モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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ブルムラシュー

 王からの使いに呼ばれた俺は、王城に行ってランポッサから迎え入れると歓迎された。

 英断してくれたならば、こちらも全面的な協力は惜しまない。お互いに手を取り、ワンオペブラック企業にならないよう頑張りましょう。

 

「王よ、我が愛しき君よ。迎え入れてくださったことに感謝いたします。つきましては、手土産としてこちらをお渡ししておきます。パンドラ、あれを」

 

 俺がそう命じると、パンドラが己のインベントリから書類や写真などを次から次へと取り出す。瞬く間に、ランポッサの執務机が書類に埋もれてしまった。

 

「これは? ……これはまさか!?」

 

 一枚手に取り、中身に目を通したランポッサが驚きに目を見張る。俺たちが渡したのは、この国の貴族、及び役人などの貴族が関わる者らの汚職に関わる物的証拠の数々だ。

 誰それに命じた封書の本物に、封蝋付きのお手紙。改ざんされた帳簿や採掘記録に、収穫量と国庫に入れられた各領地の領主が集めた税の差異。写真は誰と誰が、どこで密会をしていたのかの客観的資料。

 

「これだけの証拠をどうやって……それも魔法、なのか!?」

「その通りです陛下。我が魔法の前には真実のみが映し出されます」

 

 これ半分は嘘だ。俺も頑張ったのは事実だが、一番奔走したのはパンドラで、次が法国の六色聖典の水明と風花だ。王国の腐敗と汚職の証拠を集めたいので、貸してくれません? と頼んでみたら、漆黒まで含めた六色全員参加しそうになったのは記憶に新しい。

 

「この資料の中でも最大の汚職となると、おそらくブルムラシュー侯の鉱山採掘虚偽報告と、貴金属の横流しになるでしょう」

「……は?」

「こちらがその証拠類です」

 

 ものを動かし金を得れば、必ずどこかに記録は残る。食料品や芸術品の名目でリ・ブルムラシュールから、帝国へと貿易品が運び込まれた公的記録が残っている。しかしこの運び込まれたあれこれと、リ・ブルムラシュール領で収穫され領内に残された小麦の量の記録が噛み合わない。

 それに輸出された芸術品の数々の名前は、存在しないか別の貴族が蔵にしまい込んでいたりする物品だった。このルートを辿っていき帝国貴族の懐事情を調査したら、ある時期からその貴族領内で市場に出回るオリハルコンやミスリルの量が増加している。

 それともう一つ。鉱山管理を実質任されている管理者の手記に残された採掘量と採掘時間、それに給金を払うための人員の記録数と、ブルムラシューが国に提出した資料に大きな食い違いがある。

 あらゆる証拠品が、ブルムラシューの貴金属横領を教えてくれる。しかも横流しされたのは少しではない。貨幣に換算すれば、他の六大貴族の資産の半分に匹敵するほどの貴金属が国内から流出している。

 それを見たランポッサの喉から、乾いた笑い声が漏れ出ていた。笑うしかないって感じの反応だな。

 

「偽物……であるな? これほどの裏切りなど……王家どころではない。王国そのものへの侮辱だ……モモンよ、これは私を驚かすための、にせもの……である、な……」

「陛下。封蝋の偽造は重罪です」

 

 これだけで俺の言いたいことは伝わった。ランポッサは暫くの間俯き、手で自分の王冠を触っていた。心を落ち着けるためのルーティーンだろうか?

