モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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大墳墓

 俺はジェネラルの報告を受けて、すぐに平原地帯に足を向けた。向けたというか<転移>だな。

 

「どこだ?」

「こちらです」

 

 辺りの草原は至る所が掘り起こされていて、平坦と言うには穴だらけだ。その穴の中でも、直径100mほどの巨大な掘削穴を俺は見下ろす。すると確かにあった。周りの茶色い土とは違う、白い石が地面から見え隠れしているのだ。

 

「こちらがモモン様がお探しになられていた、地下遺跡で間違いないでしょうか?」

「おそらくな。この色からして……中央霊廟の屋根部分だな。<転移門>で地下空洞からここに千体ほど投入する。遺跡には傷をつけないよう細心の注意を払い、周りの土を全て撤去するんだ」

「承知いたしました」

 

 俺は<転移門>を大森林地下空洞に繋げて、1500からさらに3000ほど増えて、今や4500まで膨れ上がった死霊軍団の中から1000を召集して遺跡発掘作業を急がせる。これだけ人員を割けば、数時間で終了するだろう。

 実際2時間で作業が完了して、ようやく遺跡の全容が出てきた。俺はその姿を見て、非常に悲しくなる。確かに中央霊廟の屋根であっていたが、霊廟自体は柱が砕かれていて倒壊していた。

 

「これでは遺跡内には入れないな」

 

 当時の法国によれば、入口が封鎖されていて侵入が叶わなかった。それはこういうことか。これだけの瓦礫を撤去するには、当時だと人員が足りなかった。なにせ六大神が全員この世を去り、国内が荒れていた頃なんだから。

 

「仕方ない。瓦礫も全て撤去するんだ」

 

 何千トンもある瓦礫の山も、中位アンデッドを千も動かせば問題ない。ようやく降りる階段が見えて、見えて……見えないな。瓦礫が侵入して塞がってる。全員、これも片付けるんだ。

 さて、これで瓦礫も無くなり、階段が見えてようやく降りられるぞと下ってみたら

 

「嘘だろ八欲王のやつら。どんだけ念入りに潰したんだよ」

 

 降りた先は、ドルイドの呪文リストにある岩を変形させる魔法で塞がれていた。しゃらくさい!!

 

「<魔法修正抵抗難度位階上昇最強化・上位道具破壊>!!」

 

 入り口を塞いでいた分厚い岩を粉々に粉砕する。これが最後の障壁だったのか、ようやく遺跡内部へと侵入できた。これで通路は確保できたので、500体だけ残して軍団は元の場所に戻しておく。

 

「内部がどうなっているのかは不明だ。まずは先遣隊として、デス・アサシン4名25組、計100人が先行しろ」

 

 俺が命じると、デス・アサシン達は内部に潜り込んでいく。俺は感覚を通じて異常がないかを探るが、誰もいない。罠すらなく、迎撃用の自然湧きアンデッドも出てこない。

 

「転移トラップも機能していないな。と言うことは──」

 

 俺は遺跡内部で<転移>を発動。成功。ここが俺のよく知る場所であれば、強力なジャミングにより転移魔法は発動しない。それでも発動したという事は

 

「そうか。死んだのだな。ここは……ナザリックは全機能が停止して、死んでしまったのだな」

 

 確認するように俺は死んだのだなと数回呟く。分かっていたことだ。ゲイ・ボウをデケムが所持していた。この弓は、ナザリックの宝物殿に保管してあった弓だ。それを八欲王が回収したのであれば、宝物殿まで含めて完全に陥落したということ。

 八欲王が戦ったという悪魔達は、おそらく拠点NPCのことだ。六大神の伝説に、神々には多数の小神が従属神として従っていたとある。傭兵NPCなのか拠点NPCなのかは不明だが、少なくとも当初は多数のNPCが付き従っていた。

 俺の召喚アンデッドが明確な意思を持つように、拠点NPCに意志が宿る可能性の方が高いと思われる。例えば俺が回収したもう一つの弓。あれはナザリックの拠点NPCが持っていたはずだ。あの弓の持ち主は、自らの意志で八欲王と戦い、敗北して装備類が奪われた。

 つまり

 

「GVGに負けたんだな。そして全てを奪われた」

 

 どのように負けたのかはいまだ謎だが、ともかく第一階層に誰もおらず拠点の罠も明かりも全てが停止している以上、もはやギルド拠点として機能してないのは明白だ。

 俺は転移魔法が使えるなら一気に第九階層まで飛ぼうかとも思ったが、順番に上から確認していった方がいいなと考え直す。

 

