モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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スルシャーナ

 デス・アサシン。デスシリーズの中でも一番小さい体躯をしていて、デス・ナイトなどが身長2.3mある中で、1.7mしかない。基本的にアサシンの名の通り、不意打ちと一撃に特化した能力を持つ。気配遮断のスキルとクリティカル率強化・クリティカルダメージ強化に毒の状態異常。

 これらは高いレベルだと毒やクリティカルに対する耐性は積むのでさほど問題でもないが、デス・アサシンが活躍するようなレベル帯だと脅威的だ。腹を刺された男性のように、毒などで苦しむ羽目になるだろう。

 

「にいに? おじさん?」

「心配か? 大丈夫だよ。とりあえず容態は安定したからな」

 

 ハムスケに乗せて全力疾走させ、村に着いたら俺はすぐに備蓄ポーションを漁った。デス・アサシンの刃物には毒があり、継続ダメージを受けている事に途中で気が付いたからだ。俺には毒無効があるから失念していたが、毒は通ると厄介なデバフなのだ。

 男性の鞄には他にもポーションが入っていた形跡があるのだが、それらは地面に落ちた時に割れてしまっていた。なのでこの人を治すには、毒に対するポーションがいる。

 

(俺に信仰系があればな。もしも転生してモモンガの力が使えると分かっていたら、死霊系じゃなくて天使召喚が使える信仰系魔法詠唱者ビルドで組んでいた。死霊術師は手数の多さは利便なんだが、この世界で暮らす分には信仰系魔法の方が融通が利くからな)

 

 蘇生に治癒。これらを使えたら、それだけカルネ村に何かあった時の備えにしやすい。言ったところで時間は戻らないから無駄ではあるが。

 

(幸いにも、バレアレさんが持って来てくれるポーションに毒治癒に使えるのがあった。今のところは、穏やかに寝ているだけだ)

 

 治療所代わりの空き家に、男性は寝かせている。俺は医者じゃないのでたしかなことは断言できないが、今のところ一定のリズムで呼吸しているのでたぶん大丈夫だろ。たぶんだが。

 

「かめん……」

「あ、こら。エンリ、あんまりこの人の荷物を触るんじゃないぞ」

 

 この人が身に着けていたユグドラシルの装備は、治療する上で邪魔だったので全て脱がせてある。その中にあった仮面を、エンリがぶんぶんふりまわしていたので一応窘めておいた。

 

「……幻術の仮面か。きな臭いよな、これは」

 

 エンリが遊ぶのに使っているのは、男性がつけていた仮面だ。その仮面は幻術で顔を創り出す能力があり、20代の青年に見えていた顔は偽物で、本当の顔は30代前半から半ばぐらいの顔つきだった。

 幻術でわざわざ顔を隠す。つまりこの人は、あまり顔を見られたくないのだ。

 

(森の中を単独で活動していて、本当の顔を隠したい。身に着けているのはユグドラシル装備。ユグドラシルのゲームキャラが転移したのか? 例えばNPCや傭兵モンスターがデータの体じゃなく、この世界で肉体を得たとか。それならこの人のレベルが低い理由にもなる)

 

 傭兵NPCにしろ拠点NPCにしろ、用途によって使い分けがあるので35レベルのアンデッドに負けるのがいてもおかしくはない。遠い過去のことになるが、俺が最後まで切り盛りしていたナザリックにいたNPCも大半はレベルが低かった。

 そうなるとあれだな。この世界にナザリックがひょっとしてあったりするのか?

