モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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エンリ・エモット

 鈴木悟からモモン・エモットに生まれ変わった。それだけでも不可思議としか言いようがないが、今の俺には普通ではない力が備わっている。

 

 前世の俺は死ぬ瞬間ユグドラシルにログインしていた。それが原因なのかは分からないが、この体はプレイヤーアバターだったモモンガの持つ特性や能力、スキルや魔法を使えるのだ。

 

 身体能力は非常に高く、本気で走れば100mを4から5秒で走りジャンプすれば10mは飛び上がり、殴れば成人男性の胴ほどの太さがある木がへし折れる。体も頑強で、うっかり木から10mほど頭から落下しても、掠り傷すら負わない。

 

 その他にも多数の能力があり、歩けるようになってから両親の目を盗んではこそこそと検証し、今の自分ができることの殆どが判明している。

 

・人体の能力をステータスとして表記したら、それがモモンガ基準になっている。

・魔法は呼吸をする感覚で扱える。

・アンデッドの特性の空気系攻撃の無効化耐性などは全てパッシブスキル扱いになっていて、ON/OFFが可能。

・デメリットスキルの聖属性脆弱や打撃脆弱などはOFFにできない。OFFにできるのはメリットがある特性だけ。

・ゲームだったユグドラシルと違って、普通に味方の魔法でも直撃する。

・死体を媒介にして創造したアンデッドは、時間経過で消滅しない。

 

 フレンドリーファイアの仕様を使って、上位魔法無効化Ⅲが機能しているのかどうかも確認済みだ。上位アンデッドを創造し、そいつに魔法を使わせて確認してみた。

 

 確認した上で、俺は普段無効化などの耐性の大部分は切ってある。うっかり農作業中の父に近づき、事故で飛んできた石にあたって、一切怪我をしない子供なんて不気味だからな。物理的に目に見える耐性や無効化は見た目での誤魔化しがきかない。

 

 それを抜きにしても、素の防御能力でも骨は鉄より硬く、岩を砕けるデス・モンクの拳で殴られてもちょっと痛いで済むのだ。これだっていざという時にあんまり誤魔化せないだろうが、必要経費として目を瞑っている。

 

 ただし備わっていたのは、本当にアバターの能力だけ。神器装備などのアイテムは全て失っている。インベントリも、扱いとしてはゲーム設定上アイテムを入れるアイテムボックス扱いなので、当然のように使用不可能。ワールドアイテムやギルド武器なども、勿論一切ない。その事実に当初は酷く落胆したが、ないものは仕方ないので諦めた。

 

「ゲームサービスが終了していれば、どちらにしろ全部失っていたんだ。それにモモンガとしての能力を使えるだけでも、生きていく上では大きなアドバンテージだからな」

 

 この村から出たことがないので全体がどうと言われると確証はないが、少なくともこの村の住民はそこまで物理的に強くはない。村で一番怪力なおじさんでも、重量挙げで数十キロが限界だ。それなのに俺はその気になれば100キロ以上はありそうな丸太を持ち上げて、木の枝感覚で振り回せる。

 

 高い身体能力に多数の特殊能力。なんてことのない村に生まれた一市民としてみれば、これは強力な武器になる。今まで相手してきた野盗や、偶に森からこちらに流れてきたモンスターなどの討伐履歴を考慮しても、この近辺であれば無敵に近い……はず。

 

「エ・ランテルには冒険者とか言う、傭兵みたいなのがいるらしいから、そっちならもっと実力者がいるだろうがな」

 

 自分だけが特別。なんてのは、とんでもない自惚れだ。俺が生まれつきゲームアバターの能力を持っていたように、世界を探せば何かしらのスキルを持つ存在など幾らでもいるだろう。それこそ村長から聞いた、おとぎ話のドラゴンだってそうだ。

 

 ユグドラシルではドラゴンは強力なモンスターだった。それはこの世界でも同じらしく、村長はみたことはないらしいが、空を飛ぶ強大な力の持ち主の噂は流れの商人などから伝わってくる。

 

