モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
空気が淀んだことに気付き、私は目を覚ます。なぜ淀んだのか。ここから少し離れた地で、世界を汚す力が使われたからだ。私の知覚能力にも引っ掛かるほどの、強大な力。とても覚えがある、非常に強大な力。
「超位魔法……か」
スレイン法国が第十一位階と呼ぶ、禁忌の力。異界からやってくる……父の間違いにより呼び出された、異界の主達が行使する特殊な魔法。
「そうか。少し早いが、百年の揺り返しが始まったのか」
私はため息を吐く。事情は知らないけれども、時間からして召喚されてからそうは時間が経っていない筈だ。つまりは短時間しか経っていない。なのに、その僅かな時間で超位を使うような者が来てしまった。
「世界を壊す悪か、それとも世界と協力する善か。後者なら良いんだがね」
私は部屋の片隅においてある鎧を見る。これを久方ぶりに使う時が来てしまったか。
『無』詠唱。詠唱を無くすではなく、無を詠唱する。この意味不明な仕様を知った時、俺はこれが一番の壊れだと思い知った。
通常無詠唱魔法とは、詠唱の時間を無くして妨害などを防ぐ魔法強化だ。あくまでも無くなるのは詠唱の時間だけで、そこから魔法陣が出て魔法効果が発動する。これが位階魔法発動のプロセスだ。
この通常動作に対して俺の『無』を詠唱するはこの一連の流れを全て省略してしまう。
俺も自分で発音しておきながらよく分からない言語としか言えず、『無』としか表現できないそれを唱えるととんでも現象が起きる。
詠唱という過程、発動という過程何もかも全部が『無かった』ことになる。複数の魔法発動すら全て過程を『無』くしてしまう。あらゆる過程を無くす『無』を唱えると、あら不思議。なぜかリキャストタイムやクールタイムと呼ばれる時間すら『無』くして、何十、何百の魔法が全て同時に発動する。
過程が全て消し飛び、結果だけがこの世に残る。あらゆる魔法効果という効果が零秒で引き起こされ、結果としてプレイヤーのHPは0になった。
(自動蘇生は……よし。やはり装備品による死亡対策をしていたか。<上位道具破壊>で蘇生指輪と思わしきマジックアイテムを破壊したのは正解だったな)
『無』で発生させた魔法の中には、マジックアイテム破壊魔法も仕込んである。他にも修正強化した<真なる死>と<心臓掌握>も叩き込んである。即死耐性対策と蘇生対策としてかなり酷いことをしてある即死魔法により、プレイヤーは立ち上がってこない。
装備品は全部奪って、プレイヤーの肉は……たぶんこれだな。
「解放。<魔法修正最強化・真なる蘇生>。<魔法修正五重抵抗難度最強化・記憶操作>」
他人の魔法を一時封印し、使い切りだが自分の魔法として運用する。そう修正強化した<上位魔法封印>に封入しておいた、ペストーニャから貰った<真なる蘇生>でプレイヤーを蘇らせる。俺のタレントで強化した蘇生じゃないと、即死魔法に仕込んだ蘇生対策のせいで復活しないからな。ついでに蘇生時の金貨消費を0に変更、と。こいつレベルを蘇生させるのに必要な金貨量は膨大過ぎる。
同時にこいつの記憶をちょこちょこっと弄っておく。ぐおおー! 五重化してるせいでMP消費が修正強化してるのにバカ重い! 戦闘時の数十倍の速度でMPが削られていく。頑張れ俺ぇええ!!
「すまない、モモン。まさか貴族共にこうも簡単に騙されるとは……ほんとうにすまない」
「いいんですよ。騙す方が悪いんです。それよりも、あなたの方こそ大丈夫ですか?」
「問題ない」
「それならよかったです。これからは仲間として、共に人類を守りましょう!」
「ああ。まずは君の仲間になった証拠として、私が壊してしまった街の修復をするとしよう。ではまた後で」
はい。これでプレイヤーの無力化完了。今日から君も人類圏を一緒に守る英雄だ!
