モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
「よくきてくれたね。わたしがぱなそれいだよ。ごしょうたいにおうじてくれて、まことにありがとう」
ぷひーと鼻を鳴らしながら、その人物は俺たちに挨拶してくれた。都市長にして王直属の行政官。見た目はちょっと髪が薄く、お腹はでっぷりと肥えている。見た目は言い方は悪いが、凄い肥満のブルドッグだ。とてもではないが、外見だけならば優秀さとは程遠い。
しかし……俺はちらりとパンドラに視線をやる。パンドラも目で語ってくれた。どうやら俺の思い違いではないようだ。とは言え、それをまだ指摘するつもりはない。まずは俺たちも挨拶を済ませてから、そちらにかけてくれたまえと言われたので言葉に甘えて応接用の椅子に座らせてもらう。
「まずはかくにん。きみたちがおさめたぜいについて。このとしにはこびこまれたのはしっているけれど、わたしはそれをちょくせつみたわけではない。あくまでも、かみをみただけだ。でも、そのりょうがあきらかにおかしいね。きょねんのひゃくばいにまでふくれあがっている。あきらかにいじょうなりょうだね。これだけのさくもつを、どうやってよういしたのかな?」
鼻が詰まって、舌足らずにも聞こえる声。しかし問う内容は、都市長としてはおかしくはない。なので真実を言葉にするだけだ。
「2年前、トブの大森林でスレイン法国の貴族がモンスターに襲われていたところを救出し、法国に招待されて──」
徴税官にはアンデッド類を秘密にしたが、パナソレイが俺たちの想像する人物なのであれば明かしても問題はない。あくまでもゴーレムとしてだが、人手足りうるマジックアイテムを保有することを伝えた。
「なるほどね。ももんくんのことは、プルトン・アインザックからきいたことがあった。9さいにして、アダマンタイトにとどきうるいつざい。そんなしょうねんが、ほうこくからおれいとして……それはほんとうなのかな?」
「と申されますと?」
「わたしはまじっくあいてむにくわしくはないよ。それでも、こんなだいきぼかいたくがかのうなごーれむなんてものを、いのちのおれいとはいえわたすのかな? それがふしぎでしかたないんだ……ほんとうに、それはほうこくからのおれいなのかい?」
豚のような目に、一瞬だけ野性味が見えた。俺はそれを見て、次にパンドラを見る。セバスは……よく分かってなさそうだ。もう一度、パナソレイに視線を戻す。
一瞬だけ見えたあれが、俺の考えてる通りなら。そして、ここに呼び出したのが想像通りなら。
「……疑われているんですね。出自を考えても、あまりにも荒唐無稽すぎるから」
「うたがっているんじゃないよ。ただただふしぎなだけさ。いのちのかわりとはいえ、どうしてきみにほうこくのきぞくがそれだけしてくれたのか。きくところによれば、じょうきゅうきぞくがのるようなばしゃに、すれいぷにーるまで……ふしぜんだよね?」
「不自然ですか。そうですね、とても不自然だ。あまりにも、ただの農村に生まれた子供のそれじゃない。パナソレイ様の、そののっぺりとした、棒読みにも聞こえる喋り方ぐらい、不自然ですね」
俺の言葉に少しだけ間を置いてから、丸い豚のような目つきが一気に鋭くなった。獰猛な猪にも似た雰囲気すら醸し出している。
「そうか。このぐらいの擬態では、モモンくんの目や耳は誤魔化せなかったかな?」
「ええ。無理に鼻を詰まらせて喋ってるせいか、アクセントに不自然さがあります。見る人が見れば一目瞭然ですよ」
「ははは、これは手痛い指摘だね。では、見るに堪えない演技を見せてしまったお詫びとして、改めて名乗らせてくれるかな?」
「どうぞ」
「パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア。城塞都市にして経済都市エ・ランテルを、我が主ランポッサ三世陛下に代わり預かる行政官だ」
「こちらこそ改めてご挨拶を。エ・ランテル領カルネ村在住、モモン・エモットと申します」
お互いに立ち上がり礼をする。パンドラも完璧なタイミングで腰を折り、セバスもようやく気が付いたのか敏捷さ任せに深い礼をした。
「……では、お互いに本当の挨拶をすませたところで、本題に入りましょうか。私はお礼として法国に招待され、そこで人類史上でも最高位と呼べるかもしれない魔法の才を有していると教えてもらいました。音に聞く帝国宮廷魔術師、フールーダ=パラダイン様をも凌ぎ、人類未踏の領域に踏み込めるとさえ評価して頂いたんです。そこで法国において魔法の初歩教育を学ぶ機会を頂き、私の才は開花しました」