「見たことはなくても、存在はしている。もしもそんなドラゴンがエ・ランテルを襲撃して、近くの村も焼き始めたら」

 

 この時、果たして自分なら勝てるだろうか。おそらくかなり難しいだろう。ドラゴンは強い。フル装備があるならまだしも、こちらにあるのはロマン型死霊系ビルドのモモンガパワーだけなのだ。炎ダメージへの脆弱性があるから、火炎ブレスの直撃でも貰えば大ダメージは免れない。そういった緊急時への備えとして、アンデッド創造を駆使して戦力も揃えようとしているが、これで作成可能なのは40レベルの中位アンデッドぐらいまでだ。それ以上を用意しようとすると、どうしても時間経過で消滅してしまった。

 

 ユグドラシルだと40レベルのアンデッドなぞ、精々が目くらましや精神的ブラクラを利用したアンブッシュ・嫌がらせ戦法にしか使えない。

 

「デス・ナイトであれば、一撃なら使い捨てタンクに出来るんだがな。言っても仕方ないが」

 

 なにもないよりマシとは言え、それでも上位アンデッドや暗黒儀式を使って産み出せる最上位アンデッドが使えないのはかなり手痛い。現状、森から流れてくる低レベルのゴブリンや魔獣相手ならば問題ないが、この先のことを考えるとどうにもと言ったところだ。

 

「それにアンデッドもあまり増やせない。永続化させるには死体が必要で、村長さんの話だとアンデッドは忌み嫌われてるらしい。見つかったりすれば大騒ぎだ」

 

 もしも見つかれば、村長を通じてエ・ランテルに連絡が行き、大規模な討伐隊が組まれるかもしれない。そうなると、せっかく防衛ラインとして築いたアンデッド防衛網が瓦解してしまう。それを警戒して、産み出すアンデッドはデス・アサシンなどの見つかりにくい潜伏・探知に特化したもののみに限定している。

 

 もっとも、これにしたって高い探知能力を持つ相手になら見つかる危険性は非常に高い。それこそ俺のように、ゲームアバターの能力を持って転生した相手がいて、そいつがレンジャーのような感知能力に優れているなら簡単に見つけてしまうだろう。

 

「……そこまで警戒していたら、村の防衛網どころじゃないな」

 

 結局のところ、今持っている手札でどうにかするしかない。新しく生まれ育ったこの故郷を守るためにも、出来る事をするしかないのだ。

 

「モモン? さっきから、一人で何をブツブツ言っているの?」

「なんでもないよー。虫さんがいたから話しかけてただけー」

「そう?」

 

 母には聞こえていたのか、訝し気に声をかけられる。それに対して俺は適当な返事をした。虫と話すなんて大人が言えば奇人だが、10にも満たない子供が言うのであれば微笑ましいだけ。母は捕まえて殺したりしたら駄目よとだけ声をかけた。殺すのは良くないわと。

 

(ごめんよ母さん。殺す云々が駄目なのは理屈で分かるんだが、もう何人も何体もやってしまっています)

 

 ついこの間葬った野盗しかり、時たま森から溢れるモンスターしかり、俺はわりかし命を奪い取っている。その事に思うところが無い訳でもないが、必要経費として割り切っている。しかしそのことを母が知れば悲しむだろう。父だって、幼い子が手を血に染めているとしれば心配するだろう。なので、この事を誰にも話す気はない。

 

 それよりも

 

「母さん? 母さんは身重なんだから、立ち仕事なんてせず、座ってゆっくりしていれば?」

「ふぅん? お母さんが休んだら、誰がモモンやお父さんのご飯を作るのかしら……モモンが作ってみる?」

「……やめとく」

「素直でよろしい」

 

 ご飯の作り方と言われても、見様見真似でしか出来ない。母に比べると酷い味になること請け合いだ。それでも、母の膨らんだお腹を見ていると心配にもなる。

 

 身重、つまり母さんは妊娠している。妊娠したと言う事は、父さんとそう言う事をしたと言う事だ。とある晩、俺は今日だけは、隣の家に泊まって来なさいと申しつけられた。その日に仕込んだのだろう。

 

