モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
ストゥルがあの世送りになってからそれなりの時間が過ぎた。その間に、俺には色々な刺客が差し向けられた。元ミスリル級冒険者のワーカーや、野盗擬き。研究費を出してやるからと唆された魔法研究者。バリエーション豊富さに思わず俺は天を仰ぐ。
「悪いねぇ、貴族の坊ちゃん。お前を殺すだけで金貨千枚が手にぃ──」
大した相手でもないのか、後ろから近づいていたティラに心臓を一突きされて死んだやつもいる。中にはカルネ村まで来て、エンリや両親といった俺の家族や知人を狙った馬鹿もいた。
そいつらに関しては、俺が直接手を下した。永続麻痺バステを付与したあと、砂漠に放置したりとか色々と。その間にも時間は進んでいく。エンリ5歳の誕生日を祝ったり、俺の12歳の生誕祭が開かれたり。あと法国で俺の誕生日が祝日になったらしい。何してんだろうね、神官長達は。
そして今日もまた、新たな土地で調査を実施する。本日のお相手は飢餓王なんて呼ばれる子爵だ。二つ名の由来は、九公一民を実施して領民を飢え死にさせまくっているから。その他にも赤ん坊税、生存税、死亡税、改築税と領民の行動全てに税を設定。飢えて死にたくない領民が隠し畑を作ったら、そういうのを探しだす能力だけには優れているのか見つけ出し、隠し畑税なんてものも追加した。
「こいつは死罪確定だな」
たぶんランポッサが絶対に容赦しない。もはや処刑にも手慣れたのか、我が国王陛下は躊躇なく貴族を処している。最近読んでいる本は、信仰系魔法詠唱者が読む人体構造が詳細に載っている医学書。どこをどう壊されたら人間が苦しむのかを熱心に研究しているようだ。
いつも通りまずは屋敷に乗り込む。領民について尋ねたら、尊き血に命を捧げるのが民草の産まれた意味と供述されたので、セバスがではより尊い血のモモン様にその命を捧げろと足の甲を踏み潰していた。痛そう。
屋敷を調べたら、既に持っている証拠が色々と出てくる。全部徴収だ。
そんでもっていつも通り村を周回する……のだが、予想通り公爵を名乗る俺に対して、村民の表情は暗くて重い。今まで散々自分達を苦しめた相手と同じ貴族なのだ。反感を持つことぐらいは想定済み。
そうしていくつか村を回っていると──
「様子がおかしいな?」
村の方から金属がぶつかる音と、怒号に悲鳴が聞こえてくる。俺はパンドラと顔を見合わせて、眷属らと共に村に直行する。するとゴブリンやオーガといった、王国内でもメジャーな亜人種が村を襲撃していた。
ここの領主は重税に次ぐ重税を課す阿呆な上、それで集めた金は全て自分の物としていた。ようするに防備などには全く金を使っていない。モンスターや亜人に襲撃されたら最期、大抵の村は壊滅的な被害を受ける。冒険者を呼ぼうにも、その前に殺されたら意味がない。そもそも雇う金を全部税として持っていかれてるから、自分たちを助けてくれる相手すら雇えない。
なので俺は着いた時には、もう誰か死んでいると予想していたが違った。男が一人、モンスターと戦っている。その人はかなり上背があり、セバスよりもほんの少しだけ背が高そうだ。剣を手にゴブリンの首を断ち、トロルの棍棒を籠手を着けた腕で逸らして衝撃を殺す。
(強いな。年齢は20代半ばぐらいか? あの動きならミスリル級以上……オリハルコン級の戦士だ)
なんてみている場合じゃないな。戦士の後ろに迫っていたオーガの上半身を、無詠唱で消し炭に変化させる。そいつだけではなく、戦士を除く視界内にいる敵対存在全てのヘイトを俺に向けさせる。
(<魔法修正位階上昇・魔法の矢>)
純魔力の矢がモンスター達を消し飛ばす。必中効果を持つ<魔法の矢>を防ぐには、同じく魔法で対抗するか無効化などの耐性で凌ぐしかない。そしてこの辺りに出るモンスターには、そんな手札はない。第十位階相当にまで強化された、桁違いの威力に増強された矢に耐えきれるだけの耐久力もない。
「今のは……!?」
「大丈夫ですか! 怪我などはありませんか?」
自分を取り囲んでいたモンスター達が、真っ二つに千切れたり頭が弾けて死んだりしたことに男性は狼狽えている。そんな彼に近づいて声をかけたら、こちらに視線を向けてくれた。
「子供に……兵士とエルフ? あ、ああ。体は大丈夫だが……すまない。あなた達は誰だろうか?」
「私たちは国王の命により、各地を回り国力調査を行う者達です……ああ、名乗り忘れていましたね。私はモモン。モモン・シャーナ・ライル・エモットと申します」
「名前が四つ……貴族か!」
うん? 貴族と知って驚いているな。あれかな、貴族がこんな場所にいるのはおかしいと考えているのだろうか。たしかに国力調査なんて、この国の貴族が現場に来てするわけがない。仮に自発的にやるとしても、全て配下にやらせるだろうからな。
「ええ、貴族ですよ。ランポッサ三世陛下より、公爵位の末席を授かっています……恐縮ですが、そちらの名もお聞きしても宜しいでしょうか?」
「俺の名か、俺はガゼフ。ガゼフ・ストロノーフだ」
「ストロノーフさんですね。見たところ、村がモンスターに襲われていたから戦ってくれていたようですね。こちらの村出身でしょうか?」
「い、いや違う。俺は傭兵として各地を渡り歩き、今しがたのように剣の腕を披露している。この村にいたのも偶々で、一宿一飯の礼として守っただけだ」
「そうですか。礼として……陛下の民を守ってくださったこと、この地を本来であれば守護せねばならない貴族に代わり礼を言わせてください。ありがとうございます」
俺が頭を下げると、ストロノーフが息を呑む音が聞こえた。下げていた頭を戻したら、こちらに対して驚きの視線を向けている。何事?