「ええと、これどこから行くんだったか?」

 

 俺たちのギルド拠点とは言え、10年も前の詳しい内部構造なんて霞と同じだ。デス・アサシンによる総当たりの結果、第二階層への階段を発見。

 降りたら幾つかの部屋や領域を見て回るが、当然誰もいない。そうこうしてるうちに、アサシン達が第三階層への階段を見つけた。

 降りればまたグルグル誰もいない領域を回り、今度は昇る階段があった。それを登れば第二階層に戻り

 

「そうだそうだ。ここには階層守護者のたしか……シャルティア。ペロロンチーノさんが作成したNPCを配置していたんだ」

 

 やはりそこにも人影はない。ただし戦闘があったのか、至る所が砕けたり破壊されたりしている。壁など何枚も貫通した痕跡があった。

 ここを抜けたら吊り橋があったので、それを渡ったら聖堂に繋がっている。聖堂の中を覗くと

 

「あれ? ここって転移門が無かったか?」

 

 俺の記憶が確かなら、第四階層に繋がるワープ装置があったはず。なのにそれはなく、代わりに下に繋がるように穴が空いていた。

 

「拠点システムの崩壊による影響か?」

 

 どうやらここから降りられるようなので、第四階層へと<集団飛行>で穴から向かう。

 第四階層は地底湖になっていて、ここに名前は忘れたが巨大ゴーレムを沈めてあった、のだが。今は湖の水が空っぽになっている。ゴーレムのゴの字も見当たらない。

 

「仕方ない、次だ」

 

 ここから九階層までは全部転移門によるワープ移動のはずが、先ほどと同じく全て穴がぽっかり空いているだけ。

 降りれば第五階層に到着する。ここは氷河地帯の筈だったが、極寒の世界も雪山も全てが消え失せていた。雪に埋もれていたはずの赤こけた大地が肌をのぞかせていて、それ以外には何もない。

 第六階層に到達。ここには4㎞x4㎞の森林があった筈なのに、それらは全て枯れていた。乾燥し過ぎたのか根本からへし折れたりしている。空を見上げたらただの地下空洞があるだけ。

 

「ブルー・プラネットさんがこの光景を見たら嘆き悲しみそうだ」

 

 ここを作るのに莫大な時間をかけたギルメンの一人。あの人の魂が籠った作品は、ただの廃墟になっていた。見ていて楽しい光景でもなかったので、次の階層へ。

 第七階層は溶岩の海……だった。今は冷え固まってしまったのか、溶岩石がそこらに転がる風情もへったくれもない殺風景な見た目になっていた。

 ここに至るまで、誰一人としていなかった。そりゃそうだ。ここは何もかも終わった場所だ。何もない。これ以上調査をしても無駄な気がしていたが、ここまで来たなら最後まで行くかと第八階層に到着。

 

「あー、こいつら拠点システムと結び付けていたから、ナザリックが死んだら一緒に死ぬのか」

 

 八階層を歩いていたら、ナザリック最終兵器達の成れの果てを見つけた。稼働すれば100レベル1000人以上を虐殺する秘密兵器だが、その強さは拠点システムに紐づけたからこそ。俺の考えてる方法で八欲王がナザリックを攻略したなら、こいつらは木偶の坊だ。

 

「八階層については、ユグドラシルでも有名過ぎた。お前たちとまともに戦おうとは考えない」

 

 残骸たちにお疲れとだけ告げてから、俺は第九階層を目指し……たどり着いた。

 第九階層ロイヤルスイート。ユグドラシルではギルドメンバーしか知らない場所で、この世界では八欲王もたどり着いたであろう場所。俺は一つ気になっていたことがあるので、アサシンらを散開させてからとある場所を目指す。

 

「ま、何もないわな」

 

 そこは廊下の一角で、俺が最後に見た光景。つまり亡くなった場所だ。地面が埃っぽくなっていたが、俺は気にせず転がってみた。

 

「そうそうこんな光景だった」

 

 あの時と違い、廊下には何の調度品もない。豪奢な絨毯まで根こそぎ持っていかれてしまったようだ。それでもなんとなく、俺はここを最後に死んだんだよなとちょっと懐かしむ。

