モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
「始まりはモモンガ様が、ロイヤルスイートの廊下で倒れているのを一般メイドが発見したことでした」
NPCは召喚や創造モンスターと同じで、術者によって製作された存在。創造されたモンスターは、術者に対して非常に高い好感度や忠誠心を持つ。パンドラ達も同じで、術者である至高の御方、つまり俺やギルメンを神のように崇めているらしい。
そのため、NPCの一般メイドはそれはもう大層驚いたそうだ。NPCの認識では、俺は最後の最後までこのナザリックに残ってくださった恐れ敬う偉大なる神。自分たちが仕える最後の主。その主が廊下で倒れて動かない。
「その日は、私はいつも通り第九階層と第十階層を繋ぐ階段を下りた先で、
セバスらがかけつけると、そこには座り込み泣きながら俺を起こそうとする一般メイドと、二度と動こうとしないモモンガ。他にも騒ぎを聞きつけたメイド達も集まってきて、当時は大混乱に陥ったそうだ。
「モモンガ様の生命力は失われていると一目で分かり、私も狼狽しました。ですが私は、このナザリックの執事にして、第九階層と第十階層の階層守護者と呼べる立場。すぐにペストーニャを呼び、モモンガ様の蘇生を試みましたが……」
「蘇りませんでしたわん。どれだけ<
「違いますよ。その二つに加えて、蘇生される側に選択権があり、拒否されたら復活はしません」
「それはこの世界の蘇生法則によるものですかわん?」
「はい」
法国で魔法勉強をしている俺は、この世界で発展した位階魔法の法則にそこそこ詳しい。残念ながら信仰系魔法は適性が無かったのか全く習得できなかったが。知識は武器になるので良しとする。
「モモンガ様の御遺体は、今と同じように玉座の間に安置されました。我々はモモンガ様ほどの御方をこの世に戻すためには金貨が全く足りぬと考え、僕が集結し、自らの創造主から授けられていた金貨を全て捧げました。しかしそれでもまだ足りないと我々は考え、苦渋の決断ながら宝物殿に向かうことにしました」
「宝物殿に? しかしあそこはギルド指輪がないと……ありましたね」
言っている最中に、俺はモモンガを見て思い出す。ナザリックの宝物殿は、ギルド指輪による転移でしか進入できない。その指輪はギルドメンバーしか所持しておらず、彼らの持っていた指輪は全て宝物殿に収蔵してあった。なので入れないと考えたが、よくよく考えなくても死んだ時に俺が装備していた分がある。
「はい、それが苦渋の決断でした。モモンガ様のお使いになられていた指輪を、我らの一存で拝借する。恐ろしき大罪です。しかしながら、あの時の我らに選択肢はありませんでした」
「そこまでの大罪……なんですね、NPCには。それで宝物殿に行った……トラップはどうしたんですか? 宝物殿には、毒の罠があったと思うのですが」
「宝物殿に向かったのはシズです。シズがナザリックの全ギミックと構造を理解していましたから、問題ありませんでしたわん」
「シズ……」
思い出せなかったので聞いてみたら、NPCは俺たちが設定したフレーバーテキストの能力も持ち合わせていたらしい。シズと言う子は、ナザリックのギミックと構造を全て把握していた。ついでに種族特性として毒への完全耐性も持ち合わせていたので──
「指輪はシズが使うことになりましたわん。宝物殿に向かった彼女は、アルベド様の御命令により、宝物殿にいることは分かっていたパンドラズ・アクター様も呼びに行かれました」
その時、俺の死を知ったパンドラはそれはもう荒れたらしい。ナザリック内で急死した、自らの創造神。俺も、もしかしたら前世で親が倒れた時には似たようなものだったのかもしれない。
宝物殿から玉座の間に大量の金貨が運び込まれ、蘇生に使われ、そして俺は蘇らなかった。
「思えば、あの時からナザリックの崩壊は決定していたのかもしれません」
俺の蘇生ができないとなると、統括守護者の地位とやらを任じられていたアルベドはペストーニャ含むナザリックの神官らに激怒したらしい。偉大なる御方達に力を授けられておきながら、モモンガ様の蘇生すら叶わない無能どもと。
「ペストーニャやその他の神官を、アルベド様は当初処刑しようとしていました。役に立たない者はこのナザリックに不要だと。それをパンドラズ・アクター様とデミウルゴス様が、御方の創造された僕を早計に処罰しようとするとは何事だと止められました」
処刑は免れたが、ペストーニャらは第五階層に謹慎処分になったらしい。それから暫くの間は喪に服していたNPC達だったが、パンドラの提案により一つのことを試そうとした。
「ワールドアイテムによるモモンガ様の蘇生です」
「……あ、あれか。あれなら、確かに俺の蘇生も叶うかもしれません」
