モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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クレム

 エ・ランテルからカルネ村に戻り、俺はいつも通りの日常を送る。訓練して、勉強して、クレマンティーヌの所に遊びに行き──

 

「モモン、お餅パス」

「サンキュー……この餅なに?」

「それ? 竜王国と法国が、正式に同盟を結んだ記念として国民全員に配布されたお餅」

「へぇ。前から話は聞いていたけれど、ようやく結ばれたのか。これで大手を振って、法国もビーストマンに対応できるわけか」

「そ。特に竜王国と獣人国家の国境沿いには、めっちゃ怖い骨のお馬さんが配置されたらしいよ。それ一頭のせいで、敵さんは侵攻の手が緩んだんだって」

 

 ビーストマンは毎年のように、法国から東にある竜王国に侵攻していた。低レベルな人間に比べると、大抵の亜人はそれらを上回るほどに強い。基本的に訓練しないと強くならない人間種に対して、亜人は年を重ねたりするだけで強くなる。

 

(種族レベルがある分、職業(クラス)レベルを重ねなくとも強いってのは有利だよな。クラスレベルにしても、習得するのが純戦闘職じゃないと能力値の伸びが悪いし。俺にしても、モモンガ100レベルがあるからこそ、指揮官系にレベルを割いても問題ないだけだ)

 

 せめてこの世界の才能(レベル)上限がユグドラシルのように一律100なら話も違うが、どうも才能によって上限がバラバラなのだ。法国が調べた限りでは、5割ぐらいが10台前半に上限がある。15が凡人とそうではない才ある人間の境目。20まで行けば優秀、25は天才、30を超えられる英雄は超一流の天才。35の壁を越えたら百万人に一人の逸材。40超えの逸脱者は百年に一人の人外。90近いアンティリーネは奇跡の産物だ。神人として覚醒していたファーインさんと、八欲王の実子であるデケム両方の血が上手い具合に作用した結果この世に生を受けた存在。

 とまぁ、人間はかなり弱いサービス終了寸前の種族。そんな弱い種族の竜王国は隣国の獣人国家から侵攻されまくってた悲しき国家だ。

 法国も六色聖典を派遣して頑張ったりしていたが、普通に人手が足らなさ過ぎてビーストマンの殲滅が間に合っていなかった。しかしここに来て状況が改善。まず長年の問題だったエルフ戦線が解放されたことで、戦力を回す余裕ができた。加えて、ここ最近は尋常ではない力を持つ新型ゴーレムが戦に投入されるようになった。それらは英雄を超え逸脱者に匹敵する力を持ち、人間モグモグ種族相手に大活躍しているとか。

 

(新型ゴーレムじゃなくて俺の眷属なんだけどな。怖い骨のお馬さんは魂喰らい(ソウルイーター)か。ビーストマンにとって、あれは相当トラウマだろうからな)

 

 その昔、竜王国に侵攻している国とは違う、大陸中央にあるビーストマンの国の都市で三体のソウルイーターが出現。三つの都市が壊滅し、亡くなった犠牲者は実に人口の95%、死者数は10万人を超えた。一体出ただけでも数万人が犠牲になるのが中位アンデッドだ。ユグドラシルなら、ソウルイーターなんて雑魚も雑魚。100レベル戦士職に邪魔ゴミされて瞬殺されるのがオチだったが、この世界では全く違うのだから面白いものだ。

 獣人国家のビーストマンの中には、中央列強の国から流れてきたやつもいるだろうから、それはトラウマも刺激されて侵攻するのを止めるだろう。やったが最後蹂躙されるのが目に見えているのだから。なお配備されているのは俺の創造個体なので、野良個体よりかなり強い。能力値だけで判断するなら、10~15レベルは高い。

 ソウルイーターはスキル『魂喰らい』により、殺した数に応じて一定時間強化される。普段は33レベルで最大強化時は50近くまで上昇。俺のスキル強化を考えるなら、最低が43で最大時は65レベルの強さだ。もちろん65と言っても、同じ数値の上位アンデッドと比較するとスキルが弱いので、実際には55辺りまで落ちるだろうが。

 

「しかしなぜ餅? 俺たち六大神がもち米を持ち込んだのは知っているが、祝い事で餅を配る風習も持ち込んだのか?」

「らしーよ。今までは異種族との戦いの中で祝いごとなんて不謹慎! てなってたけど、この国今はかなり余裕があるからね。モモンがいっぱい頑張ってるおかげで。それで復活させたんだって」

