モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
召喚に応じなかった貴族らを全員捕まえてランポッサの前まで引きずっていき、簡易裁判のあと処刑人として俺が全員葬った。全員泣いて心を入れ替えますと懇願したが、<支配>して本音を語らせたら絶対にお前らを殺してやる王も今まで見逃してやっていたのに、こんな目に遭わせるなどふざけるなと感情を爆発させてくれたので、体も爆発させてやった。我慢はストレスになるから、身も心も弾けた彼らはきっと本望なことだろう。
その他自白した貴族達は、全員正しく裁かれた。軽微な罪を犯した者は、財産の没収などの罰金刑に数か月の謹慎処分。数度の鞭打ちなど軽い罰で済ます。配下に命令して王の財を横領していた貴族などは、ランポッサの代理人として俺が即死させた。一切の苦痛なく、苦しむこともないように、即死魔法であの世に送ってやる。アンデッドの刑も無しだ。ランポッサが慈悲のある死を賜ると約束したのだから、俺もそれに倣うだけ。
そうして領主を無くした領地については、数少ないランポッサの手駒を配置したり、カルネ村の住民から……という名目で、法国の文官を一時的に配置する。
「ありがとうございます。本来であれば王国から文官を出すべきところを、法国に頼ってしまい……念のために、領地経営について教え込んだ私の眷属を数体置いていくので、上手く活用してください」
「はっ! 必ず、気高き君が選ばれし者として、最善を尽くさせて頂きます。我が心は御身のために! 我が身は御身の眷属のために! ただこの時のために、私は多くを学んできたのです!! 必ずや! この地を御身に捧げるに相応しき土地へと変えてみせます!!!」
「……俺じゃなくてランポッサ陛下です。俺に捧げなくていいんですよ?」
「承知致しました!! この世の全てはもとより御身の庭!! 捧げるなどと大それた妄言を吐いてしまったこと、どうかお許しください!!」
やだなぁ、五体投地で平伏し始めたよ。この人闇教の信徒で、一日に20回の礼拝を欠かさないぐらいの信者らしいとは聞いていたけど……心まで病んでいるんじゃないだろうか。
(たしかこの人、元々は法国貴族の娘で、領地に亜人が侵攻してきたところを俺が助けたんだよな。輪廻権現として亜人らを追い払っただけなのに)
修正強化した武装<要塞創造>で亜人軍をハチの巣にしただけ。戦闘時間は10秒もない。それでここまで平伏されても、正直困惑しかないが……
(まぁいいや。働いてくれるならなんでも)
とにかくランポッサと共に色々な用件を済ませたら、ようやく本命の調査・検地の時間だ。
先触れとして俺の眷属ゴーレムを複数体、各領地に派遣する準備も完了。
という訳で、パンドラと共に楽しい楽しい家宅捜査の始まりだ! ……といきたかったのだが、概ね予想通りの動きを貴族らはしてくれた。
「なんなのだ! あの愚王め……我ら尊き血の持ち主を処罰するだと!! 何様のつもりだ……ランポッサめぇ……」
「ブルムラシュー侯も愚かな! 帝国へアダマンタイトを小金欲しさに横流しだと! あの拝金主義の愚行のツケを、なぜ我らが払わねばならないのだ!?」
ボウロロープ侯の領地であり、彼が住む都市リ・ボウロロールの邸宅において複数人の貴族が集結していた。彼らはブルムラシュー侯の裁判に呼ばれていた者らだ。裁判終了後、彼らは結託した。
