モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
冒険者組合を出た後、俺たちは全員で黄金の輝き亭に来ていた。
「それじゃ……かんぱーい!」
セバス、パンドラ、俺、アインザック、ガガーランで、杯を打ち付け合う。初めてのエ・ランテルという事で、俺とアインザックは一緒に夕食を楽しもうかという流れになっていた。ガガーランは、最初は俺も良いのかよと言っていたが、世の中袖振り合うも多生の縁だ。それに現役ミスリル級冒険者、それも各都市を巡っている人物であれば、アインザックやパンドラが集めた情報とも違う視点の何かが得られるかもしれない。
最初は奢るよと言ったのだが、子供に世話になるほど貧乏じゃないと断られた。ミスリル級になれば食うに困らない……はアインザックの言葉だったかな。
「お、美味いな。流石は、エ・ランテル一の高級宿だ。こんなもん、貴族様や大商人様にしか食えねえぜ、普通は」
「ガガーランさんは、この宿に来るのは初めてなんですか?」
「初めてだな。俺も稼ぎが悪いわけじゃねえが、ここを普通借りようとは思わねえ。よっぽど金が余ってるやつ専用宿だよ、黄金の輝き亭は」
話を聞きながら、俺も食事に口をつける。お、確かに美味い。フカフカな白パンに肉汁たっぷりのステーキに、新鮮な野菜とちゃんとしたサラダ。料理人も、確実に貴族がお抱えにするような超一流。確かに貴族や儲かってる商人しか食えない料理の数々だ……逆に言えば貴人であれば口に出来る料理で、法国に行けばいつでも食える。贅沢は敵を標榜する国ではあるが、食欲は他種族との闘いにおけるモチベーションになることもあり、けっこうな美食が法国にはある。
それかパンドラに作ってもらえばいい。パンドラのコピーの中には、現実では自然が壊滅したせいで貴重になった食材で料理に拘るのが好きな人もいて、その人物の姿を取れば世界一の料理人だ。新鮮な食材もカルネ村には余っている。
とはいっても、こうして違う料理人の渾身の料理を口にするのは良い事だ。あ、俺のりんご酒取っていかないで。体は子供だけど、毒無効だから飲酒しても問題ないんだよ……果実水も悪くないな、程よい酸味と甘味ですっきりする。
「しっかし、こうして観てると、そんなおっかねえ怪物には見えねえものだな。難度180なんて、俺は聞いた事ねえぞ。その法国の知り合いとやらの測定間違いじゃねえのか?」
「怪物って……たしかに俺レベルは珍しいかもしれませんが、世界にはもっと凄い竜なんかもいるんですよ。隣の評議国に住む竜王とか」
「180より凄いねぇ……200とかか?」
300オーバーです。神官長らの予想では、アンティリーネすら遥かに上回り、下手をしたら俺と同じ400近くまであるんじゃないかなんて推測もある。この世界における最強の名を持つ、真なる竜王。過去にはプレイヤーを……単独で六大神に匹敵する神々を数人同時に相手にして殺したなんて逸話もある、マジモンの最強。
「200……かもしれませんね」
「そんな化け物がいたら、とっくの昔にこの辺は支配されてるだろ……そうだ。ちょっとだけ試させてくれよ。180の剛力ってやつをよ」
「いいですよ。はい」
俺が手を差し出したら、ガガーランが握りしめて動かそうとする。が、まぁ予想通り弱弱しい力だった。アンティリーネと遊んだり、セバスと組手をしてると忘れそうになるが、普通の人間とは力がそんなに強くはない。俺の尺度では、村人もミスリル級冒険者も違いが分かりにくい。だからと言って、驕ってはいけない。驕りは慢心を生み、慢心は油断に繋がり、油断は敗北を齎す。ユグドラシル時代なら一度負けても、それを糧に次に繋げればいいとぷにっと萌え戦術の教えに従えたが、現実での敗北は誰かの……家族や友達の死に繋がる可能性がある。
ペストーニャがいるとは言え、蘇生には大量の金や価値ある資産が必要。なので、負けに繋がる思考は極力省くのが得策なのだ。
などと考えている間も、ガガーランは俺を動かそうと顔が真っ赤になるまで力を籠めているが、それでも俺の体は1㎜も動かない。ついには立ち上がり、全体重をかけて持ち上げようとするがそれでも駄目。俺の見たところ、ガガーランはかなりレベルが高い。20はありそうなので、火滅聖典に入れるかもしれない。どうですか、ガガーランさん、あなたも法国で人類の礎に……はないな。冒険者は普段からモンスター退治をこなしている。六色聖典に入ろうが、やることはあまり変わらない。
