モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
さて、それじゃ俺も王都解放軍への対処に向かいますかと準備していたら、王都に貰った別宅になんか白金の鎧が訪ねてきた。
(……こいつが白金の竜王ツァインドルクス=ヴァイシオンか)
十三英雄の一人にして、この世界最強の竜王。評議国で永久議員をしているらしいスーパードラゴンがこいつだ。
ユグドラシルから来たるプレイヤーを警戒しており、アンティリーネがお外をほっつき歩くのを問題視したのもこの竜が世界盟約なる条文を作ったから。世界盟約そのものはとっくの昔に形骸化したらしいが、それでも80レベル超えは超兵器だから仕方ないね。
そんな相手が訪ねてきたとなれば、俺としても無視はできない。進軍を開始したとはいえ、王都に来るまでは人数の多さから一週間から二週間は普通にかかるから、一日ぐらいはこの竜王相手に時間を費やしても問題はない。
「お茶漬けですがどうぞ」
「お茶漬け?」
「ただの慣用句です。あまり気にしないでください」
「……すまない。私はあまり食事をする性質ではなくてね。残念だが、飲食物については遠慮させてもらうよ」
「結構なお手前で」
「それも慣用句なのかな? 普段は人間の文化圏で生活していないから、どうにも不作法でね」
知ってる。なんせアポなし突撃訪問をしてきてくれたからね。一応、記憶改ざんプレイヤーから事前に連絡は受けてはいた。超位魔法を使った都市に、白金の鎧が現れたと。そしてこんな会話をしたらしい。
「超位が使えるということは、君はユグドラシルプレイヤーだね。なぜ超位魔法を?」
「こちらに転移したてのところを貴族に騙された。王を誑かす邪悪な魔法詠唱者がいるから殺してくれと頼まれ、嘘に踊らされて戦う羽目になってしまった。今は和解したがね」
「邪悪な魔法詠唱者? 君たちプレイヤーと、戦えるだけの人間が王国に?」
「いたさ。あれが天才と言うのだろうよ」
余計なことをあの野郎……とは思うが、記憶を改ざんしすぎると頭がパーになってしまうので仕方がない。いつかは竜王と対話する必要もあると考えていたので、その時期が来たと受け入れるしかない。
「それで、ええと……リク・アガネイアさん……というのは偽名ですよね? 法国で魔法の勉強をしたときに、神官長様達から、白金の鎧についてはお聞きしております。魔神戦争時代の大英雄、十三の一人にして、とある国の重鎮が正体だとは」
別に世間話や丁々発止の腹芸を長々としたいとは思わないので、とっとと本題に入ってもらう。
リクは偽名だろと言われて、鎧が少しガシャと音を立てる。動揺するまでが早い。それとも動揺した演技かな?
「……すまないが、本名はあまり明かせなくてね。昔友の一人に、新さんなる偽名を名乗った王の話を聞いて以来、外で活動するときにはリク・アガネイアと名乗っているんだ」
「一国の重鎮が、他国で堂々と名を出すわけにはいきませんか。承知いたしました。ではリクさんとお呼びさせて頂きます。リクさんは、どうして私の所に来られたのですか?」
「リクと呼ばれるほど親しくは……こちらが先にモモンと呼んでしまっていたか。では仕方ないね……なぜ、と聞かれると難しいね。どこから話したものか……今からひと月ほど前に、王国の都市で強大な魔法が使われた。これはモモンも知っているね? なにせ当事者なのだから」
「知っています。法国が崇め奉る六大神。彼らと同じ天の世界から来た、強き力を持つ神に襲撃されましたので」
この点において俺は嘘をつく気はない。下手に嘘をつくと、先に話をしたエリートくんとの話に差異ができる。嘘をつくならもっと効率的にだ。
「スレイン法国の人間から、プレイヤーについても学んでいるようだね。では私が、プレイヤーを危険視していることについても教えてもらったかな?」
「はい。王国の民である私は、隣国である評議国といずれは関わるかもしれません。そのため、天の国ユグドラシルについては一通り知識として学んでいます。リクさんと、神の関係についても……リクさんが来られたのは、神が降臨されたからなんですね」
