モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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森の賢王→ハムスケ

 でかハムスターを捕まえるにしても、どんなストーリーラインを作るべきか。ここで<時間停止>の効果時間終了後に俺が姿を見せてこのハムスターを止めると、アルさんに姿を見られてしまう。それは望ましくない。それにどうすべきか考える時間が欲しいので

 

「<魔法遅延化・時間停滞(デュレイマジック・テンポラル・ステイシス)>。<魔法遅延化・睡眠(デュレイマジック・スリープ)>」

 

 ハムスターには対個人用の長時間停止魔法を。アルさんにはバステ魔法をそれぞれ使用しておく。<時間停止>の効果時間は1分ほど。俺の体感時間で数十秒が経つと、時間が再び動きだすが、遅延化した魔法も同時に発動する。ハムスターは再び時間が止められて、アルさんは目論見通り眠りに入った。

 

「よし。これで時間が稼げたな」

 

 放っておくとまたハムスターは動いてしまうので、のんびりしている時間はない。こいつを捕まえるとなると、そうだな。やはり恩を売るのが大きいだろうか。例えば殺される寸前に、助けられたりすれば恩も感じるだろう。推測通り30レベル前後であれば、中位アンデッドをけしかければ簡単に殺す寸前まで持っていける。

 

「うーん。でもそれをすると、変に怪我を負うかもしれないか。アンデッドをあまり見せるのも好ましくない。そうなると……結局のところ、俺が直接ぶん殴るしかないよな」

 

 アンデッド任せにすると、手加減が下手なのか手足が折れたりする可能性が高い。バレアレ夫婦は薬師なので、おそらく持ち物に傷を治すポーションなりもあるだろうが、それで治るのかどうかは不明なのであまり無茶な怪我はさせたくない。それに言うことを聞くようにするのであれば、直接上下関係を教え込むしかない。それで駄目なら、可哀そうではあるがこのハムスターは殺処分だ。もしもカルネ村の方に出てきたら面倒だからな。

 方針さえ決まれば、あとは<時間停滞>の効果時間が終了するのを待つだけ。俺は状況を見計らい

 

「させるか!」

「なんでござるか!!?」

 

 ハムスターは空中で停止していた。時間が動き出せば、当然跳躍の落下から始まる。その僅かな時間を狙って、俺はハムスターの目の前に飛び出て攻撃を受ける。上位物理無効化はオフにしているので、体重差もあり俺は吹き飛ばされる。その方向には地面に寝かせたアルさん。その上を飛び越してから地面に着地。すぐに

 

「大丈夫ですかアルさん! くそ!! 気を失ったか」

 

 ここぞとばかりに、まるで今ぶつかってアルが気を失ったかのようにアピールをしておく。こうしておかないと、ハムスター視点では急に今襲おうとした人間が寝たかのように見えるからな。不自然なポイントは念のために潰しておかないと。

 アピールが終われば、すぐにハムスターの方に視線を向ける。突如として出現した俺に驚いているのか、向こうさんは目を丸くしていた。この丸くというのは物理的は意味で、文字通り黒目部分が丸く広がっている。

 

「こ、子供でござるか? 先ほどまで気配はしなかったでござるが……それよりも、それがしの前足を受けて立てるとは。童ながらあっぱれな手合いでござるな」

「ござる口調にはなれないな、どうにも。ま、それはいいか。おい、お前はこの森の、なんだろ。森の主的なやつなのか?」

「なぜ疑問形でござる? その通りでござるよ。それがしは、この辺り一帯を統べる森の賢王と言う者。お主こそなんでござるか? そやつらの仲間でござろうか」

「もりの……なに?」

「森の賢王でござる」

「賢王って。なぜそんな名前を名乗っているんだ?」

「大昔に、人間の戦士がそれがしを見て口にしたでござるよ。それ以来、森の賢王を名乗っているでござる」

「あ、そう……」

 