「……ぷはぁッ!! ……まじか、ここまでピクリとも動かねえやつなんざ初めてだ! とんでもねえ腕力してるな、モモンは」
「俺なんかで驚いていたら、セバスにもっと驚くことになりますよ。魔法詠唱者の俺よりも、腕力だけならセバスの方がずっと上ですから」
「へぇ、セバスの御爺さんの方……がぁ……魔法詠唱者?」
「あ、はい。法国の知人曰く、俺は戦士よりも魔法詠唱者としての方が適性が上らしいので、一年前から魔法の勉強も始めたんです。最近は簡単な位階魔法なら覚えられました」
えっへんと胸を張りながら、ライター程度の火を灯す魔法を子供らしく披露する。ちなみに簡単な魔法云々は本当。俺が今のところ自力で習得しているのは、第二位階の<保存>や今使っている第一位階の<火の灯り>など。第一位階なんて……とユグドラシルプレイヤーなら言うかもしれないが、位階上昇や修正強化で実質第十位階相当の効果を持つ魔法に変化させられるので、俺にとっては十位階魔法を習得するのと変わらない。このライターぐらいの火にしても、修正位階上昇最強化で<隕石落下>級の魔法に変貌するし。
「その腕力で魔法詠唱者適性って……アインザックよぉ。モモンは、お前さんの話よりもよほどの傑物じゃないのか?」
「そのようだ。いやはや、初めて出会ったときは普通の子供に見えていたのに、蓋を開けてみれば王国史上最高の才覚を持つ、か」
それから、ガガーランがどんなモンスターを退治したのか。俺がどんな訓練をしたのかなどを話すうちに、話題は今日の門兵とのちょっとしたトラブルの話になっていった。
「ははぁ、そいつはセバス達も気の毒だな。あの能無し共に絡まれるなんざ運がねえ」
「俺たちが怪しいのは確かなので、その点に関してはあまり怒ったりもしてませんけどね。それにプルトンさんが助け船を出してくれましたから」
「その節は、本当にありがとうございます、アインザック様。いきなりの<伝言>の中、モモン様への御助力感謝しかありません」
「しっかし、モモンの持っていた封蝋付きの手紙を偽物扱いか。あいつら、曲がりなりにも貴族の御坊ちゃまだろ? なのに、都市長様の封書を見たことがねえもんなのか?」
「それは仕方がない。貴族と言っても、彼らは家督相続から遠く、長男に何かあった時のために予備として教育を受ける次男や三男と違い、まともな教育も受けていない。封書に関わる機会もない以上、見せられたところでそれが貴族の封書とは理解できないさ」
「そいつは結構なことで。それでもよ、アインザックが来て、そいつらはモモンの持つ封書が本物だとは理解したんだろ? 都市長のパナソレイからの召集に対して疑ったんだ。貴族としてのメンツもあるから、あの馬鹿達には何らかの沙汰があるんだよな?」
ガガーランの疑問はもっともだ。王国において貴族の面子は平民の命より重い。子供が貴族の不興を買ったという理由で、小さな村の住民55人全員が殺された……なんて例もあるとパンドラからは聞いている。
その例で言えば、都市長パナソレイは自分の面子を潰された形だ。王の勅命で一つの都市と付随する領地を預かる行政官としての立場もある。お相手が貴族の子息とは言え、家督も相続できないような傍流ぐらいであれば何かしらの処罰はできる……
「それは難しいと思われます。モモン様が貴族の直系などであれば話は違いますが、立場としては平民です。パナソレイ様がお呼びしてくださったとは言え、平民のために貴族家系を処罰したとなれば、ランポッサ三世様のお立場がまた一つ苦しくなります。ですので、今回の一件は不問として処理されます」
「はぁ? なんで国王が出てくるんだよ。ここはエ・ランテルで、王の直轄領地とは言え、モモンの一件に大げさすぎるだろ」
「いいえ、違うんですガガーランさん。関係がなくとも、関係があることにできるんです」
ガガーランがよく分からないみたいな表情をしている。これはなぁ……今の王国上層部のしょうもない小競り合いを知らないと分かりにくいよね。
「前提となりますが、ガガーランさんは、王侯貴族が王と貴族、二つの派閥に分かれていることは存じていますか?」
「いや、あんまりだな。俺は流れの冒険者だから、その辺の事情には詳しくねえんだ」
「端的に言えば、王が一番の権利を保有し、国の方針は王が決めるべきが王派閥。逆に王はあくまでも象徴で、それぞれの地域を治める貴族が個別に国を動かすべしが貴族派です。分かりやすく言えば、貴族がどこまで権利を持つのか? それを巡って、貴族達は政争をして、自分が一番美味しい思いをできるように立ち回ろうとしています」