 

(ナザリックか。もしもあるんなら、あそこから装備品やアイテムを回収したい)

 

 思うだけで探しに行くつもりはそんなにないが。あるかもわからないものを、今の家族をほっぽり出してまで探しに行くなど正気じゃない。前世とは違い、今の俺には今の生活がある。まだ幼いエンリや、両親。それに村の住民。彼らが俺より弱いなら、それは守らないといけない。

 ああ、そうかと気づく。前世でのギルメン達も、たぶんこんな気持ちだったのだろうなと。家族にしろ会社にしろ、自分の居場所がユグドラシル以外にあった。だから引退して、ナザリックから去っていったのだ。

 

(今更こんなことに気づくなんてな。因果なものだよ、全く)

 

 それから何時間経っただろうか。エンリは家に帰し、俺は一人で男性の濡れタオルを何度か交換したり作業する。そろそろ日も暮れ始めたなと言う頃に、彼はゆっくりと目を覚ましてくれた。

 

「ここは?」

「ここは王国領エ・ランテルのカルネ村です。目覚めましたか。調子はどうですか? まだ体が痛んだりしますか?」

「君は? それにカルネ村……だと?」

 

 記憶が定かではないのか、彼は自分に何が起きたのか理解してないみたいだ。これはどうしたものか。とりあえず名前を名乗っておくか。

 

「俺はモモン。モモン・エモットです。あなたの名前はなんですか?」

「モモン……カルネ……そうだ。そうだ! 私はアンデッドと交戦して、それで……モモン? まさか君がモモン?」

()()? 随分と含みがある言い方に聞こえますね」

 

 俺がそういうと、向こうは顔を凍り付かせた。言ってはならない言葉を口にしてしまった。そんな反応だ。

 俺はと言うと、警戒度を引き上げる。しかし攻撃はまだしない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。森の中に単独でいた謎の人物。彼の言葉を正直に受け止めるなら、俺のことを事前に知っていたと告白するのと同義だ。

 頭が回っていないのか、何度か口をパクパクさせている。何を言うべきか、何を黙っておくべきか。そんなことを考えているのだろうか?

 

「……含みがある、のはその通りだ。モモン・エモット。君は、自分が思っているより相当有名人だよ。森の賢王が認めた才ある子供。エ・ランテルでも、プルトン・アインザックやバレアレ夫婦の口から、自分たちを助けてくれた少年の話は酒の席で出る」

「バレアレさん達ですか。それで俺を知っていたと?」

「そうだ」

「……今はそういうことにしておきます。それで、体の方はどうですか?」

「ずいぶんと良い。目も覚めてきたよ……モモン少年。君が、私をアンデッドから助けてくれたのかな? 最後の瞬間、誰かがアンデッドを蹴り飛ばすのが見えた。あれは君だな?」

「そうです。俺はすぐそばにいて、アンデッドが人間を刺したのを目撃しました。それで止めなきゃと思い」

 

 本当は俺のミスだ。中位アンデッド軍団だけでなく、上位創造も使って集眼の屍(アイボール・コープス)なども生み出しておくべきだった。そうすればこの人が近づいてくるのを、事前に察知できていた。

 この人を刺したのは俺のデス・アサシンだ。なので助けたとは言い難いが、あのまま放置していたら死んでいたのも事実。とりあえずは、助けたと言い張るしかない。

 

「そうだ。あなたの名前を伺ってもいいですか? 俺の名前だけ知っているのは、ちょっとズルいです」

「名前か……モモン少年。私の名を語る前に、一つだけ聞きたいことがあるんだ」

「なんですか?」

「あのアンデッド……私を襲ったアンデッドは……」

 

 何度も何度もつっかえながら、あのアンデッドはとつぶやいている。言うべきか、言わざるべきか。それを悩むかのような素振りだ。10回ほど悩んだ挙句、ようやく言う気になったのか彼は深呼吸した。

 

「私を襲った恐ろしきアンデッド。あれは……あれは君のか?」

「……はい?」

 

 呼吸が止まりそうになる。君のか。つまり、この男性は俺がアンデッドを使役していると知っている? 俺が襲わせたと勘違いしている? このままではまずいと、心を強制的に落ち着かせる。

 

