モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

17 / 67
デケム

 その命令が出されたことに対して、エルフ国との戦争における最高司令官・ザナトフは非常に大きな疑問を抱いた。今の今まで、少しずつ戦線を押し上げ、敵国の首都を目指しての侵攻。それが法国首脳部の決定だった。

 しかしここに来て方向転換。逆に前線を後退させ、敵を釣り出せと言うのだ。

 

「何が狙いなのでしょうか? ここで陣を後退させれば、数年間の苦労が泡となり消えます。それが大元帥様や神官長様達は分からぬのでしょうか?」

「話によれば、漆黒聖典が投入される」

「漆黒聖典が? その人物が来るから、陣を後退させたと?」

「恐らくな」

 

 漆黒聖典は英雄部隊。あそこにいるのは、ザナトフから見ても怪物と呼ぶべき者達の巣窟だ。英雄とは人の域を超えた何かとしか言えない。しかしながら、今回の敵の親玉であるエルフ王は、英雄を超え逸脱者を超え、人外未踏の領域に踏み込んだ真なる怪物。漆黒が投入されたとしても、前線を後退させる意図が不明だ。

 

「その英雄がいれば、陣を後退させてもお釣りがくる……そう言う考えなのですかね」

「かもしれないし、そうではないのかもしれない……見えたぞ」

 

 ザナトフが眼を向けた先。エルフ国があるエイヴァーシャー大森林、またの名を大樹海。そこの入り口付近に、複数の人影が見える。

 

「あれが漆黒……あれだけの人数ですと、全員投入されるのかもしれませんね」

「なるほどな。それであれば、後退指示にも納得は行くか」

 

 司令官として挨拶にザナトフは出向く。

 

「ようこそおいで下さいました、漆黒の皆さま方。英雄の助力、心よりお待ちしておりました」

 

 集団は全員黒いローブを着込んでいて、全容は伺えない。顔も見えない。しかし、ザナトフはそれを指摘はしない。漆黒は顔も正体も全員不明。家族の身の安全などを考慮して、正体を隠すのが習わしだからだ。

 最高司令官の肩書を持つザナトフは、軍部の中でも最上位に近い地位を持つ。それでも漆黒の英雄相手となれば、頭を下げる。なにせ彼らがその気になれば、護衛として数十人の兵士を連れてきているが、その全てを殺し尽くしたうえでザナトフも抹殺できる。その事実を裏付けるように、集団の一人一人が異常なまでの威圧感を放っている。

 それに、英雄こそが法国守護の真なる精鋭。彼らなくして、法国の未来はない。だからこそ、最上位の礼儀を以って尽くすのだ。

 ザナトフはリーダーと思わしき、2mを超えてそうな人物に話しかけてみた。

 

「失礼ながら、リーダーは私ではない。こちらの方だ」

「こちら様……ですか?」

 

 ザナトフがリーダーだと勘違いした人物が紹介するのは、集団の中でも一際小さな背丈をしていた。見たところ、精々身長は140から145くらいの小さな人影。それがリーダーだと伝えられて、ザナトフは困惑する。

 

「貴方様が、漆黒の隊長ですか?」

「そうだ。今回、エルフ王討伐任務に参加する、漆黒聖典第零席次『輪廻権現』だ」

「輪廻権現……」

 

 初めて聞く名だとザナトフは思った。それに第零席次と言うのも。それを尋ねたいと思ったが、フードを被った集団が身じろぎする。強烈な威圧感と共に。それだけでザナトフは身が凍えそうになり、急かされているのだと理解した。

 

「私達は今から、エルフ王デケム・ホウガン討伐に向かう。部隊は既に下がらせているな?」

「は、はい! 軍司令部の御指示通り、全軍撤退は完了しております!」

「よし。では、我らは今から大樹海を踏破し、エルフ王と対峙する。その間、誰一人として大樹海に入るな」

「誰一人ですか? 漆黒の皆さま方が、危険に陥られたとしても……ですか?」

「相応の被害が出る。その時に、巻き込まないようそちらの安全を確保する余裕はない。それに、始まる前から危険や負けた時の事を口にするな。お前は司令官だろ? 堂々としていろ」

「しょ、承知いたしました!」

 