いつから始まったのかは法国もあまり知らない。200年前の魔神戦争の後始末や、馬鹿エルフのせいで漆黒が壊滅させられたりと忙しすぎたせいだ。
肥沃な大地でずっと平和だったせいか、体が闘争を求めたのかもしれない。なんか気が付いたら貴族同士で協力するのではなく、蹴落としあい足の引っ張り合いをする集団に成り下がっていた。ついでに権力に溺れてしまい、法国が願う英雄の出現を邪魔するかのように、民草にとんでもない圧政を敷いたりし始めた。やんなるね、ほんと。
「ここで重要なのは、王派閥も半分くらいは決して王様に本気の忠誠を誓ってるわけじゃないんです。あくまでも貴族派閥を叩き潰した後、私は以前から王に忠誠を誓っていましたし、その分の褒美はありますよね? ……自分の利益のために、王を利用したい。そんな貴族の集まりです」
「……なんだか、王様が蔑ろにされてるような話だな」
「事実蔑ろにされています。王としての権利を強制行使すれば、貴族派閥の中でも最大の力を持つ、六大貴族が離反して国は二つに割れます。なので、ランポッサ三世も、必要以上に貴族に対して強く出られません」
「ここで重要なのは、貴族に強く出られない。この一点です。もしも、直臣であるパナソレイ様が貴族子息を強く罰するとします。こうなると、そのことを出汁に貴族派閥はランポッサ三世様を強く批難します。なぜ平民如きのために、貴族を罰したのだ……と」
そして面倒なことに、王派閥も王派閥でこの件でランポッサに諫言という名目で自分の要望を押し通そうとする。貴族よりも平民・民草を優先するような愚物には、経済都市は任せられません。ぜひ、私にあの都市をお任せください……こんなところかな。
別に、この件で虚仮にされた貴族子息に、本気で可哀そうと思う貴族は殆どいない。ただ難癖でもいいから、自分が得をできる椅子に座ろうとする。それだけの話。
(ま、逆に位の低い貴族に舐められるような人物は領主に相応しくないとか言い出す可能性もあるんだけどな)
結局のところ、ランポッサ三世は舐められているのだ。そして、その侮辱を甘んじて受け入れるしかない。権威を保障するまともな武力と財力がないからだ。権力とは、その背景に逆らう者を押さえ付けられる武力や、首を縦に振らせる財力があって初めて成立する。そんなものを持たずに俺は偉いぞと誇示しても、子供が無敵バリアと叫ぶのと同じだ。
もしもランポッサか、次の王にせめて武力さえあれば。状況は確実に改善される。王の権威を保障する手段が出来るからだ。多数の貴族は反発するだろうが、王に逆らう愚か者共への制裁としてその武力を背景に押さえつけて、じっくりと状況を変えていけばいい。
(しっかし……貴族ねえ。前世でのエリート共を思い出す。転生したのが俺じゃなくてウルベルトさんだったら、今頃王侯貴族全員有無を言わせず皆殺しにされてるぞ)
あの人は勝者総取りの偉そうな連中がこれでもかというほど嫌いだった。俺もエリートは好きではないが、ウルベルトさんのあれは筋金入りだ。確実に、どこかの御屋敷に<大厄災>が撃ち込まれている。
とにかく、なんでもいいから自分だけが得したい。そのためなら、王様だろうがなんだろうが使ってやる。そんな根性の持ち主が、俺が生まれた国を支配する貴族のボリューム層だ。ほんと嫌になるね。
ニグンなんかは、神に許されるなら俺に代わり人類の汚点共に神罰を下したいと言っていた。これは最終手段なので今のところ実行するつもりもさせるつもりもないが、もしもカルネ村の財を強制徴収などしようとしたら話は別だ。俺が何も言わなくともガチギレ神官長及び激おこ六色聖典が聖戦の名のもとに皆殺しに行くと思うし、俺も積極的に止める気もない。引き金を引いたのは向こうなので、まぁ勝手に滅んでくれと来世を祈るだけだ。
「はぁん、俺も色んな都市を巡っちゃあいるが、貴族ってのはアホしかいねえんだな。亜人と殺し合いでもすりゃ、現実が見えるのかね」
「まともな訓練をしてない者を戦わせても、無駄に死人が増えるだけでしょうね。あのような拙い技術では、勝てたとしても子供のゴブリン程度かと思われます」
「……難度140から見て、拙くない技術の持ち主って誰だよ」
「無論、モモン様です。本気のモモン様の強さは、神をも超え悪魔をも滅ぼしますので」
「とんでもねえ評価だな」