 数分して顔を上げたランポッサの目は据わっていた。

 

「私を面と向かって侮辱することはまだ許そう。だがこれはなんだ……これほどの実害を産み出しておいて、あやつは毎回のように、自分がこの国一の大金持ちであることを誇っておったのか? ……は?」

 

 無意識の内かは分からないが、ランポッサの手が剣に伸びている。

 

処すか

 

 ……そんな心の声が聞こえるかのようだ。血を流すことを嫌っていたランポッサだが、流石にこれは腹に据えかねているらしい。ま、そりゃそうだよね。国の貴重な資産を独断で垂れ流しとか、これが一般市民なら石打刑で死刑なんだから。

 

「やつを捕らえる。捕らえて裁判にかけて処刑する」

「お待ちください陛下。処刑には同意ですが、我々に考えがあります。まずはお聞きくださいませんか?」

 

 

 

 

 

 裁判の流れや、城への他の貴族の集合。それ以外にも、俺の立場や権威の箔付けのために家系図捏造。色々と仕込みを終えてから、ブルムラシュー侯をとっ捕まえて城に引きずってきた。そのあと囚人服に着替えさせてから、こうして命に従い集まった貴族らの前に放り出して、裁判の準備は完了だ。

 

(今回の裁判、今後の貴族がどんな目に遭うのかを示す見せしめも兼ねてるからな。これぐらい大げさな方が望ましい)

 

 売国奴だったブルムラシュー。どう考えても処刑以外にないぐらいの罪を重ねているが、それでもこいつは六大貴族と呼ばれる王国の重鎮だ。仮にこいつの裏切りが白日の下に晒されたとして、それでも死罪となればかなり難しい。それだけ貴族の特権は強く、その中でも財力だけに限ればこいつが最強。金に物を言わせて、他の貴族を味方につけることも容易い。

 それにこいつぐらいの売国奴が許された実例を作れば、今後自分たちの首も守られると勘違いする馬鹿も出てくるかもしれない。そんなことが無いように、六大貴族ですら死刑になる、自分たちも例外なく、いつでも処刑される可能性があるのだとここに集まった連中に衝撃を叩き込む材料としてこいつは最適だった。

 

「お、王よ! 陛下よ!! この扱いはどういうことですか!! わた、私は王に従い、誠心誠意尽くしてきた忠臣! それなのに、このような囚人に着せられるような服を纏わせ、首に縄をかけるなど許されるはずがない! そ、即刻、即刻謝罪を要求する!」

 

 ブルムラシューは他の貴族、特に自分の子飼いを見て目で訴えかけている。今すぐに助けろと。

 しかしその貴族たちが何かを口にする前に──

 

「ブルムラシュー侯。王は貴様にはこうするのが正しいと判断し、裁判の場を設けている。今の貴様は、罪があるのかどうかではなく、罪の大小がどの程度なのかの裁きを受ける立場だ。嘆願すべきは待遇の改善ではなく、命を助けてもらえるかどうかと知れ」

 

 俺がブルムラシューと、彼の子飼い達を見ながら声を上げると貴族らの開こうとしていた口が塞がっていく。その様子を見てブルムラシューはなぜだと声を張り叫んでいた。

 うん、最初に一発ガツンと脅したのは正解だったようだ。俺が目を向けるだけで、貴族は誰一人として逆らおうとしない。

 

(<絶望のオーラ>様々だな)

 

 俺がやったことは単純明確。スキルの<絶望のオーラⅠ>で全員を威圧するだ。ただし、いつもと違い<絶望のオーラ>を強化してある。

 強化に利用したのは<上位全能力強化(グレーター・フルポテンシャル)>従来は能力値を全て強化するだけの魔法なのだが、俺は物は試しにこれを修正強化してみた。名前が全能力強化なのだから、能力値だけではなく文字通り俺が持つ能力を全部強化してみせろと。

 目論見は成功、スキルもブーストされた。魔法によるスキル強化をした<絶望のオーラ>を浴びた貴族たちは、全員顔を真っ青にした。ランポッサには事前に法国から借りてきた、恐怖無効の指輪を渡してある。

 

「ブルムラシューよ。そなたがそのような扱いを受けている理由。見当もつかぬとは言わせぬぞ。自ら反逆者であることを自白するのであれば、そなたには慈悲ある死が贈られる。それをせぬと言うのであれば仕方がない。私はお前に、相応の罰を与えねばならん」