「俺のおかげってわけでもないだろ。元々頑張ってたのは法国の歴史で、俺はちょっと手助けしてるだけなんだから」

「ちょっと? そのちょっとが、私たちからすれば神の御業だっつうの。このこの」

「スティレットで脇腹を突くんじゃない」

「どうせ刺さらないじゃん。剣で斬っても殆ど効かないし」

 

 刺突完全耐性と斬撃耐性Vと上位物理無効化があるから確かに刺さらないが、それでも武器で刺すのは止めなさい。

 

「ちぇ、つまんないの」

「友達の脇腹はつまるつまらないで刺すものじゃないんだぞ?」

「親しき仲にも礼儀ありってやつー? ふぅん……ま、いいや。それはそれで」

 

 そう言うと、クレマンティーヌは俺の膝に頭を乗せてきた。ちなみに俺が今いるのは、こいつの実家にある私室だ。そこそこ広めの部屋で、正直改修前の我が家よりこの私室の方が大きい。今はパンドラ建築が建て直して家自体が2階建てになったりして広くなったが、それでもクインティア家の邸宅に比べると小さい。

 そんな邸宅の私室にお邪魔した俺は、とりあえずこいつのベッドに座らされていた。そこに餅投げて膝枕要求である。なんだろう、甘えられてるのだろうか。肉体の年齢だけで言えば、クレマンティーヌの方が2歳は年上なんだがな。

 

「肉体年齢はそうかもしれないけどさ。前世含めたらモモンは百歳以上なんだからー、甘えるのはふつうなのふつー」

「前世ねぇ? 殆ど記憶にないから、それを年齢加算していいものなのか?」

 

 実際には記憶はあるが。前世の年齢をそのまま足したら俺の実年齢は40を超えるが、40歳に相応しい精神かと言われたら微妙。30歳から41歳になるまでの間に積む経験と、0歳から11歳までの間に積む経験が全く違う以上は、同一とは見做せない。なんてのも説明しても墓穴を掘るだけなので、俺は沈黙を貫く。

 

「ねー、頭撫でてよ」

「猫か犬みたいな要求」

「えー、せっかく女の子が髪に触れてもいいって言ってるんだよ。それを動物みたいに言うの、お姉さんは感心しなーい。お餅も謝礼としてあげたのに」

「無料配布の餅を謝礼にするなよ。その口に餅を捻じ込むぞ」

「口に捻じ込むなんて……モモンもけっこうエッチな性格してるねぇ」

 

 この野郎……まぁ撫でてほしいと言うなら撫でてやる。髪の毛くしゃくしゃにしてやるよ。わっしゃわっしゃとしてやると、何やら機嫌がいいのか鼻歌を歌い始めた。ほんと猫みたいなやつだ。

 

「いまの私たちさ。はたから見たら恋人にでも見えたりするかな?」

「しらね。言う奴は言うんじゃないか?」

 

 そんなもん、見たやつが自分に都合よく解釈するだけの話だ。俺とクレマンティーヌは別に付き合ったりもしていない。友達ではあるが……いや仲良くなった自信はあるんだよ? こうやって暇を見つけては足繫く通って遊んでるし。愛称のクレム呼びを要求されるぐらいには仲良くなったとは思う。しかし恋人とかは……まあないだろ。こちとら前世から恋愛経験なしの童貞だ。自分が女性に好きになって貰えるような性格じゃないのは百も承知。

 クレマンティーヌと仲良くなったのも、俺がスルシャーナの生まれ変わり設定だから。それが無ければ、こんな風に遊ぶこともないだろ。

 

「……そういやさ。なんでモモンはずっと私を法国内にいる時の付き人に指名してるの? 選ぼうと思えば、誰でも選べるよね?」

「あー……まず俺の正体はあんまり明かせないだろ? それに加えて、俺が転生したことを知る法国の人って、大抵恭しく礼をしてくるからさ。なんつうか……あまり居心地が良くない」

 

 会うたびに膝をつく臣下の礼を取られたり、平伏されてもドン引きだ。立場で得てる恩恵も大きいのでとやかくも言えないし。彼らの価値観では神に服従の形を取り、敬意を持つのは当たり前のこと。生活様式の一つなので、俺が口を出せることでもない。

 その点、クレマンティーヌは俺相手でもそんな態度を全然取らない。もちろん人前にいる時はめっちゃ敬語になるし、態度も修道女様としか言えないそれになる。しかし人目が無い時は、今みたいにざっくばらんとした態度になるので、俺としてはかなり助かるのだ。

 

「……へー。つまり、私といる時は居心地が良いって事?」

「そうなるな。法国に滞在してる時は、クレムといる時間が唯一穏やかでいられるからな」

 