王派閥と貴族派閥が混ざっているが、もはやそんなものはどうでもいい。彼らの視点では王は狂ってしまった。傲慢にも全貴族を対象とした調査を敢行しようとするなど、王国貴族の価値観や常識からすれば言語道断。あまつさえ、王国法に背いていれば裁判? 何様のつもりなのだろうかと憤る。王国の法とは貴族なのだ。貴族こそが法なのだ。王とはしょせん象徴でしかなく、その気になればいつでもすげ替えが利く頭。だと言うのに、ランポッサは王権を行使しようとしている。
屈辱なんて生易しい言葉ではすまない。数十年間、自分たちの顔色を伺うしか能の無かった王が、反抗してきたのだ。誇りと家名を傷つけられて黙っているような腰抜けではない! そう彼らは世間に己らの力を誇示しなければならないと使命感に燃えていた。
「王がこのような暴挙に出た理由は明白! あの子供だ!! モモン・エモット……我らに頭を垂れるべき平民でありながら、我らを見下す反逆者が!」
「……エモット公爵であろう」
「何が公爵だ! 聞けばあの子供は11歳だと言うではないか! 11歳に爵位だと! 平民に公爵位だと!! どれだけ貴族の高名さに恥をかかせたら気が済むのだ、あの愚王は!?」
「さよう。王の母方の血を継ぐそうだが、そんなものは出鱈目だ。仮に真実同一の血だろうと、平民は平民。傍流など、我らのように代々血を繋いできた神聖かつ崇高な一族とは違う」
「エモットとやらの血には、多数の下民の血が混ざっている。言ってしまえば、あれは雑種だ。純血ではない者に爵位など……ありえん!!」
貴族はすごい! すごい血の我らはもっとすごい! なぜなら私たちは尊い血族であることを信じている!! 我らは選ばれし貴族の末裔!! 真なるリ・エスティーゼの民だ!!
おぉおおおおおおおお!!!
共通の敵を前に、王派閥も貴族派閥も関係がない。
貴族たちは激怒している。必ず、かの邪智暴虐の王と穢れた血の魔法詠唱者を除かなければならぬと決意した。
「それでどうする。狂気に塗れ血に飢えた王をどうやって排除する」
「毒殺刺殺、殺し方など幾らでもあるだろう?」
「しかしモモン・エモットは、蘇生なる死者を蘇らせる魔法が扱える。あれがある以上は、王の排除は一時的にしか行えん」
「それに王の愚行の原因はあの平民だ。ならば、まずは王宮筆頭魔導師だかなんだか知らぬが、あれを殺してしまうのが先決」
「だが殺せるのか? エモットは普通ではない。あの我らを威圧した謎の魔法。あれの正体が何かは不明だが、真正面からあれを打ち破る方法がない限りは殺せぬのではないか?」
「何を言うか! 魔法詠唱者などしょせんは手品師奇術師の類。あの場では恐れで動けなくされたが、鎧を纏い心に尊き火を灯せば魔法など何するものぞ! 家宝の剣の錆にしてくれるわ!!」
「そのようなことをせずとも、寝込みを襲うなり食事に毒を盛るなり謀殺のやり様など幾らでもある。やつの家族を人質に取り従わせてもな。それでも駄目であれば、民兵と私兵で軍を結成し、踏みつぶしてやればいいのだ。がはははは!!」
「エモットを無力化したら、次はランポッサだ! あやつを玉座から引きずり落とし、バルブロ殿下を次王に据える。己らがどれだけ愚かな真似をしたのか。落とし前をつけさせてやるわ!!」
集まった貴族らはランポッサとモモンを悪し様に罵る。自分たちは負けない。自分たちこそが正当かつ正義。それらを聞きながら、派閥の関係上頭領をせざるを得なくなったボウロロープ侯は、己の顔にある傷を撫でながら思案する。
(本当にどうにかなるのか? モモン・エモットは普通ではない。普通では無さすぎる。全員が恐怖に怯えたあの魔法。あれはなんだ。真の魔法詠唱者とはあれほど異質な何かなのか?)