 自分より頭2個分は小さいのに、周りにいる威圧感の集団が可愛く思えるほどの強烈な気配を持つ『輪廻権現』。その気配に押されて、ザナトフは何度も首を縦にふる。それを確認してから、漆黒聖典は森深くへと踏み入っていった。

 見送ってから、ザナトフに対して副司令官が一言。

 

「あれが漆黒……そら恐ろしいほどの強者の気配を纏っていますね」

「ああ。あれこそが、我らの最大戦力。一人一人が千の軍に、万の軍に匹敵する……撤退させたのも、ひとえに我ら程度では、エルフ王との戦いに加勢する権利がないゆえか」

 

 

 

 

 

 輪廻権現……を名乗る俺は、無事エイヴァーシャー大森林へと足を踏み入れた。俺は連れてきたアンデッド達に命じる。

 

「全員、外装を取って良いぞ」

 

 俺がそう命じると、黒い外套を脱ぎ捨てて、眷属と言う事になっているアンデッド達が姿を現す。ついでに非実体ゴーストなども木の陰からこんにちはした。

 こいつらは法国にいる間に増やしたアンデッドだ。法国は亜人種の弱点を調べたり、効果的な魔法の開発などにコストを費やしたりしている。そのため結構なゴブリンを捕らえたりしていて、死体などもそれなりに量産されている。

 死体は火炎魔法で焼却されたりするそうだが、勿体ないので貰い受け、アンデッドに姿を変えて貰った。これから君たちも人類守護の一員だ。

 

「ここから先に、法国兵はいない。いるのはエルフの兵士達だけだ。それと大樹海の魔獣や亜人。それらは極力殺すな。最低限の犠牲に留める。ただし、この森にいると言う大樹海十五王がいて、そいつがこちらを積極的に攻撃してくるなら殺して俺のところにまで持ってくるんだ」

 

 この森には英雄級が必要なモンスターが15体いるらしい。つまりハムスケと同等かそれ以上だ。英雄クラスの個体を使えば、上位アンデッドの材料に出来るのはグで証明されている。戦力を増やすチャンスなので、積極的に活用させてもらうつもりだ。

 

「輪廻権現様。まずは、法国が前線を築いていたラインまで進軍し、居留地を作成されますか?」

「そのつもりだ。エルフ王を殺害する予定だが、向こうはエルフ国の王城にいるはず。それに威力偵察をして、実際の脅威度も測っておきたいからな」

 

 俺はアンデッド達と森を歩く。数体を先行させて安全圏を確保し、少しずつの行軍だ。今回連れて来たのは、全部で35体ほど。俺を含めれば36人いて、実力としては全員逸脱者以上、つまりレベル41越え。法国の戦力を思えば過剰に思える大戦力だが、俺はこの人数でも若干不安ではある。

 俺はエルフ王デケムを、レイドボスとして認定している。はっきり言えば、連れて来たアンデッドは全て肉壁だ。とにかくこいつらにヘイトを集めさせて、俺がメインアタッカーの削り役。魔法強化にMPを払わなくていい分ユグドラシル時代よりは継戦能力に余裕があるが、決して無限ではない。俺のMPが切れた時点で、戦いは敗北で決定する。

 

(エルフ王の難度はファーインさんの180の倍、360ぐらいで想定してある。レベル換算で124だ。頼むからこれを超えてくれるなよ)

 

 俺が330以上でレベル換算110ぐらい。タレントの性能が壊れているのでなんとかなるかもしれないが、それでも不安はつきない。だからこそ、大樹海十五王とやらで戦力の増強をしておきたいのだから。

 俺は法国の元前線基地に辿り着き、地図を手にアンデッドに最終打ち合わせをする。恐らく長期戦になり、戦争終結まで一ヶ月は必要だろう。

 

「やることは単純だ。法国がやっていたように、少しずつ前線を押し上げてエルフ国の首都を包囲する。向こうは人間種だから、疲労と空腹は誤魔化せない。マジックアイテムで軽減しようにも、民全員に渡るほどの数はない……と思う」

 