 まぁ懐かしいだけで、何が変わるわけでもない。俺が死んだのと同じように、ナザリックも死んでしまったと感傷にふけるのが関の山だ。

 次に目指したのは私室。九階層についてはそこそこ覚えており、迷うことなくたどり着いた。扉を開けてみる。

 

「あいつら、ベッドまで持っていきやがったのか」

 

 部屋の中は空っぽだった。ふかふかのベッドぐらい手に入るかもと考えていたが、だいぶ甘かったようだ。鏡すらねえ。

 

「次だ次」

 

 歩く。扉を開ける。歩く。覗く。色々と行動を繰り返してみるが、何もないがあるだけだ。明かりすらないので、闇視を解除したら何も見えない。たぶん空気とかもないので、大気への影響に対する完全耐性を解除したら即死すると思う。

 

「なーんもないな。まじで何も残ってない。これがGVGでの敗北か」

 

 円卓に寝転がって、俺は天井を眺めながら声を出した。この円卓は据付タイプなので、流石にこれまで持っていくのは面倒くさかったようだな。

 

「意外と冷静だな、俺」

 

 前世では最後まで俺が維持するんだと躍起になった場所。そんな場所の荒廃した姿を見たら、もっと精神安定が何回も発動するくらい取り乱すと思っていた。けれど俺は自分でも驚くぐらい冷静に、ああ、ここは滅んでしまったんだなと受け入れていた。

 

「……新しい居場所ができたからな」

 

 どこまでいっても、今の俺はモモン・エモットだ。鈴木悟じゃない。今の俺が率先して守るべきは両親やエンリ、カルネ村にエルフ達。仮にナザリックが滅んだことに怒り悲しんだとしても、滅ぼした八欲王もスルシャーナも死んでいる。滅ぼした連中も滅んだのだから、俺にできることは何もない。ただそれだけの話だ。

 ちょっと休んだら最後に第十階層を調査して、何もないをきっちり確認してから村に帰還して今日と言う一日が終わる。机の上で横になり、思い出に浸って……ひた──

 

「アサシンが死んだ?」

 

 郷愁の意識が一気に強襲の意識に切り替わる。恐ろしく広いロイヤルスイートに散らばせていたアサシン達。その一人との繋がりが一瞬で断ち切れた。場所はスパリゾートナザリック。戦闘になったなんてものじゃない。一撃で即死させられた。

 俺は別のアサシンを向かわせる。やはり一撃。

 

「<神の目(ゴッドアイ)>」

 

 これ以上アサシンを突撃させても無駄なので、俺は不可視化した視覚を飛ばす。スパリゾートに侵入した不可視の目を通して、内部の様子が俺の目に映る。

 そこにいた。アサシンとは違う何かが。

 

「これは、これなんだっけ。ああ、執事服か」

 

 目が真っ赤に染まった執事服を着た初老の男性。それがアサシンを屠った者の正体だ。誰だ? なんか見たことがあるような気はするが、その男性はまっすぐ不可視化した魔法の目に視線を合わせてきた。

 何事か口にしている。指で自分の足元を指しながら……ジェスチャーを見る限り、これはここに来いと言う事か? 正直あまり行きたくはない……ん、待てよこいつ。そうだ、思い出した。このお爺さんあれだ。たっちさんが作成したNPC。名前が確かセバス・チャン。

 

「そうか……生きていたのか」

 

 俺はてっきり、NPCは全員死んだと思っていた。なにせ相手はあの天空城塞のギルドだ。ナザリックだって防衛能力は決して負けていないが、立地の問題でこれでもかと不利なのだ。今まで見てきたナザリックの様子を見れば、全員亡くなっている方が普通。なのに、それでもセバスだけは生き残っていたようだ。

 しかしながら、様子を見る限り目を赤くしてめっちゃ怒ってる。俺の記憶ではセバスは竜人だ。竜人はキレると目が赤くなる種族。つまりとてもご立腹なのだ、あの執事は。

 

「ま、そりゃそうか。ナザリックは一度攻め入られて滅ぼされたんだ。許可なく立ち入られたら、不機嫌にもなる」

 

 俺の認識としては、前世の我が家に帰って来ただけ。ある意味里帰りのようなものだ。それか実家帰り? でもカルネ村も実家なので、なんとも表現しにくいな。

 とにかく俺にとってはここは二つ目の実家だが、他人からすれば無遠慮に踏み込んできた余所者でしかない。セバスにとっては、俺は余所者なのだ。実は前世はモモンガです! 誰が信じるのだろうか。頭がおかしくなった子供だ。

