モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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六大神

 俺がエルフ王との闘いには不参加だぞと伝えると、面白いほどに神官長達は顔を青ざめさせている。これは予想外と言ったところか。

 

「なぜですか! モモン様は、一部とは言え我らの助力を約束してく」

「最後まで聞いてくれ。現状は……と言ったんだ。あくまでも現状。俺はエルフについて、あなた方に問いたいことがある。その質問に答えてくれて、なおかつこちらの要望が通るのであれば、援助を約束する」

 

 俺がそういうと、動揺していた空気が少しずつ消えていく。俺が問おうとしている何かが何なのか、見極めようとしているのか一部が聞き逃さないとばかりに目を光らせ集中している。

 

「俺はこの法都を散策し、奴隷市場を覗かせてもらいました。この国の奴隷は、基本的にはエルフのみ……奴隷制度そのものは、王国にも帝国にも存在する。しかし、なぜあそこまでエルフに対して迫害を? そもそも、どうしてエルフ国との戦争を始められたのですか?」

「それは……」

 

 最高神官長に多数の目が集まる。その視線を分析すれば、仰られるのであればあなたからとでも言いたげだ。

 

「ニグンさん達陽光も、クレマンティーヌさんも、エルフとの戦争はエルフ王が攻めてきたからと言っていました。それが法国内では、当たり前に教えられている常識なんですね……それは事実ですか?」

「……モモン様であれば、お伝えしておいた方がよいやもしれませぬね。法国とエルフ国の戦争、その発端を」

 

 今から100年ほど前。当時の法国はエルフ国と友好関係にあった。だがエルフ王は急に弾けた。当時漆黒聖典に所属していた神人ファーインを拘束・拉致して強姦。ファーインを救出するため、漆黒聖典フルメンバーを派遣するも返り討ちにあい皆殺しに。なんとかファーインだけは転移魔法で法国まで逃がしたが、漆黒隊員が法国に帰ってくることはなかった。

 

「それから、私の前任に当たる、当時の最高神官長はエルフ王に再三の謝罪を要求しました。漆黒聖典隊員殺害と、ファーインを拉致監禁したことへの誠意ある対応を。それらの要求は全て跳ねのけられ、帰ってきたのは使者の首だけでした」

「戦争が起きるのは、いつだって要望が言葉で伝わらなかった時。言葉を尽くし、それらが無視された挙句、国の最高位の言葉が斬って捨てられた。それが戦争の原因か」

「少しだけ違います。この国の最高位は、モモン様を含めて六大の神々です」

「……そうですか」

 

 今の話を統合すると、ファーインさんは当時の神人、つまり偉大なる神の血を色濃く受け継ぐ末裔。この国の規範を支える神の血が流れている。言ってしまえば、自分たちがもっとも大切にしていたものに、エルフ王は泥と糞を擦り付けたのだ。しかも当時の最高戦力が全員殺されている。とてもじゃないが、法国が受けた不利益は無視できるものではない。

 その結果が長い間闘争か。俺はこの判断をそこまで笑えない。もしも両親やエンリが似たような目に合えば? これから十数年後、成長したエンリが強姦でもされたら? 俺は犯人を地の果てまで追いかける。相手が仮に俺より強かろうが知ったことではない。勝てるように算段し、策を弄した上で確実に殺す。

 

「今の話に、少しだけ気になる点があります。エルフ国と、法国の間に確執ができた。それは理解しました。それでエルフ王を抹殺するために、軍隊を編成し報復に出ていることも。ですが、仮に俺が眷属を貸与したとして、それでエルフ王を抹殺できるのですか? お聞きしたいのですが、神人は難度でどの程度の戦力で?」

「……難度でと申されたら、ファーイン様で180ほどかと思われます。あくまでも文献によるものですが」

「180……レベル換算で60前後か。もう一つお聞きしたい。当時の漆黒聖典は、今と違い英雄でなくとも所属できましたか?」

「いいえ、漆黒は設立当初から、英雄に到達したものと決まっております」

「なるほど、なるほど。つまり、エルフ王の推定戦力は難度180を拘束可能で、英雄に到達した部隊を皆殺しにすることが可能。現在、この国には英雄はたったの7名だけ……俺の眷属でも、常時貸与可能なのはせいぜい難度で150が限度です。果たして戦力として足りるのやら……」

