モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

18 / 67
アンティリーネ

「おい、ゆっくり歩くな。日が暮れる」

「待ってくれ。王たる私がせかせか歩くのは、エルフの矜持に関わる」

「……俺が急かしてこけたりして、攻撃行動に分類され精神操作が解けても面倒か。分かった分かった。ゆっくりでいい。急がなくても、エルフの国は逃げないからな」

「はは、その通りだ」

 

 そう言って、デケムは俺を先導するように前を歩く。テクテク無防備に歩く姿を見ていると、精神支配の恐ろしさが身に染みて実感できる。

 

(まさか、抵抗難度強化が天人五衰の劣化版みたいな性能になるとは思わないじゃん)

 

 天人五衰とは、ユグドラシルの最高難度コンテンツ『ワールドエネミー』の五色如来が使うバフだ。完全耐性を貫通して、デバフやバステを与えられるようになる非常に強力なバフ。それと同じで、たぶんだが俺の抵抗難度強化は生半可な耐性を貫通してしまう。おそらく完全耐性以外では、俺の使う魔法をレジストできない。出鱈目が極まっている。

 その出鱈目さはデケムが証明してくれている。精神支配が効いた瞬間に試合終了。俺の気合も、こいつの自信も全てが無意味になった。最低でも77レベル想定の敵にすら、問答無用で通る性能にまで強化させるタレント。これやっぱりチートだって。どう考えてもバランスブレイカーだし。

 まぁ、効いたならいいやと俺は切り替えて、せっかくだからエルフの首都を目指していた。チャームの時間切れが怖いが、その時はもう一度かけ直そう。何度も使うと効果が薄くなるが、一回ぐらいならこの調子だと通る通る。

 途中からじれったくなったので、俺は<集団飛行>の魔法を発動してデケム及びアンデッド軍団と共に空からエルフ国を目指す。そうしたらすぐに着いた。最初からこうしておけば良かったな。

 空から戻って来たエルフ王を見て門番らしきエルフは驚いていたが、デケムが俺と仲が良さそうに歩いているのを見て、更に驚きを増していた。この反応だけで、デケムが普段どんな様子なのか見て取れる。

 王を案内人にエルフ王城を探索する。エルフツリーと呼ばれる木の中でも、最大級の大きさを持つエルフ王城は、かなり自然の色が濃い。床は土の絨毯で覆われていて、歩けばフカフカではあるが、法国の近代的な建築を見た後だとかなり原始的だ。

 1階を抜け階段で2階に上がり、更に上がってデケムの私室に。

 

「さぁさぁ座ってくれ古き友よ。そなたが戻って来てくれたことを、私は心から歓迎しよう。周りにいる出涸らしや失敗作と違い、そなたの力があれば百人力だ」

「ははは、そいつはどうも」

 

 こいつの中で、俺はどんな人物像になっているんだ。チャームの魔法は、術者を昔からの大親友だと認識させる。こいつの中では、今の俺は心から信用でき信頼できるお友達。とりあえず聞きたい事は全部聞いておくことにする。

 

「改めて話の続きをしようか。どうして父親はスルシャーナを殺害した? お前は親から何か聞いていないか?」

「スルシャーナ? 誰だそれは」

「知らないのか? 法国の神様のことだ」

「………………ああ。あれか。大罪を犯した者達によって放逐されたと言う」

「そいつだ」

「その神のことは、父の武勇伝で直接聞いた事がある。父と共に、大罪を犯す者共と戦い、最後は父の仲間の腕の中で息絶えたそうだ」

「……つまり、お前の父親はスルシャーナを殺害していないと?」

「そうだ」

 

 法国では、八欲王によってスルシャーナが殺害されたと伝えられている。だがこいつの話だと、それは間違い。実際にはスルシャーナは、八欲王と一緒に戦った。つまり仲間だったのか? 今のこいつは精神支配してあるので、そうそう嘘はつかない。仮にこれが嘘だとするなら、こいつの父親が息子に嘘を伝えたことになる。

 けれども、法国には俺が今使っているスルシャーナの装備品が残っていた。つまり、八欲王は共に戦った仲間の装備品を故郷へ返却してくれた。スルシャーナと八欲王が仲間だったことは、嘘ではない可能性の方が高い。

 

「その大罪を犯す……と言うのはなんだ? お前の父親は空恐ろしいほどの実力者だったのだろう? それがどうして、スルシャーナと協力することになった? 俺が知る限りでは、父親を含む八人は世界中の亜人や異形を抹殺し、竜王も大量に狩り殺した。スルシャーナは、伝承ではアンデッドのような見た目をしている。どう考えても、お前の父が真っ先に殺しに行く対象だろ」

