モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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スレイン

 クレマンティーヌさんに手を引かれながら、法都観光を敢行して俺は神殿まで戻って来た。

 

「さぁて。神官長に聞きたいことが、法都観光で増えてしまったぞ」

 

 両親もエンリもお休みなので、俺は遠慮なく独り言を口にする。カルネ村とは比較にならないほど、文化的に優れた都市。もっと言えば国家か。それがスレイン法国だ。表面上はこれほど良いと思う国もないのだが、ちょっと観光し、クレマンティーヌも交えて色々と商店などで質問すれば俺としてはちょっとなぁ……と思うポイントが出て来た。

 特にマイナスポイントなのが奴隷制度。これは王国にもあるのであまり強く言うつもりはないが、それでもこの国の奴隷に対する扱いがちょっと……どころか非常に悪かった。

 

 ニグンからエルフ王との戦争とやらを聞いていて、捕虜として捕らえた敵国のエルフを奴隷として扱っていることも聞いていた。奴隷制度による人身売買はエ・ランテルにもあるらしいが、カルネ村では奴隷に関するあれこれは全然ない。野盗の中には人売りが目的でさぁ! なやつもいたが、そいつは現在ぶっ殺しゾーンの一員として働いている。人を拉致し売って金を得ようとしたら、自分が永久就職だ。

 とにかく奴隷なる者があるならば、一度目を通して置きたいとクレマンティーヌさんにお願いし、奴隷市場に繰り出してみた。そこにいたのは

 

「クレマンティーヌさん。あれが……あれらが奴隷なんですか?」

「はい。ここには、現在法国が戦争をしている相手。エルフ国の住民が商品として並びます」

 

 エルフ。それはユグドラシルにもいた種族で、キャラクター作成時に選択可能な種族の一つだ。デフォルトの外装パーツに綺麗な外観が多く、人間種の中では美形を作りやすい事からかなり人気が高かった。市場に並ぶエルフも、商品として扱われているからか身なり自体は綺麗だった。

 だが、綺麗なのは身なりや外見だけ。治癒魔法で簡単に治らないよう断耳され、犬のように軒先に並べられた彼らの眼は死んでいた。何もかも希望を失い、この世の終わりを見たような目。俺はそんな目を、前世でよく見た記憶がある。エリートに使い潰され、歯車として消費される下民の視線。

 そんな風に思っているのは俺だけのようで、待ちゆく人は首輪をつけられ足枷をされた彼ら彼女らを見て何も反応しない。ただのよくある風景として片づけている。そんな風に見えたのだ。

 

「どうしましたか、モモン様? エルフをご所望でしょうか?」

「……ここの風景は、良くある光景ですか? あんな風に、晒しもののように売られるのが」

「良くある、と言えば良くあります。エルフの国で次から次へと捕らえては、商品として補充されますので。補充と言いましても、すぐに市場には並びません。必ず処置をされてからです」

「処置?」

「はい。心を折る作業、とでも申し上げましょうか。私達の国には、信仰系の治癒魔法詠唱者が多数おります。ちょっとしたノウハウがありますので、怪我を残すことなく人間に対する服従心を植え付けられます」

 

 それを聞いて、俺は知らず知らずの内に精神作用無効をオンにしていた。あまりにも思うところがあったからだ。

 

「あのエルフ達は、何かしらあなた方に不利益を生じさせたのですか?」

「敵国の住民ですので、それ自体が不利益と言えば不利益かもしれません。相手が使う武器の製造、敵国の兵士が食べる食糧、敵の使う休憩施設の建築。どこかに必ず関わっていますから」

「……つまり、直接は何もしていない。そう考えても構わないんでしょうか?」

「関与だけだと思われますよ」

 

 はぁ……と俺はため息をついた。俺も<絶望のオーラ>で恐怖を与えて尋問したり、必要であれば根絶やしにはする。しかし、一般市民まで巻き込んで奴隷にするというのは何とも流儀に反する。

 

(文化と言えばそれまでだが、俺が力を貸した結果もっと奴隷がいっぱいわっしょいはごめん被る。これも交渉材料の一つだな)

 

 とにもかくにも奴隷市場を離れようとしたところで

 

「何をぐずぐずしているんですか! 家畜以下の人間擬きが、俺の手を煩わせるなど思い上がりも甚だしい。さっさと立て、この薄ノロ!!」

 

