モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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ザナック

 ロ・レンテ城は広い。外周1400メートルの城壁に囲まれていて、直径は450メートルほどの敷地に数階建ての城がデンと建てられている。その一角にあるのがヴァランシア宮殿だ。ようするに歩くとかなり時間がかかる。

 俺とパンドラはその宮殿にある、王族だけが使うことを許される専用の食堂にお邪魔した。食堂と言っても何人も入れるような広さではなく、数名だけが使うことを想定した設計だった。中々豪華な作りの部屋なので驚きたかったが、法国で立派な建築様式に慣れ過ぎたせいか、もはやこのぐらいでは驚きもしない。

 その部屋の中でちょうど食事を終えたところなのか、10代半ばぐらいの男性が一人座っていた。彼はこちらに気づいて眉をしかめた後、舌打ちを一つした。

 

「どこの貴族の子供だ? ここは俺のような王族以外は立ち入り禁止で使用禁止だぞ」

 

 じろりと睨みつけながら、よりにもよってエルフ奴隷なんて礼儀知らずなとかぶつぶつと呟いている。

 彼の見た目からの第一印象は結構な肥満。顎や頬に肉が乗るほど太っていて、お腹にもかなりの贅肉がたぽんたぽんしている。それに加えて神経質そうな早口でまくし立てる様子と言い、見たまんまだけで言えば健康管理もできず駄目そうでパッとしない青年だ。

 が、俺とパンドラはあーなるほどと思う。見た目からは駄目そうな印象を受けるが、食事を終えた皿を見れば片付けやすいように整理されていて、使用人への気遣いの様子が見て取れる。口を開いて見える歯は思いのほかしっかりと手入れされていて、ズボラな印象とは違い真っ白に輝いている。

 それに視線だ。一瞬で分かりにくかったが、部屋に入った時、この青年は驚きではなく、値踏みするように俺たちの様子を観察していた。見極めようとしていることは明白だった。

 

「お食事中のところ申し訳ございません。こちらにザナック殿下が居られるとランポッサ陛下に伺いましたので、ご挨拶できればと思い馳せ参じさせて頂きました」

「食事中? おいおい、テーブルの上が見えていないのか。とっくの昔に俺は食べ終えているぞ。それとも視野が狭くて見えていないのかな」

「これは失礼いたしました。食事後のアフターも楽しんでいると思いましたので」

「……ふん、まあいい。それにしても父上か……なら、お前がモモンだな。父上からは色々と聞いている。もしかしたら、平民の子が俺を訪ねてくるかもしれないとな」

「そのモモンで合っています。モモン・エモットと申します。以後お見知りおきを頂ければ幸いと考えます」

「平民が俺に以後、ね。父上は何を考えているのかは知らないが、王宮を庶民に出歩かせるなど愚行だな。これが貴族共に知られたら、また立場が悪くなると言うのに」

「陛下は心優しい方のご様子。私のような下賤な産まれであっても差別をせず、平等に見てくださっている。その心遣いに感謝こそあれども、否定なされる御言葉にこそ否と突きつけたくなりますゆえ」

 

 俺がこう返すと、ザナックはちょっとだけおや? と目を開ける。否定の言葉を投げかけられるとは思わなかったようだ。

 

「それに、今後尊き血を継がれる方々に、陛下は悩まされることも少なくなります。であるならば、私が上流階級にしか許されない地に土足で踏み入ったとしても、あまり問題はない……そう考えておられるやもしれません」

「それは……どういう意味かな?」

「……少しばかり腰を据えてもよいでしょうか? ザナック殿下とは、ゆっくりと語り合いたいと願っていますので」

 

 俺が含みのある笑いと共に願い出ると、ザナックは何かを考えている。考えて──

 

「それは()()でする方が良い話か?」

「はい。王侯貴族の価値観に聡い方であれば、殿下や陛下にしか使用を許されないここに滅多なことでは近づきません。殿下が呼ばれない限りは、侍女も来ないでしょう。ゆえに()()が望ましいと私は思案します」

「……そうか。ならその辺の椅子にでも座ってくれ」

「ありがとうございます」

 