「詳細は知らん。私が聞いたのは、その大罪を犯す者共は、父の生涯の中でも最大の敵だったそうだ。偉大な父を含む八人が、何があっても殺さないといけないと定めた悪魔ども。父曰く、そいつらを見逃せば、全てが終わると確信していたらしい。最悪、竜王との共同戦線を構築してでも皆殺しにしておかないと、後世の禍根になると話していた」

「……その悪魔とは、ひょっとしてこの弓の持ち主ではないか」

 

 俺は背負い袋から弓を取り出す。過剰な装飾が成された、少し大きな弓。それを見て、デケムはその通りだと言った。

 

「その弓は、父が悪魔から奪い取った戦利品の一つだ。それを使えるほどの軽戦士にでもなれと言われたが、私の適正はドルイドだ。残念ながらそれは使えず、失敗品に貸与していた」

「自分の子供のことを、失敗作や役立たずと言うのは感心しないな。しかし、そうか。これは戦利品か……なら、これの本来の持ち主は死んだのだな」

 

 俺はその弓を撫でる。もしも生きていたなら、その悪魔と話をしてみたかったものだ。少しばかりの寂しさと、とうの昔に過ぎ去ってしまった思い出に一瞬だけ想いを馳せる。それで終わり。

 

「この弓だが、俺が貰ってもよいか? その方が上手く扱えるだろ」

「それをか……そなたであれば渡しても良いが、しかし父からの贈り物となると……」

「頼む。一生の御願いだ」

「……仕方がない。王の慈悲とは乞うものではなく、与えられなくとも仕方なしと享受するのが世の常。だがそなたであれば、譲り渡しても父は許してくれるだろう」

 

 とりあえず、伝説級の弓をゲット。

 

「ついでに、もう一つ一生の御願いがある。ここの宝物庫をみせてくれないか? お前のコレクションを眺めてみたい」

「よかろう。古き友に、父から譲り受けた数々の秘宝を御見せしよう」

 

 さぁついてきてくれと言うので、俺はまたもや後ろについていく。その道中で、デケムのスキルや魔法について聞き出しておく。

 こいつの本質は精霊使いで、俺が麻痺させた子供に小さく弱い土精霊をつけていた。俺のアンデッドのようにこいつも精霊とリンクしていて、精霊がいる場所に向かって瞬間移動できるようだ。

 デケムの案内で到着したエルフの宝物殿に入る。食料を出す杖や、俺の背丈より巨大なヤシの実。色々とあるが、俺が回収した弓に匹敵するような何かはおいていない。これは期待外れだったかな。

 

「ここにあるもので全部ですか?」

「何を言っている。これは表向きの宝物庫だ」

 

 デケムが手を振ると、室内の土が移動し始める。そうすると、土の下に階段が隠されていた。隠し部屋っぽいな。

 

「遺産はここに隠すよう、父に言いつけられている。目につくところに置くべきではないそうだ」

「道理だな。本当に強力な武器や貴重な財宝は、必ず隠し部屋に置いた方がいい」

 

 ナザリックもそうだった。ギルド指輪を使わないと転移出来ない宝物殿に、大量のデータクリスタルや装備類。それとワールドアイテムを保管してあった。こいつの父親がプレイヤーなら、似たような発想をするか。

 俺とデケムは階段を下りて、小さな部屋に着く。一辺3mほどの正方形の形をした部屋で、そこにはユグドラシルの物と思わしき装備類が飾ってあった。

 その中の一つを見て、俺はああ……と息をつく。精神安定が発動するほどの衝撃と共に。

 

「どうした?」

「さっき譲って貰った弓があるんだ。あの弓が、あなたのハートに──ドスッがお前の父の手に渡っていたなら、ここにあれが戦利品としてあっても、そうおかしくはないかと諦めただけだ」

「あれ? ああ、あの紅い弓か。あれは父からの贈り物の中でも、一番格の高い至宝。その貴重さゆえに、出来損ない達にも貸与出来ないほどの代物。あれをまともに扱えるのは、我が父ぐらいのものだ」

「……そうだろうな。あれは……あれは作成するのに、相当の労力を割いていた。どれだけの苦労をしたか……お前には分からんだろうな」

 

 そろそろチャームの効果時間が切れそうだったので、デケムに<支配>を重ね掛けしておく。俺は紅い弓の方に近づき、そっと表面を撫でた。これの持ち主はリアルにいて二度と会えない。遠い過去の中にだけ存在する。