「申し訳ありません。仰られる意味が分かりかねます。なぜ、森にいたアンデッドが俺の、なんてことになるんですか?」

「……この村の近くに、複数体、伝説級のアンデッドが存在することが確認されている。しかもそのアンデッド達は、この村を守るように待ち構えて。彼らは何かを守っている……誰かを、守っている。明らかに、上位存在の意志で誰かを。君が守っているのか、この村を」

「だから、何の話でしょうか? アンデッドが村を守る? そんなことはあり得ません。彼らは生者を憎み、殺す機会を伺う亡者です。それがどうして村を守り、しかも俺に結び付くんですか?」

「それは…………それは、彼らが死の眷属で、君に仕えているからだ」

「人をアンデッドの親玉みたいに言うのは、俺はあまり関心しな──」

「君は生まれ変わりなのか?」

 

 俺は男性の首を掴んでいた。こいつは、なぜそれを知っている!? 誰にも話したことがない。教えたところで、子供の嘘にしかならない。両親も、バレアレさん夫婦も、アインザックさんも、ハムスケも。誰も知らない俺の秘密。それをなぜ、どうして! 精神鎮静で冷静になるが、手を放す気にはならない。

 こいつは知っている。俺が転生したことを!

 

「くる……し」

「答えろ。お前は何を知っている。なぜアンデッド云々に気が付いた。いや、そもそもあの幻影の仮面はなんだ。なぜあんな高級品を身に着けて、森の中にいた。全て答えるんだ!」

 

 <絶望のオーラⅠ>を発動して、質問を尋問に変える。こいつには全てを喋らせないといけない。知っていること全てを。最悪精神支配魔法の活用も検討する。

 恐怖デバフが通ったのか、こいつは震えだした。瞳孔の焦点はあっておらず、白目をむき始めている。

 

「さぁ、答えてもらう」

 

 ぞと言い切る前にがらりと木の扉が開く音がして、同時にどさりと音がする。そちらを見たら

 

「エンリ?」

「に、にいに……きょわ」

「も、モモン殿! これは一体……ひぇえ! 殺気を放っているでござるよ」

 

 エンリとハムスケがいた。ハムスケは二回目なので震えるだけで済んでいるが、エンリは違う。初めて感じる恐怖に、大粒の涙を流し漏らしている。

 俺はすぐにオーラを解き、エンリに駆け寄る。

 

「ごめん、ごめんなエンリ。お兄ちゃん怖かったな。怪我はないか?」

 

 よく見たら手を擦りむいている。俺はすぐに治療用として持ってきていたポーションを手にかけてやる。

 

「にいに、こわい」

「ごめんな。ほんとうにごめん」

 

 エンリの背を何度も軽く優しく叩き、頭を撫でてやる。しばらくしたら怖いのも落ち着いたのか、エンリは笑顔を見せてくれた。

 

「夜ごはんの時間になっても帰らぬゆえ、心配してそれがしと一緒に見に来たのでござるよ」

「そうか。もうそんな時間だったか。すまん、もうちょっと時間がかかりそうだから、四人で食べておいてくれないか? 母さんと父さんにもそう伝えてくれ」

「わかったでござるが……先ほどの様子は尋常では御座らんかったでござるよ」

「そうだな……すまん。冷静になったつもりだったが、なり切れてなかったようだ」

 

 精神が安定したつもりだったが、ハムスケが見る限りそうではなかったようだ。これは俺の落ち度。いきなり首を掴むのではなく、まずはきちんと言葉で話し合いをするべきだった。

 エンリがハムスケを連れて帰るのを確認してから、俺は診療所内に戻る。

 

「すまない。首を絞めてしまい……」

「いいえ。私も話を性急に進めてしまいました。御身にも事情があることを失念しておりました。脆弱な心と体が恨めしいばかりです」

「……うん?」

 

 なんだろ、何かこう、話し方に違和感がある。御身ってなに?

