モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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〇〇〇〇→クライム

 少年を持って俺たちが向かったのは、貴族街の近くにある宿だ。この辺までくると流石に治安もかなり良くなり、地面もむき出しの土から石に代わる。格差を感じるなぁ……

 泊まる宿は黄金の輝き亭にも負けない高級宿でそれなりに値は張るが、今は稼ぎや蓄えがそれなりにあるので大したものではない。チェックインしたらまずは少年を風呂に入れる。こういった高級宿には個室の風呂があるので、こういう時には大助かりだ。

 

「わう……」

 

 パンドラに薬草や花の成分を抽出させて作成してもらった薬用体洗剤で、少年の体を綺麗にしていく。……水が少し冷たいな。マジックアイテムで生成される水である以上、温度調整までは無理か。仕方ない──

 

(<魔法修正強化・水生成>)

 

 俺が自力で覚えた魔法の一つを使って、人肌の温度がある水を生み出す。上からお湯をかけてやると、少年は気持ちよさそうにしている。お湯は温かくていいだろ? <清潔>の魔法があるから本当は風呂に入って洗ってやる必要は全くないが、こうして時間をかけてコミュニケーションを取ってやると言うのは悪くない。ここが安心できる環境だと時間をかけて教えてあげられるからだ。

 

(本当はセバスに任せるつもりだったんだがな)

 

 一番初めに助けようと動いたのはセバスなのだが、少年が一番懐いているのはどうも俺みたいなので、スーパー執事に任せようとしたらぐずってしまった。

 

「これで綺麗になったな」

 

 髪の毛はぼさぼさ、肌は至る所に擦り傷があって泥汚れや垢で酷いことになっていたが、汚れを落としポーションかけたことで傷も塞がり元通り。

 

「ほーら口を開けて」

「あー」

 

 こちらは<清潔>の魔法で綺麗にしておく。あ、虫歯もあるな。ポーション塗っておくか。

 タオルで拭いて、髪の毛を<魔法修正強化・温度変化>で乾かして──

 

「完成!」

 

 担いで風呂場から出たら、セバスとパンドラがこの子向けの服を用意してくれていた。パンドラに転移魔法を使ってもらい、一旦カルネ村まで取りに戻ってもらったのだ。

 

「俺のお古だけど大丈夫だよな?」

 

 法国から毎年のように……どころか毎週のように贈られる献上品。その一つを少年に着させる。魔法の服なので自動サイズ調整が働き、少年にジャストフィットした。

 お着替えが終われば夕食の時間だ。高級宿なので当然のように豪華な食事が出たので、全員で食事……と行きたいのだが、セバスは執事なので主人と同じテーブルで食べるわけにはいかない。カルネ村では違うのだが、然るべき場所には然るべきルールがある。それは当然テーブルマナーも。

 俺とパンドラは法国式ではあるものの覚えているが、少年はそんなもの習得していない。なんなら、並べられた野菜類や肉も食事には見えていないのか狼狽えている。なんかこう……泣けてくる。

 

「こう使うんだよ」

 

 教えたってすぐに覚えられるわけではない。けれども、俺の言葉に従ってどうにかフォークやスプーンを動かそうとしている。いいぞ、それでいいんだ。

 

「なんだあいつらは……ここはテーブルマナーを教える場所ではないぞ」

「親はどこにいるんだ親は。全く、ここの品位が下がる」

 

 おーおー、周囲の客は言いなさる言いなさる。すまんね、こちとら辺境生まれの田舎者なんで、品位とかよく知らないんだ。周りの声が聞こえるのか、少年はこちらの顔色を窺ってくる。別に無視してもいいぞ。

 

「ワぁ……ア」

 

 料理を食べるたびに、少年は静かに泣いている。その感情はな、美味しいっていうんだ。

 食べ終えたら部屋に戻り、最後のメインクエストをこなすことになる。

 

「さぁてなんて名付けたものか」

 

 名付けるという事は、それはこの子が一生背負うものになるという事。ならば俺の気合も入るというもの。ハムスケの時はもうこれでいいだろと投げやりに名付けしたが、今回はちゃんとしたものにする予定だ。

 転生ゴッドしますシャーナぐらいの、力が籠ったやつにしてあげないと可哀そうだからな。

 

「あれが通らなかったのはいまだに残念だ」

 

 スルシャーナのスルをする。常体のするを敬体のしますに変換して、転生した神と繋いで転生ゴッドしますシャーナ。俺がスルシャーナをしますと言う意味も込めた最高の名前だったのに、漆黒が四文字仕様なせいであえなく却下されてしまったのは心底残念でならない。

 ま、今は過去の話はいいか。

 

「例えば特徴からはどうだろうか」

 

 少年の一番の特徴と言えば、金髪と子犬のようなくりくりした目だ。犬……わん……そういえば、リアルでは桃から生まれた桃太郎とかそんな名前があったな。

 

「候補一つ目はワンタロウだ」

 

 子犬のような太郎でワンタロウ。金太郎とか太郎が付く名前は多いから、これはいいんじゃないか?