 それでも、この弓を見ると近くにいるように感じるのはおセンチが過ぎるだろうか。弓をとって握りしめる。ずっしりとした重さだ。内包されたデータ量の重みを感じる。

 

「この弓……俺が使わせて頂きます」

 

 デケムにではなく、この弓本来の持ち主への言葉。こうしてこの弓を……()()()()()を持つと鮮明に思い出せる。

 

「俺は引退しますから、装備一式はモモンガさんにあげますよ。砕いても良いし、売っても良いですよ! モモンガさんへのプレゼントだ!!」

 

 ありがたく、使わせて貰います…………

 

 

 

 

 

 そこからは非常に慌ただしかった。まずデケムを生きたまま法都にまで連行する前に、王がいなくなるエルフ王国の首都をどうするか問題だ。俺はひとまず、デケムに一番年を取っている子が誰なのかを問うた。

 その子供のところに行き、デケムの口からお前が次の王だと宣言させる。お相手はびっくりしていたが、<支配>が効いている時間の間に全部済ませないといけないので早口で全部伝える。

 

「お前の父親だが、法国に降伏することを決定した。その代わりに、この国の安全を約束して欲しいと。それを我々法国首脳部は受け入れる事にした。さきほどデケムから宣言したように、お前が次の王だ。やれるか?」

「え、え……なに?」

 

 王と言っても、デケムは自分の子を戦場送りにしまくっていたから、その子はとても幼かった。まだ6歳ぐらいに見える。しかしのんびりしている時間もないので、デス・ウィザードとエルダーリッチとデス・プリーストに詳しい説明をするように後を任す。

 次期エルフ王……幼女だからエルフ女王か? はアンデッドを見てギャン泣きしていた。ごめんねルーギちゃん、俺の眷属見た目が怖くて。

 帰ってきたらちゃんと説明するからと、俺はデケムと共に<上位転移>で法都に直行した。神官長達に<集団伝言>で連絡をとり、エルフ王を連れて来たので全員集まってくれと伝えておく。向こうはなんか早すぎるとか<伝言>での連絡だから嘘かもしれないとか困惑していたが、文句は一人ノコノコ前線にやって来たデケムに言ってくれ。

 

「と言う訳で、こいつが皆さん御所望だったエルフ王デケムです」

「こ、ば……こんな、こんなあっさりと……我らが数十年以上かけたエルフとの戦争が、たった、僅か、そ、僅か一日で、終結。ありえない……」

「これが、六大神様の六大神様の六大神様の六大神様の──」

「魔力を取り戻された神の、輪廻権現様の真なる御力なのか!!」

 

 モモンじゃなくて、漆黒聖典としての名前で呼ばれた。ところで輪廻権現なる名前を付けたの誰だ? 俺の提案した転生ゴッドしますシャーナを却下したやつの名前だけでも教えてくれ。

 

「それは、そのう……漆黒聖典としての活動名には法則がありますので、何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます」

 

 命名法則が決まっているなら仕方ないか。

 

「これが我らの怨敵の姿か。左右で目の色が違う瞳。王の相を持つところを見るに、こやつがデケムで間違いなさそうですな。しかし、なぜこやつは裸に?」

「現在は<支配>下においてますが、魔法が切れたら反撃してくる可能性があります。なので、装備を全て引っぺがしました」

「反乱防止でしたか」

 

 デケムの宝物殿の中身と、こいつが自分でつけていたマジックアイテムは全て没収してある。服なども魔法の服だったので、あとで使えるなと背負い袋の中だ。マジックアイテムなので汚れてはいないと思うが、あとで洗っておこう。

 神官長達はデケムに対して、非常に厳しい目をしている。そりゃ、そうだ。さいきょうエルフせかいとういつけいかくなんて阿呆みたいなお題目のために、要人を拉致して奪還に来た特殊部隊を皆殺しにして、法国の謝罪要求にしらねーバーカとふんぞり返っていたのがこいつだ。人を馬鹿にするのも大概にしろよと、腸煮えくりかえるのも仕方がない。

 

「へー、そいつが私のお父さん? そっか、私の白髪は、そいつのが混ざってるって一目で分かりやすいね」

「あれがこいつの子供か」

 

 俺と神官長がいるのは、神殿の奥の奥。神々が遺した遺産が納められた宝物庫の前にある大広間だ。そこで待っていると、宝物庫から一人の女の子が出て来た。年齢としては……見た目は12、3歳ぐらい。ファーインさんは人間だったらしいので、少女はハーフエルフになる。ハーフエルフの寿命は人間とエルフを足して2で割った数字の500歳で、年を取る速度はエルフと一緒。とするなら、実年齢は130歳前後かな? エルフ王はこれぞエルフな美形で、その血を継ぐ少女もかなり綺麗だ。髪の色が黒と白できっちり分かれているのが、特徴的か。それとデケムと同じで、左右で瞳の色が違う。

