モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
俺の提案をどうするかはすぐに決められない。そもそも財力は理解したが、武力がどの程度なのか実際のところが不明過ぎると言われたので、俺はパナソレイを<転移>でカルネ村近くまで連れて行き、修正位階上昇させた<魔法の矢>を見せた。第一位階と言う名前の、実質第十位階に相当する魔法を。現実に魔法がどれほどのものなのかを見せるのが手っ取り早い。
それを見た後、俺が顔を合わせられる場を設けてランポッサに取り次ぐことを約束してくれた。
パナソレイと別れたあと、帰る前にもう一度だけバレアレさんのところに顔を出しておくかと薬品店に寄って行く。
「あら? いらっしゃいモモンくんにセバスさんにパンドラさん。今日はパナソレイ様とのお話があったんじゃないの?」
「そちらは終わりました」
「そうなの。お話は上手くいったのかしら」
「上々……と言ったところですね」
実際にどうなるのかはまだ未知数だが。俺がランポッサの暴力装置になることを提案したが、受け入れるか否かは国王の胸三寸にかかっている。パナソレイに暴をみせたが、彼の言葉をランポッサが真正面から受け入れるかはまだ分からない。しょせん平民の力、それが増えたところでと思われて断られたならそれまでだ。
(一番手っ取り早いのは、以前神官長らが言っていた様に俺が玉座を乗っ取る……ま、これはそもそもありえない。どうも前世に比べると頭の良さが上がっているような気がするが、それでも俺が王なんて立場に向いているとは思えない)
性格の問題で、人の上に立ち人類を導く……などと言うのは向いてない自覚がある。物理的に鈴木悟の脳からモモンの脳に変化しているのだから、その分頭脳の能力が上がったのかもしれない。それらを考慮しても、俺が本当の意味でのトップ向きかと言われたら全然違う。
俺個人の自己診断では、全体の折衝役をしながらバランス取りをして補佐役に徹するのが一番適性が高い。法国で言うなら、あくまでも国全体の舵取りは神官長らに任せて、時折俺個人の要望を出しつつも輪廻権現なる強力な手札として運用する形だ。
それと同じで、俺はあくまでもバランサーや補佐や右腕に徹しながら、矢面には王などに立ってもらう。それが割と上手くいくんじゃないか……と睨んでいる。
それに俺が国盗りを実施すると、確実にお隣の評議国にいるドラゴンくんが気づく。そうなれば、確実に向こうは俺の正体を探ろうとするだろう。そうそう簡単にユグドラシルプレイヤーの生まれ変わりとは気づかれないだろうが、絶対はこの世にない。もしも生まれ変わりが発覚すれば、プレイヤーがまたも力に物を言わせて混乱と混迷を訪れさせようとしていると受け取られかねない。
俺としては、そこまでのリスクを背負うつもりはない。
(本当は王国なんて見捨てて、冒険者にもならずに自由気ままに第三勢力をするのが俺としては気楽。でもなぁ……最初から見捨てるのも気が引けてしまう)
俺はどこでも生きていけるから、別にあとに残った連中がどうなろうがいいや……とするのも後味が悪い。これで俺が持つ力が英雄ぐらいなら仕方ない、俺には力が無いんだと言い訳もできるが、実際には法国が信奉しちゃうぐらいのモモンガパワーが備わっている。
なので今回の提案だ。どうするのかはあくまでも国王次第。俺の胡散臭い提案を蹴って、これからもどうにか沈みかけの泥船を操縦するのか。俺を受け入れるが、現状維持をするのか。それとも……
(ランポッサ三世次第だ。一応こうした方がいいですよーと方針の提案はするが、最終決定権は最高責任者がするべき。俺はあくまでも、報連相して指示を仰ぐだけ)
お、このポーションなんだろ。なになに……毛生え薬? 頭皮を回復させ、あなたの毛をふさふさに。へぇ、こんな面白いものも売ってるんだ、昨日は気づかなかったな。
「あ! ももんお兄ちゃんだ!!」
「よ、昨日ぶりだなンフィーレア。今日も元気そうで大変結構だ……お、軽い」
店先に顔を出したンフィーレアが突撃してくる。俺はそれを掬い上げて持ち上げる。
この子はンフィーレア・バレアレ。エンリと同い年の4歳で、バレアレさんの息子さんだ。くりくりとした目をしていて、エンリとはまた違った可愛さがある。弟がいたらこんな感じなのかね?