 こういう事は、小さな村だと珍しくないらしい。25家族に分かれているが、小さな村では全員が共同体なのだ。俺のように小さな子がいるご家庭は、そういう事をするときには隣近所に預けられるのが普通。預けられた日には、その家のおばさんがクスクスと笑っていたのは記憶に新しい。

 

 過去はさておき、妊娠した母の辛そうにしている姿を見る事も多くなってきた。お腹に赤ん坊がいるのだから、それは負担にもなろう。では完全に横になってお休みしていればよいかと言えば、そんな余裕はカルネ村にあまりない。俺が働かないといけないぐらい、小さな村には人手が必要なのだ。

 

(こんな時に、俺のアンデッドを農作業に貸し出せたら良いんだが……)

 

 叶わぬ夢に思いを馳せそうになるが、バレたらいけないのでアンデッド共は表には出せない。いざと言う時のために、いつか真面目に魔法を習った……体で、死霊術師としてやっていくのが良いのだろうか? 一応、なぜかは分からないがこの世界にも魔法はあるようだし。

 

 そんなことに考えを巡らせていると、母が少しだけよろめいた。思わず俺は座って編んでいた布を放り出し、走り寄って母を下から支える。

 

「あら……ごめんね、モモン。重くないかしら」

「重くないよ、ぜんぜん」

 

 本当に重くもない。その気になれば、母を指一本で持ち上げられるのだ。重い訳がない。

 

 しかし母にとっては、俺は小さな子供なのだ。あまり心配をさせたくないのか、すぐに気を取り直してふらつきながらも立ち上がってしまった。もう少し支えていたかったのに……

 

 そんなこんなで日付は着実に進んでいく。俺の7歳の誕生日が迫ったとある日に

 

「い……いたい……」

「ミカ? ……!? 産気づいたのか!!? モモン! 産婆さんを呼んできてくれ!!」

「分かった!!」

 

 夜ごはんを食べている最中に、母が急に苦しみだした。父曰く、俺が産まれた時の様子に似ていることから産気と気づいたらしい。俺は少し動揺しそうになったので、精神作用無効をオンにして平常心を取り戻し、すぐに村の産婆を走って呼びに行く。

 

 俺が慌てて駆け込んだ様子から察してくれたのか、産婆をしてくれている御婆さんとその家族は何も言わず、すぐに支度をしてくれた。

 

 御婆さんを連れて戻った時には、もう産まれかけていた。苦痛の声を上げる母と、手を握って何度も呼びかける父の姿に俺は圧倒される。子供が生まれる光景。生命が誕生する瞬間。その姿に気圧されたのだ。

 

 俺にできることは何もない。モモンガとしての力は、こんな時には何の役にも立たない。ただ母の傍で、父がそうするように必死で手を握るだけだ。どれぐらいの時間がかかったのだろうか。

 

「元気な娘さんじゃよ」

 

 生まれたのは女の子だった。女の子、つまり俺の妹だ。前世では一人っ子だった俺には兄妹なんていなかった。初めて出来た妹。そんな女の子は、布でくるまれて母に抱きしめられている。

 

「モモン、あなたの妹よ。そんなところにいないで、こっちに来なさい」

「はい」

 

 母の言葉に従って傍まで行く。産まれたばかりの赤ん坊は、一見は猿にしか見えない。しかし、自分と血が繋がっているのだと思うと、不思議と可愛くも見えてくる。

 

 まだ目を見開いていない。そんな赤ん坊は何かを掴もうと、顔の前で少しバタバタさせ始めた。なんとなく、指を持って行ってみる。

 

 しっかりと握られた。力強い手だった。腕力では俺の方が遥かに上の筈なのに、それ以上に強く思える生命の輝き。確かな命の源がそこにいるのだと感じられるかのような、そんな力強さだ。

 

「ふふ、お兄ちゃんの手を掴んで安心したのかしら。笑ってるように見えるわ」

「みたいだな……エンリ。お前が掴んでるのは、これから一緒に暮らしていくお兄ちゃんの指だぞ」

 

 エンリ。それが前世を含めて、初めて出来た俺の妹の名前だった

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