 ハムスターを見て、なぜ森の賢王などとその戦士は言ったのだろうか。ちょっとでかいが、それ以外は愛くるしい見た目をしたハムスターでしかない。

 喋るから賢王? それとも実は何か頭のいいポイントがある? 例えば、実は実力を隠していて、普段はそうと分からないよう手抜きをしてるとか。

 

(ないか。今の一撃を受けてみて分かったが、やはり見立て通り30レベル前後っぽいし)

 

 物理ダメージ検証をしたときに、5レベル刻みでアンデッドを召喚して自分を殴らせたことがある。その時の30レベルの近接型アンデッドによく似た衝撃だった。さすがにこれから殺そうと言う段階で、手加減で殴る可能性は非常に低い。一応手加減をしている可能性もまだ脳内に残しておくが。

 

「で、俺がなんなのかだったな。この人たちの知り合い……みたいなものだ。森に入るこの人たちのことが気になって追いかけてみたら、お前に殺されそうになっていたから助けた。それだけだ」

「ふむ? 知人を助けるために割って入ったでござるか。小さな体躯でありながら、中々の勇気。まだ子供でありながら、もう立派な戦士でござるな」

「おほめに与り恐縮だ。その立派な戦士に免じて、この人たちは見逃してはくれないだろうか? そもそも、どうしてお前と争っていた?」

 

 縄張り云々は聞いていたので理由は知っているが、今の設定は何とかギリギリ救助に間に合った体なのだ。ちゃんと知らないふりをしないといけない。

 

「なぜかと問われても、それがしの縄張りに許可なく踏み込んだゆえ……としか言えんでござるな。お主ら人間の世界ではどうかは分からないでござるが、自然の世界では強さこそが全てでござる。より強い主の縄張りに踏み込むのであれば、命のやり取りぐらい普通でござろう」

「人間でいえば、不法侵入みたいなものか?」

「あ、それでござる!」

 

 不法侵入相手に警告なしでの発砲。リアルでもエリート層が住むアーコロジーに許可なく近づけば、下層の人間は容赦なく射殺されていた。俺もカルネ村に近づく相手は、人間以外の亜人などは事前通告なしで屠殺しているのであまりとやかくは言えない理屈だった。

 

「それは、たしかにこの人達にも落ち度があるな。それを踏まえた上でお願いしたい。ここは見逃しては貰えないだろうか?」

「それは無理なお願いでござるなぁ~。自然の掟にそのような甘い理念は無いでござるよ。お主だけであれば見逃しても良いでござるが……」

「それこそ無理だな。知人を見捨てて、逃げるわけにもいかないだろ?」

「そうでござるか。お主は童ゆえあまり殺生をしたくは無いでござるが、邪魔をするのであれば仕方ないでござろうよ……いざ!」

 

 言うや否や、ハムスターは疾走を開始。その動きはけっこう速く、俺との距離を瞬く間につめてくる。立ち上がり前足を振りかぶって降ろしてくるので、前に飛び込んで地面を転がって躱す。その勢いのまま、右後ろ足を蹴り飛ばした。伝わってくるのは岩石を蹴ったような感触。森から出てくるような魔獣であれば、これで足がへし折れるのにこのハムスターは違ったようだ。

 

「っっっ! 中々重い一撃で御座るなぁ!!」

 

 それでもかなり堪えたのか、向こうは少し足を庇うような動きをしている。距離を取ろうと後ろに下がったので、俺は足に力を込めて飛び込む。それをさせまいと尾を動かして、叩きつけるように攻撃を仕掛けてくる。

 その一撃一撃を、しっかりとガード。思ったよりも伸びる尾に少し俺は驚くが、速度そのものはそこまで怖くもない。気を付けていればどうとでもなる手数だ。

 

「な、なんと! 見た目は幼い童なのに、一廉の武闘家のような動きをするとは驚いたでござるよ!!?」

「鍛えてるからな」

 