 

「行ってみるか。ここで何があったのか。どんな経緯で八欲王やスルシャーナと争うことになったのか。セバス以外に生き残りがいないのか。聞きたい事はたくさんあるからな」

 

 行ったらいきなりアサシンと同じように攻撃される可能性もあるので、事前に時間延長して複数のバフを重ねておく。ついでに<魔法修正強化・完璧なる戦士(パーフェクトウォリアー)>も発動。覚えてる限りでは向こうは100レベルのモンク。不意打ちで接近されて殴られたら、普段だと反応しきれない。なので戦士化の魔法で魔法詠唱者100レベルの内10レベルだけ残し、90を戦士レベルに変換しておく。

 さて準備完了と言いたいが、念のためジェネラルに連絡して軍団を投入できる準備もさせておく。なにせお相手は、この世界に来て初めて出会う100レベルだ。難度換算だと290以上。何があるかも分からないしな。

 俺はまっすぐスパリゾートに歩いて行き、そこでかつてのナザリックの名残と対峙した。

 

「……アンデッドの召喚者はふざけているのですかな? 先ほどの目に、私は来いと合図を出したのです。それで寄越したのが、アンデッドの代わりに子供ですか。あなた様の雇い主……いえ、子供となると拉致でもされましたか。よほど臆病な方と見えますね」

 

 へぇ。NPCが自我を持っているかもと思っていたが、こうやって喋る姿を見るとなんとも感慨深い。ユグドラシル時代には、拠点NPCなんて簡単な命令をこなすだけの存在でしかなかった。俺が所属していたアインズ・ウール・ゴウンはかなりの凝り性ばかりだったので、それでもかなりの熱を籠めてNPCを作成したが。

 セバスが喋る姿をみれば、たっちさんなら何を言うのだろうか?

 

「お初にお目にかかります。俺はモモン・エモットです。あなたはここの住人……でしょうか」

「モモン?」

 

 俺の名前が気になったのか、ちょっと目つきが鋭くなった。少しの間唸っていたが、気を取り直したのかそれも治まる。

 

「……そうです。ナザリック地下大墳墓執事として、今はこの第九階層ロイヤルスイートの守護を務めますセバス・チャンと申します。それでモモン様をここに連れて来た方は、どちらにおられますかな?」

「そんな人はいませんよ。ここに来たのは俺の意思です」

「はて? そのように喋るよう、脅されているのですか」

「違いますよ。俺がアンデッドの主です」

 

 そう言って、無詠唱化した<第一位階死者召喚>でスケルトン・メイジを呼び出す。それを見てセバスの目つきが一気に鋭くなった。

 

「……なるほど。これは失礼しました。子供と侮り、モモン様の腕前を疑ってしまったようですね。それで? モモン様は、このような廃墟に何用で参られたのですか?」

 

 精神作用無効を使っているので分かりづらいが、セバスの纏う空気が一変し、どう猛な気配を漂わせ始めた。おそらく殺気と言う奴だろう。俺が<絶望のオーラ>で誤魔化すのとは違う、本物の100レベルモンクが使うスキルとしての殺気。強烈な気当たりにより、相手に恐怖のデバフを与えるこれは、ここにハムスケでもいれば心臓を止めてしまえるほどの効果を持つかもしれない。

 

「俺がここに来たのは確かめるためです。ここが数百年前に、八欲王と戦った組織なのかどうかを。ここがあのナザリックなのかどうか……ここが、かつて俺が守ろうとした場所なのかどうかを」

「守ろうとされた?」

「そうです。俺はあの頃、皆が帰ってくると信じて守ろうとした。俺が諦めたら最後、ナザリックもアインズ・ウール・ゴウンの栄光も、全てが無に帰すと強迫観念に駆られて。ぺロロンチーノさんも、ウルベルトさんも、たっちさんも、茶釜さんも……ぷにっと萌えさんも、やまいこさんも。それ以外のみなも全員、ここに戻って、また共に遊べると信じていた」

 

 ここに来て、セバスと話したからだろうか。10年前の事が、まるで昨日のように思い出せる。

 

「そこの風呂場。ユグドラシル時代には、風呂なんてただのデータに過ぎなかった。それでも、皆で話したものだ。スチームバスではなく、こんな大風呂で汗を流せたら、きっと気分が良いだろうと」

