モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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クレマンティーヌ

「ふかふかのベッドだ」

「モモン……お母さん、ここで寝たらもう起き上がれないかもしれないわ」

「このベッド、我が家にも欲しいな」

「ねー!」

「飯も美味かったな……」

 

 二日目の晩。我が家は全員、法国都市の神殿で駄目になっていた。一日目はまだ王国と法国の国境沿いなので野営になったが、二日目はそこそこ規模の大きい都市での休憩だった。

 そこにはすでに話が通っていたらしく、今回のために大改造した専用の一室で俺たちはゴロ寝だ。村で寝ているベッドは、言い方は悪いが超が付く普及品だ。というか、木製フレームは手作りで、掛け布団と言い張っているのは俺が捕まえてきたコカトリスの羽を毟り、布に詰めただけの代物。いわゆるマットレスは、綿がないので藁を布でくるんだやつ。普及品ですらない。

 ちなみにだが、俺たち家族が泊まるこの一室は、普段はこんなものじゃなかったらしい。俺を迎え入れるに当たり、神官長達は本気を出した。法都までのルートで、今回を含めて2回は何処かの都市で宿泊する必要がある。

 この国では、上に立つ人間は清貧であれ。というのがデフォルト。贅沢をせず、慎ましやかに生きましょう。それが神の思し召しですから。なので神殿は豪勢にするの止めとこうねの精神。

 しかし神を迎え入れるんだぜ? ここで本気出さずにどこで本気出すんだよ。見せろ! スレイン魂!! を発揮した結果、急遽神殿の一室が大魔改造された。三日で仕上げたらしい。凄い。

 

(うわぁ。マジでふかふかのベッドだ。前世のベッドと比べても……前世ってどんなだったかな。なんか、こう……スプリング?)

 

 そういえばとここのベッドを押してみたら、中にバネの感触がある。なるほど、この国は六大神、つまり地球人が作った国だ。ならば書物なりに、向こうの技術体系が記されているのかもしれない。

 とにもかくにも、美味い飯にふんわりベッド。俺のアンモンを引換に、ユグドラシルの装備を貰うビジネス契約はさておき、今のところ村での生活よりここの生活の方がよほど上質だ。

 

「父さん。この国は、清貧であることが美徳らしいけれど……この国で暮らしたら、もうちょっと生活のグレードは落ちるけど、良い生活が出来る。って言われたら、暮らしてみたい?」

「良い生活か。これより少し劣る生活を毎日。うーん。あまり実感が湧かないな」

「どうしてそんな質問を?」

「サルマンさんに手紙で誘われたんだ。亡命という形になるけれど、私の領で暮らしてみないかって。私の支援で良い生活環境を提供する……そんな風にね」

 

 俺自身は断ったが、両親がもしもこんな生活を気に入ってしてみたいと言うなら、レイモンさんの誘いに乗ってみても良いかと考えてしまう。カルネで9年過ごしたが、あそこには平穏は確かにあるが、それ以外には何もない。贅沢は悪というのがこの国らしいのであまり無茶は出来ないが、それでもカルネ村での生活よりはよほど豊かになるだろう。

 俺が神として振舞うなら、レイモンさんやニグンさんの様子を見るに邪険にはされないとは思う。むしろ歓迎されるかもだ。

 

「……モモンはその生活をしたい?」

「あまり、かな?」

「なら私も、この人もカルネ村での生活で十分よ。昔に比べたら、モモンやハムスケさんがたくさんお肉を獲って来てくれるしね」

「そうだな。今更、あの村で暮らす以外の生活と言うのも、あまり想像は出来ないな、私は」

「そっか」

 

 両親が望まないなら、俺もあまり生活を変える気はない。故郷、この二文字の大切さは身をもって実感している。俺の帰る場所はもう決まっている。

 次の日になれば、都市から都市を目指す。今日はニグンさんではなく、別の陽光隊員3名が俺と同じ馬車に同乗していた。

 

「今日はニグンさんじゃないんですね」

「はい。小隊長だけモモン様と乗り合わせるなど、役得過ぎますから」

「………………」

 

 俺と乗るのがそこまで役得? なんというか、野営地でアンモンを見せて以来、彼らの対応がさらにパワーアップした感じがする。一日目もたいがい恭しい態度だったが、二日目以降は信徒とか信者とかそう表現する方が正しい気がする。