若い頃に剣を手に、モンスターとボウロロープ侯は殺し合いをしたことがある。顔の傷はその時に受けたもので、顔だけでなく全身に傷は残っている。王国でも数少ない、本物の死闘を経験したことがある貴族だけに、直接対峙してモモンの異常さに背筋を震わせていた。
(レエブン侯は己の領地に引き籠った。ウロヴァーナ辺境伯とぺスペア侯は静観。リットン伯はこちらに来たが、やつは六大貴族の中では一番頼りにならん)
レエブンは玉座の簒奪を狙ってはいたが、政治に関しては至極真っ当。汚職や民への圧政も無いので、王に忠誠を誓えば生き残れる立場。ウロヴァーナはもとより王派閥で、ランポッサに敬意を持ち、こちらも圧政などは強いておらず、ランポッサが望む理想の領地経営に近い状態で運用されていた。
ぺスペアもウロヴァーナと似たような立場で、ただ王派閥ではなかっただけ。しかし今回の一件で、確実に王の前で平伏することだろう。
そのせいでボウロロープは貧乏くじを引く羽目になった。六大貴族で貴族派閥で年齢も一番高い。それに──
「見てください義父上。これだけ士気高い味方がいれば百人力。負けはせぬと思いませんか!」
「そ、そうですな、バルブロ殿下。私も、みなが心折れず奮迅してくれること、実に喜ばしく思います」
……バルブロの義理の父。この立場がある以上は容易に逃げられない。自分の娘と、次期国王であるバルブロとの政略結婚。これで六大貴族としての立場を強化し、勢力を伸ばしつつあったレエブンの台頭を抑える。そんな目論見が、ここにきて枷になった。
今からバルブロを切り捨てられはしない。そんなことをすれば、今度は自分が信用を無くしてしまうとボウロロープは理解している。立場と地位の鎖がある以上は、嫌な予感がどれだけしてもリ・ボウロロールに集まった反国王派の貴族達の神輿をやらざるを得ない。
貴族派閥でありながら一瞬で安全圏に逃げられるよう立ち回っていたレエブンを恨みつつ、不安な言動をするバルブロと、こちらには真なる王がいるのだと盛り上がる貴族の統制を、ボウロロープは死んだ目をしながらしていた。
「これが現状の貴族達の動きになります。裁判の場では退きましたが、陛下に対して逆恨みしている者は多くいます。彼らは障害となるモモン様を排除するために、各方面に自分の伝手を使って暗殺者やワーカーなどへの依頼を出しているようですね」
ヴァランシア宮殿の一室で、俺・パンドラ・ザナック・ランポッサ、そしてもう一人。計5人が集まり、現在各勢力の思惑についてパンドラから説明を受けていた。なお部屋に集まっているのは5人だが、ラナーも俺経由で<伝言>によりリモート参加している。流石にここに直接顔を見せたら、ラナーパパが心配しちゃうからね。
「モモンが脅しつけ、父上の処刑をみせつけてもめげはしないか。その根性を国を良くする方向に少しでも生かせないものか、あいつら」
「それができないから汚職に進んでしまったと推測されます」
「私を殺したくて、たくさんの刺客やらが狙ってくるのか。カルネ村の防備については万全を期してあるが、もっと強化しておくか。そっちにも依頼はきている感じか?」
「はい。モモン様抹殺依頼ですが、王国内の貴族から多数届いています」
「誰から来ているのか、あとでリストを作成しておいてくれ」
「……モモン。先から気にはなっていたんだが、お前と同い年ぐらいに見えるその女の子は誰なんだ?」
「こちらは帝国の暗殺集団、イジャニーヤの次期頭領ティラさんです。私の命を狙う輩が多くなることから、アドバイザーとして来ていただきました」
はー? みたいな顔をザナックがしている。これから暗殺者がこぞってやってくるのだから、専門家をお呼びするのが一番なんだから仕方ないだろ。
「イジャニーヤと言うと、新生ブルムラシュー侯を暗殺した集団だったな。なぜモモンと共にいるのだ?」