「わ、私には理由などありませぬぞ!! 先ほど申し上げたように、私が陛下に持つのは忠誠心のみ!! 翻意など、ありませぬ!! 私にあるのは潔白だけだ!!?」

「……そうか。そうであるならば仕方がない。モモン、あれらを」

 

 俺は眷属に資料を持ってこさせて、中身を読み上げる。大罪人ブルムラシューが、愚かにも何をしたのかを滔々と。俺の言葉を聞くにつれ、レエブンやぺスペアもは? とブルムラシューに目を向ける。彼らの目に浮かんだ感情を言葉にするなら、守銭奴とは言えども度が過ぎているだろお前……かな?

 

「王国の鉱山とは、当然王国そのものの所有物。ブルムラシュー侯の領地にあるが、そも領地自体が王から借り受けている代物。全てを王家で管理できぬがゆえに、代理人として数多の貴族は領地の運用と経営を任されている。鉱山から採掘される鉱物は戦略資源であり、己が独断で他国に金銭と引き換えに譲り渡して良いものではない。ましてやアダマンタイトやオリハルコンとなれば、強力な武器の生成に使用される。ブルムラシュー侯、貴様がしたことは明確な国家に対する裏切りだ」

「そ、そんなもの出鱈目だ! 私がそんなことをするわけがないだろ!! 陛下、そこの子供が口にするのは大嘘です!! 陛下はそやつに騙されている!! 誰か、誰でもいい!! あの子供は貴族を貶めようとする大罪人だ! 捕らえろぉおおおお!!!」

 

 ブルムラシューが叫ぶが、立ち尽くす貴族らは俺の方を直視しようとはしない。それよりも、ブルムラシューに対して疑いの目を向ける者の方が多い。どうやらあいつの味方をするよりも、こちらに味方した方が良いと判断したようだ。

 

「なるほど、私の言葉は嘘である。そう仰られたいのですね」

「そうだ! その、その……その証拠とやらは、全てお前の用意した偽造文書!! 証人すらおらぬ状態で、私を罪に問うなど間違っている!!」

「では証人がいるなら、また話は違うと?」

「そうだ!」

 

 まるで勝ったかのような顔をしているな。たしかにあいつは多くの金を握らせて、関係者を味方にしていた。しかし全員が味方かと言えば違う。中にはこいつに腹を立てて、密告しようとした者もいる。

 

「では証人を呼ぼうか。彼を連れてきてくれ」

 

 俺はその人物を呼ぶ。玉座の間に現れたその人を見て、ブルムラシューの顔が引きつる。そうだ、お前はよく知っているよなこの人を。なにせ──

 

「おい、あれって……」

「二年前に服毒自殺した、ブルムラシュー侯の弟君では」

「な、……なじぇ? は……死んで……おかしい……」

「……久しぶりだな、兄さん。私の主観では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、お前にとっては2年前なんだろうな」

 

 殺されたと聞いて、ざわめきが大きくなる。はいはい、静粛に。まだ話の途中でしょうが。

 

「モモンよ、あれがそなたの呼んだ……死後の世界からこちらに呼び寄せ、蘇生させた証人なのだな」

「その通りです陛下。ブルムラシュー侯の収集した情報から、自らの弟を殺害したことは明白でした……で宜しいのですよね、証人」

「……私をこの世に連れ戻してくださったこと、誠に感謝いたします、陛下に王宮筆頭魔導師殿。兄の金の流れを追えば、帝国に金銭と引き換えに鉱物を流していた。帝国如きに! 貴金属を流して!! 私はその情報を基に、貴族派閥に接触する予定でした。しかし兄は私の動きを察知し、取引相手を通じて帝国の暗殺集団イジャニーヤを寄越した」