 とにもかくにも、馬車は法都を目指して疾走する。モンスターも姿をみせない。これは法国内では徹底的に亜人・異形を根絶するまで叩き潰したからなんだとか。

 

「全滅か……」

「どうされましたか?」

「いいえ、何もありませんよ」

 

 全滅なんて……と俺に批判する資格はあまりない。必要があれば、俺もモンスターを殺しつくすからだ。カルネ村近くに居住地を構えようとしたり、人に害を成そうとするなら見つけて抹殺。殺しに来たんだ、殺されもするさ。そう割り切っているが、陽光の人と話をすると、俺なんぞ及ばないぐらい思想が過激なのだ。

 

「亜人など、一匹たりとて見逃してはなりません。やつらは害獣です。一匹見逃せば、人が一人死ぬと思わねば」

「子供であろうと、殲滅対象です。何もしてない、何かした。そこに差はありません。亜人と異形は、生まれたことが罪です」

 

 ん-、物騒。陽光聖典の話では、人間種は昔からびっくりするくらい弱い種族。六大神が保護しないと滅んでた。六大神がいる間は記録だとそこそこ穏やかだったと聞いたが、神が去ってからはさぁ大変。自分たちだけでこの過酷な世界を生き残らないといけないので、思想が極端になっていった。

 人間は神に選ばれた種族。一致団結し、選ばれなかった悪しき種族の侵攻に備えよ。我らには神の恩恵がついている。

 

(前世で何度かたっちさんから聞いた……覚えがある。ストリートチルドレンが、裏ルートで銃なんかを手に入れると、乱射事件が起きて大変なことになった……とか)

 

 虐げられた側が、虐げた側に反抗可能な力を手にしたとき。歯止めは全く効かない。やられた恨みを晴らすため、やられた恨みを晴らすまで止まらない。積年の恨みというやつだ。

 

(神の化身……と間違えられている俺に助力を乞うほど、法国には余力がない。窮鼠猫を嚙むだったか? 追いつめられた側に、手段を選んでる余裕はない、か)

 

 俺が一部の亜人を見逃すのは、いつでも殺せる確信があるからだ。それにしたって、見張りとしてアンモンを憑りつけてある。でも人手不足かつ、亜人相手に実力面で余裕があるわけじゃない法国民には、共存を謳うモンスター相手であっても見逃せない。

 聞いてみたところ陽光聖典の隊員数は現在100人もいない。この部隊に任官されるのは、難度換算で60以上。1レベルが2.9難度なので、陽光隊員のレベルは21以上ということになる。確かに俺の感覚でも、この人達は20レベル前半かな? なので概ねあっているだろう。

 陽光聖典は国でも選りすぐりのエリート。これ以上の人材が集まる部隊は31レベル以上の漆黒聖典ぐらいで、その漆黒は隊員がたったの7名。

 その他の六色4部隊に関しても、情報収集の風花と水明を除くと全部で200名もいないのが実情だった。火滅も土塵も陽光と同じく、それぞれ100人未満だから。

 

(実質の戦闘部隊は火滅・土塵・陽光・漆黒。21以上が280人ぐらいで、31以上が7人。法国の人口は1500万人で、その中の300人弱しか21を超えていない……いくら何でも少ない。俺に嘘をついている? 詳細を知られたくないから?)

 

 しかし嘘をつくメリットがない。これが敵対相手なら分かるが、これから協力するかもしれない、しかも彼らにとっては俺は信仰対象の化身。そんな相手に大本営発表をしてもしょうがない。つまり

 

(10万人を超える正規軍もいるが、一騎当千が当たり前のこの世界では、他種族に抗える超人となると法国が持つ真の戦力はたったの300人弱……これは……相当難儀な問題かもしれんぞ)

 

 下手しなくとも、俺が抱えるアンモン軍団の方が上かもしれない。アンモンはスキル強化で大半が英雄以上なので、かもじゃなくて確定でいいか。

 そんな法国の理念に対して、俺の理念は微妙に違う。殲滅ではなく選別が俺の方針だ。アンデッドを貸すのは良いが、それでこれから敵対者全員殺そうぜ! されたらあまりにも求める方向性とは違いすぎる。