「ああ。君たち人間が神と呼ぶプレイヤーは強大だ。単独で国を複数傾けられるほどに。百年ごとに訪れる異邦の神々。彼らが世界に残す爪痕は、いつだって大きい。法国が崇める六大神にしろ、世界を支配しかけた八欲王にしろ……」
「200年前に魔神を葬った、十三英雄のメンバーにしろ……ですか?」
「……そうか。モモンはそこまで教えてもらったか。その通りだよ、プレイヤーの影響は決して無視できるものではない。彼らは単体でも強く、また世界に匹敵するほどの財を持つ。例えば……モモンが此度のプレイヤーから贈られたという、その指輪など」
リクの視線が俺の手に嵌められた指輪に向けられる。ワールドアイテムに。
「……モモン、君はプレイヤーを相手に、渡り合うほどの実力者らしいね。それほどまでに強い力……君は本当に人間なのかな?」
「人間ですよ。生まれも育ちも、王国の。母さんと父さんの間に生まれた、なんてことのない、ちょっと人より才能があるだけの……そのせいか、神官長様達からは、神様の生まれ変わりだー! なんてちょっと大げさな反応はされていますけどね」
「神の?」
「その辺の詳しい話は法国で聞いてください。私からは恥ずかしくて言えないので」
神様扱いがちょい恥ずかしいのは事実なので、こういって断っておく。追及されるとめんどくさいからな、この問題。
「……今はそういうことにしておこうか。モモンがプレイヤーに匹敵するのは事実……それは真実なんだね?」
「それは本当です。と言いたいですが、今は自信がありませんね。私は法国で神のような扱いを受けていましたが、本物の神と戦い自惚れだと気づきました。世の中は広く、自分が井の中の蛙であることを知るばかりです」
「だが生き残った。人間の中から、プレイヤーを相手に伍するほどの者が出たのは驚きだよ……同時に、その力がとても危険だという事もね」
おっと? 少しリクの雰囲気が変わる。少しだけ剣呑な空気を纏い始めたな。
「君と戦ったというプレイヤーは、私との問答でこの国と人類の生存圏を守るだけだと言っていた。ではモモン、君はどうかな? それほどの力を持つ君は、どんな望みを持っている?」
……これはあれだな。普段俺がモンスターや亜人にしている、人間と共存できるのか否かを問う質問。あれと同じことをこいつは聞いているのだ。お前は侵略者か、それとも共存者か。どっちなんだと。
神官長らの話では、白金の竜王は信用も信頼もできないが、傲慢なドラゴンの中では穏健派に属している。俺はその話は真実ではあると思う。ユグドラシル関連について危険視しているのは真実だろうが、問答無用で全部滅べと思ってはいないと確信している。もしも本気で滅ぼすつもりなら、法国もアンティリーネもとっくの昔に滅んでいるはずだから。
まずは質問に答えておくか。俺の本音を。
「望み……となると大げさですが、私にも欲しいものはたくさんあります」
「それは?」
「平穏や幸福です。なんてことのない、日常……時折刺激的な非日常があれば満足ですが、それらは際立たせる日常があってこそ。私の望みが何かと問われたら、それは平穏な日々に他なりません」
「そんなものが……願い? その……そうか。モモン。プレイヤーと戦える君であれば、世界の支配や征服もそう難しくはない。そんな君の願う平穏な日常とは、この大陸全土を自らの支配下におき、恐怖と圧政を敷いた日常……その中で時折民を拷問することで非日常を味わう。それが幸福という意味かな?」
「……リクさん。話には聞いていましたが、八欲王がよほど根深い闇になってます?」
俺が素直に平穏って言ってんだから、言葉通りに受け取れよ! こちとら支配にも征服にも興味なんてねえんだよ! いや、確かにトブの大森林の平定にリュラリュースを利用したりとかはしたよ? ただそれは生存圏が被ってしまったから、仕方なしの行動だ。わざわざ人類生存圏から出て、他種族を殺しに行くほど血に飢えた覚えはない。
「私の言う平穏は、言葉通り穏やかな日々ですよ。朝起きたら朝食を作って、昼には昼餉を食して、夜にはお酒を飲むような、なんてことのない」
「食べてばかりな日常だね」
いやぁ、前世がビタミン剤とか謎ジェルだったもので、食生活の変化が中々嬉しいことなんですよ。