 と奴隷らしきエルフを俺より年上、15歳ぐらいの男が足蹴にしているのを目撃した。俺はその様子を見て、非常に気分が悪くなる。精神安定するとは言え、ああいうのを見るのは好きじゃない。だから俺は

 

「そこまでにしたらどうだ? そのエルフも、高い金を払って買った奴隷なんだろ。勿体ないことするなよ」

「ん? 失敬、君はどちら様かな」

「俺は、今日この都市に到着して観光している人間だよ」

「ほほう、観光と来ましたか。その口ぶりだと、法国ではなく王国か帝国の人間ですね」

「どうしてそう思う?」

「法国で育てば、エルフに対して勿体ないなどと、口が裂けても言えないからです。こいつらは、至上の種族、人間に形が似ているが、その実中身は薄汚いクソ袋だ。ちょっと骨が折れようが何をしようが、すぐに新しいのを買えばいい。勿体ないという言葉はね、人間だけに許された言葉だよ、ぼく?」

「ふうん。人間が至上……ときたか。俺は法国の人間じゃないから、その理由が良く分からない。見たところ、そちらの方が俺より年上だ。出来れば、先達として教えて欲しいね」

「良いだろう。学ぼうとする人間は嫌いじゃない。この俺が、余すところなく教えてやろう」

 

 そいつが語る内容は、陽光聖典が口にしていた人間が神に選ばれた云々の強化版みたいな内容だった。神が選んで助けてくれたのだから、人間は特別。人間だけが特別。同じ人間種でも、ドワーフやエルフはクソ以下。こいつらは人間種ではなく、きっちり亜人と名乗れ。ゴブリンの方が種族として近いんだから、尊き人間様と似たような種族などと囀るな。エトセトラエトセトラ……

 途中から俺は、あ、そうと思いながら聞いていた。その特別な種族が、わりかし滅亡な危機に陥っているのにどこ情報で語ってんだこいつと思いながら。

 ではこいつだけがこんな感じなのかと思いきや、そうではないのか今の演説を聞いて市場にいた数名がなんか拍手していた。つまり、こいつの語る極端な思想は、法国市民としては全員ではないものの、まぁ珍しくもないよレベルと。

 

「ありがとうございます。そういう内容でしたか。いやぁ、神様がお選びになられただなんて、素晴らしいですね」

「おや? 呑み込みが早いですね。その聡明さは感嘆に値します」

「お褒め頂き光栄です。ですが神様がお選びになったのが人間だけ、と言うのは気がかりです。そこまで特別視されていたのであれば、神がまだ法国に君臨されていた頃に、人間以外は地上から消しているのではないでしょうか?」

 

 俺がそう言うと、途端に奴隷市場の空気が張り詰めた。ピリッとした空気だ。耳をすましてみれば

 

「あいつ、今六大神様のことをお疑いになったのか?」

「なんて罰当たりな! ああ、お赦し下さい天に還られた偉大なる御柱達よ!」

「法国に、六大神様が直接建国成された国に生まれなかったなら、人間でもあのような無知を晒すのか……嘆かわしい」

 

 これが彼らの宗教観というものか。神を疑ってはならない。神を試してはならない。選ばれた種族として一致団結し、敵に備えなさい。理解は示したいが、納得には程遠いな。

 

「はぁ、利発と言ったのは撤回するべきですね。人間だけが、神の赦された種族です。そこに疑いの余地は一切ありません」

「一切ねえ? もしも神自身が再び地上に再臨し、そんなことはないと仰られたら、今の発言は撤回されないと恥をかかれま」

「このガキ! 今度は神々の御言葉を、身勝手にも代弁するか! 我らが偉大なる神を愚弄すれば、命はないぞ!!」

 

 いきなり近くにいた中年が来たと思えば、俺の肩に手をかけた。そのまま力ずくで転倒でもさせようとしたのかもしれないが

 

「なんだ!? 動かない!! こ、このガキ!! 神に逆らい、大人にも逆らうのか!!」

 

 その手はぺしっと払っておいた。辺りを見渡せば、どいつもこいつも神に疑問を抱く俺に敵意の籠った目を向けている。

 

(宗教ねぇ? 生活基盤に組み込まれたそれらを否定はしないが、それにしてもちょっと議論しようとしただけでこれ。説得すべきは神官長達だけじゃないな)

 

 ふと横をみたら、クレマンティーヌさんがちょっとクスっとしていた。彼女の視点から見れば、彼らが言う神に直接唾を吐きかけているのが実情だ。舞台の裏側を知っていると、面白くて仕方ないのだろう。というか、この状況で笑うって、クレマンティーヌさん実はいい性格している?