「あらあら。ンフィーたら、モモンくんに懐いちゃって。あまり困らせるような真似をしちゃ駄目よ」
「大丈夫ですよ。エンリで慣れていますから」
「昨日の続きで遊びたいんです、その……いいですか?」
「チェスか? いいぞ、遊ぼうか」
昨日来た時にも驚いたが、ンフィーレアはかなり賢い。エンリもパンドラが家庭教師をしてくれているので同年代の中では優秀な方だが、この子はもっと上。この年でチェスのルールを完全に把握しており、対局してみたらかなり強い。俺にもその頭脳を分けてくれよ。
そこから暫くの間一緒に遊んでいると、今度はヒーローごっこがしてみたいとンフィーレアが御願いしてきた。王国でのヒーローごっこは、大体はマントを羽織り勇者や英雄のような真似をすることだ。俺は了承して、<魔法修正位階上昇最強化・上位道具創造>でマントを作る。
それを渡すと嬉しそうにンフィーレアが装着した。いいだろ、そのマント。俺の魔法で造ったやつだから、特殊効果はないけど防御力だけなら聖遺物~伝説級はあるぞ。
俺は敵役として、背負い袋からスルシャーナのローブを取り出す。最終的にンフィーレアの剣で討たれて俺は倒された。すごいぞンフィーレア、今難度400の魔王を打ち倒したんだぞ。
それも終われば今日はお開きだ。ンフィーレアに渡したマントを消し、俺も背負い袋にローブを入れようとして──
「ん? どうしたんだ」
「その……お兄ちゃんのローブ着てみたいんです……駄目ですか?」
「別にいいが、これは俺専用だから着ても自動でサイズ調整はしてくれないぞ?」
それでもいいのか、ンフィーレアはこくりと頷いた。子供ってこういうところがあるよな、エンリにも良くあるから分かる。俺が黒いローブを渡すと、ンフィーレアは嬉しそうに羽織った。まぁサイズがあっていないので、ぶかぶかにな──
(<魔法修正抵抗難度強化・時間停止>)
俺はそれを見た瞬間に時間を止めていた。ンフィーレアが着た瞬間、スルシャーナのローブがサイズ変更されたのを見てだ。
(なぜ!!? あのローブは俺専用ではないが、オーバーロード専用に調整されている代物!!! まさか、あの利発さは俺と同じ転生者で!!?)
俺はそう予想したので、瞬間的に時間を止めた。もしもこの中で動く素振りを見せたなら、それは確定で黒。けれど止まった時間の中では、当然のようにンフィーレアも停止していた。指で突いてみるが反応なし。
「モモン様! なぜンフィーレア様が、モモン様のローブを装備出来て!?」
「分からん。だが見たところ、ンフィーレアくんの時間は止まっている。演技をしている様子もない」
(装備品で時間対策をしてたタイプか? それとも……あ、もしかして)
俺はもう一つの可能性に思い至る。時間停止を解除して、すぐにとある人物に連絡を取る。今から迎えに行くから、ちょっとだけ待っててくれない?