 他にはそうだな、家族から名前を貰うとかってパターンもある。俺の名前はモモンだから……桃太郎? 駄目だ、これでは第一候補と被る。ならモモンとハムスケを合体させて桃の助はどうだろうか。

 

「第二候補が決まったな」

 

 すごいぞ、今日は抜群なネーミングが次から次へと湧いてくる。他には……俺の前世である鈴木悟から持ってくるか? 悟……悟り……ブッダ? なんか違うな、悟りから得るんだから、菩提樹はどうだ!

 

「パンドラ! 菩提樹って、別名なんて言うんだ!」

「菩提樹ですか? コバノシナノキなどとも言いますね」

「なら第三候補はコバノか」

 

 うーん……少しインパクトが弱いか? ダークネスとかシャイニングとかアルティメイト、ハイパー、スーパー、グレート、ウルトラ。この辺をつけたい。これをつけたら最高に格好いい名前になる気がするのだ。ダークネスモモノスケとか、シャイニングワンタロウ。すごい、何て良い響きなんだ。パンドラに付けようとして、最終的にウルベルトさんなどに猛反対されて却下されたびっくりボックスぐらい良い名前だ。

 

「先ほどからどうされたのですか? 何やら候補がどうのと言われておりますが」

「この子の名前だよ、名前。いつまでもお前とか少年とかだと困るからな。いくつか考えているんだ……セバスとパンドラも考えてみてくれ」

「良いのですか?」

「一人より二人。二人より三人だ。三人寄れば文殊の知恵。二人も何かアイディアを出してくれないか?」

 

 名前ですかと言って、セバスは髭を撫でた後これならどうでしょうと提案してきた。

 

「ジャスティス」

「お前……正義って言葉が好き過ぎるだろ」

「ではこちらの名前などはどうでしょうか。心に湧いてきた名前たちです」

 

 そう言って紙にさらさらとペンを走らせ、俺とパンドラに見せつけてくる。

 

「セバス案は……なんだこれ? エックス、アマゾン、ストロンガー……何か元ネタがあるのか?」

「いえ、ただ、心の底からそのような名が浮かんできたのです」

「心からねぇ?」

 

 なんか見たことがあるような、ないような名前だ。セバスだからたっちさん関連かな? あの人特撮ヒーロー大好きだったし、本当の製作者の趣味嗜好がセバスにも影響したのかもしれない。ナザリックで一週間ぐらい特撮鑑賞会に付き合わされたこともあるから、もしかしたらその中にこれらの名前が入っていたのかもしれないな。

 

「私ならこの辺ですかね」

 

 なにこれ? パンドラ作の用紙には、大量に名前が並んでるな。アーサーとかカエサルとかジークフリートとか。これはあれか、ユグドラシルでも見た覚えがあるが、神話や伝説の英雄の名前?

 

「Das stimmt。子供の名前を高名な英雄にあやかるのは珍しくありません。本当はモモン様の名にあやかるのが良いのですが、流石にモモン様とモモンでは名前が被ってしまいますから」

 

 ほー、たしかに聞いたことがあるな。リアルでも西欧圏では神話から名前を持ってきたとか言うし、この世界でもそのような文化がある。法国の洗礼名も、過去に活躍した聖女や聖人の名前だったりする。

 

「一応ペスにも聞いてみるか」

 

 そうそう、うん、子供を拾ってな。それで名付けをどうするかで悩んでるんだ。ペスは何か思いつかないか? なるほどなるほど。

 

「クラッカー、ベニエ、タルト、カタクリ……お菓子に材料とは、実にペストーニャ様らしいですね」

「あともう一つ名前があるぞ。これだ」

 

 俺は食べ物とは違う、ペストーニャが考えたその文字を紙に書く。それを見て、セバスはどういう意味でしょうかと聞いてきた。

 

「この子を最後にしてほしいそうだ。捨てられて泣かなくて済むように。孤児が泣きながら死ななくて良いように。貴族や犯罪組織に苦しめられ、涙を流す人がいなくなるように。俺がランポッサ陛下と共にこの国を変えていくなら、この子を始まりにしてほしい。少しでも良き国にして、泣く人をゼロに……無にしてほしいという意味を込めてな」

 

 cry(泣く)無くす(ゼロに)。これでクライムと呼ぶらしい。

 中々良い名前だ。俺のダークネスとかシャイニングに勝るとも劣らないぐらいの。セバスとパンドラも女性視点の素晴らしい名前ですねと手を叩いている。

 

「これで全員出揃ったか。俺の強権を使えば無理やり決めることはできるが、それではあまりにも不公平。だから──この子にクジで決めてもらおうか」

 

 俺は<魔法修正強化・道具創造>で、穴の空いた箱を一つ作成。箱の中に名前の書いた紙を一枚ずつ入れる。これをシャカシャカして──はいどうぞ。

 

「これをこうして引くんだぞ。できるか?」

「こ……う?」

 

 そうそう、さて、どの名前を引いたのかな? 折りたたまれた紙を開いてみれば、そこに書かれていたのはペストーニャの案。

 

「クライムに決定か。負けたよ、ペス」

 