 

(さぁて、どう説得したものか)

 

 法国に貸さない……という選択肢はない。色々と話を聞いてみれば、法国の南側には多数の亜人・異形国家がある。魔獣とかも。それらを食い止めているのは法国で、彼らがこの世からBANされたらその戦力は北上して王国にまでくる。法国をBANさせられる国相手に、王国は抗えるほどの戦力はない……というのが法国の戦力調査結果だ。王国だけじゃなく帝国も駄目だとか。

 

(つまり、法国に倒れられると俺の真なるワンオペ作業が始まる)

 

 絶対に嫌だ。一人でいろんな調査をして、多数の地域を守って、ソロで切り盛り。ナザリック一つ維持するだけで、こちとら頭痛や孤独に耐えていたのだ。それに、それだけの地域を守るだけのアンモンを増やすと、俺が維持管理できない。

 どうも指揮官系列のクラスでも得ているのか、どのアンモンがどこにいて、何をしているのかが生まれた頃よりも把握しやすくはなっている。しかしそれにだって限度はある。1500体は管理できるが、これが15000になったら流石に無理な気しかしない。誰か俺に軍師や将軍のクラスをくれ。

 つまるところ、この先カルネ村の平穏を守りたいなら、スレイン法国と協力するのはほぼ必須事項。地獄のワンオペしなくてもいいと思えば、説得作業にも熱が入ろうというものだ。

 そんな感じで陽光から情報を集め、三日目も都市に宿泊。朝早くからまた馬車にのり、昼になるころにはようやく目的地への御到着とあいなった。

 

「おー、これが法都シクルサンテクスか!」

「モモン様がかつて守られた、シクルサンテクスの現在でございます」

 

 守った覚えは微塵もないが、これから守るかもしれないのだから誤差だよな誤差。それよりも、ずいぶんと発展した街並みだ。高いクリスタルタワーのようなものもあれば、きれいに舗装された石畳が整備されている。カルネ村の一部の建物の窓に嵌った分厚い歪んだガラスと違い、薄く透明な窓の数々はウインドショッピングに最適だろう。

 そんな市街地を抜ければ、奥に見えるは巨大な神殿。というか聖堂か? 古い記憶を掘り返してみれば、ギルメンのだれかにうんちくで語られたバチカンのなんちゃら大聖堂に酷似している。

 

「リアルの建築を参考にしたんだな」

「リアル?」

「ユグドラシルの別名だ。そうだ……ああ、サン・ピエトロ大聖堂だ。あれを参考にしたんだ」

 

 俺がそういうと、今日はじゃんけんに勝ったので再び同席していたニグンさんが涙を流す。嗚咽で分かりづらいが、思い出してくださったのですねとか言ってる。ごめんね、思い出したわけじゃないの。

 

「どうぞ、モモン様。打ち合わせ通り、今日はゆっくりご休憩いただき、明日の朝から神官長様や大元帥様たちがお見えになります。それまではこちらの神殿をお使いください」

「ありがとうございます。それでは、今日は観光をしてきてもよろしいですか?」

「観光……承知いたしました。では、モモン様の付き人として、一名修道女が選出されております。そのものに、街を案内させるよう申し付けておきます」

 

 というわけで、俺はせっかくだから法都を観光することになった。付き人とやらは別にいらないのだが、相手の好意を無下にするのも申し訳ない。俺は両親・エンリと共に荷物を部屋まで運び込むと、観光に行くと伝えておいた。三人ともどうかと誘ってはみたものの、両親は疲れたからひと眠りするらしい。エンリもねむねむだったので、川の字になってお休みしていた。

 睡眠無効状態にしている俺は特にそういうこともないので、付き人とやらが待つ神殿内の広間にやってきた。そうしたら、一人の女性……というより女の子か? ウインプルのない黒い修道服を着ていて、背は俺よりちょっとだけ高い。金髪のボブに、猫科を思わせる鋭い目つきながら可愛らしい顔立ちをしていた。

 