向こうはいきなりの呼び出しにも拘らず、快く応じてくれた。不思議そうなンフィーレアをセバスとパンドラに任せて、俺は<上位転移>で法国に向かう。俺が呼びに行った人物とは──
「この子がンフィーレア君で、私が観察したらよいのですね、モモン様」
「ええ、お願いできますか」
千眼千視さんだ。俺のレベルすら観測できるこの人のタレントであれば、ンフィーレアがどうしてローブを装備出来たのかも分かる筈。待つこと15分。
「これは……驚いた。ンフィーレアくんは、非常に稀有な
「そのタレントとは?」
「一言で言えば、道具適性です。一部のマジックアイテムなどは、特定の人物にしか使えないように制作されているのはモモン様もご承知だと思います。ですが、この子は恐らく……と注釈が付きますが、そのようなアイテムに対してもタレントが適性を与えてくれる」
やはりか。そんな気はしていたが、こうして言葉にされると驚嘆に値する。オーバーロードしか装備できないローブにすら適性を持たせるタレントだ。これは非常に強力なタレントで、その気になれば法国に眠るユグドラシル装備を全部ンフィーレアは使用可能と言う事。と言うか、下手をしたらギルド武器とか俺の体に吸収されちゃったワールドアイテムとか、そんな本当の意味での専用品であっても使用可能になるんじゃないか、このタレント。
「アル・バレアレさんだったね。御宅の息子さんですが、タレント以外にも素晴らしい才能を秘めています。特に薬学と錬金術への適性は、一千万人に一人と言っても過言ではありません。もしよろしければ、我が法国で教育を受けてはみませんか? いつでも天才への間口を広げていますよ」
「は、はは。考えておきます……モモンくん、法国の人と仲良くなったのは知っていたけれど、けっこうなお偉い人とも仲良くなったの? この人、所作の振る舞いが御貴族様とかのそれよ」
「いろいろとあったんですよ」
仲良くと言うよりも信奉されています。俺が行くと、最近は神官長らは膝をついてお迎えし始めるんです……輪廻権現として前線に行くと、六色聖典に至っては五体投地で平伏されたりと愉快なことになっています……とは言えないので、俺もアルさんみたいにはははと苦笑いするしかない。
とりあえずンフィーレアがローブを装着できた理由は判明したので、千眼千視さんは法国へと帰還して貰った。普通六色聖典、それも漆黒のメンバーとなれば最高神官長の判断がないと動かせないのだが、法国としては俺の言葉は文字通りの神託なので別に良いらしい。俺としては助かるのだが、国としてはそれでいいのか?
「それじゃ、ンフィーレア。また遊びに来るまではお別れだ……そうだ。今度来るときは、エンリを連れてこようか?」
「エンリ?」
「俺の妹だよ。同い年だから、仲良くしてやって欲しいな」
「……うん。モモンお兄ちゃんの妹さん、エンリちゃんと遊べるのを楽しみにしてます」
「そうか? それじゃまた今度な」
最後には頭を撫でてから、俺はバレアレ薬品店を出る。うーんいい気分だ。子供と遊ぶのは気分転換になって良い物だ。邪気がないからかな? 小難しいことを考えなくて良いので、楽しいと言う気分だけで遊べるのがいいね、ほんと。
帰りは<転移>で帰る予定だが、エ・ランテルの駐馬車場においてあるスレイプニールらを回収しないといけない。俺たちはそちらに向かい──
「よぉ、クソガキとジジイにエルフ~。遅すぎて待ちくたびれるかと思ったぜ」
一瞬で良い気分が吹き飛んだ。俺たちの馬車の前で、あの時の貴族子息どもがたむろしていた。なにしてんだこいつら、報復か?
「……そこを退いて貰えますか? と言うよりも、退かないとスレイプニールに轢かれますよ」
「街中で貴族を平民が轢くつもりか? そんなことをしたら、お前は大変なことになっちまうだろうなぁ?」
スレイプニールは力も強いし体重もあるから、轢かれたらお前のレベルだと即死するぞ? それを指して大変と言うなら確かに大変だ。交通事故で死者が出ているのだから。
セバスを見たらコキッと指を鳴らしている。こら、お前その予備動作は首をへし折る前の準備だろ。パンドラを見たら、またもや無詠唱<伝言>で誰かを呼び出そうとしている。流石に何回もアインザックを呼んだりしたら迷惑だから、こっそり妨害しておく。
(たしかにプルトンさんを呼ぶのが一番早いけど、それをしてもこいつらこりてなさそうだからな。俺たちでどうにかしないと、この先も鬱陶しく絡まれそうだ)
「……はぁ、何の用でしょうか?」
「そう警戒しないでくれよ。ただ俺たちは、あんたらと訓練したいだけだ。お前らは強いんだろ? だから手合わせ願えたらと思ってね」
にやにやと全員が嗤っている。ああ、なるほど。難度180とか聞いたけど、それは全部嘘だと思っている。でも街中で喧嘩したりすれば、またアインザック辺りが来て邪魔されるかもしれない。だから訓練に付き合って貰っただけと誤魔化して、囲んで袋叩きにしてやろう……かな?