 俺がやろうとしているのは餓え責めだ。食料供給を絶って、向こうを飢え死に寸前まで追い込む。長期戦にはなるだろうが、こちらは全員空腹・疲労・睡眠無効のアンデッド軍団だ。戦いが長引いても、こちらに損失は殆どない。どころか、時間をかければ俺がアンデッドを増やせるので、ますますこちらは有利になる。

 デケムが空腹無効スキルを持っていたら終わりだが、飢えデバフが与えられる可能性があるならそれに賭ける。他にも核地雷デス・ナイトや、オーバーロードジェネラル召喚からの特攻戦術などいくつか用意してあるので、難度360までならなんとかなるだろう、たぶん。

 

「では……作戦開始だ」

 

 ここからは森を疾走する。そうすると、途中でデカい熊に遭遇した。言葉が通じないのか威嚇音を発しながら攻撃してきたので、返り討ちにして上位アンデッドに変えておく。君も今日から仲間だ。

 そうこうする内に、森の難所へとたどり着く。

 

「あれがここの難所か」

 

 大樹海の難所、それは個人が産み出す物……らしい。向こうには英雄や英雄一歩手前のエルフがいて、それらを突破するために法国は尋常ではない被害を出している。

 見たところ、その難所は子供のエルフだ。俺と同い年に見えるぐらいの。もっともエルフは千年の寿命があり、見た目と実年齢が一致しない。外見5歳が50歳、外見10歳が100歳がエルフなる種族。向こうが俺と同い年なら、大体90歳か? そいつはこちらにまだ気づいていないのか棒立ちだったが、俺がもう一歩前に出て、その時に地面の木の枝をへし折ってしまった。その音が届いたのか、こちらに顔を向けだした。

 

「弓を構えたな」

 

 森の中で開けた場所に立ち、背に背負った矢が無限に出てくる矢筒から矢を取り構え、それはきっちり遠く離れた俺たちに向けられている。潜伏系のデス・アサシン以外にも、今回はナイトやファイター、ウォリアーを連れているので隠れるのは難しい。だから音がしてそちらに気付けば、全部を察知するのは普通なのだろう。

 

「見た感じ、英雄を少しだけ超えているか?」

 

 弓を構える姿を見れば、大体その辺な気がする。引き絞られた弓から、こちらを射殺してみせると矢が射出。その速度は非常に速く、法国の一般兵士では絶対に避けられない一撃。一般兵士なら、避けられず死ぬだけの矢。つまり一般よりも上、同じく英雄や逸脱者なら対処可能な攻撃に過ぎない。

 俺の前にデス・ナイトが割り込み、大楯で防ぐ。ガァン! と大きな音を響かせるが、ナイトは一切揺るぎもしない。向こうは目を丸くして驚いているが、こっちからすればそりゃそうだとしか言えない結果だ。あの子供が英雄ラインの31を超えて33レベルだとしても、デス・ナイトはただでさえ40レベル相当の防御性能を持つ。俺のスキル強化込みなら48ぐらい。最近分かったが、指揮官系のクラスを俺は得ているので、それのクラススキルも乗れば50から52相当。33レベルの物理攻撃力で、50レベルは崩せない。

 

「いけー、そこだドレッドレイス。金縛りで捕まえろ」

 

 向こうが次弾を装填する間に、28レベルの幽霊を突撃させる。実質38から40レベルのレイスが触れると、麻痺やスタンのバステが付与される。簡単に抵抗力を突破したのか、弓エルフは手足が固まったまま地面に倒れてしまった。そいつのところまで走り抜けると、演技で麻痺してる振りとかではなく完全に固まっていた。

 

「危ないから弓だけ回収しておくか。うーん、でもなんだ。この弓、何か違和感が」

 

 かなり巨大で、装飾などがどうにも過剰に見える弓。どこかで見たような気がするそれが気になって、俺は<道具上位鑑定>で調べてみた。結果は伝説級、はぁ? それにこの製作者……おい待てよ。そう言う事か? ……なら辻褄はあう。

 

(これは……エルフ王が下賜した武器なのか? まさか、エルフ王はスルシャーナのようなユグドラシルプレイヤー? エルフのプレイヤーが、法国を襲っている? この弓を持っているなら、俺の考えが正しければ……だとすればやはり100レベル。百年以上の歳月を生きているなら、その分何かしらの新技術を開発している可能性も? やっぱこれは長期戦だな。場合によっては、言葉で説得して仲間にして、法国との間を取り持って……しかしエルフ王の正体があれだとするなら、説得できるの──)

