モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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ユグドラシルプレイヤー

「意識外からの<天上の剣(ソードオブダモクレス)>か。建物と街を無駄に破壊しやがって、全く」

 

 <骸骨壁>を解除し、瓦礫の山を放り投げる。流石は対城破壊魔法。俺の強化<要塞創造>と、強化<骸骨壁>を三層まで破壊するか。防いでいなかったら、俺はまだしもランポッサが死んでいたな。

 

「モモン、なにがおき──」

「伏せろ!!」

 

 まだ屋敷の粉塵が漂う中、ランポッサの後方から人影が接近。土埃を払いのけ、そいつが握る細身の片手剣がランポッサの首を断たんと迫る。俺は真なる無を棒状に変化させて、迎撃にかかった。

 

<不落要塞>

 

 俺の武技に弾かれて、向こうがたたらを踏む。その隙逃がさん。敵対者は鎧を着ているので顔は伺えないが、自分の攻撃が弾かれたことに驚いているのは空気で分かる。上段蹴りで胸から上を破壊しに行く。通常であれば、この近辺の相手でこれを防げる相手なんていない。だが相手は実力が違う。

 片手でガード体勢を作り、こちらの蹴りを防ぐ。感触は硬い。

 

(この硬さ、セバス級の耐久力か。やるねどうも)

 

 ならばその硬さ、ガードの上から押しとおす。

 

<能力向上><能力超向上><防御超向上>

ついでにスキルで<鋼体>も発動

 

 四肢に籠もる力が一気に増幅される。相手が手首を返して、逆袈裟に切り込んできたのを体を逸らして回避。振り抜こうとしたところを、手首を掴んで持ち上げる。多少重かったが、武技でブーストしている今であれば対抗可能だ。

 腰を回して投げ飛ばす。が、それでダメージを受けるような相手では無かったようで、空中で体を回転させて、衝撃を殺して着地していた。

 そちらに追撃を仕掛けたいが、ランポッサから距離を離すわけにもいかない。なにせ感知している敵の数は、目の前にいる鎧だけではない。全部で5……じゃないな。<敵感知>を再度修正位階上昇させて発動させると、今度は6に増える。

 

(通常の<敵感知>には引っかからない潜伏能力。弐式炎雷さんに変化させたパンドラ並の気配遮断能力となると、最低でも90レベルの隠密持ち。めんどくさい相手だな)

 

 アコニティの気配羅針だと撃ち漏らしかねないので、ここからは<敵感知>に切り替えておく。そうしていると後方700mの敵が動いた。攻撃手段は弾丸。それも普通の弾丸ではなく、魔力を帯びた弾頭だ。

 これは俺の無効化だと防ぎきれないので、射線軸から退避。しかし向こうの追撃速度は速く、スキルを発動させたのか追尾弾に変化した。

 

<矢避け>

 

 こちらも追尾弾には武技で対抗する。飛び道具に対するオートカウンターだ。何発かは貰ってしまうが、<防御超向上>と<鋼体>を発動している上に、素の物理防御力が神器装備をしたセバス並に硬い俺の硬さは簡単に貫けない。

 ただ問題として、弾丸の追尾先にはランポッサもいる。俺は数発そちらに向かうのを確認して、すぐに移動。動いた事で<矢避け>が解除されてしまうが、この場でランポッサが死ぬ方が怖い。この弾丸に、もしも蘇生不可効果が付与されていたらそれで終わってしまうからな。

 

「<魔法三重化・骸骨壁>!」

 

 ランポッサの傍に障壁を張りつつ、周りを見渡す。さっきの後方の狙撃手は……三キロ先に移動している。

 

(次元封鎖された空間でも転移を可能とするスキルか。一日の使用回数が決まっているタイプだな)

 

 向こうは転移出来るが、こちらは転移阻害を張られているので、この距離を簡単には詰められない。その間に、今度は6時の方向に魔法反応。使用された魔法は……溶岩の海が俺の眼前に迫ってくる。

 

(<大溶岩流(ストリーム・オブ・ラヴァ)>! ドルイドの第十位階か!)