「お、お待ちを! 我が弟は二年前に自殺した! ならば、そこにいるのは偽物だ!! それにイジャニーヤなる集団に暗殺されたなど──」

「そなたは先の話を聞いておらなんだか? 私はモモンが蘇生させたと言ったのだ」

「そせい?……」

「死者を蘇らせる魔法。口封じのつもりで弟を殺害したのだろうが、仇になった……のう証人」

「はい、陛下。私は当時自宅にいた時に、複数人の人間に取り押さえられました。精神操作の魔法で無理やり毒を飲まされて……死亡寸前にその集団の一人が、私の耳元でこう囁いたのです。恨むなら我らイジャニーヤではなく、お前の兄を恨むのだな」

「そちらにおられる御仁がブルムラシュー侯の弟かどうかは、皆さんの方がよくご存じの筈だ。疑うのであれば話をしてみればいい。ここに集まった貴族の中には、彼と友人だった者もいるだろ?」

 

 俺が問うてみると、幾人かが証人に近づきお前なのか? と声をかけている。そこからやり取りをした後、親友だったのかお互いに抱き合っている。美しい友情だなぁ……弟であることを証明した貴族はシロなので粛清対象ではないし、友人もシロだ。俺も拍手をしておこう。パチパチパチ。ペストーニャ様々だな。

 

「……ありえない……死者の復活なんて……」

「死人に口はない。などというのは、魔法をよく知らぬ者の戯言だ。死者は死者でなくなり、語ることもある」

「これでそなたの望んだ証人もそろった。物的証拠もこれだけある。これ以上、お主のつまらぬ言い訳を聞くのはうんざりしておるが、まだ弁論は足りぬかな?」

「私は、やってない。私は……」

「これは困った。被告人はいまだに罪を認めておらぬらしい。どうしたものかのう、モモン?」

「仕方ありません。これを使うのは酷でしたが、使わざるを得ないようです」

 

 俺は懐からそれを取り出し、ブルムラシューに近づいていく。こちらを見たやつは逃げようとするが、首に縄をかけられていて、縄を掴んでいるのはレベル30の鎧兵。逃げられるわけもなく、首が締まって咳き込んでいた。

 

「縄を外して、代わりにこれをつけさせろ」

 

 俺が渡したのは魔法の首輪だ。ブルムラシューは暴れようとするが、腕力で敵わず首輪をつけられた。

 

「なんだ……この首輪は……」

「それは真実の輪と申します。それを付けている間は、被告人は嘘をつけない。精神感応魔法により嘘を検知すると、首輪が締まり最後には……プツン。首が引きちぎれるほどに小さくなります」

 

 説明を聞いたブルムラシューの顔が今までで一番青くなる。へー血の気が無い顔ってこんななんだ。

 

「ではどうぞ陛下。再度、ブルムラシュー侯に問うてください」

「うむ。そなたは貴金属を金欲しさに売り払った。これは事実だな? お主の口から全てを語れ」

「……ぐぃっ!」

 

 嘘をつかなければ大丈夫と黙ろうとしたようだが、残念ながら真実を語らないこともまた嘘だ。首が締まり始めたのを感じ取ったブルムラシューは、多くのことを語った。ついでに自分を助けようとしなかった子飼い貴族や敵対貴族、協力貴族の秘密も語りまくった。死にたくない気持ちだけは伝わってくる。

 語り終えた時には、秘密を暴露された貴族らの顔も青くなっていた。自爆テロって怖いね。

 

「……他の貴族の沙汰はまた後だ。ではそなたに判決を言い渡す……と言いたいところだが、貴族を罰するとなるといまだに悩むのは事実。モモンよ、このものはどう処罰するのが正しいと思う?」

「死罪以外にないかと。そうですよね、リットン伯。国を裏切り、王に背き、貴族すらも騙した愚か者の末路は死罪……それ以外に思いつきますか?」

 

 俺が話を振ったら、顔をさらに青くしたあと、そ、その通りだ! 死罪以外にはありえないとリットン伯が大声を出す。

 