 俺とパンドラとセバスでパチパチと手を叩く。クライムはよく分かってなさそうだが、祝福されているのは雰囲気で理解できるのか嬉しそうにしていた。

 俺はクライムの脇の下を持って持ち上げる。高い高いされて楽しいのか、クライムはなんとも楽しそうに笑っていた。

 

「今日からお前はクライムだ。クライム・エモット。何歳なのかは分からないが、今日からエンリのお義兄ちゃんで、俺の義弟だ」

 

 

 

 

 

 宿での一泊が終われば、セバスと鎧兵はカルネ村に帰しておく。ついでにクライムも送っておいた。最初は俺と離れようとすると寂しそうにしていたが、ペスが抱っこしてゆっくり子守歌……のような何かを口にして揺らしていたらこの人? は安心できると感じたのかクライムは微睡夢の中に潜っていった。

 

「ペスにセバス、村のことは改めて頼んだぞ。特にペスにはクライムのことは任せたよ」

「かしこまりましたわん。必ずや、セバスの髭から守ってみせますわん」

「え?」

「ああ、任せた……この人? が名付け親だぞ、クライム。優しい人……犬だからしっかり甘えていいからな」

「あの、モモン様。なぜ私の髭の件が無視されておられるのでしょうか」

「改めて行くぞ、パンドラ。今日はザナック殿下と直接会って、擬態が真実なのか確かめるぞ」

「はい!」

「モモン様! モモン様!?」

 

 いや、だってさ、セバス。お前お髭チクチクですとかやって、普通に嫌がられてたじゃん。それをペストーニャには? て顔されてたし、あの扱いも仕方ないと思うぞ? 悪意でやったわけじゃないんだろうけれど、100レベルの髭はどう考えても硬い。

 見送られながら<転移門>を潜って王城近くに出る。歩いてロ・レンテ城まで行けば、またこいつらかみたいな視線が城勤めの兵士に向けられた。

 昨日と同じように封蝋書類を見せて宮殿内に入り、ザナック殿下に会えないかどうかをランポッサに聞きに行く途中で、元気溌剌なラナーに出会った。

 

「パンドラズ・アクター様! モモン様! お待ちしておりました。ザナックお兄様に会えるよう、お父様を通じて采配しております。食堂の方に、あと30分後に向かえば会えますよ」

 

 わーお! 何も言っていないのに、ラナーは俺とパンドラが何をしたいのか。どうしてまたここに来たのか勘づいていた。凄いね四歳児の頭脳、俺のタレントとどちらの方がチートなのか比べてみたくなる。

 パンドラの方は特になにも反応していない。これぐらいなら出来るだろうと推測していたのかね? うちの参謀も、目の前の幼女もすごいね、本当に。

 

「感謝しなさいよね。どうしてかは知らないけれど、姫様がわざわざ平民のあんた達のために頑張ったんだから」

「侍女さんもおはようございます。今日もお元気ですね」

 

 ツンデレ侍女さんは相変わらずつっけんどんな言い方だが、表情は昨日のように険しさはない。片目を瞑りながら、仕方ないわねみたいな顔をしている。こうしてみると個性がある人だ、この侍女さんは。

 

「……ルイセフよ」

「はい?」

「私の名前。ルイセフ・ルブラン・デイル・ウロヴァーナよ。侍女なんて名前じゃないわ」

「ああ、名前でしたか。わざわざありがとうございます」

「べ、別に感謝してほしくて教えたわけじゃないわよ。こっちだけ名前を知っていて、教えないなんてのも家訓に反するだけなんだから。それに、き、昨日色々と教えてもらっていたから、名前ぐらいはね」

「ご丁寧にどうもです。それにしてもウロヴァーナという事は、六大貴族の?」

「そうよ。私のお父様は、あのウロヴァーナ辺境伯。私ほどの身分でないと、姫様の側回りなんて任されないんだから」

 

 あー、なんか納得。貴族に舐められがちなランポッサだが、ウロヴァーナ辺境伯はきちんと王家に敬意を払っている数少ない御家だ。そんな状況で王がまだ幼い娘の傍回りを任せられる相手となると、たしかにあの辺境伯の娘さんぐらいになるか。

 その他の六大貴族の関係者もこの王城にはいるだろうが、大体は送り込まれた間者の役目を持っていると思う。それに対して、このルイセフはなんか違う気がする。たしかに貴族らしい見下し感情はあるのだろうが、裏表などはないように感じるのだ。まぁ言い方は悪いが純粋な馬鹿? 良くも悪くも腹芸が得意なタイプには思えない。

 

「パンドラ様。お兄様の見極めが終わりましたら、また後ほどお話ししたいことがたくさんあります。来ていただけますか?」

「承知いたしました。また後ほど向かわせて頂きます、ラナー殿下」

 

 ラナーと別れたあと、そういえばラナーと何処で待ち合わせするのかを決めていないことに気づく。探査魔法で探すか?

 

「問題ありません、モモン様。今の会話で、どこに向かえばいいのかは大方掴めましたので」

 

 そうか、そうなんだ……お前らの不思議頭脳なんなの? 魔法より魔法な気がするんだけど。

 




この国公爵家がたぶんいない(六大貴族ですら候どまりで公がいない)
悔しい
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