「な、難度150もの眷属をお借りできるのですか!!」

 

 あ、そこは驚き要素なのか。最高神官長だけでなく、全員目をまん丸くしてる。ハムスケみたいだ。難度150が150体いますと伝えたら、どんな反応をしてくれるのやら。

 

「エルフ王との闘いは、数十年続いているのですよね? その間長引いたのは、エルフ国の戦力が高いから。仮に貸与したとして、エルフ王を打倒可能なのですか?」

「……もしもエルフ王のもとへとたどり着けたならば、秘宝ケイ・セケ・コゥクを使用する予定です」

「ケイ・セケ・コゥク?」

「御身らが遺してくださった神器の中でも、最大級の力を秘めたマジックアイテムです。あれならば、エルフ王と言えども抗えません」

 

 ケイ・セケ・コゥク。曰く、それがなんであれ精神支配を可能とする最上級の神器。六大神はこれを世界一つに匹敵するとまで称した。

 世界……つまりはワールドアイテム。スレイン法国と仮に争えば、ワールドアイテムが出てくるのか。とても厄介だ。ユグドラシル時代なら常にワールドアイテムを装備していたから、世界の守りバフで無効化できた。しかし今の俺には、ワールドアイテムがない。もしも法国と争い、使われたら最後。

 

(情報収集の大切さが身に染みるな)

 

 これを知らず、いつか法国と争うかもしれない道を辿っていたら、俺は敗北していた。もっとも本気で争いたいかと言われたらノーだ。ワンオペは無理。

 

「そうでしたか……今の話に、一切の嘘はない。法国に都合が良いように、情報の改ざんなどは行っていない。それを俺と、皆に誓えますか?」

 

 俺はこの最奥になる、六つの祭壇を指さす。神々に誓って嘘はない。そう言えるかどうかを試しておく。

 

「御身に嘘など!! 我らはあなた様の前で、嘘偽りなく全てを告白します!!」

「分かりました。では、エルフ王の打倒。これ自体には、俺は助力しても構いません。ただし、一つ条件があります」

「御身が命じられるのであれば、私どもは心身を尽くしてその命に身を投じます!」

「……俺の奴隷市場での動向。それは皆さん、もう知っていますよね? 俺の身辺警護として、水明か風花のどちらかが付いていたんですから」

 

 ぎくりとしている。あ、やっぱりこいつら付けてたな。俺の一時的な侍女としてクレマンティーヌさんが選ばれたが、自分たちの首都で神に何かあってはならない。そう推測していたから、どこかに潜んでいるんだろうなとは考えていた。俺が観光でどんな様子なのか、確実に調査していたはずだ。

 

「風花です。モモン様の身になにかあれば、それは国の威信にかかわりますので……」

「そう気落ちしないでください。俺はその件について、何も責めているわけじゃないですから。それよりも……エルフに対する扱い、あれはなんだ?」

 

 なんですか、ではなくなんだ。この問いかけ方で、察してはくれたのだろう。神官長の何名か、顔が土色になる。

 

「記憶は定かではない。生前のことは不確かだ。だがな、俺と俺の仲間は、エルフを人と認めず、奴隷とすることを良しとしたのか。どうだろう、答えてはくれないか。洞窟や森深くに隠れ住み、他種族の足音に怯えなければいけなかった人類。彼らを哀れに思い、生きる道筋を選べる助力をした六大神。俺たちは、どうして人間を助けようとした?」

「そ、れは」

「亜人の奴隷にされていた人間。それを見て、どう思ったから救いの手を差し伸べた? 六大神を動かしたのは、救えば利になるという理屈じゃない。助けたい、そんな素朴な感情ではないのか?」

 

 俺の言外に込めた言葉。俺と言う個人が、エルフの奴隷を見て何を感じたのか。どうして市場で揉めたのか。ここに集まった12人は、市民の狂信を憂いていると言った。ならばこれで伝わるはずだ。

 しばらくして

 

「御身は……哀れに思われましたか」

「ああ。今の話だと、そも戦端を開く要因になったのはエルフ王だ。国のトップが命じる以上、善良なエルフでも戦場に送り込まれる。それを捕らえて奴隷とするのは世の習わしかもしれん。だが亜人認定までし、家畜同然とするのは理に反する。それが俺の見解だ」