「貴族の汚職証拠集めをしていると、かなりの頻度で彼女らの名が出てきます。なので一度接触を試みてみたのですが、その時に我らの名を探る者には死あるのみ! と命を狙われてしまいまして……仕方ないので本拠地を探し出して、現頭領であるティラさんの親含めて全員
「……せ、説得ね。うん、説得したんだな」
はい。俺の命が狙われたことにセバスが激おこしてイジャニーヤの拠点が半壊したり、クアイエッセとアンティリーネと最近漆黒メンバーになった人間最強がカチコミしたりと色々あった結果、イジャニーヤは泣きながら命乞いして法国のために働く集団になりました。
旧ブルムラシューが飲んだ毒にしても、成分調査とは全部嘘で、直接ティラに用意させた代物だ。配合成分調べるよりこっちの方が早いよね。
「ようするに、あほな貴族連中は、とっくの昔にモモンの手駒になっている暗殺者に、必死こいてモモンの殺しを依頼してると? は! とんだ喜劇だな……ところで、イジャニーヤはその依頼をどうするんだ? 意外と金払いがよか──」
「受けません! 絶対に受けません!! ほ、ほんとですモモン様、わ、私達イジャニーヤはモモン様の手であり足です!! 翻意など! 一切!! 決して!! ありません!!!」
「そ、そうか……モモン、いったい何をやったらこうなるんだ?」
俺は何もしてません。むしろ止めた側です。一番暴れたのはセバスで、次がクアイエッセです。ギガント・バジリスク5頭をけしかけたり、切れ切れ竜人がデストロイヤーになったりしたのを頑張って止めました。もしも証人の蘇生が出来なかった時は、イジャニーヤに証言してもらう予定だったので、俺は全力で止めました。
「それでどうする? モモンに対する殺害計画は、ひいては私に対する反逆と同じだ。今すぐに鎮圧するか?」
「いいえ、当分の間は泳がせます。放っておけば、向こうから処刑に値する理由を提供してくれる形になりますので。モモン様を殺害できないとなれば、すぐにしびれを切らして軍を編成し攻め込んできますので、その段階で一網打尽にします」
「待っている間に、不正の証拠隠しなどに走られはしないか?」
「汚職の証拠はブルムラシュー侯の時に、全て集めてあります。彼らが何をどうあがいたところで既に手遅れ。今日慈悲で裁かれて死ぬのか、明日苦痛の中で亡くなるのかの違いしかありません」
「……俺の親戚が用意周到すぎて怖いな。あの兄上も、向こうに行かずに、こちらにいればまだマシだったろうに」
それなぁ……気が付いたらバルブロの姿は王城になく、義父であるボウロロープ侯と共に行動していた。その時のランポッサの姿は忘れられない。
「実の父よりも、義父の方が信頼に値するか……」
バルブロが選ぶ道次第では、自らの手で実の子をランポッサは処罰しなければならない。この国の改革を最後は自らの意志で選んだとはいえ、それでも場合によっては家族の処刑をしなければならない。
そのあたりを含めて、俺はランポッサは貧乏くじを引いたなと同情する。
(貧乏くじと言えばボウロロープ侯もだ。あの人はリストには入っていないが、この流れだとほぼ確実に死刑待ったなし。ままならないな。リットン伯がもうちょい役に立つなら、あいつに全責任を被せて死罪にしたのに)
ボウロロープは平民を王国貴族らしく軽視してはいるが、領民を蔑ろにした形跡はない。税率などは全て適正な値で、財をちょろまかすなどの不正をしたこともない。冒険者などの強者には相応の敬意は払っており、領内にモンスターが出たら自分が率先して討伐に出たりと、ノブレス・オブリージュはしっかりこなしている。
パンドラと俺の評価は、猪突猛進な所が多々あるが、概ね問題はない貴族。正直なところ貴族派閥のリーダーなのでこちらの陣営に引き込み、その他諸々の罪は全部リットン伯に背負ってもらうつもりだった。だがバルブロが思った以上に愚か過ぎて、侯も酷い貧乏くじを背負う羽目になっている。