「ようこそお出でくださいましたモモン様。本日付き人を勤めさせて頂きます、クレマンティーヌ・アゼイヤ・クインティアと申します」

「これはどうも。モモン・エモットといいます……クレマンティーヌさん……で宜しいですか?」

「さん付けなど。呼び捨てで構いませんわ」

「いや、しかし……クレマンティーヌさんの方が、俺より年上ではありませんか」

「年上だなんて。モモン様の御正体は伺っております。貴方様の名は、この国において最上位の肩書です。私のような、掃いて捨てるほどいる修道女とは違いますから」

 

 そういって、クレマンティーヌさんは俺に頭を下げた。

 

 

 

 

 

 私にその任が回ってきたのは、ひとえに家の名が要因だろう。クインティア家は、代々法国に仕えてきた高名な神官の家系だ。もっと言えば、漆黒聖典入りすることが多い家系。今の両親は違うものの、亡くなった祖父は漆黒の一員だった。

 そして兄も漆黒の一員だ。若くして英雄に至った天才。そんな天才の家系が我が家で、それゆえに一般市民が知らないことを多く知る。

 今回迎え入れる人物は法国にとって最重要の要人だが、表向き簡単には名を出せない人物。そんな人物をおもてなしする人員は、意外と限られてしまう。例えば、一応は漆黒入りするかもと言われている私などが。

 そんな漆黒の名も表向きには知られていないが、私の家では当たり前に知られている。この国を守る真なる英雄の集い。ここに入り、人類救済に努めることが最大の栄誉。私は思う。

 

 なんてくだらない。栄誉とやらを重んじて、兄と比較される毎日。あの子はできたのに。あの子ならこなせたのに。うんざりする。私だってその辺にいる子と比べたらずっと優秀なのに、誰も私を見ようとしない。今年で11歳、難度30ぐらいの亜人相手なら一人で戦える。私より大きな大人の男性でも、大半は私より弱いのだ。

 それでも決して、家の人間は褒めようとはしてくれなかった。何をしたら、私という個人を見ようとしてくれるのだ。

 六大神もくだらない。祈りを捧げたところで、そいつらはもう助けにきてくれない。私の心情も守ってくれない。偶像は何も救わない。

 それなのに、家の名と、その子供に年齢が近いというだけの理由で、神の化身とやらの面倒をみろと押し付けられた。何が化身だ、しょうもない。

 

「それでは行きましょうか、モモン様」

「お願いします」

 

 モモン、それが神の化身とやらだ。見た目は、まぁ普通。平均よりは良い顔つきをしているが、それでも目を引くほどの美形という訳でもない。外見で目を引くのは赤い炎のような眼だけ。身長は私より低い……これは年齢が下だからそりゃそうか。

 神官長達は、こんな子供を迎え入れるのに右往左往したそうだと、18歳ながらもう漆黒入りした兄から聞いた。笑える。いや、もう一つ笑えることがあった。こいつをお迎えする役に兄が立候補していたが、クジで負けて心底悔しそうにしていた。これも笑える。でもやはり笑えるのは、こんなのを迎え入れるだけで仰々しく動く法官どもだ。

 なにせどう見たって普通のガキだ。そんなのを相手に、どいつもこいつも恭しく対応する。それが笑えて、おかしくて……心底妬ましい。

 生まれついての化身? ふざけるな! 苦労したこともなくちやほやされるなんて間違っている。こんな……こんな、私がちょっと小突いたら死にそうな子供が、どうして……

 

「あれは何ですか?」

「太陽の酒場……と呼ばれる高級宿です。少し値は張りますが、モモン様でも満足されるような場所ですよ」

「それは良さそうですね」

 

 キョロキョロとこいつは辺りを見回している。どうみてもおのぼりさんで、辺境の田舎生まれといったところだ。そんな何の変哲もない凡人に、これから多くの大人が頭を下げるのだ。どうか我らを導いてくださいと。

 私だって……そんな風に、認めてほしい……

 

「お、これはかなりかわいいぬいぐるみだな。エンリに買っていってあげようかな」

「エンリ?」

「妹ですよ」

 

 妹、ああ、そういえばこいつ妹がいたんだったな。妹ねぇ。

 

「モモン様の妹君となると、きっと苦労されるかもしれませんね」

「苦労……ですか?」

「はい。モモン様と比較されて、苦しまれると思います。お兄さんは凄いのに、貴女は大したことないのね。そんな心無い言葉を投げかけられるかもしれません」

 

 こいつがどれだけ優秀なのかは知らないけれど、本当に優秀ならそのエンリとやらはこういわれる。お兄ちゃんと比べると、ねぇ?