(一番確実な無力化はアンデッド化だが、それをすると能力が大幅に落ちるからな。超位魔法が使えるプレイヤーを、アンデッドにするなんて勿体ない)
NPCの方も蘇生出来ないか試してみたが、こちらは駄目だった。NPCは自我などがこちらに来て構築されるが、扱いとしては魔法などで召喚されるモンスターなどと同じ。魂とでも呼ぶべき物がないから、蘇生魔法の対象外なのだ。
プレイヤーから襲ってしまったお詫びとして貰ったワールドアイテム。それを<上位道具鑑定>で調べてみる……なるほどな。この指輪には5枠のNPC枠があって、初入手時の初回のみNPC作成権利が付与されて、作成したNPCを使い魔として使役できるようになる。5枠な理由は、ユグドラシルで組める普段のパーティが全部で6人だから。
これに登録したNPCは死亡すると、枠を空けて完全にロストする。この辺は元々NPCが言ってしまえば魂のない魔法生物……という設定だから。拠点NPCが蘇生出来るのは拠点システムの恩恵が大きい。これはパンドラやセバスも同じで、ナザリックのシステムが死んでいる今、死亡すると蘇生させることが出来ない。
新たな仲間になったプレイヤーとの戦いでもパンドラやセバスは後詰で、直接戦闘に参加させなかったのは死亡時のリカバリーが効かないから。ぺスにしろパンドラにしろ、いなくなった時のデメリットが大きすぎる。セバスは……能力的には死んでも問題ないが、死んだら俺が悲しいし村のみんなも悲しむから、心情的なデメリットが非常に大きい。やはり本気の死闘には参加させられない。
その空いた枠に新たにNPCを登録したい場合は、傭兵NPCを登録することになる。登録したNPCは新たな使い魔となり、傭兵NPCの上限を超えて100レベルまで育成可能とする、か。
(拠点NPCと同じ自由な構築が可能なのは初回だけ。それ以降は既存の傭兵NPCを、プレイヤーのように育てて自分好みに育てあげなければいけないのか。自由作成が可能であれば、パンドラを5体ほど増やしたんだけどな……しかし上限を超えて100レベルか。これ、もしかしたらの話になるが、上限レベルが15もない人間でも、指輪の使い魔として登録したら100まで上がるようになるのかな?)
だとすればワールドアイテムに相応しい効果ではあるが、その代わりに使い魔になった誰かは死亡すると蘇生が不可能になるデメリットがある。蘇生不可は代償としてかなり重いので、リスクを考慮して登録するなら創造アンデッドのどいつかになるな。
(それともロストするのは創造アンデッドや傭兵などのNPCだから、登録したのがNPCではなくある意味PCとも言えるこの世界の人間や亜人なら問題ないのか? 今度野盗を捕まえて、使い魔にしてからちょっとレベル上げさせて、そのあと殺して試してみるか)
死刑囚で実験することを決めてから、NPCらが持っていたアイテム類を回収しておく。それともう一つ。100レベルを6名も葬ったのであれば、俺のレベルなどもかなり上昇している筈だ。この世界の生物がレベルアップと同じ効果を持つ壁越えをする条件は──
・他者を殺害して経験値を取得する
・取得したいクラスのクラス経験値を獲得する。例えば料理人のクラスが欲しいのであれば、たくさんの料理を本気で情熱を込めて作ったりすればいい
・亜人などは年齢を重ねるだけで種族レベルが上昇する
このうち上二つの条件を俺は満たした。
自分にクラス確認魔法を使い、色々と眺めてみる。殺すのに使った魔法は意図的に選択したおかげで、望むクラスがちゃんと伸びているな。良かった……ん?