「フールーダ=パラダイン……私は魔法に詳しくない。王国は魔法教育に力を全く入れていないからね。だから帝国の重鎮の名が出ても、どれほどの才なのかは未知の領域だ。しかし、開花……この膨大な収穫量、それは君の魔法が関わっているのか?」
「はい。ゴーレムの使役を始めとした、数多の魔法を学びました」
「ふぅむ。それが本当であれば、魔法とはこれほどの……」
パナソレイさんは改めて資料に目を通している。そこに記されているのは、今年納めた作物の量。たとえ魔法に疎くとも、自分が知る数字に置き換えれば異常さがはっきり示せる。
「モモンくんは、戦士の才を持つと聞いていた。そうではなかったのかな?」
「戦士としての才覚もあります。ですが、本当の適性は魔法詠唱者の方らしいです。サルマン卿の紹介で、法国神官長達に会いそこでも太鼓判を押して頂きました」
「神官長!! 法国の最高責任者達か!! ……これは、どうやら私が預かる陛下の地から、恐ろしいまでの傑物が生まれていたようだね」
……疑っていない。手元にある税徴収の資料と照らし合わせれば、魔法の才覚云々はさておき何かしらの異常な手段は保有していると答えが簡単に出る。あくまでも判断基準は数値か。
「その高価な服に、馬車やスレイプニールを始めとした贈り物。それは本当にサルマン卿なる貴族からの贈り物なんだね」
「はい。と言っても、命を助けたからだけではありません。法国でいくつかサルマン卿から仕事を貰い、それをこなしたことに対する褒美として頂きました」
「……これだけの農作物を産み出す魔法という不可思議な術。農作業以外にも、モモンくんはかなり色々なことができる。そう考えても良いみたいだね。しかし、財の数々は本当か。それに大規模開拓……」
パナソレイは非常に難しい顔をし始めた。その表情と、今まで集めた情報。それに演技を解いたパナソレイは、平民の俺に対して深い礼をできる人物。標準的な王国貴族と違い、重要都市のひとつと言えるエ・ランテルを国王が任せるに足ると信頼して信用する御仁。そんな人物が何を考えているのか、俺は手に取るように分かる。
「パナソレイ様。一つお聞かせ願いたいことがございます。私が産まれたカルネ村。あそこには、今法国から頂いた多くの贈り物があります。同時に、私が開拓した多数の農地や牧場が。それらは、貴族にとってどれほどの価値が御有りだと考えますか?」
「……そうか。どうして私がモモンくんを城塞都市にまで呼び立てたのか。その理由は、既に目星がついていた訳だ。ああ……惜しい。私達王国が軽視する魔法の才を持ち、戦士として超一流。頭脳の方も、陛下を軽視し軽んじる者どもよりも、ずっと……正直に言おうか。王直轄領とは言え、そこに下手な貴族を上回る財力を持つ平民が現れた。となれば、間違いなくモモンくんの憂慮通りの事が起きる」
「やはりですか。ランポッサ三世陛下では、貴族はまだしも平民は庇えませんか」
「難しい。一昨日の、彼らと君たち一行の揉め事に関するあれこれは私の耳にも届いている。モモンくんが貴族であれば、私も大手を振って彼らを処罰できた。私の封蝋付きの封書を見ながらも、君たちを尋問しようとした。これは私に対する宣戦布告だよ。貴族らしく、彼らの親に謝罪とお詫びを要求できた」
「けれど平民の俺がとなると駄目。なぜなら、王国において平民とは昆虫で貴族だけが人間だから。普通ならパナソレイ様に、もっと言えばパナソレイ様を選任した陛下に対する侮辱そのものだ。でも、相手が平民となれば話が違う。むしろ、平民如きに封蝋を使用して、貴族子息に恥をかかせたパナソレイ様の判断が間違っている。そんなところですか?」
「確実にね。私が六大貴族並の権力を有するなら、そんなくだらない難癖は斬って捨てられる。けれど、残念なことにそこまでの力はない。私の持つ力とは、陛下のそれに準ずるものだよ」
「……陛下の権威はそこまで軽んじられていますか?」
「違うと言いたいね」
言いたいであって、言えるじゃないか。ま、事前の調査通りというところだ。パナソレイとランポッサは、貴族の顔色を伺わないといけない立場。国王とその直臣が、配下に対して忖度しないといけない。それも仕方ない話ではある。仮に国内の権力を全て足して100%としよう。その時、ランポッサが持つ権力とは一体何%なのか?