(どこかで直接説得に行くか? ザナックも連れて)
俺だけで行くと揉めそうなので、王族のザナックも連れていく。とりあえずそれまでは、俺宛の貴族からの応援コールを捌きつつ、問題児貴族以外の検地とかを済ませますか。
「あ、モモン様。あそこにいるのは、私の商売敵です」
城を出て歩いていたら、ティラが暗殺者に気づいた。それじゃ、俺一人で裏道をうろうろしてくるわ。
「ふ……馬鹿な暗殺者。こんな仕事を引き受けるなんて」
なんかティラが鼻で笑っているが、初対面の時に三姉妹揃ってニンジャパワーに酔いしれてお前達が私に勝てるわけないだろ強者ムーブしてたの忘れてないからな。そのあとガチギレ一人師団に三姉妹揃って追い詰められて、俺が助けるまで泣きながら土下座してたのも覚えてるからな。
「その節はありがとうございました」
ほんとかよ。
超おまけ 輪廻権現信奉者の述懐
輪廻権現様に王国で一時的に領地を任された。この栄誉に私の心身は震えてしまい、輪廻権現様の前ではしゃぐのを我慢するのに忙しかったほどだ。
私は元々家族全体でスルシャーナ様を信奉していたが、とある事件を切っ掛けに父と私はスルシャーナ様の生まれ変わりである輪廻権現様にその身を捧げる事を決定した。
今でも輪廻権現様の御活躍の姿は目に焼き付いている。その時、私は父と共に前線となってしまった領地の都市にいた。亜人らは軍を編成し、三千以上の人数で都市に攻め入ってきた。援軍が来るまでの間に、都市住民らがどれだけ亡くなってしまうのか。
「……お前は逃げろ。私が死んだあとは、お前が当主だ」
「ですが!?」
「でもはない! ここから脱出し、援軍の要請を出すんだ」
「………………」
父の言葉は正しい。私一人いたところで、新たな遺体が増えるだけだ。ならばここからどうにか出て、軍や六色聖典の派遣を願うのがもっとも死体を減らす方法。
それでも涙は止まらなかった。突如襲来した父との別れ。自分ひとりだけがおめおめと逃げなければならない惨めさ。
人間の弱さを……亜人には敵わない生物としての脆さを突きつけられる。それが悔しかった。悲しさよりも、自分は何もできないことを見せつけられる現実。それでも時間は待ってくれない。亜人の包囲網が完成したら、逃げるルートは無くなってしまう。
法国には転移魔法の使い手はいるが数は少なく、都市の住民は全員助けられない。そもそも使い手がここに来なければならない以上、どうしたって助かる人数はごく僅かだ。
心の底で祈りを捧げた。どうかお願いします神様……偉大なる死の神よ。願わくば父をお助け下さい。都市の領民をお助けください。私の命でもなんでも差し出します。どうか……どうか──
「あなたがここの都市長ですか?」
「誰だ!?」
城壁の上に立ち包囲網を形成しつつある憎き亜人らを睨みつけていた私達二人の前に、黒いローブを着た誰かがいつの間にかいた。顔は分からない。
「漆黒聖典第零席次『輪廻権現』。この都市が亜人に襲撃されていると聞き、救援に伺いました」
「漆黒の!」
漆黒聖典。法国の真なる守護者。全員が例外なく英雄に到達し、一人ひとりが千の兵、万の軍に匹敵すると呼ばれる頂点。その中でも輪廻権現の名はひと際別格だった。
曰く一騎当億。曰く神の化身。輪廻権現なる名前も、神が再び降臨してくれたという意味らしい。なんて不敬な名前だろうか。人間が神の化身を名乗るなんて……それでも助けに来てくれたのだ。私は涙を拭い、どうにか礼を言おうとする。しかしそれでも涙は止まらない。
たしかに漆黒聖典は強大無比な英雄だ。だが相手は三千はいる亜人の集団。最終的には漆黒が敵を殺し尽くすかもしれないが、それまでに犠牲者は絶対に出てしまう。一騎当億と呼ばれようと、それはしょせんは二つ名だ。事実として億の敵と戦えるわけがない。