宝物庫にあった二十と呼ばれる、ワールドアイテムの中でも破格の効果を持つ使い切り型。二十の一つ、奇蹟鬼録。元ネタは仏教にあるらしいが、これの効果はキャラクターデータのセーブ&ロードだ。DMMOにあるまじき仕様で、一度失うと再取得不可能な職業なども取り戻せる。
これを使えば、俺を呼び戻せるかもしれないと当時のNPC達は試した。結果は駄目……復活しない。モモンガは復活しなかった。
「こちらの世界では、位階魔法が効果を変えています。それと同じでアイテムも効果が変わっていて、俺が人間として転生した理由はそれじゃないんですか?」
「だとすれば、世界に匹敵するアイテムを使用した甲斐がありました」
「俺としては助かりますが、良くあれを使おうと思いましたね。二度と手に入らないんですよ?」
「ナザリックにおいて、至高の御方より優先されることはありませんわん」
「……重いなぁ」
俺が転生した理由っぽいのが判明した。
とにかく分かったのは、ワールドアイテムですら、ここにいるモモンガを蘇生できない。なぜ復活できない。どうして──
「どうしてモモンガ様はご崩御あそばされたのか。なぜモモンガ様が亡き者になったのか。誰かに倒されたのか。外からの襲撃者はいない。階層守護者は侵入者と戦闘をしていない。だから襲撃者の可能性は低い……なぜ亡くなった? このような話が、ナザリック内でされるようになりました」
「モモン様にお聞きします。どうして、モモン様はお亡くなりになられたのでしょうかわん?」
「どう説明したらいいんでしょうか……リアルと言って伝わりますか?」
「触り程度ですが……至高の御方達が、時折リアルなる場所の話をしていることは存じていましたわん」
聞いたところによると、ユグドラシル時代の記憶はNPCも持っていた。電子情報に肉体を与える際に、ログが流入したのだろうか?
「リアルとは至高の御方が住まわれる天の世界。それが私どもの認識ですわん」
「その認識でそこまで間違いではありません。ユグドラシルにいる俺たちは、リアルから意識だけをアバターに移し、ナザリックなどで活動していました。モモンガとは、俺がユグドラシルで活動するために作成した、意識を一時的に移すための人形なんです」
「そうだったのですかわん!!」
「そこまで驚かなくても……あの日、リアルにある本物の体に異変が生じました。ちょうど心臓の辺りが激痛に襲われ、そのままリアルにいた俺は死亡したんです」
「そういうことですか。リアルのモモン様が死亡したことで、こちら側に移していた意識も消滅。それにより、モモンガ様は動かなくなった。蘇生が不可能なのも納得です。ここにあるモモンガ様の亡骸は、モモン様の本当の体では無かったのですから」
「心臓が……リアルのモモン様は、心臓がある種族だったのですか?」
「そうですよ。今と同じく人間でした」
「え!? リアルのモモン様は人間だったのですかわん!!?」
「あ、そこも驚き要素なんだ……俺だけじゃなく、ギルドメンバーは全員人間ですよ。と言うよりも、リアルに繁栄していたのは人間だけですよ。ユグドラシルのように多種多様な種族はいなかったです」
そのようなことが……そんな、驚きですわん……ここにデミウルゴス様などがいなくて良かったのかもしれません。生きていてもショック死していますと、三人とも心底驚いているようだ。ユグドラシルしか知らないと、こんな認識になるんだな。
「ええと、どこまで話しましたっけ?」
「モモンガ様の死因に関する話題ですね。どうしてモモンガ様は亡くなられたのか。その原因は、誰かに襲われて殺されたのではないかと言うのが主流になりました。我らの認識では、モモンガ様は病気無効のオーバーロードです。まさか、心臓に異変があり亡くなったなど、思いつきもしませんでした」
「そして、疑われたのは身内です。このナザリックの、しかも第九階層にいたモモンガ様を殺害できるとなると、内部しかありえませんでしたからわん」
俺が死んだのが、まさかリアルの鈴木悟が心臓麻痺したからですと思わないNPCは、まさか内部犯行が? と疑っていった。NPC達は仲が悪いわけではないそうだが、至高の御方が絡むとかなり対立の意志が芽生えるらしい。要するに不和が広がっていった。そんな疑念と共に、もう一つの噂がナザリック内に広がっていく。
「モモンガ様は死を支配する御方。多くの死を捧げれば、ひょっとすればそれが引き金となり復活されるのではないか。そんな噂が我らの間に広がりました」
「待て待て。なんですかその根も葉もない噂は」
「こうして、目の前にいるモモン様を見ていると当時はなぜあのような噂がと思うのですが、それだけ我ら僕は焦っていたのです」
ナザリックは当初、モモンガの死によって内部の調査や喪に服すやらで中に引き籠って大人しくしていた。しかしこの噂が広まると同時に、一部を除いた僕の目は外に向けられ始めていた。のだとか。
