら慌てているようですが」
「あ、ああ。剛腕剛力か。慌てて、そうだね、僕は慌てているよ。とてもね……すまない。すぐに神官長に報告しないといけないことがあってね。君とのおしゃべりはまた今度だ」
そう言うや否や、千眼千視は廊下を走りさっていった。一体あれはどうしたのだろうか。
なぜ走り去ったのかはすぐに分かった。私は次期神官長として、また漆黒聖典第三席次として会議に参加しなさいと呼ばれた。
私は法国最高執行機関に御呼ばれし、今回のために用意された席に着席した。
「今日も我々人間の生命に安寧があったことを感謝します、六柱の神々よ。明日もまた、我らの命を御守りください……さて、今日の会議を開かせて頂きます。まず最初の議題ですが、以前から調査をしていたモモン・エモット少年に関することです」
「王国辺境、カルネの子供か。水明の話では、アダマンタイト級ですぐにでも英雄になり得る候補だったな。それか神人かもしれないと。事実であったのか?」
「……神人ではありません」
それを聞いて神官長達は目に見えて落胆していた。私も同じ気持ちだ。神人ともなれば、人類側の強力な戦力になる。神人か、そうでないか。それはとても重要なのに、違うとなれば落胆して当たり前だろう。
しかし今回の進行役である軍事機関長である大元帥は、落ち込んだ様子をみせていない。事前に聞いていたからだろうかと私は思ったが
「
シンと部屋が静まり返る。神人とあの子。それが指すのは、法国では一人しかいない。しかしあの子以上と言う情報を聞いて、私はあり得ないと言いたくなった。あの子とはつまり
「元帥殿、あの子とは、つまり絶死絶命以上。そう言いたいのか!?」
「馬鹿な! ありえん!! 9歳の少年があの子を既に超えているなど……何かの間違いだ!!」
その通りだ。絶死絶命を超えているなんて、絶対にありえない。彼女の実力はこの国、どころか大陸でも屈指のそれ。この周辺であの子を超えてくる相手など、評議国の竜王ツァインドルクス=ヴァイシオンぐらいだ。
「大元帥の言葉に間違いはない。私も千眼千視から報告を受けた時には、何かの間違いかと疑った。しかしながら、嘘は一切ない。これを読めば、皆もこの議題の重大さが身に染みるだろう」
目の前に置かれていた資料の束。そこには千眼千視が視た情報の数々が記されている。私もそれに目を通して、読み進めて……何度も何度も資料を読み返す。あまりにも馬鹿馬鹿しいとしか言えない記述の数々で、これが千眼千視の書いたものと聞いていなかったら、私はこの場で破り捨てていたかもしれない。
「村の平野側周辺には、確認出来る限りでは推定難度90以上のアンデッドが9体。森側は何体かまでは確認できていませんが、モモン少年から糸が複数繋がっているのは認識済み……」
「千眼千視が見た限りでは、モモン少年の色は死霊術師。それも我らが法国にいるのとは雲泥の差の……だと!?」
「モモン少年の推定難度330以上とは何の冗談だ! あの子でも260なのだぞ!!」
「死霊術使いならば、それは魔法詠唱者のはずだ。なのにここには、モモン少年が魔法詠唱者である旨が記されていない! どういうことだ!?」
「魔力量は殆どない。それが彼の見た限りですが、モモン少年と糸が繋がっている以上、少年の使役するアンデッドと考えるしかありません」
「その糸……とはなんなのだ?」
「召喚されたモンスターと、術者の間には普通は目に見えない糸が繋がっています。それを千眼は視覚に映し出せます」
「しかし魔力が無いとはどう言う! いや、そもそも推定難度90以上のアンデッドとはなんだ!?」
「難度90……カッツェ平野に極まれに出現する、英雄に到達したもので無ければ打倒不可能な、伝説に名を残すアンデッドだぞ? それが9体以上など……」
推定難度90以上。それは私も戦ったことがあり、英雄に到達した上で神々の遺産に身を固めていなければ確実に死が待ち受ける暴の化身としか表現できないアンデッドの事だ。それを9歳の子供が複数使役している? あまりにも悪い冗談だ。
「モモン・エモットは人間ではないのか? カルネに住みつく強力なアンデッドか何か……」
「それはあり得ません。水明が彼の出自を調べましたが、間違いなくあの村の普通の人間から生まれた子供です」
「ならば生まれつき、死霊術に特化したタレントを有しているのか?」
「その可能性は低いわ。千眼が見たところ、タレントは持っているようだけれど、死霊術とは何の関係も無かったようね」
「資料のどこに載っている?」
「18ページの7行目よ」
「ふむ……魔法強化のタレント? これは位階魔法使用時に使う、魔法強化のことだろうか」