 俺とパンドラはザナックの了承を貰ってから着席する。

 

「改めてご挨拶を。私はモモン・エモット、こちらのエルフはパンドラズ・アクター。私の保護者兼秘書をしているものです」

「エルフが保護者かよ……ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフだ。今後はないだろうが教えておいてやる。それにしても俺に平民の客が挨拶か。奇特なやつもいたもんだな」

「と言うと?」

「俺の肩書を知っていたら、わざわざ挨拶になんか来ないからな。それとも俺が何なのかを知らないのか?」

「王位継承権第二位を持つ第二王子。それがザナック殿下だと私は認識しております」

「はっ! なんだ分かっているんじゃないか。俺は兄上の代替品。ご機嫌伺いをしたところで、何の旨味もない立場だ。そんなスペアにご挨拶なんて、ひょっとしてお前は馬鹿なんじゃないか?」

「……どうでしょうか。陛下はけっこうな御年であられるのに、いまだ王位をバルブロ殿下に御譲りになられておりません。私はこのことから、未だに誰を後継者にされるのか悩まれていると考えています。しかし他の王位後継者となると……ザナック殿下のみ。さてこれは困りました。ザナック殿下は評判悪く、バルブロ殿下の代わりになるかどうかと問われると、首をかしげるもの多数。そう思われているからこそ、誰も殿下のご機嫌を取りに来られない……誰も、心の下に隠した刃に気づかずに」

 

 空気が変わる。目を見開いてこちらを見やるザナックからは、どうしてと言わんばかりの空気が流れている。はい、確定。

 

「……なんの話かな。俺が心に刃を隠している? 何かの例え話だとしたら、意図がよく分からないな」

「隠そうとする気持ちは理解できます。ボウロロープ侯とリットン伯。六大貴族が二人も次期国王に推薦するバルブロ殿下と違い、ザナック殿下には後援が一人もおられません。下手に刃を見せてしまえば、バルブロ殿下から誅殺される恐れもあります。一度狙われたが最後──」

 

(<念動の手>)

 

 テーブルの上に置いてあったナイフが宙に浮き、ザナックの喉に突きつけられる。あまりにもあっさりと殺されかけていることに、事態の急変に追いつけていないのか喉からヒュッと音が漏れる。

 

「こんな風にされて、最後には無残に殺されてしまう可能性がある。だから隠さないといけない」

「これ、は」

「魔法ですよ。なんてことのない手品です、殿下」

 

 俺は<念動の手>を解除する。すると突きつけられたナイフは重力に引かれ落ちていく。地面につくまで一秒もない。その前に俺はザナックの隣に移動してナイフを受け止めた。俺とザナックの間にはテーブルがあって、普通に考えればナイフが落ちるまでの一秒で移動なんてできない。

 なのに間に合ってみせた。ナイフは元の場所に戻しておく。

 

「お前は……違う。今のは……」

「ちょっとした魔法ですよ。殿下には、私が何をできるのか。それを見てほしくて、少しデモンストレーションをさせて頂きました」

「……魔法……待て。魔法は詠唱が必要ではないのか! お前は今詠唱などしていない!」

「私も詠唱を隠したのかもしれませんよ? 殿下が研ぎ澄ませた刃を見せないように」

 

 俺が冗談めかして片目を瞑りながらそう言うと、何度か頭を振ってはぁとため息をザナックはつく。

 

「……分かったよ。降参だ。俺が演技をしているかもしれないという理由だけで、普通食事用とは言えナイフを突きつけるか? 全くなんて子供だ」

「これぐらいインパクトのあることをしないと、殿下は本当の自分を見せてくれないと思いましたので。無礼を働いてしまったこと、謝罪させて頂きます」

「いらんいらん。それよりも、俺があそこで助けを呼んでいたらどうしていたんだ。お前は王族に対する殺害未遂で、打ち首獄門の上に家族どころか生まれた故郷ごと滅ぼされるぞ」

「それは確率が低いと考えています。仮に助けを呼んだとしても、誰かが来てくれる可能性が低い。だからこそ、ザナック殿下は本心を見せず、無能を演じて無害な振りをされていたのですよね?」

 