 

「それでは、改めて。俺の疑問に答えてくれないか?」

 

 男性はレイモン・ザーグ・ローランサンと言うらしく、色々と質問に答えてくれた。本当かどうかは不明だが。

 レイモンはエ・ランテルからずっと南下すれば到着する、スレイン法国の人間らしい。法国の名前自体は、アインザックさん達から聞いたことがある。なんでも宗教国家だとか。

 

「私はその国で、漆黒聖典の隊員をしています」

「漆黒聖典……とは何ですか?」

「法国には六つの特殊部隊があり、その中の一つです」

 

 要するにこの人は特殊作戦に任じられた特別な人と言うことだ。今回トブの大森林で、グを始末するために赴いたとか。

 

「グか。グなぁ……」

「ご存じでしたか?」

「存じるも何も、そいつは俺が殺した。すまない、そちらの討伐対象を横取りしてしまったようだ」

「問題ありません。グが葬られたのであれば、誰が始末をしても一緒です」

「……疑わないんだな。俺みたいな子供が、特殊部隊が派遣されるようなトロールを始末したなんて言ってるのに」

「疑う余地などありません。私であれば十二分に打倒できると、法国上層部は判断されました。私がです。我が脆弱な拳で打ち倒せるのであれば、御身の敵にすらなりえぬかと」

 

 だからその御身って何?

 

「ですが、御身はなぜグを?」

「倒した理由か? あいつが森を荒らすせいで、影響されたゴブリンや魔獣が森の外に出てくることが多くなっていた。それはカルネ村だけじゃなく、その他の村に多数の損害が出るだろ? だから、あいつは早い段階で殺す必要があった。それだけだよ」

「では、御身は人類を守るために、自ら天罰を下しに行かれたということでしょうか?」

「天? そうだな、俺はカルネ村だけじゃなく、その他の村々に悪影響が出ることは好ましいとは思わない。俺が見たことがない誰かだとしても、死ななくて済むようになる選択肢があるなら、そちらを選んだ方が望ましい」

「……やはり御身こそ、生まれ変わりで……」

 

 なぜかは分からないが、俺を見てまた生まれ変わりとか言い出したと思えば、静かに涙してる。なんだろう、これ。怖い。

 

「ええと……それでレイモンさんはグを抹殺するために森の中を進んでいたら、アンデッドと交戦した……と?」

「はい。御身の眷属はお強い御方でした」

「いや、だから俺の……眷属?」

「眷属でございます。神に付き従う死霊は、例外なく闇と死の眷属でございますから」

 

 はい? 神様ってなあに?

 気になりすぎた俺は、神とは何かを問うてみた。返ってきた答えは、そういうことかなるほどなぁと思うもの。

 今から600年前、人類は弱すぎて亜人だの異形だのモンスターといった脅威から隠れて住んでいた。そんな弱小種族を救ったのが、天から降臨した六柱の偉大なる神々。その神様たちの一人が、闇の神スルシャーナなんだとか。

 スルシャーナは闇と死を司る神で、多数の死霊を引き連れていた。しかし最後には、八欲王なる邪神らに討たれてこの世を去ってしまった。

 

(俺はその神様の生まれ変わりとして間違えられている?)

 

 どうもそんな気しかしない。だが、どうしてこの人は俺を生まれ変わりだと思い始めたんだ? 何のきっかけでアンデッド軍団と俺を結び付けたのか。これを聞き出しておかないと。

 

「どうして村周辺のアンデッドを俺と結び付けたんだ?」

 

 ふむふむなるほど。なーるほど。はいはいそういうことね。完全に理解した。つまり行商人は法国の間者で、俺は知らないうちに調査されていた。

 タレントとか言うこの世界独自の才能相手だから、俺では気づけなかったのだ。死霊術特化のロマン構成ではなく、情報戦に優れたビルドなら話も違ったのに。

 でも魔力に関しては漏れていない。普段から魔法詠唱者だとバレない様、常時<虚偽情報・魔力(フォールスデータ・マナ)>で俺は魔力量を最低レベルに調整してある。タレントとやらでは、魔法偽装を見抜けなかったのだ。