 

 <骸骨壁>を解除して、ランポッサを拾い上げて溶岩から逃げるように俺は走り出す。このまま向こうにイニシアチブを握らせると面倒だ。

 

<流水加速><疾風走破>

 

 二つの武技で速力をブースト。瓦礫を蹴り、クレーターの周囲にある残った家の壁を蹴り、大通りを走り抜ける。流石にこの速度は予想外だったのか、向こうの狙撃手の弾丸があらぬ方向に直撃する……違う! 俺の前にあった壁が弾けて、レンガ造りの塔が倒れてきた。ならば!

 

<疾風超走破>

 

 更に速力の重ね掛け。塔が倒れるより先に駆け抜ける。

 

「ブッ!」

 

 ランポッサがGに耐えきれずに吐しゃ物を吐いている。ごめんね陛下。止まったら陛下が死んじゃうから、死なないだけましだと思ってくれ。

 懐から三本薬を取り出す。三本とも地面に叩きつける。発生するのは単純な煙幕だ。狙撃手の動きが止まる。やはり単純な光学式の感知か。情報魔法で対策してるこちらを、向こうは完全に追い切れていない。

 

(<天上の剣(ソードオブダモクレス)>で大雑把な破壊をしたのもそれが理由だろうな。あれは対構造物向きの超位魔法で、単体の相手に使うのに向いている魔法じゃない。それでも<天上の剣>を選択したのは、こちらに感知されたくないから。向こうが情報魔法でこちらを直接探索していたら、流石に俺が勘づく。それを嫌っての行動だ)

 

 超位魔法を認識外からの不意打ち。これを成立させるために、わざわざ向こうは対人魔法ではなく対物魔法を選択した。建物ごと壊せば、多少のダメージは狙えると確信して。事実、俺の<骸骨壁>と<要塞創造>が、チートタレントで強化した魔法でなければ、あれでかなりのHPを持っていかれてた。

 ともかく、まずはランポッサを安全圏にまで逃がす。ある程度距離を走った事で、次元封鎖効果外に出た。すぐにランポッサだけ王都に飛ばし、パンドラに連絡を取る。

 

(聞こえるかパンドラ。襲撃された。相手は超位魔法を使用したことから、プレイヤーだと想定される。敵は6。ただし全部かは不明。敵対者の構成は超位魔法を使用したことから、一人は魔法詠唱者。一人は鎧を着た剣士。耐久性はセバス相当なことから推定100レベル。超位の使い手と同一かもしれないが、ドルイドが一人。狙撃系のクラスが一人。アサシン系列の隠密能力が一人。ドルイドが超位の使い手じゃなければ、さらに魔法詠唱者が一人。俺の定期連絡が無かったら、セバスらと共にカルネ村の防備を固め──)

 

 指示を出し切る前に、俺は前に飛ぶ。直後、元居た場所を刃物が掠める。攻撃行動に移った事で、そいつの姿が見えた。見た目はザ・和装くノ一と言った見た目。ティラ達が成長して、黒髪に染めたらこんな感じかもしれない。

 

「逃がさん! その首、主様のために貰い受ける!!」

 

 くノ一は一気に踏み込み、俺の心臓狙いで刺突。俺には刺突完全耐性があるので、問題はない。が、真正面から受ける気もない。見た目は刺突なだけで、プレイヤー相手だとどんな属性を武器に付与してるか分かったもんじゃないからだ。

 

<反応速度上昇><超反応>

 

 <流水加速><疾風走破>の代わりに別の武技を発動。俺の手が届く範囲に入った瞬間、手首を捕まえる。手首だけでなく、相手の首も片方の手で掴む。力を籠める。これで王国民相手であれば破壊できるのだが、強度はセバスに劣るものの、それでも100レベルなのか相応に硬い。