 俺がにっこり笑顔で尋ねると、もう一度なんて子供だこいつと言ってから、そうだよとそっぽを向きながらザナックは答えてくれた。

 

「……で。どうして俺が演技をしていることを知っていた」

「簡単ですよ。事前に噂として知っていたザナック殿下のあり様と、ここで垣間見えたあり様に差異があります。無能を演じられるのであれば、もう少し汚らしい食べ方をされたりすることをお勧めします。食事の仕方には人間性が出ますから」

 

 俺がテーブルの上の皿を指さすと、そんな所から気づくのかよと眉をしかめていた。その後何やら思案顔をしたかと思えば、唇を舐めてから話し始めた。

 

「全く……モモンだったな。お前は俺に挨拶に来たと言ったな。そして、父上は平民のお前に俺と会う許可をやった……お前は何者だ? ただの平民を、父上が城に呼びだすわけがない。先ほどの魔法といい、お前はあまりにもおかしな存在だ。それに兄上の代替品とは言え、王族の子である俺を、誰かと一人で会わせるなんてのは不可解だ。俺の首にナイフを突きつけたことは不問にしてやるから、お前の正体を話せ」

「承知いたしました」

 

 別段隠すようなことでもないので、法国とのあれこれ。ランポッサとの会話。その辺を教える。これで何処かに情報を漏らすようであれば、ザナックはそこまでの男。それか無能という評判通りの反応をするのであれば、やはりそれまで。全てを聞いた上での彼の言葉はこれだった。

 

「腐敗政治の是正か。そのために自分を売り込んで、父上を動かそうとした……それで俺か。父上が決断出来なければ、俺を王にしてでも改善させたいか」

「ご名答です」

「笑顔で言うことかよ。だがなぜ俺なんだ? 王位継承権で言えば、順当にいけばバルブロ兄上が次の王だ。モモン、お前自身が告げたように、兄上は六大貴族のうち、二人が推薦している。わざわざ俺の所に来なくとも、兄上の所に行けばいい。ここに来たところで無駄足だ」

「確かにザナック殿下の言う通りです。王位の継承については、長男であるバルブロ殿下が圧倒的に有利。ザナック殿下は不利な立場でしかない。それでも、私は殿下にお会いしたかった。バルブロ殿下には不安な要素があるからです……ランポッサ陛下は私の協力を受け入れるかどうかの判断を保留にされました。陛下は平民に過ぎない私に対して、真剣に悩み答えを出そうとしてくれています。ではここで御一つ、ザナック殿下に問いたいことがあります。ザナック殿下は、私達平民をなんだと考えておられますか?」

「決まっている。俺たち王族に尽くし、どんな命令だろうと笑顔で受け入れて死ぬための踏み台だ……なんて演技している時の答えを望んでいるわけではないだろ。俺の民に対する本音か……」

 

 その通りだ。俺が聞きたいのは、ザナックの本音。もちろんこの場で口にすることが全部真実である保証なんてない。けれども、この場で嘘でもいいから民を想う言葉が一切出てこないのであれば……民を一切思ってなくてもいい。どこまでも冷徹に、国を運営するシステムとしての自分に徹することができるのか否か。どんな答えを返すにしろ、ザナックの在り方は答えに出てくる。

 

「俺自身が民に対して、父上のような情があるかと問われたら難しいな。もちろん国民には幸福であってほしい気持ちはある。だが全員が安寧を得られたら……なんて夢物語を見られるほどではない。理想の国を作れるならそちらの方が良いだろうが、理想を叶えられるほど資源に余裕があるわけじゃないからな」

「それは貴族に関係なく?」

「ああ、貴族云々とはまた別だ。モモンは、この世に生きる者全てが幸せに生きられる。そんな夢想を見たい口か?」

「まさか。そんなことができるならば、そいつは全能の神ですよ。こんな風に、ランポッサ陛下に嘆願する必要もありません」

「それを聞いて安心したよ。父上に協力を申し出た誰かが、そんな夢想家なら失望しかないからな……これが俺の答えになるが、そちらの望む答えは得られたか?」

「かなり得られました。少なくとも、ザナック殿下は俺……私の問いに対して、真剣に答えてくれる。そんな見識を。ではここでもう一つザナック殿下に問わせてください。もしも今の質問をバルブロ殿下に、平民の私が問うたらどうなりますか?」