 普通はこんなことしない。探知偽装用の装備品で情報対策するのが普通で、常にMPを消費するのはもったいないからだ。事実<虚偽情報・魔力>を使っていると、MP回復速度が大幅に落ちる。それでも常時情報対策魔法にMPを割いていたのは正解だったようだ。

 

「生まれつきの才能、タレントか。うらやましい能力だな、それは」

「何を仰られますか。御身にも、魔法強化なるタレントが宿られておられますよ」

「へぇ……え? そうなの? というか、魔法強化とはなんだ?」

「千眼殿曰く、魔法強化を強化する……とだけ。しかし御身は、いまだ魔力が回復しておられぬ様子。勿体なきことです」

 

 魔法強化、つまり二重化三重化や最強化、効果範囲拡大化をさらに強化できるということか。俺にそんなタレントが宿っていたのか?

 生まれ変わって以来、魔法強化を使う機会が全然無かったから知らなかった……抵抗難度強化をしなくても魔法は通り、最強化をしなくても<魔法の矢>一回でゴブリンも野盗も死ぬのだ。範囲拡大も時間延長もほとんどしていない。ハムスケの時に遅延化魔法を使ったのが、魔法強化スキル使用の最後だ。

 

(今度検証しよ)

 

「それで生まれ変わりと疑ったか……そうだな。生まれ変わりと言われたら、そうかもしれない」

「やはりですか!」

「だがな、そのスルシャーナの生まれ変わりかと問われたら、俺には自信がないんだ。というのも、前世のことは殆ど思い出せない」

「……!?」

 

 え、そこまで驚愕みたいな顔をするの。

 しかし俺はスルシャーナの生まれ変わりではない。それなのにスルシャーナですと振舞えば、どこかで破綻しかねない。しかし能力その他に関してそれっぽい理由をつけるなら、法国の話とやらに乗っかるのが簡単なのだ。だから記憶がない路線で突っ走るしかなかった。

 

「生まれつきアンデッドを生み出せる力がある。時折、ユグドラシルなる言葉が頭に浮かぶこともある。しかしスルシャーナ……すまない。やはりピンとは来ないな」

「そ、それでは。御身は法国にお戻りには……」

「今の俺は、エ・ランテル領カルネ村のモモンだ。ミカ・エモットとオルガ・エモットの息子。エンリ・エモットの兄。前世が神かもしれないが、今は人間だよ。少し力のある、ね」

「そんな……われらに神が、お救いくださる神が戻られたのだと」

「そんな風に期待してくれるのは嬉しく思う。けれど、今の家族を放り出すのは俺の流儀に反する」

「では、では! 今のご家族を法国に! いいえ、この村の全員でも構いません!! 御身を、神の化身を育てたのです! 法国は皆さまを歓迎いたします! 人類にとって、最大とも言える益をもたらしたのがこの村です! 神官長様も、スルシャーナ様とそのご家族であれば心の底から歓迎いたします! 引っ越しの費用にしても、全てこちらで負担させて頂きます!!」

「それは難しい。俺は、今の家族に曖昧な前世のことは話していない。下手に心配をさせたくないからな。それにエ・ランテル領から法国に移るとなると、王国はどう動く? 一つの村がいなくなるのだぞ? 探しに来たりしないか?」

「王国は一つの村が滅んだところで、意にも介しません。この国を動かす貴族は、大部分が暗愚です。道端で虫の死骸を見つけてしまった。その程度の感情しか動きません」

「そうか? 俺はエ・ランテル領は、この国の王の直轄領だと聞いている。貴族が盆暗だとしても、王は違うだろ?」

「いいえ。ランポッサ王も暗君です。大貴族に首を掴まれ、王でありながら権力の行使もままならない。腐敗した政治の舵取りを任せられるような、有能な王ではありません。仮にカルネ村の住民が消えたことに調査隊なりを送ろうにも、貴族派閥に必ず邪魔をされます」