 それでも掴み続けようとしたが、掌の感触が一瞬で喪失。掴んでいた腕の代わりに、木の枝が俺の手にはあった。空蝉の術か、こうしてやられるとうざいな。 

 そう思いつつ、首を振って後ろからの不意打ち短刀を避ける。空蝉で消えたとしても、修正強化した<敵感知>はくノ一を捕捉している。足元の石畳を破壊して、足で器用に蹴り上げて顎を砕きに行く。

 

「は! 当たるかそんなもの!!」

 

 が、流石は推定100レベル。きっちり反応して避けてみせた。ま、俺も当たるとは思っていない。それよりも、お前が後方に下がってくれたおかげで、距離が取れた。アサシンかニンジャかは知らないが、近接職といつまでも近接戦をするつもりはない。

 それに距離を取っておかないと──

 

「がぁああ!!」

「お前の相手が出来ないからな」

 

 横の建物を破壊して、大楯を持った巨体の女が突撃してきた。見た目はシールダーとかガーディアンっぽい装備をしている。スキルによる突撃(チャージ)の可能性もあるので、俺は<流水加速>で範囲外へと逃走……したいのだが、そこに銃弾の雨が降りそそいでくる。

 再び<矢避け>を使用したいが、ここで足を止めると巨漢とくノ一に追撃される恐れが高い。それにあの鎧片手剣も、こっちに近づいてきている。

 

「悪いがお前らの相手をしたくないんだよ、こっちは」

 

 再び瓶を一本取り出す。それを空中に投げると爆発。爆発の規模は小さく、ダメージにはならない。だが強烈な閃光と音を発した事で、全員の気を逸らせた。その間に俺は<疾風走破>でダッシュして、狙撃手の方へと向かう。屋根を蹴りつけ、石畳を破壊し、一気に距離を詰める。すると再び転移したのか、距離が離された。

 だがこれは俺の狙い通りだ。向こうは転移したことで、一瞬だけ俺の姿を見失う。時間は稼いだ。この間に、超位魔法を使ったと思わしき反応の方を追う。まだ直接出会っていない反応は二つ。

 さぁてどっちが本命だろうか……<魔法修正位階上昇・上位幸運>。これで当たりは引きやすくなった。ついでに武技の<感知>も発動。

 ……こっちだな。俺は走る。ある程度走ったところで狙撃手やくノ一も気づいたのかこちらに敵意を向けてくるが、もう遅い。

 俺は公園と思わしき場所へとたどり着き、そいつを見つけた。

 

「……さっきの第11位階魔法。あれはあなたが?」

「へぇ? 使った魔法や、あの子らを捌いた手腕からして信仰系魔法詠唱者だと思っていたが、感知系でもあったか」

 

 そいつはモノクルを装着した、スーツ姿のイケメン黒髪青年だった。一言で言えば、めっちゃ出来る銀行マン? 似たような雰囲気の相手を、リアルでも何度か目にしたことはある。生前の鈴木悟が住む世界とは、全く違う場所に住むエリート特有の空気。それをこの青年からは感じるのだ。

 俺は何度か深呼吸をして、聞きたい事を言葉にする。

 

 

 

 

 

 世の中には不思議なことと言うのは存外あるものだ。ユグドラシルがサービス終了すると聞き、最後ぐらいは看取ってやっても良いかと3年ぶりにログインした。

 その結果、気が付けば私は森の近くに立っていた。色々と確かめてみれば、ゲームアバターが現実の肉体として構築されているではないか。

 現実になったのは私だけではない。

 

「主様! お怪我はありませんか!!」

 

 なんとNPCも肉体を得て喋る。ワールドアイテム『真鍮と鉄の指輪』で作成したNPC5体が。右も左も分からない。分からないが、異常な事態なので私は当初は慎重に動こうとした。しかし道中でゴブリンやらと戦えば、拳一つで殺してしまえる。