 

「やれやれ。全く出来損ないのために、この私が出向く羽目になるとはな」

 

 伝説級の弓を拾おうとしたところで、急に話しかけられた。直前まで気配はなく、上空に待機させている先ほど創造した上位アンデッド集眼の屍(アイボール・コープス)も透明化した敵などを感知していなかった。

 アイボール・コープスは索敵・感知・看破・探知に特化したモンスターで、70レベル以下ながら80レベル以上のレンジャークラスにも匹敵する。それが見つけられない相手となると、潜伏に特化した100レベルかさもなくば

 

「転移魔法による瞬間移動だ」

「ほう? 驚くのではなく、私の出現方法を探り瞬時に見抜くか。法国の人間はどいつも愚鈍だと思っていたが、中々どうして悪くない観察眼を持つ」

 

 俺はアンデッド達に攻撃しないよう命じ、声の主を見る。年齢は20代半ばぐらいの、かなりの美形。左右の瞳の色が違い、白髪と相まってまさに物語の中のエルフ! なやつだった。

 俺はこの姿を見て、神官長達に貰った似顔絵と瓜二つなことからすぐに正体を察してしまった。察したあと、どうしてここにいるんだと思い、いましがた拾おうとした弓を見て気づく。

 あ、こいつ回収に来やがったなと。なので爆速で弓を拾い、背負い袋に投げ込んだ。それを見て、エルフは顔を憤怒に染め上げた。

 

「貴様! その弓に薄汚い手で触れるどころか、己の鞄に仕舞うとは何事だ!! 苦痛なく死にたければ、今すぐこちらに返却せよ! 王の下命であるぞ!!」

「王ねぇ。お前がエルフ王、デケム・ホウガン……でいいんだよな?」

「お前がするべきは、私が何者なのかを問うことではない! その弓をいますぐに、引き渡す事だ!」

「返すさ。だが、その前に一つ答えてくれ。そっちは王様なんだろ? ちょっとぐらい、下々の者に慈悲を見せてくれよ……デケム・ホウガン。それとも、日本人名で聞いた方がいいか?」

「日本人……?」

「デケムと言うのはプレイヤー名であって、本名ではないだろ? それとも外国人プレイヤーだったか?」

 

 俺の態度に困惑しているのか、怒りよりもなんだこいつと言う感情の方が強く表情に出ている。この様子は演技か? それとも素で日本人ではなく現地の? ……ああ、もう一つ可能性があったか。

 

「それとも、お前の親が日本人か。六大神、それか八欲王。どっちの子だ?」

「貴様……私の何を知っている。それに八欲王だと。私の前で父をその蔑称で呼ぶとは。しかし日本人とはなんだ。お前は私の父のことを知っているのか?」

 

 父か。嘘か真かはさておき、この話題には食いついてくれた。先ほどまで強烈な敵意を放っていたが、それがかなり萎んでいる。どうやら、この話題はこいつにとっても興味がある話題のようだ。こいつがプレイヤーそのものなのか、それとも六大神が遺した末裔のような神人とやらなのか。見極めるとしよう。

 

「少しだけですが知っています。ここより遥か南にある浮遊都市エリュエンティウ。そこを治め、大陸全土すら支配してみせた戦士達。今ではすっかり名が地に堕ちてしまいましたが、偉大な者だった……そうだろう?」

「……その通りだ。少しは分かっているようだな。我が父は最強の軽戦士であり、偉大な王だった。栄光と偉業に彩られた名を、多くの者が無知にも覚えていない」

「その哀しみと悲劇、心から同意いたします。ですが、俺もあまり詳しいわけではありません。良ければ、偉大な大英雄の偉業を、息子であるエルフ王から伺えたらと思います。そのお話が聞けたならば、この御命と共に弓を返却させて頂きたいと願います」

「……良いだろう。冥土の土産と言うものだ。弓に触れた時点で命などないが、教えてやろうではないか」

 

