モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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アインズ・ウール・ゴウン

 どうしてナザリックは滅んだのか。それを全て聞き終えた俺の感想はと言うと──

 

(悲しいが自業自得だ。俺に死を捧げるなんて、別にしなくとも良い行動をして、結果的に滅ぶ要因になった)

 

 スレインに手を出そうとしていなければ、スルシャーナは八欲王に救援を依頼することもなかった。そもそも先に鋼殻の竜王(シールド・ドラゴンロード)の国を滅ぼしていなければ、スルシャーナはたぶん色々と協力してくれた。シールド・ドラゴンロードもノコノコと敵地に来てしまうぐらい純粋な性格だ。その竜王と協力関係を築いていれば、この地での生活基盤はどうとでもなった筈。八欲王に見つからないように立ち回り、維持資金だけどうにか捻出しながら隠れ住んでいれば、現代まで生き残れた可能性の方が高い。

 

(仮に八欲王に見つかったとしても、シールド・ドラゴンロード経由で他の竜王と共同戦線を構築すれば、まだ対抗できた)

 

 それにGVGでギルドメンバーの神器級装備を温存したのも悪手だ。創造主への忖度を優先したのも最悪の一手。ワールドアイテムの持ち出しについてすら、結構揉めたようだし。

 

(仮に八欲王と戦うにしても、先に頭上を取られた時点で敗北は濃厚。土下座してでも、靴を舐めてでもその場は凌がないといけない)

 

 NPCにはそれが出来なかった。至高の御方に創造されたプライドが、そんな屈辱の一手を許さない。おそらくだが、シールド・ドラゴンロードを労なく殺害し、一つの国を簡単に滅ぼしてしまった時点で、ナザリック側は油断し慢心していた。

 

 なんだ、やっぱり自分たちは最強じゃないか……そんな風に。だから八欲王との攻防戦において、パンドラ達の謹慎を解いていなかった。自分たちなら勝てると見誤って。

 

 結局のところ、ナザリックが壊滅したのは敵対者を自ら招いてしまったからだ。

 

(せめて俺もその場にいれば、絶対に天空城塞のギルドとの敵対なんて選ばなかった。それ以前に、法国相手に有利な条件を付けられるよう、頑張って営業活動していた)

 

 俺が命を注いだ場所に対する評価としては残酷かもしれないが、俺が本当に愛したのはギルドメンバーと、彼らと築いた思い出だ。この10年間でそれを自覚したからこそ、割かし滅んだナザリックの様子を見ても冷静でいられる。ここは所詮は容れ物、皆がここを離れ、俺が死んだ瞬間に数多くの思い出も電子の海に還っていった。

 俺は語り聞かせてくれたパンドラ達を見る。ここにいる三人は、こうして話した分多少の情も湧いてくるが、そうではないNPC。例に出すならばシャルティアか。宝物殿に向かい、その後死亡した彼女に、俺はちょっとは可哀そうという感情を持つが、それ以上の表現は出てこない。ぺロロンチーノさんがこれでもかとユグドラシルでシャルティアについて語り聞かせてくれたが、俺が知るシャルティアとはそれだけの情報。10年前に過ぎ去った過去の情景でしかない。

 だから──

 

「そうですか。そうして、ナザリックは滅んだんですね」

 

 言外に身から出た錆ですねと感情を乗せる。それが届いたのかパンドラは体を震わせ、セバスとペストーニャも身を小さくしている。

 

「……お怒り……ですか」

「多少は。敵対者である八欲王に対する怒りもあります。俺と、俺の仲間達が紡いだ場所を荒らしたことに対する怒りが。ですが、根本的な原因は、不必要な侵略行為を行なったこと。無意味にスルシャーナさんを刺激して、八欲王にナザリックが、アインズ・ウール・ゴウンがいると知らしめてしまったこと。誰に対する怒りが一番強いかと言えば、統括守護者アルベドさんと、参謀であるデミウルゴスさんに対するものです」

 