「皆さんの意見はどうですか?」

「……し、死罪だ! そんなやついますぐ処刑しろ!!」

「俺たちまで裏切りやがってこの糞野郎!! 死ねぇ!!! いますぐ死ねぇええええ!!!」

「弟殺しの大罪人がぁ!!」

 

 殺せ・死罪・処刑……レエブンや一部の貴族を除いて、玉座の間に声が響き渡る。自分と同じ貴族らに後ろ指を指され、ブルムラシューは泣いていた。惨めさになのか、それとも屈辱になのか。どちらにしろ、他の貴族らは同じと見做され巻き込まれたくないのか、俺の意見に同調するように異口同音を騒音とする。

 俺は場を支配するように、片手をあげて──

 

「騒々しい。陛下の御前であるぞ」

 

 一瞬だけ<絶望のオーラ>を出して黙らせる。

 

「よろしい。では陛下、判決をどうぞ」

「ご苦労、モモン……ブルムラシューよ、そなたの刑は決定した。死罪だ」

「兵士たちよ、あれを持ってこい」

 

 俺の言葉に再び扉が開き、鎧兵が白い布と小瓶を持ってくる。布はブルムラシューの下に敷かれ、彼の前には小瓶が置かれた。

 

「モモンよ、あれがそうなのだな?」

「はい、陛下。このものは陛下の御言葉である、自白すれば慈悲ある死を与える。そう聞きながらも、真実の輪を付けられるまでは罪を認めようとはしませんでした。従来であれば、貴族の処刑は王の剣による一太刀で苦痛なく断罪されます。ですが、このものはその慈悲を受け入れる機会を自ら捨てました……御身の慈悲は不要だと考えます」

「そうか。ではあの小瓶はなんだ?」

「あちらはイジャニーヤが使ったとされる毒の成分を調べ、再現したものです……ブルムラシュー侯。その小瓶は、証人である弟君の暗殺に使用されたものと同じだ。それを飲み干せ。それが慈悲を拒んだ貴様に相応しい死に様だ」

 

 毒と聞いて、ブルムラシューの体が小刻みに震えている。自ら毒を飲み死亡する。それが恐ろしいのだろう。

 

「どうした、ブルムラシュー。モモンが申すように、自らの意志で服毒せよ。それとも出来ぬか? であるならば仕方がない。別の方法を検討せねばな」

「ではこちらなどどうでしょうか。ブルムラシュー侯が、己の領地の住民を人買いに売り払った時の資料です。売られた民が、その後どうなったのかが鮮明に記されています。こちらと同じ方法をお使いになれば、ブルムラシュー侯も納得されるかと」

「ひっ!」

 

 己が金欲しさに拉致して、奴隷市場に流れた者がどうなったのかを知っているのだろう。どんな目にあい、どんな絶望の言葉を並べて死んでいったのか。

 その方法だけは絶対に嫌なのか、意を決したブルムラシューは自ら毒を呷った。最初は変化もなかったが、鼻から血が流れ始め、白布の上に倒れ全身を痙攣させながらゴボゴボと血の泡を吹き始めた。

 

「苦しめよ兄さん。その毒は辛いだろ? ……あの日の私と同じように、散々苦しんだ上で死ね」

 

 布が血に染まっていく。屠殺される獣が死ぬ間際に出す声。

 

「し゛に゛ゴボっ! しにた゛じゅげッッッ! だじゅげぇえ!!」

 

 貴族らに手を伸ばし、血の涙を流しながら命乞いの言葉が泡と共に噴き出す。喉が苦しいのか搔きむしり、目が痒いのか己の指で抉り出そうとしている。そうして10分ほど苦しんでから、パタリとブルムラシューの腕は地面に落ちた。

 もうその腕は動かない。苦しみの声が漏れることもない。俺は近くまで行き、腕の脈を測る。心臓は動いていない。

 

「陛下。ブルムラシュー侯の死亡を確認しました」

「ご苦労であった。死体は洗浄した上で、家族の下に帰してやれ」

「御意。死体を運び出せ」

 