「八欲王の没後に作られた世界盟約。魔神騒動以降誰も守らなくなったとは聞いていますが、あれを創られたのはユグドラシルからくる神が世界に及ぼす影響を危惧してのこと。あれの内容は行き過ぎだとは思いますが、同意する部分もあります。平穏は守られるべきだ……どのような手段を用いようとも」
だからここに来たんですよね? 私がプレイヤーと同等の力を持つなら、それでことを成すのではと恐れて。
俺の言葉にリクは何も言わない。流石にこの場で問いただし殺すつもりはないと思ってはいたが、本質を見極めようとはしていただろう。
「……モモンには、世界を脅かすつもりは毛頭ないと?」
「ないです。だって、世界なんて支配してどうするんです? 向こうが殴ってくるなら殴り返すし、こちらの生存権を脅かすなら排除はします。ですがお互いに踏み入ってはならない領域を定めて、なぁなぁにして過ごすことなら出来る……まさかとは思いますが、亜人に攻め入られても笑顔で受け入れろ! なんて言いませんよね?」
俺がそう問いかけると、少しの間リクは俯くようにして考え込み、頭を上げた。
「……正直に言おうか。国の防衛であっても、ユグドラシルの力を使ってほしくはない。世界盟約では、神々の力は封印すべきとしてある」
「もはやそれも過去のものでしょう? 八欲王は世界を歪め、旧き魔法を駆逐し異界の魔法たる位階魔法を定めた。位階魔法が日常になった現代に、世界盟約は形骸化しています。守っている国があるんですか? 向こうが位階魔法や、その他のユグドラシルアイテムを使うかもしれないのに、自分たちは馬鹿正直に使わずに死ねと?」
「そこまでは言わないが…………それでも、ユグドラシルの力は危険だよ。モモンはまだ若く見える。500年前に、あのプレイヤー達が何をしたのか実感として知らないからそう言える」
知ってるよ。自業自得とは言え、かつての俺の日常は壊された。完膚なきまでにな。
「もしもプレイヤーの先祖返りが生まれたら、幽閉せよ。それが盟約の内容の一つ。私は先祖返りかどうかは不明ですが、神に匹敵する力を持つ私には隠遁生活をしてほしい。そんなところですよね?」
「……否定はしない。世界を守るためには必要な行為だ」
「他種族の存続を脅かしかねないほどの力だから、ですか……そこの部分ですが、私としては卑怯な書き方をしているなと思いましたよ。だってあれ、力が危険というならば、竜王もそう書くべきなのに、ユグドラシルの存在だけに限定してるでしょ?」
俺がそう言うと、リクからムッとした空気がしてきた。でもこれは本音だ。世界を守るために、異界の強く悪しき存在に対抗しよう! 的な内容が世界盟約だ。力が強大だから排除するべし、とは言うが、別にユグドラシルの存在を排除したとて脅威なんて多くある。
「弱小種族『人間』の立場からすれば、竜王も脅威です。私であれば対抗はできるかもしれませんが、その他の人間にとっては違う。法国で歴史を学べば、竜王に滅ぼされた種族や国なんて幾らでもある。有名どころで言えば、
「……平穏のためであれば、世界盟約とは関係ないと?」
「盟約とやらを守った結果、知人や友人が亡くなったらそれまでですから。リクさんだって、もしも自分の居場所が攻撃されたら躊躇なく戦うでしょ?」
「……そうだね。そこも否定はしない……だがワールドアイテムまで使われるのは、私としては肯定しづらいね」
むぅ、納得はしてくれないか。じゃあ仕方ない。ちょっとだけ、意地悪な言葉を投げかけようか。
「リクさんはユグドラシルに連なる存在を警戒している。これは確かですか?」
「ん? ああ、それは確かだよ」
「ではなぜ、エルフ国のエルフ王を放置していたのですか? 私は彼から、自分が八欲王の子孫だと伺いました。さらにかの王にお話を伺えば、自らの子でエルフの軍を結成して、リクさんが懸念する世界支配の大望を抱いていた。これがただのエルフなのであれば問題ないですが、エルフ王は八欲王の直系で、彼の子は強い子が生まれやすい。放置するには危険な存在だった筈だ」
「……すまない。それは初めて知ったよ。そうか、あの国の王はやつらの子供だったのか。それは悪いことをした。知っていれば、法国に代わり私が始末をしに行ってたよ」