 フレーバーテキストを設定したのは俺たちだ。だからこの2名のNPCは、設定された通りに動いただけかもしれない。それでも知恵者だと頭脳能力を与えられていたのであれば、もっと慎重に動くべきだ。慢心して油断して、自分達であればどうにかなると考えた上での、迂闊な行動による破滅。言い方は悪いが同情の余地がない。

 

「俺を蘇らせたい。その気持ち自体は嬉しいです。国一つどころか、世界を滅ぼしてでも救いたいという感情そのものは。けれど、それを優先した結果、反対していたセバスさん達を話し合いの場から除外して、結果的にここを滅ぼさせてしまった……いやはや本当に──」

 

 ──素晴らしい慧眼と智謀知略ですね

 

 俺の突き放した言い方に、セバスらは頭を垂れたまま身じろぎ一つしない。俺も言い過ぎたかと後悔するが、言葉にした以上は覆す気はない。タブラさんとウルベルトさんが作成したNPC以上の感情が無い相手に、これ以上どんな言葉を持てと言うのだろうか。

 精神安定が働くほどの怒りでもないので、俺は深呼吸を数回だけして感情を整える。

 

「……脱出した後、セバスさん達はどこに隠れ住んでいたのですか?」

「私達は……私達は、鋼殻の竜王が治めていた、滅んだ国の首都で身を潜めました。ここであれば元から滅んでいるので、八欲王も早々探しには来ないと考えて」

「その間に、パンドラズ・アクター様が世界を巡り情報を集めてくださいましたわん。百年も経つ頃には、八欲王も寿命や内輪揉めで亡くなったのか脅威も過ぎ去っていましたわん」

「そろそろナザリックに帰還したとしても、問題ないと判断されたんですね」

 

 そしてナザリックに戻り、三人は滅んでしまった生まれ故郷を目にした。もはや誰もいない本当の墓を。

 

「パンドラ様が御方の姿を取り、二度と見つからないようにと魔法で墳墓全体を土で覆い隠しました。その後内部には転移魔法で」

「第十階層まで行けば、玉座が残っていましたので再びモモンガ様を安置し……モモンガ様の御眠りが妨げられぬよう、我ら三名は永久にこの場で守護者をすることを決定したのです」

 

 それがこの三人の物語。八欲王が大暴れしたのは、今から500年前のこと。没したとされるのが400年前だ。つまりパンドラ達は、400年間ここにいたのだ。全てが消え去ってしまったここで、ずっと……

 

「なぜ滅んだのか。どうして八欲王に滅ぼされたのか。その全てをお聞かせ頂いて、ありがとうございます」

 

 これで……ここですることは全て終わってしまった。知りたい事も全て知り、回収したいと思っていたワールドアイテムをなんとか二個は確保できた。何もないここは、もはや俺の知るナザリックではない。

 そうだ、もう一つ回収したいものがあった。

 

「そこのモモンガですが、俺がそれを頂くことは可能ですか?」

「モモン様が創造なされたアバターですので、勿論モモン様の物です。何かに使われるのですか?」

「俺のアンデッド支配で動かせないか確かめてみます。それで駄目なら、新しく杖を作成しようと考えているので、それの材料にしてみます」

 

 オーバーロードはこの世界に自然に出てこないアンデッド。モモンガは100レベルアンデッドなので、材料にするには悪くない筈だ。

 

「あ、でもそうすると、皆さんのお役目が無くなってしまうんですね。俺がモモンガを持っていってしまったら、どうされるんですか?」

「それは……」

 

 ナザリックに戻ってきたのは、俺の安置のため。既に滅んだここで出来る事は何もなく、モモンガを守るぐらいしかやることはない。ではこれからどうするのか? 三人が何を考えているのかを思考すれば、口にしたいことはよく分かる。けれども、それを口にするのは許されないと考えているようだ。なにせここを守る事が出来なかった自分達が、自らの願いを口にしてよい訳がないと思い込んでいるから。

 