 

 ナザリックを課金して拡張していく中で、多くの馬鹿話をした。自分のNPCはどんなデザインにしようと話をした。それはもはや過去の中にしか存在しない。あの日。サービス終了日に、サーバから消えるだけだったデータの話。

 全ては過去と呼ぶには鮮明で、でも今を思えば過去としか言えないそれら。こうやって滅んでしまった姿を見れば、二度と戻らない場所でしかない。

 

「俺はそんな場所を守りたくて、一人でも維持資金を稼ぎ続けた。サービス終了日まで、ただ休むことなくだ。誰かが戻って来た時に、これでまた遊べるね。そんな言葉だけが欲しくて」

「それは……モモン様は何の話を……」

「だがな、セバスさん。そんな日は終わった。サービスが終わる直前に、俺の心臓が止まって。全部終わったんだ。あの廊下で一人寂しく倒れて、全てが終わったんだ」

「その! その話は!! その話をなぜ知って──」

「いいか! あの日終わってしまった俺の人生を。鈴木悟の、そして()()()()の人生を! 全てが詰まっていたこの場所を、もう一度確かめたくてきた! ……今日、ここに来たのは。これが一つ目の理由です」

 

 とうの昔に過ぎた時間を、改めて確かめたかった。その過程で、ただ再確認しただけだ。数百年前に、ナザリックは滅んでしまった。滅亡した。それだけを、確認したのだ。

 思い出以外の全てが空っぽになったと思っていた場所に、残っていたかつての名残。セバスと言う名の名残は、下を向いたまま黙ってしまった。やがて──

 

「気に入りませんな」

 

 再起動したセバスの口から、さっき以上の殺気が漏れている。もはや憤怒なんて言葉では済まない何か。

 

「あまりにも気に入りませんな。まるで……まるで自分が、あの御方のような口ぶりですな」

「あの御方とは……モモンガのことですか?」

「私の前で、あの御方を。最後までナザリックに残られて……無念の死を遂げられたあの御方を!! 騙るだけでなく、呼び捨てにするその愚行! 万死に値すると分かりませぬか!!」

 

 セバスの足元に罅が入る。漏れ出た力に耐えきれないのか、スパリゾートのタイルが砕け始めた。

 

「……訂正しなさい。モモン様はまだ子供です。なぜ、あの御方の……至高の座につくあの御方が、どこでお亡くなりになられたのかを知りえたのかは存じません。それでも、モモン様はまだ子供です。ここで散るにはまだ早い」

「いいや。訂正することなんてないです。呼び捨てにするも何も、モモンガは俺が自分で名付けたハンドルネームですよ。どこの世界に、自分の名前をさんや様と付けて呼ぶやつがいるんですか?」

「まだ……これだけ訂正を求めても、自分が至高の御方かのように振舞うのですね、モモン様は」

「至高の?」

 

 なんだそれ。NPCからみたら、俺は至高の御方とやらなのか? そんなご立派な何かになった覚えはない。前世の俺は良くいるただの凡人で、健康管理も疎かにして亡くなった普通の人間だ。

 

「……セバスさん。あなたが俺に怒りを抱いているのは、態度を見ていたら分かる。それでも言わせてくれ。俺はここに、ここで何があったのかも知りたくて来た。どうしてナザリックは滅んだんだ? 俺が亡くなった後、NPC達はこの世界に来て、そして何があったんだ? 頼む、教えてく──」

「警告は十二分にしましたよ! モモン様は、既に超えてはいけない場所に、踏み込んではならぬ領域に足を踏み入れました。これ以上の問答を、私は不要と考えます……小さな命を摘むのは不本意ですが、至高の御方を騙る以上は、見逃すわけにはいきませんから」

 

 その言葉と同時に、セバスの足元がはじけ飛んだ。その速度は今まで出会ってきた連中とはあまりに違う。デケムですら正直遅かった。近いのはアンティリーネさんだが、彼女よりも数段上の領域にある速度。普段からデス・モンクと組み手をしているからこそ、技の練度も見て取れる。

 それでも、今の俺は戦士化している。顔に突き刺さりかけた正拳突きを受け止めた。片手で。

 セバスの顔に驚きが浮かぶ。こちらは召喚魔法を使っている。つまり魔法詠唱者なのだから、止められる訳がないと踏んでいたのだろうか。

 

「そっちがその気なら……こっちも力づくで聞き出してやるぞ」

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