 ラッキー。ちょっと話題を煽ってみたら、なんか話してくれることになった。八欲王については、法国が知る部分については俺も学んでいる。ただ当時の法国は、スルシャーナ含めて神々が世を去った影響で国内が荒れていたらしく、国内の情報はまだしも国外についてはかなり情報が乏しい。

 八欲王が実際にどの竜王を殺したのかや、そもそもどうして竜王の抹殺を始めたのかも不明だったりする。それらの情報を息子が直接教えてくれるのならば、存分に聞いておこう。

 デケムは語ってくれた。いかに父が素晴らしい戦士なのかを。話す内容の大半は父の弓捌きがどうとか、いかに素晴らしい剣技の持ち主であったかなどで、わりかしどうでも良い内容だった。しかしプレイヤーネームなども判明。俺はその名に覚えがなかった。

 

(聞いた事が無いな。八欲王が八人のプレイヤーかもしれないと言う事で、当初はたっちさんを除くワールドチャンピオンかと思っていたが……それとも後から成った? 大会で現チャンピオンをぼこせば、その時点でそいつが次のチャンピオンになる。サービス終了3年ぐらい前は、ギルドメンバーも次々引退してたこともあり、最後の情勢には俺もあまり詳しくない)

 

 8人のワールドチャンピオン。それならば、この地をかつて統べていた竜王とやらが相手でも、まぁ勝てるだろうと俺は踏んでいた。それに天空城とやらが俺の知る天空城塞なら、そこのギルド長はかなり有名で、ワールドチャンピオン。それと、俺が回収した弓。あれの本来の持ち主を殺害できた実力者。色々な情報からそう推測していたが、もしかしたら違うかもしれない。

 

「ありがとうございます。それともう一つ、お願いがあります。なぜ御身は、我らの祖先であるファーイン様を犯されたのですか? 今から百年以上前は、御身は我らと手を取り合っていたと聞きます。なぜでございますか?」

「ファーイン? 誰だそれは」

「御身が百年以上前に手籠めにされた、法国の一員です」

「知らん。百年も前に抱いた女のことなんて……あいつか? そう言えば他より強い人間の女に、手ずから王の寵愛をくれてやった覚えがあるな」

「その人であっています」

「しれたことを。私を含めたエルフは、この世でもっとも尊き種族だ。強大かつ至高。その中でも、父に次ぎ傑出した私が全てを統べるのが天命と言える。その天命を果たすため、強き女が私の子を孕むのは当然のことだ」

 

 それからも長々と語ってくれたが、要約すると

 

・父親は超強くて超偉い。当然その息子の俺様も超偉くて超強い

・当然超凄いやつを二人も出したエルフも超凄い

・なのに他種族はエルフのすごさを全然何も分かっていない。だったら父親がそうしたように、自分も世界を全て支配することでエルフの凄さを布教すればいいんだ

・世界を征服するには手数が必要だ。なのに一般エルフはどいつもこいつも弱い。仕方ねえから俺の子をたくさん産ませて軍団結成したろ

・お、ちょうどいいところに強い人間(ファーインさん)がいるな。こいつなら母体としても十分だろ

・なぜか分からんが法国が謝罪を要求してきた。王に頭を下げさせようとするとは笑止千万。力の差というやつを教えてやろう

 

 これが戦争の理由で、こいつがレイパーになった過程だった。戦争が始まってから、こいつはたくさんのエルフ女性に子供を産ませたようだ。こいつの子供は、プレイヤーの孫にあたる。血が濃いからか、英雄クラスが産まれやすい。それを大切に育てればいいものを、こいつは獅子は子を谷に突き落とすんだよと言わんばかりに戦場送りに。

 

「……申し訳ありません。軍団を結成されようとしたのですよね。なのに育ち切る前に戦場送りにして亡き者にしては、デケム様が目的とする世界征服のための最強部隊。その夢は遠ざかってしまうのではありませんか?」

「お前は阿呆か。たかが人間を相手に勝てぬ役立たずなど、戦力にもならん。私の血を引き継ぐのであれば、せめて7割は私の実力に近づかないと相応しくはない」

 

 7割。俺の見立てでは、こいつのHP・MP・立ち振る舞いから察するに70以上80以下。贔屓目に見て77あたり。その7割となると、レベル換算で54ぐらい。この世界の存在で、今のところ40を超えた存在は見たことがない。一応逸脱者が41以上だから、法国では記録なりで残ってはいる。逆に言えば記録でしか残ってはいない。それだけ40の壁を超えるのは難しく、30の壁ですら1500万人いて7名しかいない狭き門。