 そんな時に、こいつはどうするのだろうか。上辺だけの安っぽい言葉を並べて、慰める? それとも、こんなこともできないんですかと窘める?

 そのどっちも、自尊心を傷つけるとも知らずにするのだろう。こいつは。

 

「苦しむか。そうだな、その時は」

「その時は?」

「言ったやつを殴りに行く。俺の妹に、心無い言葉を投げかけてるんじゃねえぞと」

「え?」

 

 なんて?

 

「あ、いや殴るは言い過ぎたな。でも抗議はするかな? 俺と比較しても意味ないだろ。エンリはエンリ、俺は俺なんだから」

 

 それは、なんだろ。こう、すごく予想外の答えだった。そんな言葉を言うとは、本当に思わなかった。

 

「それは、それは神官長様達でもですか?」

「エンリは俺の家族だ。俺が黙ってしまったら、誰があの子の味方をするんだよ。それよりも今の言い方からして、クレマンティーヌさんも、そんな風に比べられたことがあるんですか?」

「それは……」

 

 ある。いくらでもある。あるから思わず嫌味を言ってしまったのだ。ちやほやされるようなお前も、そんなやつなんだろ。そう思って。それから少し悩むが、話の流れからして、向こうは確信をもって聞いているような気がする。だから

 

「少しだけ、ですが。兄が漆黒聖典なので、それで比較されることもあります」

「そうなんですか。漆黒ということは、英雄の領域?」

「16で英雄になりました。私も自分に才があると自負はありますが、兄と比較すると落ちるとは思います」

「16でか……それはすごい……のか?」

「え?」

「いや、だって英雄って難度90だろ? それなら、いやでも、300人の一人で1500万人の頂点だとすると……」

 

 モモンはブツブツと何かを言っている。その様子はちょっと不気味だなと思ったが、今の言い方からして漆黒聖典に入った兄、つまり英雄の領域に至っていることをすごいとは微塵も思ってなさそうな言い方だ。

 そんなのは初めて聞いた。だって、誰もが兄のことを知ればこういうのだ。凄いですねと。自慢の息子さんですね。そんな御年で、それだけの実績を積むなんてすばらしいですねと。私は褒めてもらえないのに……

 

「難度90は、あなた様にとって凄くないのですか?」

「う、うーん、どうだろ。直接見たわけじゃないからなんとも言えないですが、難度90か……」

「ここには私しかおりません。率直な意見を仰られても、誰も咎めはしませんよ」

「そうか? それなら……殴ったら死にそう? が難度90に対する感想かもしれん。それかハムスケよりは頑丈なのか? か」

「……ふへ」

 

 なぁにそれ。基準が脳筋過ぎる。英雄に対する感想が、脆そうだなんて。それにハムスケとはなに?

 

「すまない。適切な表現が見つからない。グのやつに引っ張られてるな、これは」

「ふふ……おかしいですね」

 

 本当におかしい。あの優秀で、死んでほしいぐらい有能な兄のことを聞いて、出てくるのが凄いのかよくわからんと言わんばかりの感想。なんというか溜飲が下がる。それともあれだろうか? この神の化身とやらにしてみれば、普通の人も英雄も違いが分からない程度の差しかないとか? それはないか。英雄と常人の間には酷い差がある。それが分からないほど愚鈍なのであれば、モモンは神というには残念だ。

 それとも……英雄という人類の頂点側に立つ人種ですら、本当に神から見るとしょぼすぎて普通の人にしか見えないとか。

 

「こちらですよ、モモン様。この都市には、まだ見どころはたくさんありますよ」

 

 ないない。いくら神とは言っても、人間として転生したならきっと全盛期より弱体化している。それを裏付けるように、もしかしたら魔力を失っているかもしれないとのことだ。つまるところ極めた英雄や逸脱者とモモンの間に、それほど絶対的と言える差があるわけない。

 今日私が学んだことは一つだけ。妹のためであれば抗議もするし殴りに行く。そう言ったモモンに対して、ちょっとだけ良いなと好感を持っただけだ。

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