「……それか。モモンが兄上の所に行かなかった理由はそれか。それなら俺の所に来た理由にも説明がつくな。平民が、兄上に対して質問をしたら? はっ、あいつが答えるかよ。言葉の代わりに剣を抜くんじゃないか。そもそも俺と違って、ここに王族以外が入ってきたのを見た時点で癇癪を起こすから会話にならないぞ」

「ですよねー」

 

 ザナックと会話したかった理由は擬態デブなる評価もそうだが、これもその内の一つ。噂に伝え聞くバルブロの方だと、果たして俺の支援を受け入れてくれるのだろうか。なんか聞いてくれないような気がするのだ。平民如きの頼みを、なぜ王族の俺が聞かねばならんのだとかなんとか言われて。

 

「機会があれば今度会ってみたらどうだ」

「念のために顔は合わせる予定ですよ。ザナック殿下とこうして話しているように、落ち着いて話せたらいいんですがね」

「それは……あー、それは無理だろうな。モモンが兄上にキレられて怒鳴られるのを楽しみにしておく」

 

 くつくつと笑うザナックに、俺もくつくつと笑っておく。ふははははは……

 

「ところで、モモンの力が50万人分云々というのは本当か? 父上との話に脚色をしているわけではなく?」

「これから見に行ってみますか?」

「見せてもらえるなら是非とも目にしてみたい」

 

 ザナックと共に転移したら、偶々ギガント・バジリスクがいたので<魔法位階上昇・雷撃>を試し撃ち。普通なら細い雷が飛んでいく魔法なのだが、ブーステッドさせたら極太のプラズマ・レーザーみたいなのに変化する。

 一撃で消し炭になったモンスターを見て、ザナックはうわ……と声を漏らしていた。転移で食堂に戻る。

 

「モモン、あのモンスターは?」

「あれはギガント・バジリスクですね。見たのは初めてですか?」

「城にいたらモンスターなんて見る機会はないからな。お前の魔法で蒸発していたが、あのモンスターは一撃で死んだから弱い方……なんだよな」

「いいえ? あれがもし王都に出現したら、少なくとも五千人は死者が出ますよ」

「それが……一撃かよ……」

 

 はい。なんなら位階上昇させなくても一撃で死ぬと思うぞ。派手な魔法を見せた方が早いから、ブースト魔法を披露してみせたが。

 

「……父上は何を悩まれているんだ。この武力を貸してもらえるのであれば、腐敗の是正もかなり簡単になるだろうに」

「今までと変わりますからね。簡単に決断できることでもない……のかもしれません」

「すまないな。我が家の家長が優柔不断で」

 

 そんな話をしていたら、後ろでガチャリと扉が開く音がした。そちらを見たら、20代前半ぐらいの背が高い男性が入ってきた。この食堂は王族専用となれば、あの男性は王族。そして20代前半となれば、該当者は一人しかいない。

 

「ザナックに……誰だ貴様らは。ここは我らだけに許された、神聖なる場所だぞ!! どこの派閥に属する子供だ!!! それにそちらのえ……いや、こほん……綺麗なエルフだな。仕方ない、エルフに関しては許してやろう……そこの!! お前はどこの貴族だ!! 名を名乗れ!!」

 

 おい、こいつあけみさん外装のパンドラを見てありなしを判断しやがったぞ。いや、エルフへの差別意識を考えたらマシなのか? 分からん、とりあえず名乗れと言うならば名乗っておこう。面倒な予感しかしないが、誤魔化すともっと面倒なことになるからな。一応機嫌取りも隙を見つけてしておくか。膝をついて、頭を垂れて──

 

「私はモモン・エモットと申しま──」

「モモン……名前が二つだと。貴様、まさか平民か! 平民の分際で、この王宮の、しかもこの食堂に足を踏み入れるだと!! ザナック!! どういうことだ!! なぜ下民をここに招いた!!」