「デミウルゴス様とアルベド様主導で、モモンガ様に捧げる供物を用意する計画が練られ始めたのはこの頃です」
「はぁ? ちょっと待て、供物……それに死を捧げる。俺には嫌な予感しかしないんですが」
俺の嫌な予感は当たっていた。当時トブの大森林を含む王国と帝国がある地域は、亜人国家で数百万人が生きていたらしい。国を統べるのは
「この計画にはセバス様筆頭に、ユリ様やニグレド様が反対されました。しかし……状況が最悪でした」
二人が練ったのは、亡き主モモンガをこの世に戻すための計画。話をよく聞いてみると、ナザリックの大半にとって外の存在とは塵や虫のようなものだった。何万、何億使い潰そうが別に構わないその他。至高の御方と、そんな至高の御方が創造された自分達以外は、そもそも同じ生きている存在としてみなしていない。
そんな殺したところで、だからどうしたと言わんばかりの虫けらを潰すのを止める。モモンガ様よりも、十把一絡げのゴミ共を庇い優先するという事は、
「第一発見者は一般メイドです。次に駆け付けたのがセバス様とプレアデスのお嬢様がた。一般メイドにモモンガ様を殺害など不可能。しかし次の発見者であるセバス様であれば、プレアデスと手を組めば十二分に通用する。そのような嫌疑をかけられました。モモンガ様殺害後、一旦現場から離れ、その後まるで今知りましたと言わんばかりに駆け付けたのではないかと」
「……その時、パンドラさんはどうしていたんですか? たしか、俺はパンドラさんには凄く賢いと言う設定を与えていた筈ですが。パンドラさんでも、この嫌疑を晴らせなかったんですか?」
「私もペストーニャ様と同じく、第五階層の牢屋行きです。偉大なるモモンガ様から知恵者としての能力を与えられながらも、至高の御方が集めしワールドアイテムを無駄に浪費させた無能として」
つまり、そもそも関わる事が出来なかったと。最悪の状況だな。
アルベドとデミウルゴスは、ナザリック内でも賢き者として創造されていた。デミウルゴスは現場に戦闘痕が無かった事から、戦いによる殺害ではないとセバスらへの疑いはそこまで持っていなかった。そもそもセバスがそんな腹芸を出来るとも思っていなかったらしい。けれどアルベドは違い、身内説を支持していた事もありセバス及びプレアデスを拘束。どれだけ疑わしいのかを、その賢さとやらで丁寧に説明したらしい。疑いが晴れるまでは、セバスらはパンドラ・ペストーニャと同じく牢屋行きだ。
こうして計画への反対筆頭だったセバスが失脚し、粛々とモモンガ様への生贄計画は実行された。唯一の懸念は守護者に匹敵するかもしれない鋼殻の竜王だが、これは100レベルの守護者&ナザリック最強NPCルベドで罠に誘いこみ殺害したらしい。
「デミウルゴス様は、ナザリックの南にあるスレインなる国の調査も終わらせていました。鋼殻の竜王と、スレインのスルシャーナは同盟関係にあった。自分達をスルシャーナの新しいNPCだと偽った上で、そちらの土地に謎の遺跡があることを発見した。これはもしかしたら私達ユグドラシルの者に関係があるかもしれないから、共同調査を申し込みたいと嘘をついて」
鋼殻の竜王とやらは温和な性格で、なおかつ純粋だった……らしい。疑うことなくナザリック内に誘い込まれ、第六階層で嬲り殺しにされた。最大戦力を失った亜人の国は、じっくりと殺し尽くされていった。法国に情報が漏洩しないよう、情報封鎖を行っていたので侵攻が遅くなっていったらしい。
「亜人ら数百万を殺害し終えたアルベド様は、次の目標をスレインに定めました。しかしあの国は、そこそこの戦力を保有する大国。そうそう簡単に攻め込むことは出来ませんでした」
そこで、デミウルゴスはスルシャーナを呼び出そうとした。我らはユグドラシルの者で、この世界のことに不案内です。良ければ、先達としてご助力願えませんかと。
しかし、スルシャーナは竜王と違いこの援助要請を罠と睨んだ。ユグドラシルプレイヤーが、そんな素直に助けを求めるようなたまかと。しかもこっそり事前に調査してみれば、外観から一瞬でナザリックと判明。
あの悪徳ギルドが助けを? え? 罠でしょこんなの。しかも隣国は何か滅んでるし。
スルシャーナはこのままナザリックに行くのを躊躇った。どう考えても殺す気で呼んでるとしか思えない。しかし行かなければ、今度は力に訴えてアインズ・ウール・ゴウンが何をするのか分かったものじゃない。
(その考えは正しい。俺たちは糞DQNギルドで、実際にこの世界で数百万殺害なんて実行した基地外集団だからな)
そこでスルシャーナは、とある勢力に助けを求める事にした。以前から接触を試みてきていた集団で、ナザリックと同じように亜人の虐殺を行っている危険なプレイヤー達。法国からずっと南にある砂漠に都市を築いた、のちに八欲王と呼ばれることになる天空城塞のギルドに、アインズ・ウール・ゴウンよりはマシかもしれないと対ナザリックを要請したのだ。