(答えは3%ぐらい。六大貴族が大体一人あたり10%で全員足して60%ぐらいだから酷い有様だ。そんでもって、六大貴族の内、王派閥はウロヴァーナ辺境伯だけ。ペスペア侯は息子に家督を譲る動きがあり、どちらの派閥につくか様子見。ブルムラシュー侯は王派閥を名乗っているが、実際には鉱山の権利を独占したりと王に内緒でやりたい放題。貴族派閥のボウロロープ侯は、王との政略結婚も考えてくれているが、これはまだ王の座自体は役に立つと知っているからに過ぎない。リットン伯は一番駄目、こいつは六大貴族でも一番自己中心的。レエブン侯は玉座狙いの野心家。優秀だけど、優秀過ぎて今の王の暗殺も辞さないタイプ)
持っている土地だけで言えばランポッサが一番保有しているが、宮廷会議などでの発言権は非常に低い。それでも王を直接排除に動かないのは、王の排除に動いた事を口実に他の貴族に攻められたくないから。貴族同士で相互監視しているがゆえに、未だランポッサは生きている。これが無ければ、3年後ぐらいにレエブン侯辺りが毒殺しているんじゃないかなというのが俺の考えだ。
ではこの要素を知った上で俺が話したいのは──
「貴族がカルネ村から、財産の強奪を目論んだとして、ランポッサ三世陛下は貴族を押さえ付けられますか?」
「すまないが不可能だ。本気で狙われたならば、私の解任と同時に、別の人物がエ・ランテルの都市長になる。今の陛下には、それを止められる力はない……残念ながら」
「そして、領主としての権利で手に入れようとする……それがあるからこそ、俺をここに呼んだ。ですよね?」
「話が早くて助かるよ……もしも、その貴族が財産の供出を迫ったなら、モモンくんは応じるのかい?」
「いいえ? 権利を行使するのは結構ですが、俺が首を縦に振らない限りその貴族のものにはなりませんよ」
「……兵士を引き連れてきたなら?」
「徹底抗戦します」
「……家族を狙われたなら?」
「その時は……どうすると思いますか?」
俺の含んだ笑顔に、パナソレイはため息を吐きながら薄い頭皮を撫でている。この人は、そうなる可能性があるからこそ俺を呼んだのだ。俺が持つ資産によっては、王を王とも思っていない貴族共がいらんことを企むと。しかし俺には、アインザックからアダマンタイト級、下手をしたら英雄級の戦闘力があると聞いている。
その英雄級あれこれの話を裏付けるのは、異常な収穫量の農作物。少なくとも、数万人の農奴が働く事でようやく生産可能な量を、単独でどうこうできるだけの力が俺にある証明にはなる。
そんな尋常ではない力を持つ子供と、平民なんて虫けらだとしか思っていない貴族の衝突。確実に大惨事大戦だ。俺もカルネ村に手を出すなら容赦はしない。と言うか、俺以上に法国がたぶん黙っていない。
なにせカルネ村とは、六大神が人としてこの地に再び降臨された場所にして、人類救済の超越者を無事に育て上げた法国にとっての聖地である。
聖地に? 薄汚い売国奴どもが? 己らの大罪を顧みずに? 土足で踏み入ろうとするばかりか? 我らが神に捧げた祈りの奉納品を奪おうとし!? あまつさえ神が人類のために整地してくれた聖地を厚顔無恥にも己の物だと宣言!!! 我らが神を愚弄するかぁ!!!!! その薄汚い命で罪を償わせてやるよ!!!!