「正確には魔法強化を拡張強化するタレントのようね。魔法詠唱者に宿っていれば強力な武器でしょうが、モモン少年は魔力が無い。意味がないタレントね」
千眼の視界はタレントの有無や、ある程度の効果まで見抜く。もっと詳しい効果を知りたければ、専門のタレント判定魔法の使い手が見る必要があるが……モモン少年に魔力が無い以上、確かに意味がないタレントだ。
「強化拡張ですか。四重化や五重化を可能にしたりするのだろうか?」
「それはもっと本格的に詳しく調べないと分からない。それよりも、死霊術のことだ。魔法を実は使えるのか、それとも
白金の竜王に匹敵する。本当に難度330なら、それはそうだろう。これが本当であれば、王国から出てくることを願い続けた救世主そのものとしか言えない。難度90以上のアンデッドを複数使役する、当人が難度330の勇者。それは私達が心から欲した存在そのものだ。使役するのがアンデッドなのはちょっとだけ瑕ではあるが。
神官長達は難しい顔をしている。千眼千視の言葉を疑いたくはないが、書かれた内容があまりにも荒唐無稽過ぎた。9歳で別格の死霊術師で難度300以上。こんなもの英雄だの逸脱者だのは超えている。絶死と同じ超越者だ。
「そう言えば……そろそろ百年の周期ですわね」
「なに? 少し早いがたしかにそうだな。しかしなぜ今その話を……前触れなく出現した、絶対としか言えない力を持つ子供? まさか、この子供がそうだと?」
「それこそありえん! 神々は天から降りてくるのだ!! モモンくんはエモット夫婦から誕生した普通の子! それが水明の調査結果の筈だ!!」
「報告された情報に間違いがあったかもしれないね」
「それなら、この難度330だのと言った情報も信用できなくなるぞ?」
神官長も研究官長も三権機関長達も、これの情報を巡って議論している。私はまだ神官長ではないので、議論には参加せずもう一度最初から目を通す。何度も読むと、やはり死霊術の項目で目が止まってしまう。まるで
「死の神の如き力だ」
私がそう言うと、全員こちらを見て止まった。私は自分が言った言葉を、慌てて取り消そうと考えたが
「死の神……スルシャーナ様の。たしかに、スルシャーナ様であればこれだけのアンデッドでも使役してみせる。死霊は例外なくあの方の眷属なのだから」
「まさか、再降臨?」
「あの御方は口伝ではあるが、憎き八欲王どもに弑された。ならば別人の可能性が」
「別人ではなく、人間としてお生まれ変わりになられたのでは?」
「スルシャーナ様がか……そんなことがあり得るのか? 蘇生魔法にすら応えてくれないのだぞ?」
「人間として生まれ変わるから、蘇生を拒んだとも考えられますね」
「しかし、それは仮説にしてもあまりにも」
「ではそれ以外で、モモン少年がこれほどの死霊術を扱える理由が思いつきますか?」
「ならばなぜ、法国にご帰還なされない? 人間として戻って来てくれたのであれば、そうしている筈だが」
「魔力が無いのは、人間になった事で御力を失われたのではないでしょうか。力を完全に取り戻すまでは、療養されているのやも──」
それからも話は続くが、結局のところ結論は出なかった。カルネの近くにいるアンデッドは、モモン少年の眷属ではあるとの結論だけは下されたので、暫くは様子を見る事になった。そもそも難度90以上のアンデッドを最低9体、千眼千視の見た糸の数からして100体は軽く超えているようなので、それらを討伐するとなれば漆黒聖典が全員出動しないといけない。それでも絶死絶命がいなければ、まず討伐は失敗するだろうが。
それから数日後。私には漆黒聖典としての任務が言い渡された。なんでもトブの大森林に住みつく亜人共が、徐々に活動範囲を広げているようなのだ。今までは陽光聖典が抹殺していたが、彼らでも対処しきれないグなるトロールが本格的に暴れ始めたらしい。
グとやらの推定戦力は英雄級、つまり陽光では手が余るのだ。英雄級の相手となれば対英雄部隊火滅聖典の出番なのだが、彼らは憎きエルフ国との戦争に駆り出されているので手が回らない。そうなると英雄の相手は英雄がするしかない。
そこで手が空いていた私が大森林へと駆り出された。今回の相手の戦力からして油断はできない。神の遺産の装備、及び神の血を再現した赤いポーションの貸与を許された私は、陽光隊員と共に大森林に赴いた。
「おかしいな? ここらには、ゴブリンやその他の亜人が全く見受けられませんね」
「そうなのか?」
「はい。帝国側からの侵入か、王国でも西側からだともっと亜人共がいました。しかしこの辺りは……まるで
陽光隊員は不思議そうに辺りを見回している。彼から見て、森の中でもここいらはかなりおかしい状況なようだ。そこで私はふと気づく。地図を取り出して眺めてみれば、ここはカルネから非常に近い。