「……どうでしょう、皆さん宜しければ、俺の村にでも来ませんか? カルネ村はお手伝いさんをいつでも募集中なんです」

「よ、宜しいのですか!? 我らは、モモン様が不在の間に、ここを守り切る事が出来なかった無用の長物です。この拳も、モモン様の一撃で破壊される程度の役に立たない代物。今更、我らが何かの役に立てるのでしょうか……」

「役に立ちますよ。それに守るも何も、セバスさん達は幽閉されていたんです。なら何の責もありません。ここが滅んだ責は。むしろ、俺としては俺のワールドアイテムと、真なる無だけでも守り切ってくれたことに感謝したいくらいです」

「私達がモモン様についていったとして、御迷惑にならないでしょうかわん? 大多数のこの地に住まう者にとっては、私たちはかつて大量虐殺を行なった者の仲間ですわん。もしもそれを他者に悟られたら、モモン様にとって不利ではないでしょうかわん?」

「それは大丈夫だと思いますよ。当時の当事者なんて、大部分は八欲王が殺害しています。それにここにいる三人は、虐殺にも八欲王との戦いにも不参加ですよね。つまり、顔を知られていない。仮に他のギルドやプレイヤーが来たとしても、ペストーニャさんもセバスさんも、パンドラさんも、表舞台には一度も立ったことがないNPC。アインズ・ウール・ゴウンのメンバー以外には、知りようがないんです」

 

 当時を知る存在となると、評議国の白金の竜王になるのだろうが、500年前はこの辺りを本拠地としていなかった。どこに住まいがあるのかは法国も掴んではいないが、評議国が出来たのは200年前の魔神戦争が終結してから。要するに、ツァインドルクスも当時の状況は殆ど知らない筈……たぶん。

 

「もちろん、皆さんがこのナザリックに残られるのであれば、俺はその意思を尊重します。無理強いはしません」

「いいえ、残りなどはしません! 不肖の息子ではありますが、モモン様の下こそが私の仕える場所でございます。無理強いなどではありません!! 地獄の果てであろうとも、必ずや共に参ります!!!」

「元気ですね、パンドラさん……息子?」

「Mir geht es gut, so Gott will」

 

 何語? ドイツ語喋るんだっけパンドラは。それに息子って……自分の制作物を我が子同然と呼ぶ人もいるが、パンドラはどうだろうな……あとそのオーバーリアクションも何? え、それ俺が設定したの? ……俺はモモン、鈴木悟が当時何を考えてたのか知らない。だからノーカン。

 

「私も、モモン様にお仕えすることを許されるのであれば、モモン様の従者としてお傍に付き従いますわん。もはやナザリックのメイドは、私ただ一人。かつてのような完璧と呼べることは不可能かもしれませんが、それでもこの身は従者として創造された体。御身の誠心誠意、忠義を誓わせて頂きます」

「私もペストーニャと同じです。何も守り切れなかったこの拳が、モモン様のお役に立つと言われるのであれば、再び至高の御方に付き従わせて頂きたい。必ずや、今度こそ! モモン様の居場所を守護してみせるとお約束致します」

「うん……その、とりあえず、言葉遣いをフランクにするところから始めましょうか。今の俺はモモンですから、敬われるのに慣れていませんので」

 

 実際には俺がスルシャーナだと勘違いしている法国の人とかは、俺に結構敬語とかを使ってくるから慣れつつはあるが……

 

「それと、一つお願いがあります。大丈夫だとは思いますが、念のために皆さんの記憶処置をしたいんです。今の俺は法国と協力関係にあり、スルシャーナさんの生まれ変わりだと信じられています。でも、そうではなく、スルシャーナさんを滅ぼしたギルドの長だと判明したら、かなり面倒なことになります。なので、全員の記憶を処理して、新しく俺が創造に関わった従属神という事にしたいんです」

「それは……たっち・みー様のことを忘れてしまう。という事ですか?」

「忘れはしません。<支配>や<記憶操作>で情報が漏れないように、鍵をするんです。なので俺が鍵を解けば、思い出せはします」

「その代わりに、普段はモモン様が創造主であるかのように私たちは認識するようになる……ということですかわん」

「そうなります」

 