 大した相手がいないことに気付くのに、そう時間はかからなかった。私たち100レベル6名とは、どうやらこの世界では最強と呼んでも差し支えないようだ。

 しかし目立つのは得策ではない。リアルでもそうだったが、目立つことはリスクだ。多少のメリットを得るためにはリスクは甘受しなければならないが、必要以上のリスクとは毒だ。

 なので当初はひっそりと隠れ住んでいたが、NPCの一人がこんなことを言い出した。主様ほどの御方が、なぜ人目を気にして動くのだ。

 それを聞いて、私は確かにと考えた。リアルでの私は、アーコロジー住まい……その中でも、トップクラスの立場だった。そんな私が、こんな仙人のような生き方をいつまでも続けられるかと言えば違う。そんな折に街へと出たら、一つのお触れを目にした。

 暴虐の王を倒せ。金貨5万枚が手に入り、この世界の貴族とコンタクトを取れる機会というのは悪くない。私は早速貴族とやらに接触して、王を誑かしたというこの世界生まれの魔法詠唱者を殺す約束をした。

 貴族達は愚鈍な連中だったが、この暴虐の王とモモンなる魔法詠唱者はそれ以上に愚鈍な奴だ。ボウロロープとやらに話を聞いてみれば、王とその子供は弱者を助けようとしているらしい。馬鹿な連中だ、弱者とは生かさず殺さず絞るだけ絞り、強者に奉仕する歯車として洗脳教育するために存在するもの。

 それはこの世界の貴族の話を聞く限り、あまり変わりはない。馬鹿馬鹿しい愚物はさっさと殺し、弱者を歯車として活かせる人材がトップになるべき……つまり私だ。

 目立つのはリスク……しかし目立ったところで、私を脅かす存在がいないのであればリスクになり得ない。この国の王とやらを抹殺し、そのモモンとかいう子供も始末して、バルブロとやらを<記憶操作>などの魔法で洗脳してしまえば、あとは簡単に私の国に造りなおせる。そうだ、これでいい。リアルでも、部下共に頭を下げさせていた私の正しい姿はこれだ。傅かれ、絶対者として崇められる。生殺与奪の権利を握る強者。それが私の正しい在り方だ。隠れ住むなど弱者の発想。私の生き方ではない。

 唯一のリスクがあるとすれば、モモンとやらの実力だけ。

 話によれば、王は大したことのないその辺にいる雑魚と変わらないが、モモンとやらは違うらしい。なんでも難度とやらで180だとか。

 難度とやらを調べたら、大体1レベルで難度が3だと判明した。ならばモモンとやらは60レベルのモンスター相当。ただしこの180というのが事実なのかは不明。ならば、モモンの強さは念のために私と同じ100レベルに想定するべきだ。

 そのモモンとやらが、ボウロロープとバルブロに面会を求めていると分かった。当初はモモンの出身地であるカルネ村に行く予定だったが、急遽変更する。面会する都市で、そのモモンを殺し切る。

 最初は都市住民ごと殺せば良いとNPC達が喚いていたが、お前達は馬鹿か。人材とは無意味に殺すものではなく、菜種のように限界まで絞って活用するものだ。ボウロロープには力を見せた後、私の指示通りに動くように命令した。やつもモモンを殺し切れる可能性があるなら、応じると約束して。

 都市住民らを全員都市の外に追い出した後、私は時間通りにボウロロープに持たせていたマジックアイテムを発動させる。これであの二人はリ・ボウロロールへと転移したことだろう。

 すぐさま転移阻害をNPCに発動させて、私は課金アイテムを駆使して速攻で超位魔法<天上の剣>を屋敷に向かって撃ち込んだ。本当は別の魔法を使いたかったが、建物内にいるのであれば対物魔法で攻撃するのが得策。それに詳しい場所までは対情報の関係上調べられない。この辺にいると言う情報だけと不安定ではあるが、私は攻撃を開始した。