「もしかしたら、本当に誰かが殺して回っているのかもしれないな」
「冒険者ですかね? 村に被害が出ているなら、エ・ランテルの組合に依頼もされているでしょうから」
「それか、村に被害が出る前に芽の段階で潰しているかだな」
「王国の誰がそんなことをするんです? 平和ボケした国なのに」
違いない……とは返せない。モモン少年がなぜアンデッドを村の周囲に配置しているのか。それは当人に尋ねないと分からないが、推測は出来る。備えているのだ。村に悪しき存在が近づかない様に。亜人や異形、それに同じ人間でも野盗などの犯罪者。辺境の村にとって危険な存在は多くいて、この世界には多くの敵対する悪がいる。その悪共を叩き潰すのが、きっと死の眷属の役目なのではないか。
(死の眷属か。私自身が言い出したこととは言え、スルシャーナ様の生まれ変わりなどと)
本当にそうであればこれほど素晴らしい事はないが、その可能性は0に近い。可能性に思いを馳せるよりも、まずは漆黒としての責務を果たすべきだ。
今回同伴した隊員は全部で10名。彼らと共にグの居住する洞穴を目指す。場所そのものは風花聖典が調べていたので、迷うことなくたどり着ける。筈だったが
「様子がおかしいな。これは……悲鳴か!」
悲鳴が森に響き渡っているのだ。非常に野太い声が、心底からの絶叫を上げ続けている。私はすぐに陽光隊員に
「お前達は退路を確保するんだ! 逃げられるルートを守れ!!」
「剛腕殿はどうなされますか!?」
「私はこの悲鳴の元に向かう! 私が戻らなければ、法国に連絡し漆黒の追加派遣を要請しろ!! その時には神の遺産だけでも回収しなければならない!! いけ!」
陽光隊員たちはすぐさま命令に従い、脱出ルートの確保に走る。それを見届けてから、私は単独で走る。もしもこの先にグとやらがいて、悲鳴の主は誰かは不明だが人間を襲っているのであれば助けなければならない。その時英雄級のグ相手に、陽光隊員がいては足手纏いだ。
私は走り抜けて
「なんだ!」
オーガが横合いから飛び出して来た。思わず私は避ける。攻撃するために飛び出したオーガに向きなおると
「し、死んでいるのか?」
そのオーガは死んでいた。なぜオーガが死んでいるのかと疑問に思うが、その思考はすぐに中断させられた。話しかけられたのだ、後ろから。
「人間か?」
「誰だ!?」
後ろの声と気配に振り返ると、そこにいたのは全身から威圧感を放つ強大なアンデッドだった。
「はぁあ!!」
私は先手必勝とばかりに剛腕剛力の名の通り、ナックルダスターを嵌めた手で殴りかかる。訓練で何度も何度も積んだ経験。アンデッドにしろ亜人にしろ、先の先で主導権を握るのが肝心。なぜここにアンデッドがいるのかに頭が回る前に、体の方が先に反応するよう私は訓練と実戦を得て来ていた。
「あ?」
その経験は目の前のアンデッドには何の意味もなく、私の腹にナイフが突き刺さった。英雄に到達し、神の遺産まで装備した私の腹に。神の遺産とは別格の装備品だ。人類には産み出せない神器で、これが破損することなどまずありえない。事実これを貫いて刃物が突き刺さったのなど、これがはじめ
「ぶっ!」
胃が貫かれたのか、口の中に血が充満する。思わず吐き出してしまった。目の前がクラクラする。急所を刺された。
<痛覚鈍化>! ……ぐ、痛みはマシになったが、足に力が入らない。明らかに致命傷だ。治すには鞄の中にある、ポーションを使わないと。
鞄を探すが、なぜか腰にない。なぜと思い見渡せば、先ほどのアンデッドから少し距離が離れている。そうか、刺されたショックで気付かなかったが、私は数m飛ばされたのか。
(まずい。これほどのアンデッドを前に……前になんだ? 痛覚が鈍化しているのに、痛みが……頭が回らない。そうだ、ポーション。でも、鞄はっここに、飛ばされた時に外れた? あれが無いと治せない、そもそもアンデッドに止めを刺されたら、このアンデッドは何? なぜこんな、ところ。さっきのオーガ?)
目が回る。手が震える。這ってでもポーションを取らないと。
じゃりっと音がした。そちらを何とか向いたら、子供が立っている。どうしてこんなところに子供が?
「おのれ! その人を殺させないぞ!!」
誰? 声……目も霞み始めた。
「大丈夫ですか! その怪我、すぐに治さないと!! 俺の仲間がポーションを持ってるので、すぐに取ってきます! まってて」
違う。ポーションはそこにある。そこにあるんだ。
「分かりました! すぐに取ってきます!!」
怪我が治っていく。致命傷は何とか免れた。しかし眩暈はまだ治まらない。これは、ひょっとしてあのアンデッドの刃物に毒が?
駄目だ。意識が千切れていく。いしきが……