「それは、なんだ。法国はそこまで調査していると?」

「もちろんでございます」

 

 もちろんとまで言われた。ここまで言われるほど、この国の上層部は駄目なのだろうか。たしかに圧政に苦しんで、野盗になってしまった人を俺は葬ってきた。野盗が多いということは、それだけ圧政を敷く下の人間の気持ちを汲まない馬鹿が多いということ。

 しかしながら、俺は貴族や王を直接見たわけじゃない。あくまでも人伝に知っているだけで、実際にどんな相手なのかは不明だ。それにレイモンが真実を喋っているとは限らない。

 

「そもそも、なぜ俺が神の転生体だとして帰還を願う? 六大神は疾うの昔に亡くなり、先の話だと人類だけで長い間国を守ってきたんだろ。今更神が戻ったとして、どうするんだ?」

「いいえ。我らにはもはや時間がありません。他種族の侵攻を止められるほどの余裕が無いのです」

 

 レイモンさん曰く、ざっくり言えば法国は人手不足だった。人類を守る防波堤の役割を果たしきれないほどに、色々と足りてない。

 この人が所属する漆黒聖典とやらは、英雄と呼ばれる領域に立った人が所属を許される特殊部隊。そして英雄とやらが少なすぎて、現在たったの7名しか所属してないらしい。少数精鋭と言えば聞こえはいいが、国という規模で考えたらワンオペ過ぎないか?

 

「谷間の世代としか言えません」

「その英雄というのは、大体どれぐらいになれば呼ばれるようになるので?」

「難度90に単独で勝てるかどうかです。御身に分かりやすく伝えるならば、森の賢王を個人討伐できれば、概ね英雄と呼ばれます」

「ハムスケがラインか」

 

 ハムスケはレベルとしては29~31だ。それに勝てるとなると、同格の31レベル以上が英雄のようだ。うーん、英雄のラインがまぁなんとも低い。ハムスケが大森林最強格の魔獣なのだから、それを基準に考えれば納得はいくが……

 

「御身の眷属は、全てが英雄の領域にあります。特に私を一撃で葬りかけたあのアンデッド。あれは初めてみたアンデッドですが、間違いなく逸脱者の領域。あれは法都にお残りくださった御身の眷属を除けば、使役される眷属の中でも最強格とみました。どうかお力を貸してください! 御身自身とまでは言いませぬ!! 眷属のお力だけでも、どうか!!」

 

 葬り……ああ。デス・アサシンのことか。あれが最強格……一撃で殺されかけたら、そう思いたくもなるのか……てか法都に残った眷属ってなんだよ。なに? そいつ高レベル傭兵NPCでも置いていったのか?そうだとするならあまり会いたくはない。俺がスルシャーナではないとバレてしまう。

 

「んん! ……その、残ったというのは一体なんだ?」

「あの御方です」

「そうか、あの御方か。で、どんな御方なんだ?」

「もちろん御身の眷属でございます」

「そうかそうか、俺の眷属か。で、だ。どんな方なんだ?」

「あの御方です」

 

 答えになってねえよ! 一定の答えしか返さないBOTか何かかお前は!? レイモン!!名前を言ってはいけない呪いにでもかかってるのか!!

 

「では、その、質問を変えよう。逸脱者とはなんだ?」

「英雄すら超えた英雄。英雄の中の英雄と呼ぶべき存在です」

「さきの難度とやらでいえば、どれぐらいだ?」

「概ね120以上です」

 

 120か。ハムスケが難度90でレベル31とするなら、1レベルで難度2.9。120を2.9で割ったら、41レベルが逸脱者になる。デス・アサシンは35レベルだが、俺のスキル強化で実質43ぐらいだから、逸脱者とやらのラインは超えてるわけか。

 