 いや、ほんと助かるんだ。これでクレマンティーヌにまで俺相手に「神よー!」とかされたら、法国で心休まる場所が無くなってしまう。お互い軽口を叩く友達? ぐらいの関係は俺の精神安定の一助となる。

 

「へーへー……それって、兄貴とかといるよりもずっと?」

「クアイエッセさんか? あの人はなぁ……悪人ではないのは分かるんだが、うーん……クレムとは比ぶべくもないだろ」

 

 あの人熱心なスルシャーナ信徒で、輪廻権現として一緒に活動することもあるが、俺が眷属を操って亜人退治をするたびに──

 

「これこそが……神の御業なのですね。私のビーストテイマーとしての実力など、御身の奇跡と比べたら──」

 

 うんたらかんたらと長い御言葉が続き、ついでに静かに熱涙や感涙するのだ。会うたびに怖い。それと比べたらクレマンティーヌは確実に癒し枠だ。顔も可愛いと思うし。

 

「そっかそっか……比べものにならないぐらい、私の方がいいんだ。そっかー」

「そりゃそうだろ。クアイエッセさんは、土俵にすら上がってないぐらい差があるな。法国で俺が一番と思うのは、間違いなくクレムだな」

「へぇ!! そっかー……一番なんだ」

「ああ、一番だよ」

 

 法国内では間違いなくトップだ。法国内じゃなければ、エンリやンフィーレアもいるが、残念ながらここはスレイン法国である。法国外に行けば、現在トブの大森林で元エルフ奴隷の女王をやってくれているアンティリーネも気兼ねなく接してくれるが……

 

「そっかそっか……私が一番なんだ……そっかぁ……」

 

 こら、俺の脇腹を指で突くんじゃない。スティレットじゃないから大丈夫? そういう問題なのだろうか……しかしこの癒しの時間も、実のところそう長くないんだよな。クレマンティーヌは俺の二つ上で現在13歳。この世界の成人年齢と平均結婚年齢とかを考えたら、そろそろお相手探しなども始めないといけない。

 もっともクレマンティーヌは良いところのお嬢様だから、もう将来を誓い合うような間柄の人がいるのだろうか? その辺を聞き出すのはマナー違反なので聞いた事もないし、聞くつもりもないが。

 要するに、いつまでも俺の従者として連れまわしたりしたら、その人に申し訳が立たない。いなかったとしても、お役目で時間を奪ってしまっては相手探しも大変になる。

 そうなると、あとこうやって遊べるのも3年ぐらいか? 俺がこの国で信奉される神の生まれ変わりと信じられていたとしても、それでも現在は人間の男だ。まだ11歳だから子供と笑って許せるだろうが、3年も経てば俺も14歳で、クレマンティーヌは16歳だ。流石にその年齢になった時に、クレマンティーヌの周りをウロチョロしていたら相手の男性も気分が悪いだろう。

 俺も友達の恋路や人生の邪魔をしたくないし、その時には別の付き人を探すだけだ。

 

「んー……モモンの膝って、筋力に対して結構柔らかいよね。一生寝てられそう」

 

 一生は無理だぞ。いつか別れが来るんだから……俺が不老のパッシブをオンにすれば、絶対に寿命の関係で別れが来るんだからな……いつか、必ず……

 

 

 

 

 

 法国から<転移>で戻れば、村の整備と拡張を進める。元々かなりボロボロの家しかなかったカルネ村だが、今はパンドラ建築のおかげでかなりまともな家が並ぶようになった。家を作る際の構造計算などは俺は門外漢だが、パンドラは文字通り万能の天才。簡単に設計図を描き上げてくれるので、それを元に眷属らを動かして制作するだけだから楽。二週間もあれば一軒が完成する。

 そうして過ごすうちに、ようやく一つの封書が届いた。パナソレイがランポッサ三世との会談の場を設けてくれたらしい。場所はリ・エスティーゼ王国の首都、王都リ・エスティーゼ。そこにあるヴァランシア宮殿の一室で、国王は会ってくれるそうだ。

 さっそく俺たちは王都に向かう事にした。俺たちと言っても、今回セバスはお留守番だ。王宮を平民が出歩くのはあまりいい顔をされないので、出来るだけ人数は減らしてほしいと言うのがパナソレイからの要望だ。では誰を連れて行くかとなれば、それはパンドラしかいない。このパーティーの中で一番賢さパラメーターが高いのだから、外す理由が一つもない。

 またトラブルの種になっても面倒なので馬車は置いていく。服装にしても、王都に入ってから着替えれば良いので旅用の簡素な物にしておく。着替えは全て無限の背負い袋行きだ。

 

「<魔法修正強化・転移>」

 