 鍛えている、と言うのは嘘ではない。生まれつき力があるとは言え、この世界の脅威度が不明な以上けっして油断はできない。装備やアイテムなどがない今、ユグドラシルのモモンガに比べると俺はかなり弱い。その弱さを補うためにも、新たな武器は必要となる。

 そこで考えたのが、近接技能も育てようだ。ゲーム時代には魔法詠唱者(マジックキャスター)が近接戦をすることなどないが、ソロ活動でMPに制限がある以上できるだけ使わなくても済む戦闘法を確立しておきたかった。

 しかし前世の俺は、ギルドメンバーのたっちさんのように武道になど精通していない。素人が一人で手足を振り回しても、特に成果など得られない。

 

(やっててよかったデス・モンク道場だな)

 

 そこで役に立つのが35レベルのデス・モンクだ。ゲーム時代には召喚アンデッドには微妙なAIしか搭載されておらず、動きなどはとても弱かった。それが今はどうも違うようで、自律稼働する分戦闘技術などがかなり優れている。例えばデス・ナイトであれば大盾の使い方が上手く、デス・ファイターなら片手剣とラウンドシールドの戦闘技術が天晴などだ。

 俺の近接ステータスは大体33レベル相当なので、デスと名の付く35レベルモンスターの動きは非常に参考になる。こいつらのおかげでそこそこ強い近接モンスターの動きに慣れているので、このハムスター相手であれば、素手でも問題なく対処できた。

 なお、素手を選んだのは消去法だ。マジックキャスターの能力には、重武装だと著しい制限がかかる。ユグドラシルではそもそも全身鎧などを着込むことができず、こっちだと装着はできるが魔法使用が不可能になるなどのデメリットが存在した。

 剣などを腰につけても駄目なようで、とにかくユグドラシルでマジックキャスターが使えなかった武器などを身に着けるには、多くの問題がある。   

 いざという時に、魔法が使えないというのはかなり危険だ。<上位道具創造>による装備であってもあまり変わらず、多少は制限がマシにはなる程度。

 それらの問題を回避しようとすると、装備類は杖や素手に限定する必要があった。

 

「ちょ、ま! ま、待つでござるよ! これは予想外で!! <全種族魅了(チャームスピーシーズ)>!」

 

 こいつ魔法を使えるのか!? 幸いこちらには精神作用無効も高い総合耐性もあるので効かないが、もし今の苦し紛れな精神魔法が通っていたならこちらの負けだ。

 

「げぇ!! 効いてないでござる!!!?」

「おらぁ!」

 

 懐に潜り込んでは打撃! 逃げようとすればキック! 尾を掴んでは振り回して木にぶつける。死なないよう、できる限り怪我をしないよう加減はしているのと、思ったより頑丈なおかげかハムスターは意外と見た目は平気そうだった。

 

「こ、降参! 降参するでござるよ!! 降参するでござるから、どうか命だけは助けてほしいでござる~!!」

「お前……自然の掟とやらはどうしたんだよ。甘い理念は無いんじゃなかったか?」

「死ぬかもしれない時に、そんな理屈を通す方が命に対して甘いでござるよぉ!!!」

 

 平気なのは見た目だけで、案外堪えていたのか降伏宣言してきた。お腹をみせてもう何もしないよ? と無害アピールをするハムスターに、死にたくない気持ちは分かるがと呆れてしまう。

 土下座で油断を誘う戦法もあるのでそれを警戒はしたが、こちらが無防備な姿を晒しても何もしてこなかったので、どうやら本当に降伏したようだ。

 

「命を助けてほしいか?」

「そうでござる……」

「ならそうだな。俺の仲間になれ。そうしたら、お前の命を見逃してやるよ」

「ほ、本当でござるか?」

「本当だ。仲間を傷つけるつもりはないからな」

「ありがとうでござるよ~! それがし、番も次代もいない中で死にたくなかったでござる!!」

「そうか、良かったな」

 