え、マジで? ワールド・ディザスターを獲得してる……
「あいつワールド・ディザスターだったのか?」
街の瓦礫撤去を始めたプレイヤーの方を見る。ワールド・ディザスターの獲得条件は色々とあるが、一番簡単な獲得方法はこのクラスを持つ相手を殺害するだ。俺が獲得したと言う事は、あいつが持っていたことになる。
(PVP下手くそがディザスターを?……あー、でもあれだな。あいつがエリートで金持ってるなら、ディザスターはワールド職の中でも手に入りやすいクラスだ)
ワールドの名のつく職業は、ユグドラシルにおいて貴重な職。特定人数しか取得できない特別なクラスだ。しかし同じワールド職の中でも、明確な優劣は存在する。全部で9人しかなれないワールド・チャンピオンと、同じく9人しかなれないワールド・ガーディアン。それに対して、ワールド・ディザスターはかなり習得者が多い。
とある傭兵ギルドなど、ワールド・ディザスターを50人近く抱えこんでいた事もあるほどだ。
言ってしまえばワールド職の中でもそこまでレアと言うほどではないクラス。そのせいかRMT市場に出回りやすかった。リアルマネーと引換に、PVPでわざと負ければ譲れるので取引しやすいのも売りやすい点だ。
「ま、なんでもいいか。ワールド・ディザスターは前から欲しかったクラスだからな」
今度ディザスターの常時発動する、魔法威力強化にもタレント強化が乗るのか検証しておこう。とりあえず今すべきことは、戦闘で壊れてしまった都市の修復だ。
今回戦闘フィールドとなってしまった都市はそれほどの広さではない。住んでいるのも数千人程度の小都市だ。それでもそこそこの広さがあるのに、街の大部分は酷いレベルで壊れてしまった。特に被害が大きいのは、ダモクレスを撃ち込まれた都市長邸宅とその付近。<要塞創造>で威力の大部分を殺してもなお、邸宅と周囲一帯を破壊しつくしてしまったのだ。
「……ここの修復だけでも何日かかるのやら」
あー、やだやだ。プレイヤーの相手をするよりも、ここの都市住民のメンタルケアをどうするかの方がよほど頭が痛い。そんでもって、ボウロロープを処刑する以外の方法も無くなってしまったのも悩みの種だ。話し合いの場に都市破壊規模の攻撃を持ち込み、王を暗殺しようとした相手を赦す方法が無くなってしまった。
ディザスターは俺が奪ってしまったのでレベルダウンしたものの100レベル近いプレイヤーが味方になったのと、ボウロロープを処刑する以外の道が無くなってしまったこと。個人的には収支プラスマイナスゼロだ。
国王暗殺未遂事件から一ヶ月。小都市の瓦礫撤去はほぼ終わり、今は仮設住宅の建設などが進んでいる。現在もプレイヤーが陣頭指揮を執りながら復興を進めており、俺の手からは離れてしまった。
「陛下。バルブロ殿下を総大将とした、王都解放軍ですが、間もなく王都に向けての侵攻を開始するそうです」
「……こうなってしまうとは残念だ」
「はい。陛下の心中お察しします」
この一ヶ月の間にも、向こうにはランポッサから投降するように何度も呼びかけの手紙が送られている。それでも一切応じる気配はなく、とうとう開戦が間近に迫る。
ランポッサとしては、最後まで我が子を助けたい想いがあるらしく、何度も手紙を送り続けたが全ては無駄だった。本当は直接顔を合わせて説得したいようだったが、話し合いの場で直接殺しに来られた以上、迂闊に動けないことはランポッサも理解していた。
「……せめてあの暗殺未遂が無ければ、もう一度バルブロと会えたものを……口惜しいな」
心底後悔しているのか、ランポッサの顔には苦悩しかない。
「せめて、向こうが私と暗殺者の戦いを目撃していて、どれほどの戦いになったのかを知っていれば進軍も躊躇してくれたのかもしれません。ですが肝心のボウロロープ侯とバルブロ殿下は、暗殺者の持っていたマジックアイテムにより転移してしまったせいで、戦闘を目撃してはいません……仮にあの二人が進軍の停止を命じたとしても、周囲の貴族が納得するかどうかも不明です。少なくとも、陛下の暗殺を狙ったボウロロープ侯は、民衆の前で縛り首に。殿下にしても、処刑の免除をしたとて、この先まともな生活は叶いません。生涯、地下牢などで幽閉生活です」
「そうだな……モモンよ、本当の死闘とは……本物の戦いとは、あれほど怖いのだな。すぐ傍に死が迫り、いつ自分が死んでもおかしくない。あれを……あれを私は、バルブロに体験させないとならぬのだな」
ランポッサにとってあの暗殺未遂事件は、いつ死んでもおかしくなかった戦いだ。俺が一つでも弾丸などを撃ち漏らしていたら、その一発でランポッサは死亡する。それを体験したランポッサは、死の恐怖とは何なのかを実感し、だからこそ実の息子にあれを体験させなければならないのかと悩んでいる。
「陛下。陛下がお辛いようであれば、バルブロ殿下は私が──」