 行ったことが無い場所には転移できない。なのでその仕様を修正する。俺は地図を見て、この辺りなら大丈夫だろうとそこに向かってパンドラと共に転移。着いた先はだだっ広い平野。

 

「<魔法修正位階上昇最強化・集団飛行>」

 

 パンドラと共に飛びあがり、空から都市が無いかを探す。お、あったあった。空からならいくつかの都市が見える。その中から、方角と大きさからして王都っぽいなと言う都市に向かって飛翔する。従来の<飛行>魔法は時速100kmぐらいだが、修正して位階上昇と最強化を乗せられるようにしたことで飛行速度が上昇。

 一瞬で王都の上空に到着した。念のために門の近くで降りて、正式な手続きをして王都内へと入る。今回は服装から理由まで全部偽装してあるので、何一つ咎められることもなかった。

 ヴァランシア宮殿があるロ・レンテ城は王都の最奥にあり、そこそこ歩く必要がある。俺はパンドラと共に本通りを歩き、路地裏などを見て少し眉を顰める。本通りはそれなりに整備されているが、少しでも道を外れたら土剥き出しの地面がそこらかしこにある。はっきり言って、まだエ・ランテルの方がきっちり整備されているのではないだろうか。

 

「パンドラ、ひょっとして、まともに石畳で舗装されているのはメインストリートだけか?」

「はい。王都は王直轄領ですが、整備用の資金が不足しているため整地などが昔から殆どされていないようです」

「税金が足りないのか?」

「税そのものはたりています。足りていないのは王都で政に関わる者らの倫理観ですね。税金を着服する者らが多すぎて、まともに王室が運用できていません」

「……ここ王都だろ? 巡回使や税務官は王の派閥じゃないのか?」

「王派閥ではありますが、王自体は軽んじている貴族の手駒ですね。六大貴族やその配下の貴族が強引に捻じ込んだ公務員が多く、はっきりと言えば、国を良くしようとかそういった思想は一切持ち合わせていないようです」

「着服された税金の行先は?」

「もちろん飼い主の貴族です」

 

 はい、終わってる。王の直轄領どころか、お膝元とすら言える王都ですら王の権威が心底舐められている。そんでもって、それらの情報がたぶん王の下には届いていない。もっと言えば、届かないようにシステムが構築されている。そんでもって、届いてその税務官らが処刑されたとしても、次にくる税務官も同じような奴。倒したところで第二第三の屑が湧いて出てくる構造か。

 

「想像以上に終わってるな、この国」

 

 仮に俺が転生したのがこの国の第一王子だったら、王権に物を言わせて大半を物理的に首にしている。そのあとは眷属に永久就職だ。

 さぁて、王様との話はどうなるやら。

 暫く歩けば、辿り着いたのは巨大な王宮。そこに行くまでに貴族向けの服に着替えて、俺とパンドラは王宮の衛兵に通してもらう。めちゃくちゃ胡散臭そうな顔を兵士はしていたが、流石に王宮勤めだけのことはあり封蝋を見間違えたりはしなかった。中に入ると侍女がいたので封書を見せて、この部屋に行きたいと告げる。最初は貴族と思われたのか笑顔いっぱいのメイドだったが、俺が平民だと分かると途端に態度が豹変。ここ歩いていけばいいですと突き放された。

 

 う、嘘だろ。こんなことが、こんなことが許されていいのか?

 

「パンドラ……一応、俺って封書を見せたからランポッサ三世の御客様……で良いんだよな? あれ許されるのか?」

「微妙なラインですね。王宮勤めの侍女は、全員どこかの貴族令嬢です。平民如きのために案内役をするなど、プライドが許さないと言えばそれまでですね。私としてはモモン様を蔑ろにされて些か頭にきますが、この国ではあれが常識と言えば常識……かもしれません」

「……ランポッサさん舐められ過ぎじゃね?」

 

 不安だ。不安しかない。一々ああいった対応に腹を立てるのも時間の無駄なので、俺は言われた通りに歩く事にする。暫く歩いていたら、目の前から侍女に付き従われた小さな女の子が歩いてくる。その子は左手に紙を握りしめていて、もう片方には犬の編みぐるみを抱えている。年齢はエンリぐらいに見えるな、宮殿を歩いているし王族の子供だろうか?