「お、落ち着いてくれよ兄上。この少年への入室許可を出したのは父上だ。俺じゃない」

「父上が、だと? なぜ父上が、こんな平民をこの食堂に招く」

「さぁ? それは父上に聞かなければ分からんな」

「くそ、情けない。いつからここは託児所になったのだ。いずれは全て俺のものになる場所なのだぞ。そこに平民など招けば、汚れると父上には分からないのか」

「父上も御年を召された。判断力は老化と共に落ちると言うからな。仕方ないだろ」

「ふん、だから俺に早く王位を譲れと言っているのだ。いつまでも玉座にしがみついてみっともない。全く」

 

 しがみついているのではなく、お前に譲るのが不安だからしゃあなしに座ってんだよ。とは言えないので、俺は代わりに別の言葉を口にする。

 

「もし。あなたさまはもしやバルブロ殿下であられますか?」

「なに? いつ俺がお前に発言許可を与えた。平民がこの俺に対して、直接口を利くことが許されると思っているのか!?」

「も、申し訳ございません! 眉目秀麗なお顔に、目を焼かれそうな高貴さ。地上に降臨した太陽の如き偉大さに思わず!!」

「……なに? なんと言った」

「御身は天上におわす神々の如き姿と述べました。もしも神の化身が地上へと舞い降りれば、きっと御身のような方かもしれない。そのような高貴なる存在と話すこと、誠誉れ高き行為。ゆえに無礼は承知の上で、直接尋ねさせて頂いたこと、どうか平にご容赦ください」

「ほ、ほう。俺が偉大過ぎるがゆえに、思わず声をかけてしまった。そう言いたいのか?」

「その通りでございます。我が拙き世辞を、簡易に言い換えるその端倪すべからざる英知。御身こそ、音に聞くかのバルブロ殿下であらせられますね?」

「う、うむ。その通りだ。貴様こそ平民でありながら、俺の偉大さを、そうもあっさり見抜くとは中々やりおるな。褒美に俺の名を教えてやろう。バルブロ・アンドレアン・イエルド・ライル・ヴァイセルフだ」

「やはりバルブロ様であられましたか! こうして天上の調べの如きお声を聴かせていただける機会を得たこと、心より感謝申し上げます」

「そ、そうか。そうか、俺の声を聞けて嬉しいか……ははは、すまないなザナック、怒鳴ってしまって。この平民、ずいぶんと心得ているではないか。父上も耄碌したかと思っていたが、存外まだボケてはいないようだな!」

「そ、そのようですね……とはいえ、いつまでも平民がここにいるのはまずいので、俺が直接連れていきます」

「ああ、連れていけ……そこのエルフは、そういえばだれなのだ?」

「そちらは父上が買われた奴隷だ」

「ん? ああ、なるほど。そこの小僧はまだ若いが奴隷商人か。父上に奴隷の献上に来て、非常に上玉だからここに入ることを許した。そういうわけだな」

「かもしれません」

「父上所有の奴隷では仕方ないか。そうでなければ俺の物にしていたのに、全く惜しい」

「では失礼します、兄上」

「さっさと連れていけ」

 

 しっしと手を払う動作をされながら、俺はパンドラを連れてザナックと共に食堂を出る。暫く歩いて食堂を離れてから、ザナックが話しかけてきた。

 

「あれが、お前の言う偉大なるバルブロ殿下だ」

「……あれは……あれは私の過剰な世辞に対して、冗談で受け取っていたのでしょうか。それとも、本気であれぐらい称賛されてもおかしくないと考えておられる?」

「モモンの好きな方を選んだらいいぞ。どっちでも結果は変わらないからな」

「ああ……そうなるのですね」

「ザナック殿下。私のことを、ランポッサ陛下の奴隷と偽ってくださったこと感謝いたします」

「兄上には、ああ言わないと自分の物にしようとする悪癖があるからな。父上の所有物となれば、流石に手を出そうとはしないので嘘をつかせてもらった」

 

 ザナックがにやりと笑っている。俺はその様子を見て心から思う。この僅かなやりとりだけで、バルブロよりザナックの方が遥かに上なのだと。これザナックが王位を継ぐ以外に無くね?

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