「では、モモン様としてはエルフをどうされたいのですか?」

「奴隷からの解放……となると、今の社会基盤に入り込んでいる。だから今すぐにとは言わない。それでも、少しずつ奴隷の権利を緩やかにしてやれないだろうか? 話に聞く限りでは、帝国の奴隷には市民と同じく人権があると聞く。それともう一つ。法国が真に恨むべきは、エルフ王ただ一人の筈。これから先、捕えたとしてもエルフを同じ人間種として見てやって欲しい。それが、かつて人間を救った神の……願いだ」

 

 俺が言い終わると、全員神妙な顔をして黙ってしまう。六大神はかつて人間を哀れに思い手を差し伸べた。そんな生まれ変わりと信じられているのが俺だ。であるならば、この時代のエルフを見て似たような感情を抱いた。そう演じたとしても、それほど不自然ではないだろう。

 それからしばらくして

 

「……それはかなり……とても困難です。モモン様が仰られたように、エルフの奴隷は生活に潜り込んでいます。彼らに人と同じ権利を与えるとなると、今までエルフにさせていた……その……」

「汚れ仕事がさせにくくなる?」

「……はい。それに、我らの国は人手がまるで足りていませぬ。その点をご容赦くだ」

「最高神官長殿。俺は嘘をつかないでくれ。そう言わなかったか?」

「う、嘘など! 私は御身には嘘を」

「人手がまるで足りていない。それは事実だ。この国を真に守護する戦力は、三百人にも満たない。けれど、それは労働力が足りていないと言う意味ではない」

「……それは」

 

 やはり意図的に嘘をついた……正確には真実からずらしたか。そうではないかと思っていたが、今までの話。それにこの国の実情。狂信的な信徒達。全てを繋ぎ合わせていくと、ああ、そう言う事をするよなと言う事実が浮かび上がってくる。

 

「この国に足りないのは労働力としての人手不足ではなく、戦力としての人手不足だ。純粋な人口としては、王国と帝国を足した数と変わらない。単純労働の人手は十分に足りている。なにせ人間至上主義を掲げるこの国では、人間自体は足りていた。エルフを奴隷にするまでは奴隷制度はなかった。必要としていなかった」

 

 これはニグンから聞いた人数。法国は住民登録の帳簿を作成しているので、正確な人口を把握している。王国はどんぶり勘定、帝国もけっこうなどんぶり具合だが、概ねは把握している。それらを比較したとき、労働力としては十二分に足りている。戦争前はエルフどころか、人間の奴隷もいなかった。あらゆる要素が人手としてエルフを求めていないと示してくれた。

 それでもエルフを奴隷とした理由。単純に敵対国の市民を捕らえたかったのか? 何のために捕らえたのか? 俺は想像を凝らし、考えて

 

「なぜ、そこまでエルフから権利をはく奪した。敵対国だから? エルフ王が憎かったから? 違うよな。利用したんだろ、当時の神官長達は。()()()()()()()()

 

 俺がそう指摘すると、何人かが眼を逸らした。ビンゴ。

 

「エルフ王が弾けるまでは、この国とエルフ国は協力関係にあった。その頃だと、今と違いエルフとの交流も当たり前にあった筈だ。仮にエルフ王は悪だ! 当時そう大本営からの発表があったとして、市民たちはすぐにエルフを殺しに行くのか? 違うはずだ。なにせ俺を含めた六大神は、エルフも含めて人間としていた。だからエルフとも、戦争までは交流し協力しあっていた。そんな相手を罪悪感なく殺させるなら、こんな風に事実を捻じ曲げるのが一番の筈だ。我ら人間だけが神に選ばれた一族。エルフは亜人である。それを刷り込むのであれば、奴隷として運用するのが正しい。監獄実験だったかな? 最初は抵抗があっても、神の言葉と奴隷となったエルフ。それを間近に体験させ続ければ、宗教によって育ったこの国ではそれが真実になっていく。そうすれば、より強固に他種族に対する排他的な価値観が育ってい」

「お待ちください、モモン様!! それは、それは違います!! 当時の神官長様達は、苦渋の末にこの決断をされました!! エルフ王と、神人の真実! それを知らない者にとっては、エルフは隣人で」

「馬鹿もの!! 口をとじ」

「ありがとう、火の神官長殿。俺の言葉を認めてくれて」

 