「つまり、俺のアンデッド……眷属がいれば、とりあえずの人手不足が解消される。そういう話でいいのだろうか?」

「はい。御身の眷属は逸脱者の領域。この村を守護する戦力を、ほんの少しでも構いません! どうかお慈悲をお恵みください!! 無理を願っているのは百も承知です! 最上級の戦力を貸し与えてほしいなど、人の身には過ぎた願いであることも!! それでもどうか! どうか!! 今一度人類にお力をお貸しください! どうか!!」

 

 レイモンさんはそう言って、居住まいを正して平伏し始めた。俺はそれを見てどうしたもんかなぁと悩む。別にデス・アサシンなんて、1日に12体作成可能な中位アンデッド。他の死霊も合わせて腐るほど余っている。今回の森騒動で死体を大量にストックしたので、それらを使って一日の限界数までアンデッドを量産しているからだ。

 大森林の地下には大空洞が広がっているので、あそこにたくさん詰める作業をデイリーミッションだ。俺の手持ちアンデッドは、今までの作成分も含めたら700ぐらい。その内常時稼働しているのは、ぶっ殺しゾーンなども含めて300ほど。残りの400ぐらいが余っているので、その内の100体ぐらい貸しても問題ない。

 

「……貸し与えてもいいです。しかし、レイモンさんは特殊部隊の隊員とは言え、一介の戦闘員に過ぎないですよね? ならまずは、上司、この場合は神官長でしたか? その方々に話を通して、正式に要望してください。それにどれだけの戦力がいるのか、またどう使うのか。それをしっかりと打ち合わせをさせてください」

「では……我らにお力を貸してくださるのですか?」

「それを決めるための打ち合わせです。それともう一つ。こちらからも一つお願いがあります」

「なんなりと御申しつけください!」

「レイモンさんの装備。それらは神の遺産というだけあって、市販品とは性能が全く違いますよね? 神の遺産から、俺が使えそうなものを貸してください」

「そ、それは……」

 

 この言い方。さすがに渋るか? まぁ話を聞く限り、六大神はゲームキャラクターで、ゲームのアイテムやらをそのまま持ってきた地球人。彼らが遺したアイテムの数々は、レイモンさんの装備品と言い市販品の性能と比較すると、比べ物にならない破格の逸品だ。

 いくら俺が神の化身の可能性を提示したとしても、国宝を渡すのはそりゃ難しい

 

「それはもちろんご用意させて頂きます。神官長達を必ずや説得してみせましょうぞ」

「え?」

「生前の御身が使われたという曰くのある、専用の防具など死蔵されたままのものが多数あります。あれらは御身がお使いになってこそ。お貸しなどと仰られないでください。お返しになるときが来ただけです」

「あ、ああそう。まぁそれなら良いが」

 

 なんかオッケーが出ちゃった。いいのかそれで? もらえるなら遠慮なく貰っちゃうぞ、俺。

 

「それじゃ、質問はここまでだ。今日はもう遅いし、飯でも食べていきますか?」

「いいえ。私を探して、陽光隊員が彷徨っている可能性があります。それに漆黒への追加要請を出しています。まずは私の無事を伝えなくては。それに御身の御相伴に与るなど、恐れ多くて喉が通りませぬ」

「ああ……そんな感じなのね」

 

 レイモンさんのキャラよくわかんねえや。それとも法国は全員こんな感じなのか? やだなぁ、面倒くさそう。

 それから後日どうするかの打ち合わせをしてから、レイモンさんはフル装備になって村を出ていく。

 

「怪我に関してはすみません。人間を怪我させないよう、強く言いつけてあったんですが」

「心配には及びません。御身の眷属に、先に手を出したのは私の方です。この傷は、戒めとして取っておきます」

 

 そんなもん取っておくな。怪我を聖痕(スティグマ)とか言うタイプか、己は。俺が手を振って見送ると、レイモンさんはこれでもかと頭を下げながら闇に消えていった。闇に紛れて見えなくなる。

 ……闇視発動。

 闇が晴れてレイモンさんの姿が見える。すげえガッツポーズしてた。スキップもしていた。それでいいのか、お前?

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