モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
「スルシャーナさんをぶっ殺して法国の士気を瓦解させ、あとは楽勝の狩場だ! しようとしたら、他のプレイヤーギルドを巻き込んでしまったと……」
愚行過ぎる。俺に捧げる
そんな状況で法国を狙おうとした結果、最悪の相手が敵に回ってしまった。
「……それで。それで、スルシャーナさんが天空城塞に向かい、そのあとはどうなったのですか?」
「法国のプレイヤーが、罠にかからなかったことはデミウルゴス様やアルベド様も勘付いていました。ならば主が不在の間に、法国を攻め落とすかと準備をして。しかし、八欲王のギルド拠点は移動可能な天空の城。その前に、ナザリックの上空に移動してきました」
スルシャーナの願いを、八欲王は聞き届けたのだ。というよりも、聞き入れざるを得ない。なにせ相手はあのナザリックだ。DQNギルドランキングでも不動の1位で、恨みを買い過ぎたせいで1500人の討伐隊を組まれるようなギルド。そこが亜人種の国を殲滅して、次は法国だと狙っている。
法国が倒れたらその次、さらにその次。いつかは自分達が興した国、エリュエンティウにまで攻め込んできてもおかしくはない。それならば、そうなる前に叩く。そう考えたとしても、そこまでおかしくはない。
「天空城塞から降り立った八欲王とスルシャーナは、アルベド様及びデミウルゴス様との会談の場をナザリックの外に要求しました。その要求に従い、御二方はナザリックの表層部で話し合いの場を設ける……振りをして、多数の悪魔やアンデッドの包囲網を形成。愚かなプレイヤーを抹殺しようと企てました」
が、相手は百戦錬磨のプレイヤー。天空城のギルドは、全盛期にはセラフィム、トリニティ、ワールド・サーチャーズ、2ch連合に次ぐギルドランキング5位の上位ギルドだ。そこに集まったメンバーとなれば、それは疑り深くて当然。どうせアインズ・ウール・ゴウンのことだから、罠ぐらいは当たり前に仕掛けてくるだろうと向こうも傭兵NPCや拠点NPCをこっそり配備しまくった。
そして会談当日。どうせこれから殺すのだからと、これでもかと相手を虚仮にするナザリックのカルマ値極悪組。その様子を見て、あ、こいつら何があっても殺さないと駄目だと静かに悟る八欲王&スルシャーナ。ついでに言えば、ギルドメンバーが出てこなかったことも八欲王の癇に障ったらしい。
そのままナザリック表層部及び周囲一帯の平原は、お互いのモンスターとモンスターが戦う戦場に早変わり。ナザリック側はプレイヤーを殺さんと、守護者やルベドが全力で殺しに行った。
ところがそうは上手くいかない。なにせ相手には──
「ワールドチャンピオンがいたんですね」
「はい。その戦いには、私たち幽閉組は不参加でした。なのでデミウルゴス様達からの伝聞になりますが、
謎の位階魔法とやらを詳しく聞いて、俺はその正体がすぐに分かった。なにせその魔法も、ワールドチャンピオン並にユグドラシルでは有名な
「ワールドガーディアンだ。その人物が何者なのかは分かりませんが、その魔法が使えるのはワールドガーディアンしかいません。ワールドチャンピオンに、ワールドガーディアン。こうなると、その他のプレイヤーも大概な腕前だったのでしょうね」
事実、驚異的な力の前に守護者らは敗北した。ナザリックのNPCは、シャルティアやコキュートスなどはガチの構成だが、それ以外は遊びの要素多めで作成されている。拠点NPC作成に使うポイントも、レベル1の戦力としては全く役に立たない一般メイドなどに消費していた。それに対して、天空城側は全ポイントを100レベル作成のみに使用していたのか、プレイヤー以外にも100レベルが多数いた。
「攻防戦は、ナザリックの大敗に終わりました。その戦いではワールドアイテム『山河社稷図』と『幾億の刃』が使用され、スルシャーナなるプレイヤーだけは討ち取りましたが、最終的に敗北したことでこの二つは八欲王の手に渡りました……」
攻防戦では、一番狙われたのがスルシャーナらしい。玉座で静かに眠る偉大なる主、モモンガに酷似した姿をしたプレイヤー。棒にも箸にもかからないアンデッドでありながら偉大な主の姿を真似、あまつさえナザリックに歯向かおうとは不届き千万と全力で殺しにかかったのだとか。山河社稷図に閉じ込め、幾億の刃で武装したコキュートスとアウラの魔獣軍団でリスキルし続けた……リスキル?