 眷属に命じて、ブルムラシューの死体を布で包んで持っていかせる。あとで指を貰っておこう。肉体の一部さえあればアンデッドにできるし、蘇生対策にもなるからな。

 

「これで此度の裁判は終わりとする。そなたら一同、よく見届け人になってくれた。礼を言おう……と締めくくれたら良かったのだが、ブルムラシューは幾人かの告発をしておったな。あれが真実なのかどうかは再び調査を必要とするが、事実であれば見過ごせぬ内容もあった」

「へ、陛下!! ランポッサ三世陛下!! あれはブルムラシューめの虚偽でございます!! 我らはあの者が口にしたような、犯罪になど関わってはおりません!!!?」

「それは今後の調査次第。しかし真実であれば、残念だが告発された者らも……同じように裁判をせねばならんな」

 

 ヒュッ! 何人かが息を呑む音が聞こえた。さっきの服毒地獄を見た直後に、裁判と言われたらそれはそれは仰天してしまうだろうな。

 

「調査をして黒であれば、陛下はどうなされますか?」

「むろん、この場で告発されながらも、違うと嘘をついたのだ。そのような愚物に慈悲は必要だと考えるか、モモンは?」

「いいえ。六大貴族であるブルムラシュー侯にすら許されなかった陛下の寛大な処置。それが他の貴族に必要だとは思いません」

「ははは、流石はモモン。お主は賢いなぁ」

 

 演技ではあるが、ランポッサが俺の頭をまるで我が子のように一撫する。お爺ちゃんがいたらこんな感じかもしれないな。

 なお俺とランポッサのほのぼのやり取りとは裏腹に、慈悲なんていらんだろと言われた貴族らは口を金魚みたいにパクパクさせていた。一人が前に進み出て──

 

「陛下!! わ、私の罪は真実です!! 自白します!! 真実であると自白しますゆえ、どうか寛大なお慈悲を!!!」

「わ、我も!!」

 

 数名が平伏し、ランポッサに慈悲を嘆願し始めた。目論見通りの動きに、俺は心の中でにっこりする。

 

「あの者らの罪であれば死罪には値せぬか……よかろう。そなたらは己の罪を自覚し、虚偽なく真実であると認めた。刑罰は後ほど裁判をして言い渡すが、この場でこれ以上問うことはせぬ」

 

 ランポッサが先ほどまでのブルムラシューの時とは違い、優しい声を自白した貴族らにかける。

 

「他にはおらぬか? 今であれば、情状酌量の余地ありと判断する。他には?」

 

 ランポッサがさらに声をかけると、数名が自白する。全員死罪には該当しない連中……んー、何人か死罪確定連中も手を挙げてるな。自覚がないのか、苦しんで死ぬのは嫌なのか。どちらにしろ、あいつらは苦しまずに死ぬことが決定した。

 

「これで全てか。では最後に一つ、モモンからそなたらに伝達事項がある」

「此度の裁判は国の重鎮であるブルムラシュー侯の国に対する背信から始まった。彼は陛下に対して、採掘量だけでなく税の徴収額や作物の収穫量も虚偽の報告をしてな。これを受けて、陛下は一つの試みを行う予定だ。その試みとは、国内の資源調査。人的資源、金銭、土地の収穫量。これら全てを正確に調査する」

「……え?」

「そなたらを疑うつもりはないのだが、ブルムラシューは余の信頼厚い配下であった。彼ほどの有能が裏切った以上は、そのほかにもいない……とは断言できぬ。今しがた、自白した者らもおったからな」

「お、お待ちください陛下!! 陛下は我らを信用されておらぬのですか! 検地や調査など、信頼していないと言うに等しい行為ですぞ!?」

「何を焦っておる、リットン伯。国全体が持つ国力を、改めて把握することはこの国を守る尊き血族として当然の行為。そなたも貴族として、自らの使命に日々励んでおる。その心意気に励むためにも、また疑いを晴らすためにもこれは必要な行為だ。そうであろう?」