「どうされましたかストロノーフさん? そんな目を向けられて……」
「……あ。いや、すまない。貴族に頭を下げられたことなぞ一度もなくてな。それに……そうだ。さきの亜人らを殺した謎の攻撃。あれは魔法だろうか? 前に一度、威力も量も全く違うが、冒険者の魔法詠唱者が似たような攻撃をしていたが」
「魔法ですよ。私は魔法詠唱者としての腕を買われて、陛下に雇われてもいる臣下ですので」
「なんと! エモット……殿でも構わないだろうか? 様と人を呼んだことが無い故、どうにも様付けで呼ぶのには違和感があるので」
「かまいませんよ。公的な位は私の方が上かもしれませんが、年齢はストロノーフさんの方が上ですから、様付けが苦手なようであれば、殿で結構です」
エモット公爵。それがモンスターと戦っていた俺を助けてくれた貴族の名前だ。国力調査を行なっていると言うのは真実らしく、俺との会話もそこそこに、村長と話をした後、住民の名前を聞いて回ったり、畑の広さを計測したりと忙しそうにしている。
最初は貴族と聞いて嫌そうな気配をさせたり緊張していた村民たちだったが、公爵が常に柔らかい雰囲気で話し、モンスターに襲われた時に負ってしまった傷などに対してポーションを渡してくれたりしている内に絆されたのか、今はエルフの女性や兵士らに対して普通に接している。
(しかし公爵か。俺は貴族社会には疎いが、公爵とは一番高い位では無かったか?)
傭兵として各地を回っていれば、しがない村の出身にしてはと言葉はつくが、それなりに知識も付いてくる。公爵は話に聞く六大貴族の侯爵連中よりも、更に高い地位の筈。そんな地位の人物が、今目にしているように積極的に国のために働いている。それがあまりにも珍しい光景過ぎて、俺はどうしても驚いてしまう。
……貴族。それはろくでもない連中というのが俺の認識だ。俺が生まれた村は良くある農村で、何かしら特筆するような特産品などもない、どこにでもある村。その地を治めている領主はこの村ほどの重税をかける手合いではないが、それでも良い……とは決して言えないろくでなしだった。村に魔獣が出ても助けるための兵などは派遣してくれず、冒険者を雇おうにもそんな金はない。だから自衛として自分達村人だけでモンスターと戦い、人や畑を守る必要があった。
幸いにも俺には才があったのか、そこいらの亜人相手であれば負ける事もなかった。死闘を経験する内に実力もついていき、傷を負う事すら珍しくなる。しかし村を守り切れるほど、俺の手は広くない……ある日帰ってきたら、村は壊滅していた。モンスターに皆殺しにされた知人に友人。家族も全員亡くなっていた。
(もはや過去の話だが、今でもたまに夢に見る)
小さな頃には期待していたこともある。貴族が兵を引き連れて助けに来てくれることを。物語の中の英雄のような、強い誰かが颯爽と現れて救ってくれることに。だがそんなものは夢や幻だ。誰も助けには来てくれない。誰も救ってはくれない。俺の村が見捨てられたように、強い誰かが助けてくれることなんてない。
村人らを共同墓地に埋めた後、俺は村を出た。力を活かして、傭兵として各地を回る日々。冒険者になることも一瞬考えたが、冒険者は金でしか動かない。それは俺が求める何かとは違った。俺が求めたのは……英雄だ。誰も助けてくれない、誰も来てはくれない。ならば俺が見せてやると決めた。弱き者を助ける物語の中のような英雄。そんな夢物語を体現してやろうと決めていたのだ。
そんな日々を送ってきたが、それでも全てを助けられたことはない。非常に強いモンスターがいれば諦めざるを得ない。野盗の中には恐ろしく強大な強者もいる。それらを相手に死闘をしてギリギリ勝つが、場合によっては退却せざるを得ないこともあった。
今回の村に関しても、俺一人で全てを守り切れたかと言われたら怪しい。村人に死傷者は出ていた筈だ。だがそうはならなかった。一瞬俺の周囲が光ったかと思えば、次の瞬間には亜人らは全て死んでいた。それを行なったのは、モンスターの襲撃により壊れた家屋を直すエモット公爵。