 俺はパンドラと共に通路の端に退いて、頭を下げて通過するのを待つ。侍女はこちらが平民とは知らないので頭を下げてくれて、女の子はこちらをチラリと見ただけでとぼとぼと歩いていく。なんか全然元気ないな……あ、手から紙が何枚か滑り落ちた。

 侍女は気づいていないのか、そのまま歩いていこうとする。仕方ないので、パンドラと共にそれを拾い上げて追いかける。

 

「すみません。こちらの紙を落としましたよ」

「あ、も、申し訳ございません!」

「いえいえ、はい。お嬢さん。落としたら駄目ですよ」

 

 俺は屈んで目線を合わせ、女の子に紙を渡す。その時に気付いたが、この紙の内容は──

 

「ありがとう……ございます……」

「どういたしまして。これ税金に関する資料ですよね? 重要書類なんですから、落としたりしたら不味いですよ」

 

 どうしてこんな小さな女の子がそんなものを持っているのかは知らないが、内容を見れば税の徴収に関する資料だと一目瞭然に理解できる。パンドラ教室とモモンブレイン様々だ。

 どうぞと差し出して……なんだろ。女の子は目を丸くしてこちらを凝視している。何事?

 

「分かる……の? これの内容……」

「少しぐらいなら。ただ専門的知識となると、こちらのパンドラズ・アクターの方が詳しいですね」

 

 パンドラを指さすと、やつは仰々しく礼をした。女の子は詳しいと聞いて、少しばかり逡巡したあと──

 

「これ……読んでください」

 

 と言って資料をパンドラに差し出した。横の侍女さんは姫様! エルフ如きに近づいてはなりません!! と叫んでいる。ちょっと失礼じゃない?

 しかし姫様ねぇ……そんな呼ばれ方をするという事は、やはり王族の子供なのか。その子が手渡す資料を少し拝借しますと言ってからパンドラは受け取り、一瞬で目を通した。

 

「……これを書いたのは、ひょっとしてお嬢様でしょうか?」

「はい……」

「素晴らしい頭脳をお持ちですね。しかし経験がないせいか、ここの記述に問題がありますね」

「え!? ど、どこ!!?」

「ここですよ」

 

 パンドラが指さした箇所の問題点をすらすらと述べる。それに対して、お姫様は何かを反論するが、すぐにパンドラがそれだとこれこれこういう事情で難しいですねと理屈を並べる。侍女さんは一瞬で追いつけなくなったのか目をグルグルさせていた。俺も途中から二人の会話についていけなくなる。うっそだろ、この女の子エンリと同い年ぐらいに見えるのに、本気のパンドラと会話が成立すんの!?

 暫く話していた二人だが、流石に経験値や年齢差でパンドラの方が上回るのかお姫様の方がギブアップした。しかし理屈で真正面から論破されたことに対して、哀しむ様子はない。むしろ、眼をキラキラさせてパンドラを見上げている。なぜかは分からないが、めっちゃ喜んでいることだけは分かるな。

 

「あの……あの!! パンドラズ・アクター様に見て頂きたい資料がたくさんあります!! それを、それを見て……」

「申し訳ありません、麗しいお嬢様。我々はこの後、少しばかり高貴な方とのお話がございます。あまり時間が取れない故、嬉しい申し出ではありますが、この場は辞退させて頂ければと願います」

「そんな……」

 

 めっちゃ落胆しているな。この子はそんなに資料とやらをパンドラに見てほしいのか……うーん。仕方ない。小さい子の落胆した姿に俺は弱いんだ。エンリを思い出すせいかな?

 

「ではどうでしょう。私たちの話し合いが終わった後になりますが、もしよろしければパンドラと……そう言えばお名前を伺っていませんでしたね。私はモモン。モモン・エモットと申します。御姫様の御名前を伺っても宜しいですか?」

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフです」

「ラナー様ですね。ラナー様が宜しければ、私どもは数日は王都に滞在する予定です。その時に、パンドラとお話しする機会を頂ければと思いますが、どうでしょうか?」

「お願いします!」

「姫様!! そ、そこのエルフとこれ以上話すなんて……それに、今そこの少年は二つ名しか名乗っておりません!! つまり平民です!! そんな平民如きのために、姫様が御時間をつくるな──」

「私が話したいの!!」

 

 侍女の言葉を遮って、ラナーが大声を出す。そんな声を出されるとは思わなかったのか、侍女さんは驚きで体をビクッとさせていた。凄いね、子供の肺活量は。

 

「……それではラナー様。また後ほど伺わせて頂きます。それまでは、暫しの間お待ちください」

「はい……はい!! 必ず、必ず来てください。パンドラズ・アクター様をお待ちしております!!」

 

 そう言ってラナーはぴょんぴょん跳ねながら走っていった。最初は元気無さそうに歩いていたのに、パンドラと話したら元気が出たのかな?

 どうしてかは分からないが、小さい子が元気になったらよかった良かった。それじゃ、そろそろランポッサ三世との会談に向かいますかね。

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