「まさか、プレイヤーはユグドラシル時代の自動蘇生も兼ね備えていたんですか?」
「そのようです。数十回殺す事で、ようやく仕留めたとコキュートス様がお話しされていました」
最後はワールドチャンピオンとガーディアンが、自分達もワールドアイテムを装備して山河社稷図のフィールドに突撃。アウラは魔獣軍団を盾にして助かったが、コキュートスは殺害された。しかし遅すぎたのか、スルシャーナはガーディアンの腕の中で死んでいった……。
宝物庫から持ち出したワールドアイテムが奪われ、守護者含むナザリック戦力は大半が討ち死に。ルベドやガルガンチュアすら、向こうも戦略級攻城ゴーレムやらを持ち出したせいで破壊されたらしい。助かったのは、パンドラが宝物殿から出る際に持ち出したギルド指輪を預かっていて、ナザリック内部に転移で逃げたアルベドと、山河社稷図でフィールド展開して逃走を試みたアウラのみ。山河社稷図も、この時に攻略されて奪われてしまった。向こうにもかなりの損害を出したらしいが、結果だけ見ればたしかに大敗としか言えない終結だ。
「そう言えば、どうして八欲王の名を知っているんですか? 天空城塞の八人が、その名で呼ばれるのはもっと後のことですよね?」
「脱出した私達は、当分の間ナザリックの外で隠れ住んでいましたわん。その時に、ナザリックに戻れるタイミングを見計らうための情報収集をして、ナザリックを滅ぼした敵の異名を知り得ましたわん」
ナザリックのNPC達を蹴散らした八欲王は、しかしナザリック内に進軍はしなかった。
「警戒していたんでしょうね。勝ったからと迂闊に踏み入れば、ナザリック内には大量のトラップやギミックがあります。大討伐隊とのあれこれで、第八階層の秘密兵器も秘密じゃなくなっていた」
だから彼らは内部侵入はせず、外に繋がる唯一の入り口を封鎖した。中央霊廟まで破壊して。
「システム・アリアドネを利用されたんですね。ギルド拠点は、入口から最奥まで必ず辿りつけるような構造にして、一本道にしなければならない」
このルールを逸脱すると、ギルド拠点にはペナルティが科される。拠点の維持には資金が必要になるが、この維持資金が一気に増加してしまう。
「その通りです。後詰として八階層にいたオーレオール様と生き残ったアルベド様の手で、僕は全員復活しました。そして、システム・アリアドネにより、ギルド崩壊が加速させられたのを察してしまいました」
この時には、流石に幽閉している場合ではないとパンドラやセバスらの謹慎も解かれていた。だが謹慎を解いたからと言って、だからなんだというのか状態だ。地表部での攻防戦で負けたことにより、ナザリック側の戦力は大幅に低下している。負けたという事は、装備類が全てドロップする。つまり地表での攻防戦に参加したNPCは、アルベドとアウラ以外、全員主武装を失ってしまった。
資金消費の加速に、戦力の低下。はっきり言えば最悪の状態だ。しかし、宝物殿に行けば……まだ自らの主たちが使った装備類がある。
「これを使う事については、恐ろしいほどの怒号が飛び交いました。偉大なる創造神達に対して、申し訳ないと思わないのかと」
「でも、そんなことを言っている場合ではないですよね?」
「……はい。だから、最後には使う派が主流になりました。主流となりましたが、この判断は遅すぎました」
「どういうことですか?」
「奪われていたんです。敵にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを」
「……どうやって? 指輪を預かっていたのはアルベドさんだけですよね。でも、アルベドさんは生還している……まさか、モモンガの指輪が?」