……強いとか、弱いとかの話ではない。俺の知る魔法詠唱者とは、後方から戦士を支援する存在。数秒でモンスターの群れを皆殺しにするような絶対者ではなかった。それに……俺の知る貴族とは、あんな風にただの平民相手に優しい言葉で話すような何かではない。
(いくつかの村で話は聞いた事があった。子供の貴族が来た事があるとか。あれは与太話だと思っていたが真実だったのだな……)
それともう一つ。腐敗した政治を正すために、王の名代として空恐ろしい何かが貴族達を葬っているなんて噂も。あれも真実なのだろうか?
「こんなもんかな? それにしてもあの馬鹿子爵、王宮には三分の一、村人には3倍の広さで畑を申告しやがって。税金着服したいからって頭わいてんのか、あのカス」
何やらエモット公爵が頭をガリガリ掻きながら怒っていた。馬鹿子爵とは、ここを統括する領主の事……なんだろうな。俺は気になったので聞いてみた。
「ん? ええ、ストロノーフさんの言うとおりですよ。国力調査は、陛下に対して貴族連中が誤魔化していないかの調査も兼ねています」
「その調査により、全く違うとなればどうなるのでしょうか?」
「これです」
トントンとエモットが自分の首を叩く。つまり死罪……そんなことが可能なのだろうか?
「貴族は様々な特権で守られていると聞く。それでも国王とエモット殿であれば処刑できると?」
「可能です。王が王権を行使し、私がそれを叶える杖となり剣となる。そうすることで、今まで他者に無理を強いるだけだった貴族の腐敗を正す。それが私の役割ですので……そうだ。ストロノーフさんの能力測定も行いたいのですが構いませんか?」
「能力測定というのは、村民に行なっていたもののことですか? なんでも、どれぐらいの才能を持つのかを計るとか」
「そうです。ストロノーフさんは見たところかなりの才がある。私としましては、あなたも国民の一人なので把握しておきたいんです」
「エモット殿が協力を求められるのであれば応じます」
これがこの村を苦しめているという子爵の協力要請であれば断っていたが、エモット公爵であれば話は違う。今のところ貴族らしい傲慢さも見えず、村民や俺に対しても態度や言葉の柔らかさには好ましさしかない。
俺の目をじっと見たり、腕を触っていたエモットは、紙に書き込み俺への評価を下した。
「凄いですね。ストロノーフさんであれば、確実に英雄の領域に到達できます」
「私が……英雄にですか?」
英雄。それは人類の頂点と呼ばれる最強の称号だ。俺は実物を見たことはないが、英雄の領域に達した存在は単独でドラゴンですら打倒すると聞く。そんな場所に俺が到達できるらしい。そのことを凄いですねと、エモットは嬉しそうに語っていた。
「エモット殿も、その英雄の領域に到達されているのですか?」
「私は更に上、逸脱者や超越者と呼ばれる領域ですね。平均的な英雄20人分ぐらいが、私の実力だと考えてくれれば分かりやすいかもしれません」
20人分! と驚きたいが、エモットの実力の一端は垣間見ている。複数体のモンスターが、数秒で全滅するという結果がある以上は、その言葉にはある程度の真実味がある。
……なんだろうか。エモットは自分の顎に指をあてて、何かを考え始めた。考えが纏まったのか一度頷いたあと──
「ストロノーフさん。良ければの話になりますが、私の配下になりませんか?」
「配下に……ですか!?」
「はい。私は貴族の腐敗と汚職を正したあと、民を守るための正規軍をこの国に創設する予定です。そのための人員探しも兼ねてこのような調査を行なっているのですが、中々こう! と思う人材がおらず……その点ストロノーフさんであれば、十分な戦闘力を持っています。傭兵として培った技術の数々。それを王国のために、ひいては民のために振るっては頂けませんか?」
俺はその誘いに対して……嫌な想いを感じなかった。これが俺の村を見捨てた貴族のような相手であれば悩むこともなく断ったが、エモットはむしろ逆。こうして現場に出てきて民と触れ合い、偉ぶることもなく自然と接してくれる。それに民を守るための軍……それは俺が目指す理想の一つではないだろうか。