 その筈なのに、こいつは50を超えないと駄目と言っている。なんて勿体ない思考をしているんだ、こいつは。そもそも、世界征服の夢自体が馬鹿っぽいとか言いたくなるが、個人の夢なんでおいておく。あまり突っ込みたくはない。

 俺は完全に黙ってしまう。開いた口が塞がらないではなく、口を開けるのすら億劫になるほどこいつのあれこれには知性が無い。端的に言って馬鹿の発想だ。エルフ王国はこんなのを王として仰ぎ見ているのか? それとも、こいつが勝手に王を名乗っているだけなのか。周りがこいつの言う弱者、つまり30レベルにも到達しない者ばかりの環境で、77レベルが王を名乗っても誰も文句を言わないだろ。言ったとしても、こいつの性格だと殺す気しかしない。

 俺が黙ってしまったのを見て、お相手さんはふんと鼻を鳴らしていた。

 

「この世を統べる王の野望を最後まで聞けたのだ。思い残すこともないだろう。見たところ、その背負っている鞄は魔法の鞄だな。それをお前の血で汚したくはない。中に入っている弓と共に渡せ」

「え、いやです」

「なんだと?」

 

 普通に渡す気なんてないに決まってるだろ。俺が爆速でお前の弓を回収したのは、この弓が釣り餌になったと気づいたからだ。見たところ、弓はこいつの大好きなパパから譲り受けた物。それを奪われたままでは、沽券にかかわる。

 要するに、俺から弓を回収しない限りこいつは簡単に逃げられない。一応転移に対する魔法は無詠唱で使っているが、俺の知らない魔法を使う可能性もあるので、精神的に逃げられない枷は嵌めておきたかった。

 

(元々一ヶ月はかけて攻略する予定だった。けれど、親玉が態々本拠地から出て来てくれたなら、この場で叩くのが正解。相手の懐でやりあうのは愚策だからな)

 

 俺はこいつの手札を転移以外知らないが、向こうも俺の手札は殆ど握っていない。せいぜい周りにアンデッドがいるから、俺が死霊術師かもしれないと推測するのが限界……のはず。

 

「ふぅ……致し方ない。血で汚れるのは許容するべきか。お前を殺してから回収するとしよう」

 

 デケムがさっと手を上げると、地面が揺れ出した。常人なら立っていられない揺れの中で、デケムと俺の間の地面が盛り上がる。

 そいつを見て、父親からこれも譲り受けていたかと驚く。

 

「殺せ、ベヒーモス! 周りのアンデッドと共に、無礼な子供を肉塊に変えろ」

 

 ベヒーモスと呼ばれたのは土の精霊。根源の土精霊(プライマル・アースエレメンタル)が拳を振り下ろして来た。

 俺の当初の推定難度は360オーバー。今見た印象では220程度。長きに渡り一国と渡り合ったエルフの王にしてプレイヤーの子孫、デケム。お前は本当の実力を、俺のように偽装して隠しているのか? 暴いてやる。暴いて、解明して、解き明かした上で策に嵌めてやる。さあ、最強を自負するその力と実力。見せて貰おうか!

 プライマル・アースエレメンタルの振り下ろしパンチを、デス・ナイトにヘイトを取らせて俺は避難。ナイトのHP量と防御力では、プライマルシリーズの攻撃には耐えられない。しかし一発だけならガッツスキルで耐えられるので、そのまま囮にさせた。

 その間デケムが無防備になっていたので、俺は無詠唱時間延長抵抗難度強化した<人間種魅了(チャームパーソン)>を発動。装備類からして精神耐性があると見て取れていたが、抵抗難度強化の性能実験が終わっていなかったので、こいつには実験台になって貰う。通るとは思わないが、タレントで強化されている筈なので念のためと言う奴だ。

 

「おや? そこにいるのはわが友の……誰だったか。思い出せないな。もう一度だけ名前を聞かせてくれないだろうか」

「えぇ……」

 

 あれ? 通った? ……これで終わり?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。