 想定の100レベルであれば、<天上の剣>でも死なない事ぐらいは想定済み。<要塞創造>なんて第十位階魔法を発動したことには、かなり驚いたがな。

 

「この国では第三位階魔法までと聞いていたが、全然違うとはどういうことだ。魔術組合の人間も当てにならん」

 

 もしかしたらモモンはユグドラシルの? と思うのだが、この世界で生まれた子供で12歳なのは確からしい。ならば単純に天才という奴かと納得する。

 

「それだけの天才なら、私の部下にぴったりだが……仕方がない。契約をした以上は、ボウロロープとの約束通り抹殺する」

 

 モモンとやらの動きを追えば、この世界独自の武技という技術を使っているのか、魔法詠唱者としてはかなり身体能力が高い。元々のスペックが高いのもあるだろうが。身体能力と第十位階を両立できるのは信仰系魔法詠唱者だ。

 モモンとやらは、王国の隣国である宗教国家で修練を積んだらしい。それらを繋ぎ合わせれば、信仰系魔法詠唱者しかないだろう。

 相手の動きはかなり良い。100レベルNPC5人相手に、防戦ではあるが凌ぎきっている。モモンはこちらの動きが察知出来ているのか、途中途中で姿を見失ってしまう。

 そうして次に発見出来たのは、こちらが発見されてからだ。

 

「へぇ? 使った魔法や、あの子らを捌いた手腕からして信仰系魔法詠唱者だと思っていたが、感知系でもあったか」

 

 少し見直した。中々やるじゃないか、この子供。純魔構成のこっちを見つけるなんて。これも武技による効果かな? そうだとしたら侮れないね、武技とやらも。

 

「失礼。あなたは……我ら法国が拝み奉る、六大神様と同じ、天上の世界『ゆぐどらしる』から降臨された神様だろうか?」

「神様? そちらがそう呼びたいのであれば、それで良いんじゃないかな。それにしてもユグドラシルの名前が出るなんて、随分と詳しいんだね。どこで聞いたのかな?」

「法国ですよ。あの国は、かつて天から降りてきたユグドラシルの神々が興した国なので……それよりもお聞かせ願いたい。なぜあなたは第11位階を、私に使ったのですか? なぜボウロロープ侯に協力されているのですか?」

 

 なぜ、か。そんなに知りたい事なのだろうか? ……仕方ない。答えてあげるか。純魔の私だと、信仰系であろうこの子とこの距離では分が悪い。NPC達が辿り着くまでに時間を稼ぎたい。

 別段嘘をつく理由もないので、正直に答えてあげた。私は子供にやさしいんだ、特にこれから殺す相手にはね。

 

「そうですか……法国では、従属神様は拠点と呼ばれる場所に紐づいていると習いました。あなたは『拠点と共に降臨した神ですか』?」

「拠点……ああ、ギルド拠点のことかな。それは違うよ。私がNPC……モモンに分かりやすく言えば、従属神を使役できるのはこの指輪のおかげだ」

「それは……まさか、六大神様の秘宝と同じ!」

「……ふうん。そうか、そうか。モモンは、この指輪の正体が分かる子なんだ。そして同じ秘宝か。これはちょっとだけ、法国に興味が湧いてきたね」

 

 言い方的にワールドアイテムが法国にもあるみたいだ。王国を掌握したら、それも奪い取りに行こうか。

 そうこうする内に、NPCもこちらに合流する。それからはモモン対100レベル6人の戦いだ。かなり粘ってくるが、それでもこちらの方が人数が多い分着実に削り取れる。

 身体能力の高さから魔法を多用するタイプではないと見て取れて、MPもそれほど多い訳じゃない。時折魔法を使用してくるが、使ってくるのは第四位階などの低位階な魔法ばかり。

 

(わかるよ……MPをあまり使用したくないんだよね。でも使わないと、このままじゃ君死んじゃうよー。ほらほらいっぱい高位階を使わないと)

 