「そちらの方が数が多いですから、こちらも三人同時で構いませんか?」
「あ? 駄目に決まってんだろ。相手はガキ、お前だけだ」
……パンドラとセバスの動きは見ていた。それで敵わないと悟ったけど、子供の俺のあれは吹かしだと思っているわけだ。了解了解。よし、それじゃ訓練しようぜ訓練。
「では仕方ありません。ここでやりますか?」
「ここじゃ駄目だな。兵士の訓練場があるから、そっちに行こうぜ」
ついてこいと言われたのでついていく。向こうも人目がある場所ではやりたくないのか。たどり着いたのは訓練場の端っこ。そこには俺たち以外誰もおらず、どれだけ血を流そうが悲鳴を上げようが誰の目にも留まりそうもない場所だ。いいね、ここ。凄く良い場所だ。
「ところで武器はないんですか? 俺はそちらと違って丸腰なんですが」
「あるわけねえだろうが”!! ……それとよ。そっちの爺さんとエルフが手を出すのは無しだぜ。そもそも、そこのガキが一人でも良いって了承したんだからな」
「手を出しはしませんよ。こちらで観戦させて頂きます」
「それよりも、モモン様に心をへし折られて、親に泣きつくなどのみっともない真似をしないと誓って頂きたいですね」
「あ? なに? お前ら、まだ難度180とか言う嘘で通そうとしてんの。んなあほな話に誰が乗ると思ってんだよ。平民ってのは、嘘をつくしか能がねえのか?」
「誓うのですか? それとも誓わないのですか?」
「はいはい。誓ってやる誓ってやる……挽肉にしてやるよ、クソガキが」
パンドラのやつ、いつの間にか紙を手にしてるな。あれは……
「では始めましょうか。誰が一番槍を務められますか?」
「一番槍も糞もねえ!! 手足全部へし折って、馬のしょんべん入れた桶に顔突っ込ませてやるよ!!!!」
「ごめんな゛さ゛い゛!!!! ウ、うんこ食べます!! 馬のうんこ食べますから!! ゆ゛るして……」
「おかあさんたすけておかあさんたすけておかあさんたすけておかあさんたすけておかあさんたすけておかあさんたすけておかあさんたすけて……」
「い、いいつけてやる!! お前ら全員、パパにいいつけてやる!!! カルネとか言う村も、やきはら──」
「まだ殴られたりなかったか」
焼き払うと言いかけたやつの脚を掴んで、タオルみたいに頭上で回転させて振り回しておく。1分ほど振り回したら静かになった。地面に寝かせておく。安らかな顔をしてるな……まだ生きてるよな? 心臓の音は……まだ生きてるな、よし。
「訓練はここまでにしましょうか。皆さん、有意義な時間をありがとうございます。先達である皆さまに稽古をつけて頂いた事で、俺はもう一段上の領域にいけました。別れるのは名残惜しいですが、これでお暇させて頂きます。皆さん、本当にお時間を頂きありがとうございました。それでは、またいつかどこかでお会いしましょう」
俺が腰を折ると、訓練に付き合ってくれた兵士らが全員ビクリと体を震わせた。そんなに怖いなら、最初から訓練しようとか言い出すなよ……
俺たちは訓練場をあとにする。
「パンドラ、そのギアスロール読ませてくれるか?」
「どうぞ、モモン様」
パンドラからロールを受け取り、上から順に読んでいく。ふむふむ、これなら今日あったことをあいつらは誰にも話す事ができないな。
「ところでモモン様。今日の戦闘ですが、いつものモモン様とは随分違いましたね。あれは一体……」
「あれは、アンリが増長した漆黒聖典をボコボコにして調教するときのやり方だよ。英雄ラインに到達したことで、自分は最強なんだ何をしても許されるんだ。そんな風に考えてしまう隊員もいるらしく、そいつらの鼻をへし折るのも番外席次の役目だからな」
それを参考にしてみたのだが、果たして効果はあるのかね?