「後日私が直接諸君らの領地に赴き、実態調査を行う。これは王命である。諸君らに拒否権はない……そう心配しないでください。陛下はあなた達貴族を信頼し、信用しています。虚偽の報告など一切なく、国庫に税などが正しく提出されていれば問題ないのです。先ほど自白をしなかったのですから、ここにいる者は大半が潔白。恐れることなど何一つない筈ですよ」

 

 俺がそう言うと、自白しなかった者の何人かは青を通り越して顔面が真っ白になった。へー、人間ってあんな顔色にもなれるんだ。

 

「王宮……筆頭魔導師殿が陛下の遠縁で、ただ者ではないことは理解しました。ですが、それでも爵位を持たぬ子供が我らの領地を荒らすなど、耐えがたきと具申いたします……」

「ほう? その意見はたしかに。ではモモンよ。此度のブルムラシューの一件は、全てそなたの手柄だ。国を揺るがしかねない事態になったかもしれぬほどの背信行為。それを調査し、発見し、私に報告した手柄は大きい。略式ではあるが、そなたに王権を以て爵位を与える。そなたは我が遠縁、つまりは王族だ。よってそなたの爵位は、この国に長らく不在であった公爵となる。よいな?」

「はっ! 公爵の身分に恥じぬよう、誠心誠意仕えさせて頂きます。これで爵位を持つ者として、大手を振って公務に励むことが出来ます」

「公!? 陛下、それはあまりにも格が高すぎます! 幾ら陛下と同一の系譜に連なるとは言え、いきなり現れた平民を公爵になど!! それに、魔導師殿はまだ子供! そのような相手に公爵など、明らかに分不相応です!!」

 

 一人の貴族が声を張り上げるが、それに声は続かない。彼らは理解している。爵位を与えるか否かは、全て王の一存で決定する。今までであれば平民に爵位など、たとえ男爵や騎士ですら与えるとなれば貴族らは反対しただろう。しかし<絶望のオーラ>と苦しみ死んだブルムラシューの光景が頭に染み付いた以上、そう簡単には声を上げる気にもなれはしないか。

 

「爵位については私に権利があり、そなたらには本来口を挟む権限はない……とは言え、今まで私に仕えてきた者の意見を蔑ろにすると言うのもな。では聞こうか、モモンに公爵位を与えることに、異議を唱えたい者は前に進みでよ。咎めはせぬ」

 

 咎めない。そう聞いて、頭の足りないと評判の一部の貴族……よく見たらバルブロも一歩前に出ようとした。なので俺は──

 

<絶望のオーラⅠ>

 

 再度強化版恐怖デバフを与えておく。あ、バルブロもゲロ吐いた。他の貴族も不意打ちで喰らったからか、膝から力が抜けたり、腰が抜けたりして倒れていく。中には気絶しているやつらもいた。<上位全能力強化>の汎用性の高さが凄い。

 全員反論どころではないのか、誰一人として反対意見も出ない。

 

「どうやら皆納得してくれておるようだな。そなたらの忠義、実に嬉しく思うぞ」

 

 とランポッサは言葉を口にするが、そんな言葉を聞く余裕はなさそうだ。中には恐慌デバフを喰らったかのように、この場から脱兎の如く逃げ出していく貴族もいる。

 ウロヴァーナさんとかぺスペアさんはごめんね。今度もうちょっと練習して、指向型に出来るようにしておくから。

 

「それではこれより、此度の簡易法廷に顔を見せなかった貴族を捕らえに行ってきます。護衛については私のゴーレムを置いていくので、身の安全については保証いたします」

「うむ。蘇生魔法もある以上は、私と家族の安全も保証されていると納得しよう。ではモモンよ、我が召喚に応じなかった不届き者らを、ここまで連れてくるのだ」

「御意」

 

 さーて、これから忙しくなるぞー。




大公検地
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