 

「それで、そっちの子供がスルシャーナ様の生まれ変わり? そうは見えないね」

「絶死絶命様! 輪廻権現様に、何という口をきかれますか!? 申し訳ございません!! 御身に大罪人たるエルフ王の捕縛をしておいて貰いながら、このような口を叩くな──」

「別に構いませんよ。それより、改めて自己紹介をさせて貰っても良いですか? 俺はモモン。モモン・エモットです。今後ともよろしくお願いします」

「よろしく。私は絶死絶命……てのは卑怯だね。アンティリーネ・ヘラン・フーシェだよ」

「アンティリーネさんですね。それともフーシェさんの方が宜しいでしょうか?」

「アンティリーネでいいよ。それにしても……神様の生まれ変わりって聞いていたから、増長とかしてるのかなーなんて思ってたけど、そうでもなさそうね。これなら、私が矯正しなくても良さそう」

 

 にやりと邪悪に笑うアンティリーネさんの顔、こわ。かなり可愛いよりの顔つきなのに、めちゃくちゃ影のある笑いに神官長達も引いている。ところで、矯正ってなんだ?

 

「矯正は矯正だよ。漆黒聖典の英雄もそうなんだけどね、他人より優れているからって、自分は偉いとか勘違いしてね。増長してつけあがって、他の六色相手に無駄に喧嘩を売ったりね。その鼻っ柱をへし折ってやるのが私の役目」

「つまり、アンティリーネさんはかなり御強い。そう言う事ですね」

「そういうこと」

 

 たしかに、見た分では結構強い。90レベルぐらいか? 普通にデケムよりも、数段上の強さはありそうだ。この人であれば、たぶんデケムとタイマンでも勝負が成立する……でもプライマル・アースエレメンタルもいるからな。精霊まで込みなら互角ぐらいかもしれない。

 

「今回、アンティリーネさんが処刑されると言う事で、エルフ王は生きたまま捕縛してきました。でも妙ですね? どうして、俺が来る以前にアンティリーネさんを戦線に投入していなかったのですか? 俺が見た限りでは、彼女が前線に乗り込んでいたらもっと楽に勝てていたと思うのですが」

「あ、それは難しいよ。私が外をうろつくのを、評議国の竜王が許さないから」

「評議国というと……たしか白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)がいる国でしたね。なぜ他国の竜が、アンティリーネさんを許さないので?」

「あの竜は、御身らユグドラシルの神々を憎んでおります。特に他国に影響を与えかねない、強大な存在を。この子は神々に近い力を持つ特別な神人。八欲王がそうしたように、我らが世界の侵略を狙っていると誤解されたならば面倒ごとの火種になりかねません」

「……その説明だと、俺についてもそのドラゴンロード、ツァインドルクス=ヴァイシオンは遺憾の意を表明しませんか?」

「ありえます。御身が今はカルネ村の一員として過ごされていたとしても、かの竜王が感知すれば接触を図りに来るでしょう」

 

 うーわ、めんどくさ。八欲王の件があるから、そいつはナーバスになっていると言う事か。こっちはカルネ村と、その他の人類圏の安全を確保できたならそれでいい。しかしそいつが勘違いして、こっちを滅ぼす敵として認識してきたら最後、戦わないといけなくなる……かもしれない。

 

(話によれば、竜王は始原の魔法(ワイルド・マジック)なる古い魔法を使う。その魔法があると、もしかしたらワールドアイテムが通じないかもしれない。性質的にワールドアイテムと同格と言う事か。そうなると、早めにどこかにある俺の専用ワールドアイテムを回収したいな。ゲイ・ボウと同じように、この世界のどこかにある可能性が高い)

 

「竜王への備えはしておきます。では……デケムの身はそちらにお任せします。ただ一つお願いが。死体はこちらに譲渡してください。俺の眷属として生まれ変わらせますので」

「いいよ。こいつを持って来てくれただけでも、お礼がしたいからね……はじめましてお父さん。て聞こえてないか。精神支配を受けてるんだものね。私が質問しても、答えてくれるの?」

「はい。なんなりとご質問ください」

「それじゃ……なんで、母を襲ったの? 全部聞かせてよ」

 

 そこからは、大体俺も知る内容ばかりだ。世界最強の証明とか、そう言うあれこれ。全部聞き終えたアンティリーネさんと神官長達は絶句していた。だって、まさかこんな……こんな。ありえないだろと言わんばかりに。この様子だと、八欲王関連とか、こいつの世界征服計画については知らなかったみたいだ。