 

「申し訳ございません。六大神を悪く言うつもりはありませんでした。どうも俺は場違いなようなので、退散させて頂きます。それでは」

 

 これが観光の最中に出会った、ちょっとしたハプニングだ。人間種、それも本当に人間だけを特別視して、人間以外を種として認めていない節がある法国民。はてさて神官長たちも同じかどうか、明日の会議で分かろうというものだ。

 翌朝、俺はサルマンさんに御呼ばれしているので行ってきますと両親に告げて部屋を出る。念のために、<魔法持続時間延長・第十位階死者召喚>で気配遮断持ちモンスターを残しておく。会議と交渉が決裂したら、魔法解禁して逃げよ。

 

「こちらでお待ちください。すぐに神官長様や、大元帥様、三権機関長様方がお見えになります」

 

 俺が案内されたのは、神殿の最奥にある円形のテーブルが置かれた場所。ちょろっと魔法で調べてみると、盗聴対策や転移対策、それに防御用の魔法などが施されている。

 

(転移阻害か。逃げるときには、壁を破壊するしかないな)

 

 来るまでの間、壁の薄そうな場所を事前に探っておく。ついでに<魔法五重化・上位魔法封印>と<魔法五重位階上昇・魔法の矢>も用意。これでいざという時には、<解放>してとんずら。家族を回収し、カルネ村に戻ったら軍団を全て森から引出、スレイン法国と徹底抗戦の構えだ。

 そんなことをすると俺の首が締まるだけなのだが、それぐらいの心構えで挑みますという自己暗示だ。

 準備を終えた俺は、用意された椅子に座ってまつこと10分。きっちり時間通りに、神官長達が入室してきた。

 

「モモン様。この国を代表する最高神官長として、また我ら法国のために遠路はるばるお越しいただいたこと、心から感謝を申し上げさせて頂きます」

「こちらこそ、お招き頂き感謝しかありません。今日の出会いが、良き明日に繋がることを期待しています」

 

 最初はもっと仰々しい催しにしようとしていたらしいが、こちらは両親には全て内緒にしている。派手なことをされて漏れても厄介なことを伝えていたので、挨拶にしても最低限ですませてもらった。なお、こうしておかないと10分間ぐらい俺に賛歌を捧げるつもりだったらしい。やめてくれ。

 全員参加の掃除をしてから会談が始まる。最初は俺も掃除することに難色を示していた人たちだが、俺はモモンですよと伝えるとそういうことならと納得はしてくれた。

 

「では改めて……本日はよろしくお願いします。さっそくですが、本題から入らせて頂きます。それでよろしいですか?」

「モモン様の、望まれるタイミングでお話しください」

「お言葉に甘えさせてもらいます。まずレイモンさんから、俺の眷属をお借りしたいと伺っています。俺としても出来る限りの援助は行いたいですが、全面的な支援は難しいです。まずこの点を承諾して頂きたいかと」

 

 集めた情報では、無造作に貸し出してしまうと、歯止めが利かずにそれこそ南の亜人国家なりに進軍しかねない。防衛や反撃ならまだしも、こちらからの進撃は俺としては望ましくない。これで困りますと言われたらどうしようかと思っていたが

 

「全面支援は不可能。それは我々としても、実のところ助かります」

「なに? 法国は人手不足で困っているのではないのですか?」

「足りていないのは、モモン様の御指摘通りでございます。しかしながら、全てをモモン様にお任せできない事情があるのです」

 

 向こうの言い分を纏めると、この国が祈りを捧げるのは六大神。六柱の神がいて、六つの宗派がある。それぞれの宗派はバランスよく信仰されていて、宗派ごとに微妙に違いがあるものの、人類は団結せよの理念で手を取り合うことで纏まっている。

 だがここに俺の眷属が投入され、全ての戦線で大活躍したらどうなるか。当然、闇の一派だけが力を持ちバランスは崩壊。下手をしたら、一致団結どころか闇の一派VS残りの五つのような宗教内戦に発展しかねない。

 