 これは非常に悩ましい問題だ。パンドラは俺が創造主だから問題ないが、セバスとペストーニャは違う。恐ろしく悩んでいる。これでもかと悩んだ末に──

 

「……お願いします。もとより、私はあの日ナザリックと共に滅んだ身。再び至高の御方に仕える機会を頂けるのであれば、一時的な記憶封印に賛同させて頂きます」

「右に同じくですわん。ナザリックを守れなかった私達に、選択肢などありませんわん。再び仕えられる至高の御方に、モモン様にご迷惑をお掛けする可能性を少しでも0に近づけるのであれば、私は一向に構いませんわん」

「ありがとうございます。それでは……<魔法修正三重難度抵抗強化・記憶操作>」

 

 コントロール・アムネジアで三人同時に記憶を弄る。修正化によりピンポイントで記憶を操作したりできるように使い勝手を調整したことで、容易くナザリックやアインズ・ウール・ゴウンに関する記憶に蓋を出来る。一分掛からずに、全員の処置が完了した。

 

「おはようございます、モモン様」

「おはようございます、セバスさん。御体の調子はどうですか?」

「特に問題ありません。心身ともに、いつも通りでございます」

「そうですか……自分の事を話して頂いても構いませんか?」

「承知致しました。私の名前はセバスと申します。ここ、ナザリックに隠されていた召喚アイテムを使い、モモン様が創造された眷属でございます」

「ペストーニャさんも、セバスさんと同じですか?」

「はいわん。モモン様にお創り頂いたこの体で、多くの傷と怪我を癒させて頂きますわん」

「パンドラさんは……どう?」

「Kein Problem」

「……まぁいいか。ドイツ語ぐらいは。過去の俺だから……うん。前世の俺がやったことだから、俺にはノーカン」

 

 特に問題なく、今日この瞬間に創造されたと偽造記憶が構築された。たっちさんと餡ころさんに心から謝罪しておく。ごめんなさい、あなた達の作品を汚してしまいました。もしもこの世界で亡くなって、もう一度そちらに転生したら謝りに行きます。それまでは、この二人は預からせてもらいます。

 モモンガの骨を背負い袋に入れる。とりあえず背負い袋に入れまくっているので、そろそろ重量限界の500キロに到達しそうだ。帰ったら荷物整理をしよう。

 俺は背負い袋を背負い直し、セバスさんらと共に地上に出るための<転移門>を開く。俺はゲートを潜る前に、後ろを振り返る。多くの旗が飾られていた、玉座の間。今は何も飾られておらず、玉座以外は何一つない空間を見て、俺は声をかける。

 

「ありがとうございます。ここは間違いなく、鈴木悟(モモンガ)にとって大切な場所でした。色んなことがあって滅んでしまったけれど、それでもここには黄金のような思い出が詰まっていた……ありがとう、みんな。ありがとう、俺なんかと友達になってくれて……たくさんの思い出と共に、今はゆっくり眠ってください。ありがとうございます、俺の人生に彩りを与えてくれて──」

 

 俺の半生が詰まった場所よ。俺の人生の礎だった拠点よ。俺の……人生で初めて得た、たくさんの友達と創り上げた思い出の地よ──

 

「さよなら、鈴木悟の青春(アインズ・ウール・ゴウン)

 

 サービス終了のあの日にしなければいけなかった事。アインズ・ウール・ゴウンの終焉を見届ける。それを終えた今、振り返る事はない。三人を連れてゲートの中に俺は消える。

 大切な黄金(思い出)は心の箱の中に。俺が進むのは、たった一つの道。モモン・エモットとしてのこれからだ。




第一部:幼年期編・完

次回からは第二部:少年期編 11歳~

????・オブ・モモンガ
通称『モモンガ玉』。モモンガが保有することで最強となる、モモンガの名前が刻まれたワールドアイテム。複数の能力があり、現在一つが常時稼働中
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