想像してみる。正規軍として民を守るために立つ自分を。その後ろには、あの強力な魔法を行使するエモットがいる……悩む要素はない。
「その申し出ですが、受けさせて頂きます」
「ありがとうございます、ストロノーフさん。では早速ですが、私と共についてきてください。王への紹介なども行いたいので」
ここから王都まではかなりの距離がある。俺は長旅になるなと思ったが……エモットは想像以上にとんでもなかった。指を一回振るだけで、村からこの地方の領主がいる都市に全員到着していた。
その先にいたエモットの執事であるセバス殿もとんでもなかった。エモット殿をみるや否や、罵倒を浴びせた子爵の首を掴み一瞬で持ち上げたのだ。まるで動きが見えなかった。
その子爵を連れて、先ほどと同じく王都の王城とやらに一瞬で移動。なんでもこれは転移と呼ばれる魔法で、近隣ではエモット陣営を除くと数人しか使い手がいないほど高度な術らしい。どれだけ距離が離れていても、即座の移動を可能とする魔法……確かにこんなもの、何人も使い手がいるとは思えない高度な魔法なのだろう。
王城で出会ったのは、49歳になるというこの国の国王ランポッサ三世。平民である俺に対しても、エモット殿のように優しい言葉で話す柔和な笑顔が印象的な御仁だった。
ガゼフ・ストロノーフを勧誘した後、子爵を回収して王都へと俺は戻った。新しい部下としてガゼフを紹介した後、彼にはパンドラから色々と説明をしてもらっておく。その間に、俺とランポッサは子爵の裁判だ。
「のう、子爵殿。そなたが私についた嘘の数々。同時に苦しめられた民草の怨嗟の声。これを晴らすためには、そなたにどのような罰を与えれば良いのだろうな? 私に教えてくれぬかな?」
「ら、ランポッサ……貴様など王ではない!! わ、私たち貴族とは、絶対なる支配者!! 王族と言えども、裁く権利など有していない!! 民草だと!! 雑草など幾ら枯れても問題ではないわ!! 高貴なる花だけが、日の下で育つ事を許される!! 今すぐ、この縄をほど──」
言葉の最中に、ランポッサ三世が子爵の舌を指で掴んでいた。それを見て俺は何をしたいのか察したので、<道具創造>でやっとこを作成しておく。
「この場に引きずり出されても、出てくるのは民への謝罪ではないか……私に対する侮辱は不問にしてやっても良いが、踏み潰してきた草花への感謝が足らぬな。モモン、あれを」
「はい、陛下」
やっとこを王に渡す。ランポッサは指からやっとこに切り替えて舌を掴み直した。
「多くの民は、そなたの横暴により苦痛の中で飢え死んでいった。その間にも、そなたは民が口にできぬ馳走で舌を喜ばせていたようだな。モモンよ、こやつが絶望の中死んでいく民に対し、どのような感情を抱いていたのか。読み上げてはくれぬか?」
「はい、陛下」
子爵の手記には、多くの言葉が書き上げられていた。それを聞くにつれ、ランポッサの顔が憤怒に染まっていく。特に腹立たしかったのは、小麦が無ければ土でも喰えば良かろう。麦が出来るのだから、土は麦より美味いかもしれないぞ。そんな言葉が手記には書いてあり、聞き終えた時には憤怒を通り越してランポッサは笑顔になっていた。感情がオーバーフローしたようだ。
ランポッサの腕が後ろに引かれて、子爵の舌が引き抜かれる。閻魔様って今のランポッサみたいな顔をしているんだろうか?
「もはやそなたに舌などいらぬ……土が美味いと申すか。よし、ではそなたに褒美をやろう。モモン、こやつの処刑方法は決まった。こやつを
それからも、暫くの間は貴族を処す日が続き……ある一報が俺たちの下に届いた。リ・ボウロロールで、大規模な徴兵がされた。俺が意図的にまだ調査していなかった貴族の領地からも、次々と人員が送られている。動員されている兵士数は推定で7万人以上。
集められた兵士らの矛先など決まっている……王都リ・エスティーゼだった。
ランポッサ三世(49歳) 11Lv
プリンス(一般)2Lv
キング(一般)3Lv
カリスマ(一般)3Lv
キリングマシーン3Lv