凄い事になると思う。俺が何かするまえに、エ・ランテルの新しい都市長になった貴族が死ぬだろ、たぶん。
まぁようするに──
「それがパナソレイ様の、目下悩みの種なんですね」
「……………………」
沈黙は金。これが答えだ。横のパンドラと目で会話する。思った以上にパナソレイ自体は話せるなと。ならば、俺は一つの提案をするだけだ。
「パナソレイ様。私から一つ、話があります」
「話?」
「ランポッサ三世陛下は、現在権力の行使がままならない状態にある。これは事実ですね?」
「……認めたくはないが、陛下が持つ権利を行使するには、武も財も足りていない」
「だからこそ、貴族は陛下を軽んじている、所詮は何もできない。そう考えているから……もしも。王権を行使するに足る、財力と武力が揃うなら。陛下は状況を改善できると、直臣であるあなたならそう思えますか?」
「……可能性はある。陛下は日和見主義と陰口を叩かれているが、それでも。陛下のために働くまともな兵力に、優秀な頭脳を持つ参謀。それらがあれば、あるいは……だが、そんなものがどこに──」
「あるじゃないですか」
「なに?」
俺は自分を指さす。それと同時に、横のパンドラとセバスも。それが何を意味するのかぐらい、すぐに理解してもらえたのだろう。パナソレイはどう猛な目つきが、元の丸い豚のような目に戻っている。
「ランポッサ三世の直轄領で誕生し、他領と違い重税などもなく育ち、陛下への恩義を持つ村人。法国が見出した、魔法と戦士、両方への才覚を持つ平民……ランポッサ陛下は、法国が人類史上最優と呼ぶ剣を振るうに足る人物ですか?」
モモンが一切介入しない場合のこの後の歴史
モモン13歳 色々とあった結果、王国に見切りをつけたモモンが法国に移住する。移住先の領主は熱心なスルシャーナ教信徒で、モモンが住むことが決定した瞬間に嬉しさのあまり絶叫したと言う。以降、モモンの名前が表舞台に出たことはない
モモン14歳 帝国皇帝が暗殺により死去。ジルクニフが13歳で宮廷内の地位を固めて皇帝に即位する。その後騎士団とフールーダの武力を背景にした血の大粛清が帝国内で始まる。八本指が王国裏社会を支配完了させる。
モモン15歳 ラナー8歳が子犬を拾う。この時期には完全に闇堕ち済み。八本指の支配下にある貴族領で麻薬栽培が始まる
モモン17歳 ジルクニフが3年で帝国内を平定。りーたん誕生。レエブンが方針転換、国内の安定を取るバランサーとして王国貴族の無能を閑職送りにしたりと陰ながらランポッサの味方になる。ラナーが奴隷制度を廃止させて八本指の勢いが少し落ちる。
モモン18歳 ジルクニフが宣戦布告。カッツェ平野での小競り合いがスタート。エランテルが毎年前線基地になるため、殆どの有力貴族は責任を取りたくないのでこの都市から手を引くようになる。この年にフルボッコにされたことでランポッサも戦力の必要性を確認。他の貴族らも3割ぐらいはあれ?わーくに戦力ゴミすぎんか?とようやく気づく
モモン19歳 国防力の酷さを自覚したランポッサが戦力のスカウトを目的とした御前試合を開催する。例年と違い貴族らはランポッサに反対しなかった模様。ガゼフが優勝し、王の懐刀に
モモン23歳 原作開始