「その通りです。シズ様が使用された後、再びモモンガ様の指輪は御返しされていましたわん。その指輪が無くなっていたのですわん。それだけでなく、八欲王は指輪を使ってシズを拉致しましたわん」
「なぜ? 指輪をどうやって俺から奪った? なぜピンポイントでシズを拉致した? 指輪だけならまだ分かります。でもシズを……ギミックを解する彼女の拉致なんて、知っていなければ分からない筈です。どうやってその情報を敵は知り得たのですか?」
「デミウルゴス様は、もしかするとワールドアイテムを使われたのかもしれないと考察していました」
「ワールドを?……そうか! お願い系か!!」
俺は気づく。天空城規模のギルドであれば、運営お願い系のワールドぐらいは持ち得るだろう。この世界では運営なんていないから、もしかするとお願い自体が素通りで叶うようになっているかもしれない。
「ナザリックに直接ワールドアイテムで影響を及ぼすことはできません。なぜなら、『諸王の玉座』があるから。けれど、ナザリックの攻略法を知るぐらいなら……おそらく通る」
「モモン様の考察通りかもしれません。気づいた時には、ギルド指輪は奪われギミックを熟知したシズは敵の手に落ちましたわん。アルベド様の命を受けて、すぐに毒への完全耐性を持ち、装備を失ったとは言え、それでも守護者最強のシャルティア様が宝物殿に向かいましたわん。そして……帰りませんでしたわん……」
宝物殿で何があったのかは不明。シャルティアをもう一度蘇らせて話を聞こうにも、金貨は全て宝物殿にあるから蘇生不可能だった。けれど確実なのは、ナザリック側が気づいた時には、敵は全ギミックを知るシズから情報を奪い取り、宝物殿に侵入していた。あそこにあるトラップも、シズが捕らえられた時点で全て役立たずになる。
「向こうは宝物殿に一人だけでも侵入すれば、あそこに飾ってあったギルドメンバー達の指輪を全て回収できる。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが40個敵の手に渡った。宝物殿に向かったシャルティアも生きて帰ってこなかった以上、それも奪われたから41個全てが向こうに渡ってしまった」
詰みだ。こうなっては、ナザリック側にできることなんて一つもない。肝心の補給線と呼べる宝物殿を先に押さえられた。話によれば、宝物殿のギルド維持資金の自動処理は手動処理になっていた。つまり、ナザリックの誰かがあそこに向かわないと、資金の処理が出来ない。けれど指輪を全て失ってしまったから、宝物殿には誰もいけなくなった。
「そもそも、宝物殿の資金が奪われた以上、絶対にナザリックの維持は出来ない」
「その通りです。もはや、我らに残された選択肢は多くありませんでした」
敵が指輪を持つ以上、いつでも転移してナザリック内を荒らしまわれる。生き残ったNPC達は、玉座の間で常に相互警戒をするしかなくなった。
指輪を取り戻そうという案も出たらしいが、そのためには封鎖した入口外で出待ちしている100レベル&高レベルの傭兵含む軍団を殲滅する必要がある。一度大敗した相手に、それもルベドや主武装があった時に大負けした相手を殲滅する。不可能だ。その時と違い、パンドラ&セバスと100レベルが2名追加されるが、追加されたところでだからどうしたという戦力差だ。
「宝物殿の資金が奪われたから、あれを使って傭兵NPCも更に補充された。とてもじゃないが、この状況を覆す方法はナザリックにはない……」
八階層まで来てくれれば、まだあれらで殲滅できた。だが、絶対に来ようとはしない。ナザリックが維持資金問題で死滅するまでは、八欲王は包囲だけに留めた。