「モモン様は、昨日法都を視察されたと伺っています。その際、どのような印象を抱かれましたか?」

「印象ですか。宗教に対して、熱心……これは忌憚のない意見でも構いませんか?」

「忌憚なき意見でお願いいたします」

「……熱心を超えて、妄信的。それが俺の抱いた感想です」

 

 昨日の人たちを思い出す。誰も彼もが、自らの信ずる神に殉じるような気配がしていた。拠り所と言えば聞こえはいいが、あれは縋るかのようにも見えた。

 

「妄信的……モモン様の御言葉は、とても正しくあります。一般市民の間で常識となっている宗教観は、とても不安定でとても脆い」

「それは……それは、ここにお集まりした、法国の重鎮の皆様は、今の状況をよろしくない。そういっているように聞こえるのですが」

 

 俺がそう問うてみると、なぜか全員難しい顔をしながら黙ってしまった。なんか言ってくれよ、不安になるだろ。

 

「……モモン様が仰せのように、民は六大神様に熱心に祈りを捧げています。ですが、先ほど伝えたように、六大全ての神に同等の祈りを捧げてはおりません。土の神を一番に信仰するもの。水の神を一番に信仰するもの。そして、モモン様、闇の神を信仰するもの。それぞれ異なります」

「我らをお救いくださる偉大な闇神。もしもこの話が市中に広がれば、闇の神を信奉するものは当然のようにこう考えます。私の信ずる神はお戻りになり、その他の五柱は違うようだ」

「つまり、俺以外の神が軽んじられることに?」

「その通りです。しかし、他の五柱を信仰するものにとっては、己の信ずる神こそ全て。闇の神こそが絶対正義と伝えられても、納得はしない。どころか、スレインの内部で宗教観を巡り対立が深まる可能性が高いのです」

「そうですか。ん? ですが陽光の方や、レイモンさんは、俺に敬意を払ってくださっているように見えました。あの方々は、闇神を信仰されておられるのですか?」

「六色聖典は、人類の実情を誰よりもよく承知しております。民とは違い、本当の意味で手を取り合わないと滅んでしまう。その理由を、亜人討伐や異形退治など、実体験として学んでおりますから」

 

 ああ、なるほど。もともと信奉する神は違うが、そんなことに構っていられるほど余裕がない。とにかく倒すか滅ぼすしかねえんだよの精神で、なりふり構っていられないのか。しかしなんだ、この話を聞くと思い出すのは

 

「推し活でマウント合戦するオタクみたいだ」

「推し活? オタク?」

「ユグドラシルに存在した一部の……愛好家? 自分の好きなものの方が、お前の好きなものより上だと誇示していた……とでもいえばいいんでしょうか」

 

 薄れた記憶の中で、とある人を思い出す。

 

「違うんですよモモンガさん! 俺はマウント取りたいわけじゃないんです!! でも、でもあいつらが俺の○○ちゃんの総選挙順位を馬鹿にするから!! うわああああああああ!!!」

 

 声はもはや思い出せず、どんな姿だったのかもぼんやりしている。それでも大切だった思い出の中に、今もなんとか写し出せる親友の姿が懐かしい。

 

「とにかく、俺が全てを解決してしまうと、あまりよろしくない……そういう認識で構わないのですね?」

「はい。モモン様に全てを託すと、我らの中に英雄も育ちませぬ。御身の助力に関しましては、現状は一部のみ。お借りする眷属にしても、まずは少数からお願い申し上げたい。それが我々の願う奇跡です」

「それでしたら、俺の考えていた要望ともかみ合います」

 

 俺がそういうと、向こうはほっとした様子を見せる。来てもらいながら、身勝手な願いを申し上げてしまった。そんな感じの空気が流れていたが、俺の言葉で霧散する。よかったよかったと向こうは安堵しているが、俺の考えはここからが本番だ。

 

「では次の話ですが、どんな時に眷属を貸し出すか? 皆様としては、いつが望ましいのですか?」

「今ですと、やはり目下はあのエルフ王との戦線への投入となります」

「モモン様は、エルフ国との戦争についてはご存じですか?」

「陽光聖典と、クレマンティーヌさんから戦争については伺いました……まず申し上げておきます。エルフとの戦争。この戦いに、俺は眷属を貸し出す気は現状まったくありません」

 

 え? そんな顔をしながら、この場にいた全員が顔を凍り付かせた。

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