後ろの都市を見やる。この街の誰かが死ぬ。犠牲者は当初の予想よりは少ないだろうが、それでも父が愛し、私の友もいるこの街の住民が死ぬのだ。それが悔しくて涙を流し──
「どうして泣いているんですか?」
「……決まっています。人が死ぬからです」
私の言葉に輪廻権現は首を傾げて不思議そうにしていた。なんだその反応は! 何がおかしいのだ!! 人が死ぬんだ──
「死にませんよ。誰一人として。大丈夫です。なぜなら──」
俺が来たんですから。
「それはど……」
父が言葉を言い切る前に、輪廻権現が<飛行>魔法で空に浮かぶ。亜人らに何か言葉を投げかけた後、首を横に振ってから魔法が行使された。
「<魔法修正強化・要塞創造>」
呪文が聞こえた。聞いた事もない魔法詠唱が空に響き、魔法陣が描かれて円盤型の……要塞? が出現。巨大な円盤には多数の筒が取り付けられていて、それが一斉に光り──轟音が轟いた後には、私たちの前に広がっていた亜人らは死に絶えていた。たったの数秒、ほんの僅かな時間が経っただけ。それだけで多数の人間を殺しえる暴威の群れが、抗うことすら赦されず壊滅した。
私は父と空を見た。輪廻権現……様が手を振ると、空に浮かんでいた円盤が何事も無かったかのように消滅する。
「あれが……輪廻権現様。死の神の化身と呼ばれる、漆黒の頂点」
私は街を振り返る。空に浮かぶ漆黒の化身が見えたのか、見上げた住民らが自然と平伏していた。人間の力なんて及びもつかない、絶対なる存在に対してそうするべきだと感じて礼拝していた。
私と父もそうしていた。あれは人間ではない。これほどの力を持つ存在が人間な訳がない。しかし形は人だ……ならばあれは神だ。かつて人類を御救い下さった六大神は人に似た形をしていたと伝承にはある。
人の形をして、されど人を超えた力で以って亜人らに死を賜る存在。それは神だ。神以外の何者でもない。偉大なる御方に対して、祈りを捧げて仕える事こそが法国の民の正当だ。
「俺は次の場所に行かないといけませんので、亜人の死体に関しては申し訳ありませんが片づけの方を御願いします。それでは」
輪廻権現様が転移魔法を使ったのか姿を消す。私は父と共に顔を見合わせ、自然と手を取り合っていた。今日この日に確信したから……私や父が信奉するいと高き深淵の君が、人間を守られるために戻ってきていた事を。
その後、私は神官長様に法都まで呼び出された。輪廻権現様が、王国で大改革を行おうとしている。その手助けには優秀な文官や法官が多数いる。私はその一員として、暫くの間国を離れてもらう事になるかもしれない。
それを聞いた瞬間、私は神の使徒として選ばれたことに涙した。他ならぬ偉大なる君の手足となって、人類の明日のために尽力できるのだ。
これ以上の誉れがあるだろうか? これ以上の名誉があるだろうか? しかも……輪廻権現ことモモン様は、私にありがとうございますと褒め言葉を賜ってくれた。ありがとう……
何という僥倖だろうか!? これ明日私死ぬんじゃねえの!! てか心臓の方が止まりそうだよ。あ、でも止まったら闇の眷属になれる! なんでも輪廻権現様は死体さえあれば、己の眷属として生まれ変わらせられるらしい。つまり……死後も深淵の御方に仕えられる? やばい、泣きそう。
忘れない内に宝物の輪廻権現様台詞集に書き込んでおこう。
・あなた達が傷つくことはもうありません
・誰かが困っていたら助けるのは当たり前です
・あなた達の頑張りをずっと見ていましたよ。本当に良く頑張りましたね。頑張りが報われる時が来たんです
・俺は漆黒の責務を全うする。ここにいる者は誰も死なせない
ふふふ、同志との間で交換した言葉がたくさん書いてある。今日もまた一つ増えちゃった!
スレイン法国輪廻権現愛好会(非公式)