 肯定してくれた神官長があっ、と顔を真っ青にするが、俺には今の言葉で十分だ。人間同士で手を取り合い、他種族に一致団結して望め。それを掲げる法国としては、エルフを利用するのは良い教材になっただろう。昨日までの隣人も、一皮むけば神に選ばれなかった哀れな種族。人間以外は決して信用ならないと、人間至上主義を強固に育てる要因になった筈だ。それが日常になり子供にも教えられていけば、立派な洗脳教育による集団の完成だ。

 エルフに対する怒りは本物だっただろうが、状況を利用するのは為政者の特権。なにせ当時の法国為政者にとってみれば、協力的だった国の長すら信じられなくなったのだ。人間以外はしょせん敵。それを国レベルで施行したのだからいやはや恐れ入る。

 部屋の空気は静まり返っている。神の前で虚偽を申告し誤魔化そうとした。その事にでも恐れているのだろうか。

 

「皆さん、俺は当時の神官長達の判断を責めはしません。そうするのが得策だと決定した。俺は生まれ変わりとは言え、しょせんは部外者です。国の政策に必要以上に口出そうとは思いません」

「本当……ですか?」

「はい。しかし、エルフ国との戦争に眷属を貸与し、協力してくれと言うのならば話は違います。その場合、俺は部外者ではなく当事者になる。当事者になるなら、エルフの今後について意見を述べたい……俺の眷属でも、エルフ王は倒せない可能性が高い。それならば……俺が直接叩く」

「!!」

 

 神自身の全面協力。それは彼らにとって一番欲しかった物なのか、顔に今日一番の驚きが出ている。

 

「その代わりに、エルフ国に残る多数のエルフ達。彼ら彼女らの処遇を俺に一任して頂きたい。それともう一つ。現在市場に出回っている多数のエルフ。全て俺に譲ってくれないだろうか? ちょうど、村の働き手が欲しかったんだ」

 

 俺の要望を聞いて、全員またもや難しい顔をしている。どれだけのエルフが奴隷として出回っているのかは不明ではあるが、それを動かすとなるとかなり金の損失になるか? しかし俺は待つ。なぜなら、神官長達は必ずこれを呑むと分かっているから。

 まずこの先戦争が長引けば、それだけ必要な戦費が嵩む。その戦費は、現在奴隷市場に出回っているエルフの総金額よりも確実に膨大だろう。それにファーインさんの仇を、百年以上の恨みを晴らせるとなれば金の問題ではない。神として再臨したと言う俺が、全面協力をして積年の恨みを晴らせるチャンスを渡してくれるのだ。ならば乗る。確実に。

 暫くすると意を決したのか、最高神官長が口を開いた。

 

「モモン様。エルフ王ですが……可能であれば、生きて捕らえる事は叶いますか?」

「分からない。俺はまだ、そのエルフ王の戦力を自分で確かめてはいない。だから、断言は不可能だ」

「……では可能であればとしてお話します。生きて連れて帰ってください……エルフ王の処刑は、あの子にさせたいのです」

「あの子?」

「……ファーインの子です」

 

 ファーインの子と聞いて、俺はすぐにピンと来た。そもそもこの戦争の発端は

 

「出来ていたんですね。ファーインさんに、エルフ王との子が」

「……はい」

 

 ラッキー。交渉材料が勝手に一つ増えた。

 

「分かりました。出来る限り善処はします。生きて連れ帰ったなら、それと引換に先ほどの奴隷待遇の改善。それを検討して頂きたい」

「分かりました。御身の勅命とし、どうにか出来るよう努力はさせて頂きます……」

「難しいのは理解している。そもそも、市民を見る限りエルフ軽視は文化レベルで根付いた悪習だ。一朝一夕でどうこうなるとは、俺も思っていない……しかし、エルフの寿命は千年もあるんだ。その寿命が尽きるまでには、なんとかなると思っているよ、俺は」

 

 そう言って頭を下げる。とにもかくにも、法国協力者としての俺の最初の対戦相手。それはエルフ王……デケム・ホウガンに決定した。




脳力レベル表(原作王様優秀度を基準として算出)

ラナー100オーバー(測定不能)
ジルクニフ90(天才)
モモン40+40=80(秀才)
ザナック70(優)
カルカ60(良)
ランポッサ50(可)
鈴木悟40(凡人)
王国貴族平均値30(愚者)
デケム20(脳筋)
バルブロ10(無能)
フィリップ0(滅国)
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