 番と次代。つまり独り身で死にたくないとこいつは言ってるのだ。その気持ちは良くわかるので、わりと本心から良かったなと声をかけておく。

 

「それじゃぁ……とりあえず、俺が今から言う言葉を復唱しろ。それが俺の仲間になる上で大切な条件で、今後守ってもらうルールだ。もしも守れないようであれば、この戦いの続きをするからな」

「りょ、了解したでござるよ……」

 

 

 

 

 

「ごめんなさい、父さん、母さん。勝手にバレアレさんやアインザックさんについて行ってしまって……」

「いいのよ、モモン。あなたが無事に帰ってきただけでも、私たちは嬉しいのだから」

「それよりも、その。ハムスケさん……で宜しいのでしょうか?」

「そうでござる! それがし森の賢王改め、今日からハムスケを名乗らせて頂くでござるよ」

「は、はぁ」

 

 いろんな打ち合わせを済ませてから、俺はハムスケと名付けたこいつにバレアレさんたちを乗せてカルネ村に帰還した。なぜそんな名前を付けたかと言うと、負けた以上は俺の舎弟なので直接名を貰いたかったのだとか。こいつの価値観では、主君から名を授かるのが名誉らしい。

 森から帰った俺は、すぐに大きな声で大人を呼んだ。聞きつけた大人は俺が連れ帰ってきたハムスケを見て悲鳴を上げたが、そばに俺がいるのとハムスケに乗せられた一行を見てさらに血相を変えた。

 すぐに全員村の医療所代わりの家に運び込まれ、俺が眠らせただけなので軽傷のままだったアルさんだけはすぐに目を覚ました。すぐに全員の状態に気づいた彼女は、手持ちのポーションと薬草を使って怪我を治してしまう。その時に見たポーションの色が青だったのは少し気になったが、これは後日調べれば良いだろう。

 

「ありがとうね、モモンくん。あなたのおかげで私たちは助かったわ」

「本当に感謝するぜモモン! まさか森の賢王の前に飛び出て、説得しちまうなんてな」

「説得とは違うでござるよ。ただただ、小さな身で他者を守らんとする姿に、それがし感服しただけでござる」

「それでもすげえよ! あんたみたいなおっかない魔獣を相手に、立ち塞がって見せたんだからな!!」

 

 アインザックさん達は最初自分達を殺し掛けた森の賢王に思うところがあったようだが、現在は敵意も見えず大人しくしているので色々と諦めたらしい。そもそももし暴れ出したりすれば、勝てないのだから諦めるしかないと言う方が正しいだろう。

 俺はと言うと、称賛する声にははと笑いながら、照れ隠しでもするかのように誤魔化すのが精いっぱいだ。案外うまくいくものだな、カバーストーリー。

 話の流れは単純だ。初めての冒険者に興味津々だった俺は、遊ぶと言ってこっそりと集団についていく。そんな時にハムスケと冒険者たちの戦いを目撃し、殺されそうになっていたところに飛び込んで守ろうとした。

 小さな子が、勇気を出して森の賢王を止めようとした。その勇気を認めて、森の賢王はお赦しになられた。それだけでなく

 

「しっかし、この坊主に才能ねぇ? 将来的には、森の賢王よりも強くなるだって?」

「本当でござるよ! 今はまだ芽に過ぎぬかもしれないでござるが、きっちり鍛え上げればそれがしに匹敵する。ひょっとすれば、超えるほどの猛者になるやもしれぬでござるな。それを見届けるためにも、それがしはこの村でモモン殿の行く末を見届けるつもりでござるよ」

「そりゃ、楽しみだな」

 

 ついでに、将来的に俺が強くなってもおかしくはないようなストーリーもでっち上げておいた。使えるものはなんでも使う、それが俺の方針だ。

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