それからも楽しく? お喋りしながらの食事を終えて、ガガーランは宿代までは払えねえと言って消えていき、アインザックも自宅に帰ると帰路についた。俺はと言うと、中々ふかふかなベッドにごろごろ転がる。お~、流石高級宿。法国から貰った寝具の質に近い。
<物体浮遊>で本を頭上に浮かせ、横になりながら俺は魔導書を読み漁る。近接職を育てるのも大事だが、魔法の勉強をして使える位階魔法を増やしクラスを獲得するのもまた大事だ。この先……どれだけ強くなったとしても、俺はまだそれでも足りないと考えている。そうしていると、そのような姿勢で本を読んでいると目を悪くされますよとパンドラが話しかけてきた。
「肉体ペナルティ耐性があるから、視力が落ちる事はないよ」
「そうですかね? 絶対はこの世にない、それがモモン様の御言葉でしたよ?」
言われてみればそれもそうか。起き上がり、椅子に座って本を読む。
「モモン様は勤勉ですね。このような時でも、新しい力を手にする事に余念がありません。既に最強と呼べる座についておられますのに」
「それは分かんないぞセバス? なにせ竜王が、近くの国にいるんだからな……それに、強くなったとは言え、俺が想定している敵に通じるのかはまだまだ分からない。俺が想定する敵には……な」
現状の仮想敵はツァインドルクス。けれど、俺が想定するべき敵は難度300や400ではない。もっと遥か上の怪物。例えば、百年の揺り返しで訪れてくるかもしれないギルド。天空城塞や地下大墳墓に匹敵する拠点である氷河城や炎巨人の誕生場を有するギルドが来て、彼らが力の限りを尽くしたら今の俺単体では普通に無理。MPに強さを依存する俺は、魔法強化タレントで継戦能力が上がったとは言え、それでもGVPに耐えきれるほどではない。もっと強くなれば話は違うかもしれないが。
(法国で百年の揺り返しについては聞いていた。それは俺のことだと思っていたが、俺が実際に転移したのは、魂だけとは言え今から500年前だ。だから……確実に来る。プレイヤーはやってくる)
それどころか、俺が想定しているのはもっと最悪。プレイヤーが来たのだから、ひょっとしたらユグドラシルのモンスターだって来るかもしれない。それがまだ弱いモンスターならまだいい。だが、もしも。レギオンレイド級のボスモンスター、その中でも最高難度コンテンツだったワールドエネミーが来たら? あの、フル神器廃人、上の上プレイヤー36人で挑む大縄跳びがこの世界に来てしまったら?
(備えないといけない。慢心も油断もできない。ユグドラシル時代の弱いAIですらあの難易度だった。こっちの世界に来て、セバスらのように意思を持ち、人のように考え最適解を選ぶようになれば最悪だ。目標は、成人するまでにモモンガパワー抜きで
もうその時はその時だ。諦めずに知恵と力を振り絞り、どうにかするしかない。頑張れ、俺。カルネ村と、それに付随するこの世界を守れる分は守るんだ。
流石に夜も遅くなってきたので、俺は就寝する。睡眠無効があるので寝る必要は本来ないが、寝ないと身長が伸びないと聞いた事があるので俺はきっちり睡眠時間を8時間取るようにしている。リーチの長さと質量は武器になるからな。
次の日は都市観光に時間を費やす。
せっかくなのでバレアレさんの所に顔を出したら、息子さんのンフィーレアくんに出会った。かなり利発そうな子で、お兄ちゃんフィルターなしだと確実にエンリより賢い。
最後にはお兄ちゃんと呼ばれたりもしたのでもっと遊んであげたかったが、エ・ランテルで回りたい場所はほかにもある。都市内のいくつかを回り、こういう都市かと言うのを確かめてから、また黄金の輝き亭に戻り宿泊して次の日。
「行こうか」
俺は都市長パナソレイの邸宅の前にいた。ドアノッカーを叩き、使用人に案内されて客室で待つこと15分。主の準備が整ったらしいので、俺は案内に従ってその部屋に入室した。
・帝国と戦争をしていないのでどの勢力もまだまだ元気
・王にガゼフを始めとした信頼できる腹心が殆どいない
・ガゼフがいないから当然王国戦士団もいないのでランポッサの権力が原作時代より低い
・レエブンですらりーたん誕生前なので王位簒奪野心家の頭王国貴族してる
・ラナーはまだ4歳
・奴隷制度が現役
・冒険者報酬金制度がまだないので冒険者の成り手がいなくて国防力が低い
・ボウロロープ侯の精鋭兵団もいないから国防力がetc
上記に加えてジルクニフが小競り合いでボコボコにして鼻っ柱をへし折りレエブンがりーたん誕生を機に王派閥貴族派閥バランス調整内乱回避おじさんに転身するまでは原作の数倍王国貴族が増長してる暗黒時代だよ