 人数差とは大きな武器だ。モモンはよく粘っていたが、HPは着実に減っている。時折回復もしているみたいだけど、それじゃ足りない。集中力を欠いたのか、モモンの意識がそれる。そこに大楯を持ったミザリィが突撃して弾き飛ばす。

 うん、HPもほぼ0。MPも全く残っていない。ふらふらとモモンが立ち上がってくるが、意識が朦朧としているのかすぐに倒れている。演技……ではないな。喰らった攻撃の数、使った魔法の数、全てを試算すれば、情報偽装による減少量ではない。

 

(<大災厄>までは切らなくて済んだか。流石にMP6割をソロ相手には使いたくない……それにしても可哀そうな子供だ。弱者なんて救おうとして傷ついて……)

 

「お、お願い……殺さないで。まだ死にたくないよ……お願いだから……」

 

 もう動くな。今すぐ殺してやるから。

 

 

 

 

 

 ふぅ……さてと。見せかけの俺のMPは残り2%。実際の残量はまだまだ残っている。こいつの手口は大体判明。他のNPCの手札も。俺が一番警戒していたのは、こいつがギルド拠点と来ているタイプだったパターン。

 この場合だと、俺はこの場からすぐに撤退するつもりだった。流石に、まだGVPで勝てるとまでは自惚れてはいない。だから観察した。こいつがどのパターンなのかを。

 それで判明したのは、こいつはあまりPVPに慣れていないという事。手札の選択がかなり甘い。NPC達も連携に慣れていないのか、武技だけでかなり粘れた。情報魔法で他に覗いているものがいないかも確認済み。念のために後詰のパンドラに、周囲の偵察もさせて他にいないことを調査させてある。自分の<超常直感>を修正強化させて、うそ発見器代わりに使ってこいつの言動も真実か否かを確かめてある。

 こいつは完全なソロプレイヤーだ。それでもちょっと不安なので撤退してあと2回は情報を集めて完璧にしたかったが、完全ソロを放置するのはリスクが大きい。裏に潜られてゲリラ戦法をされたりしたら、うざいなんてもんじゃない。

 つまり、こいつにこれ以上時間をかけるのは無駄だ。殺しに来たんだ殺されもするさ。こいつをぶっ殺して、あのワールドアイテムを奪いますか。

 俺が土下座して命乞いを始めたら、警戒態勢を解いた。チャーンス。

 

「神様……最期に一つだけお願いしてもいいですか?」

「何かな?」

「……じゃあな」

「ん?」

 

 俺は普通の詠唱を完全に閉じる。普段は心の中で唱える、文字通り呪文詠唱を無くすだけの無詠唱も止める。代わりに使うのは、タレントによって強化された真の『無』詠唱。

 タレント強化の中でも、増加MP消費0の基本効果を除けば最大の壊れ。全てを無にする詠唱を唱える。殺す相手以外には見せるつもりのない、俺の切り札の一つをここで切る。こいつを逃がさず確実に殺すために。

 

「■」

 

 存在しない『無』を唱えて、それで終わり。プレイヤーとNPCの体がグラつき、バラバラに砕けたり引き千切れたりして死んでいく。そりゃそうなるよな……流石に第十位階相当の<魔法の矢>やその他の魔法を、零秒で何回も喰らった結果を創り出されたら死ぬよな、普通。これで死なない相手なら、最悪もう一つ切り札を切るか、それでも駄目なら真なる奥の手まで出す必要があった。良かった良かった。




無詠唱は壊れ。今まできちんと認識していなかったが、この仕様はチートだろ ニグンから引用

真なる奥の手
モモン最後の切り札。生涯において数回しか使えない代わりに、強大無比な効果を持つ特殊スキル。発動したが最後、全てをひっくり返せるほどの代物。

百年の揺り返しの時期について
従来のきっちり百年周期からちょっとだけズレている。ただ揺り返しは始まりました。モモンが1()2()()になると同時に
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