「良い。良いのだ。モモンよ、お主はよくやってくれておる。あれほどの破壊を引き起こす暗殺者を相手に一歩も引かず、私を無事王都に送り届けたりとな。これ以上お主を頼っては、王としての私の名に傷がついてしまう……それに、な。せめて、バルブロを処刑せねばならぬのであれば……私の手で始末をつけさせてくれ。それが実の息子に何も教えてやれなかった、私の戒めとして」
「……承知致しました」
こうした話をランポッサとしたり、その他にやらなければいけない雑事やらで色々と俺は忙しかった。一番に優先したのは他にプレイヤーがいないかの探索だ。
今回の相手はソロプレイヤーだったが、俺はあいつだけが今回の揺り返しの対象だとは思っていない。過去にも一度に複数のプレイヤーが揺り返しで天から降りてきていたことがある。
もしも八欲王やナザリックのように、ギルド拠点でこちらに転移していたら? その相手が穏やかな性質であれば問題ないが、ナザリックのように人間ぶっ殺すの楽しい! とかだったら目も当てられない。それでなくとも、初回に出会った相手がアーコロジーのエリート思想の権化みたいなやつ。とてもじゃないが、楽観視なんて出来ない。ギルドではなくとも、ウロボロスなどの二十を持ったプレイヤーも要警戒対象だ。願い次第では文字通り世界法則すら変えられる可能性があるからな、あれ。
探してはみたものの、あいつ以外にプレイヤーはいなかった。もしかしたら帝国などにいるかもしれないし、もっと遠く離れた大陸の中央などにもいるかもしれないが、この周辺では見つからなかった。パンドラを派遣して捜索範囲を広げさせたら見つかるかもしれないが、あいつを遠くに行かせるのもリスクが大きすぎる。諦めざるを得なかった。
念のために法国にも、百年の揺り返しがあったことは伝えておいた。人類に味方してくれる神と知って、結構神官長達は喜んでいた。うんうん、あんなに喜んでくれるなら、あいつの記憶を弄った甲斐があったというものだ。
それと並行して、ワールド・ディザスターとワールドアイテムの検証も進めた。
(やった! ディザスターの常時魔法威力上昇もタレントの強化判定内だ!)
ディザスターのパッシブスキルである、魔法威力上昇。これの計算方式が魔法強化と同じなのは有名な話だったので、タレント強化も乗るのは想定していたが、いざちゃんとその通りだと分かると嬉しいものだ。
だが欠点もある。タレント強化が乗るという事は、上昇する威力も当然のように強化されたそれになる。
(あ、やばい。これ、このままだと攻撃魔法が普段使い出来ない。あまりに過剰威力過ぎる)
仕方ないので攻撃魔法使用時に、魔法威力が大幅低減する代わりにMP消費量も大幅に削減されるように修正することで、このパッシブスキルによる火力影響を0にして無理矢理解決した。このパッシブによる火力増強が必要な相手の時だけ、この修正内容を外すようにすれば無問題だ。
ただし良い事ばかりではなく、残念なこともある。ワールド・ディザスターの切り札である最強魔法<大災厄>のお蔵入りが決定してしまった。<大災厄>は位階魔法外のスキルに近い魔法なので、魔法強化タレントの恩恵が全く受けられないからだ。
<大災厄>はMPを6割も使う事で、超位魔法を凌ぐ大火力を叩きだすプレイヤーが使用可能な攻撃魔法としては最強の魔法だった。あくまでもだった、だ。
魔法強化タレントで可笑しな挙動をさせられる俺の場合、魔法強化が使えない<大災厄>にMPを6割消費するよりも、そのMPを位階魔法に回した方が火力が出てしまう。『無』も併用できる位階魔法の方が仕様上優秀だった。
(くっそ~……まぁいい。ディザスターでしか習得できない位階魔法とかもあった筈だから、それが手に入ると思えば良しだ)
ワールドアイテムの方については、創造モンスターを使い魔にすると死亡時にロストするが、ちゃんと魂を持つ生物を使えばロストしないことも判明。協力してくれた誘拐強姦殺人の犯人には、お礼として俺の眷属に加わり人類を守る英雄としての役割をプレゼントしてあげた。
(さぁて、この指輪で誰を使い魔にしたものか。5人まではレベル上限を100に出来るワールドアイテム。候補としては、レベルの上限は低いが頭の良さは人類の上限突破してるラナーちゃんとかかな?)
あまりにも使い道が多いワールドアイテムに、俺はちょっと微笑んでしまう。ありがとう、エリートプレイヤー。人類を守る仲間になってくれた上に、こんな最高のアイテムまでくれて。感謝してもしきれない。
そうしてついに王都解放軍が、リ・ボウロロールを出立したという報せが届いたと同時に──
「すまない。君がモモンかな?」
なんか白金の鎧が俺を訪ねて、王都までやって来た。
真鍮と鉄の指輪(元ネタはソロモンの指輪)
初回は神(運営)から好きに設定できる使い魔を5体プレゼント! 元の使い魔がロストしたらあとは元ネタ通り鉄と真鍮投げて新しい使い魔をゲットして使役しなさい方式
めざせユグドラシルマスター
僕と契約して使い魔になってよ
コントラクト・サーヴァント