「もはや時間の問題でした。ナザリックの完全敗北は目の前に。徹底抗戦して最期を迎えるか、投降して屈辱を味わうか。大半の僕は、徹底抗戦を選びました。何があろうとも、このナザリックに真なる敗北は許されないと」
「しかし、私やパンドラ様の意見は違います。たとえ何があろうとも、モモンガ様の亡骸を辱められてはならない。そのためにも、ナザリックからモモンガ様の亡骸を脱出させるべし」
「その意見を、アルベド様とデミウルゴス様は渋られておりました。なにせセバス様はモモンガ様を亡き者にしたかもしれない主犯です。けれど、直接の僕である私が説得することで、ようやく全員の納得を得られました」
「次にメンバーの選出が行なわれましたわん。モモンガ様を護衛する以上、戦力として十二分で無ければいけませんわん。護衛メンバーを癒す要員も」
「それで選ばれたのが前衛にセバスさん、ジョーカー役で基本前衛後衛支援全てをこなせるパンドラさん。回復役のペストーニャさん。それにアウラさんが……斥候?」
なるほど、バランスはいい。パンドラにセバスにペストーニャは幽閉されていたから、装備類などが全て無事。アウラも生き残った組なので装備類は問題なし。本当は人員をもっと増やしたかったらしいが、人数を増やせば脱出が勘づかれる。少数精鋭で四人だけの選出となったわけだ。
「もう一つ。敵はモモンガ様の名を、地表の攻防戦において呼ばれていました。ギルド長のモモンガはどこだと。このまま脱出したとしても、モモンガ様がいないことが発覚したら、敵は捜索隊を組むかもしれません」
そこで俺の装備類を、傭兵モンスターのオーバーロードに着せて影武者にしたらしい。本当はモモンガ玉も残すべきではあったが、この専用ワールドアイテムだけは俺の副葬品として残したかったのだとか。
「あとはタイミングでした。指輪が無い今、ナザリックから直接転移で脱出は叶いません。維持資金が尽きて、ナザリックの防衛システムが全て死ぬのを待つだけです。それを待つ間、私はこれをアルベド様から預かりました」
そう言って、パンドラが自分のインベントリからとあるものを取り出す。俺はそれを見て、最初何なのか首を捻った。暫くしてようやくそれの正体が分かった。
「
「理由は不明ですが、タブラ様がアルベド様に預けていたようです。至高の御方が預けたのであれば、アルベド様が引き続き所持しておいた方が良いと。そのおかげで、宝物殿が陥落しても、こうしてモモン様にお返しすることが出来ます」
「あ、ああ。それなら、ありがたく頂いておきます」
タブラさん、ホワイ? どうしてアルベドに持たせていたのか不明だが、八欲王の手に渡らなかったので良しとする。モモンガ玉と違って俺専用ではないが、所有者と呼べるのが俺しかいないので仕方ない。とりあえず背負い袋の中に入れておく。
「そして、その瞬間は来ました。ナザリックのシステムが停止して、転移阻害が消滅。私はウルベルト様の御姿に変化し、敵がナザリック内に侵入するのを見計らって<転移門>を使い、セバス様達と共に脱出を」
「しかし、運悪く見つかってしまった。その敵をアウラさんが足止めしている間に、パンドラさん達はモモンガの亡骸を持って遠く離れたんですね」
その後、ナザリックで何があったのかは三人も知らない。全員が特攻して亡くなったのか、それとも意見を翻して自分達のように脱出したのか。一つだけ確かなのは、その日。ユグドラシルにおける難攻不落の要塞、ナザリック地下大墳墓は壊滅した。
星よ、流れ星よ。俺たちは願う。忌まわしき邪悪なる地下墳墓の攻略法。それを俺たちに授けてくれ……ああ、なるほど。指輪とそのNPCがあれば、完全に攻略できるのか。
ならば重ねて願う。星よ、俺に指輪を届けてくれ……