 

「え、待って。こいつ八欲王の系譜だったの? なら私も、あの邪神たちの血を……は?」

「そもそも、エルフの国を統治すらしていない、だと? こんなのを、こんな戯けを相手に、私たちは戦争をして、何百何千、何万の同胞を失って……」

「スルシャーナ様と八欲王が戦友とは一体どういう!? もっと詳しいことを教えろ!! お前の知る全てを答えるんだ!!」

 

 魔法研究長が詰め寄るが、デケムの知ることは全て言葉によって伝えられた。<支配>で喋らない以上、こいつはもうこれ以上何も知らない。

 いや、しかしすごいな。こいつは君臨すれども統治せずを地でいってたらしい。嫌がる我が子を戦場に送り込み、民を無理矢理徴兵して法国との戦地に次々投入。結局のところ、この戦争の大部分はこいつの愚行にある。戦争についても、強い自分は死なないので問題なし。戦地から無事兵士が戻って来たなら、そいつは強いエルフに相応しいので、より強くなれるよう次の戦場へ。

 ベヒーモスとこいつ当人の強さ。それがある限り、王としてふんぞり返れたのだ。と言うかだ。ツァインドルクス=ヴァイシオンとやらは、アンティリーネの動向を探る前にこいつのことを殺しにいけよ。竜王の嫌いな八欲王の直系で、父親と同じく世界征服を目指そうとするアンポンタンだぞ? あれか? 法国と殺し合いをして、お互いに力が削がれるなら良しとしていたのか。

 なにせ法国も、元をただせばユグドラシルの存在が関わる国。力を付けたら、竜王にしてみれば面倒な相手に違いない。ならば、面倒な相手同士で勝手に殺し合いをしてくれるのだから、それは放置もするか。俺も仮想敵同士が戦っていたら、どっちも滅べと静観するし。

 

「く、この! こんな、こんな!! こんなやつのために、私は!! 母は!!」

 

 アンティリーネの蹴りがデケムを転がす。俺の攻撃ではないので、<支配>が解除されることはない。

 

「こんな! そんなくだらない大言壮語を掲げて!! お前のせいで、私がどんな目に。こんな雑魚に犯されて、母は頭が壊れて、それで、私を虐待して、ぜんぶ、ぜんぶ、お前の、エルフが奴隷なのも、全部おまえのせいでぇ!」

 

 床に転がったデケムは、何度も何度も踏みつけられ、持ち上げられては床に罅が入る強さで叩きつけられ、全身の骨を砕かれながらボロボロになっていく。神官長達はちょっとスプラッターな光景に慄いていた。この場で止められるのは俺だけだろうが、別に止める気もない。

 

(頭が壊れて虐待か。俺は女性じゃないから分からんが、デケムの様子を見る限り優しく扱うとかなさそうだからな。よほど怖い目にあったか)

 

 もしも犯されたのがエンリなら、俺も同じようにエルフ王をぐちゃぐちゃになるまで殴っている。アンティリーネさんは感情を思う存分ぶつければいい。気がすむまで殴り続けるのを見届ける。

 

「死ねぇ!」

 

 首へのストンプでゴキリと鈍い音がして、急速にデケムのHPが消えていく。クリティカルヒットで死亡したようだ。それでも攻撃を続けていたので、俺は止めに入る。それ以上損壊したら、アンデッド創造に使えなくなるかもしれないからやめて?

 

「邪魔をしないで……はぁ。いいわ。十二分に殴ったから」

 

 デケムは全身から骨がこんにちはするオブジェになってしまった。これぐらいの壊れ方なら、まだアンデッド創造に使えるな。

 

「それでは、これでエルフ王討伐の助力を終わらせて頂きます」

「輪廻権現様。御身の助力、それと心遣いに感謝申し上げます。御身はこれから、どうされる御予定ですか? 宜しければ、我々だけでも御身の御帰還を祝う祝賀会を開催したいと考えておりますが」

「申し訳ありませんが、これからまたエルフの国に戻り、やらないといけないことがあります」

「承知いたしました」

 

 別れの挨拶もそこそこに、俺はすぐに<転移>で戻ろうとして、途中でああそうだと思い出す。

 

「エルフ奴隷の件、よろしくお願いしますよ」

「存じております。御身の命、必ずや我ら一同達成させてみせます」

 

 それだけ聞ければ十分だ。俺は<上位転移>を発動して──

 

「エルフ奴隷の件って、なにかしら?」

 

 アンティリーネさんの言葉を最後に、俺はこの場から姿を消した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。