「……ふうん。知っていたら……ですか。ちょっとしたきっかけがあればこうして鎧で出歩くのに? 200年前にも、魔神との闘いに参加したあなたが、百年以上戦争していた法国の仇敵のことを知らない? 六大神の末裔のおかげで英雄を抱える国が、勝てないことにも疑問を持たず?……まぁいいですよ。そういうことにしておいてあげます」
「……………………」
沈黙は答えだぞ、リク。やっぱりお前、知っていたうえで放置したな。ユグドラシル関係者同士が勝手に殺し合いしてくれるからって。
(こいつはたしかに信用も信頼も出来ない。こうしてお前を疑っているぞと言葉にしても、沈黙するだけで声を荒らげたりはしないから、竜王の中では良識派なんだろうが……あくまでもドラゴンの価値観で良識というだけ。世界を守りたいというのも、十三英雄として戦ったことから事実。ただしこいつのいう世界というのは、別に人間だけを指すわけじゃない。その他すべてを含めて世界。人類が死滅したとしても、こいつはたぶん助けてくれない。なんかこう……仕方ない。それも自然の摂理だよ……とか言って流しそう)
流石にユグドラシルに関係するなら来てくれそうだが、それ以外の国の威信をかけた戦いとかには救援要請してもブッチされそうな気配がする。あと竜王とかが王国や法国に飛来しても、国が滅んだあとにあーしまったとかやりそう。
「リクさんがエルフ王のことを知らなかったように、脅威とはどこにでも潜んでいます。竜王だってそうだ。彼らが本気になったが最後、人類は何もできずに一方的に殺される……私は家族が死ぬのを見たくはありません。友人知人が亡くなるのも」
「だから、守るためであればユグドラシル由来のマジックアイテムを活用したり、今回の揺り返しで降臨したプレイヤーの力を借りるのにも躊躇はしないと言いたいのかな?」
「そうなります。とは言っても、リクさんの懸念も分かります。私がその気になれば、他種族の存続を簡単に脅かしてしまうことも。なので自らに一つ縛りを入れています」
「その縛りとは?」
「あくまでも専守防衛。人類の生活圏の守護のみに限定する。こちらからは攻め入らない」
これは本当の話。リュラリュースの所に乗り込んだりしたのも、あくまでも大森林を平定することで、カルネ村やその他の村を守るため。神官長らに対してもこれは伝えており、俺が力を貸すのは向こうから攻めてきたときや、向こうが攻め入らないように防備を固めるための手助けだけ。
亜人国家に対して侵略するのであれば、眷属は貸し出さないと伝えてある。理由については、無駄に敵を作るな、八欲王の再来と思われたら、竜王を筆頭とした亜人軍らを相手に回す羽目になるぞ……とも脅しつけてある。
「防衛、つまりは人を守るためにのみ力を振るう。そういうことかい?」
「そうです。私は世界に混乱が蔓延ることを望みはしません。それは平穏とは程遠い生活になる。こうやって──」
食べないと言うので、リクに出していた冷めてしまった茶漬けを口に流し込む。
「飯食って、家族や友達と仲良く過ごして、人類に防衛力を持たせてそこそこの生活をする。それ以上は望みすぎだと思いますから」
「そこそこ、か。ここに来るまでに、邪知暴虐の王と卑劣なる魔法詠唱者の噂を聞いた。その話だけを鵜呑みにするのであれば、君は悪だ。王国の秩序を破壊しようとする。だがあのプレイヤーは、モモンを誤解していたと言っていた。モモンは秩序を破壊しようとしているのではないのだね?」
あー、貴族どもがプロパガンダとして流していたやつか。モモンは尊き血を断絶させ、この国を根底から破壊しようとしているとかなんとかってやつ。
仕方ないので、王国で起きた一部始終と、俺や王が何をしようとしているのかの触りだけ伝えておく。
「……どうして王国の貴族は、自分と同じ種族を絶滅させようとしているのかな?」
知らね。畑から人が取れると思ってるんじゃないか。
「……了解した。モモンが、世界に混迷と破壊を齎さないのであれば、私もこれ以上忠告などはしない。だが覚えておいてくれ。もしも今の言葉を違えるようであれば、私は君の敵になる」
「心に刻んでおきます……と、そうだそうだ。ユグドラシルから降臨する神様なんですが、リクさんとしては穏やかな生活を望むものであれば問題ない。逆に八欲王のような相手であれば、容赦はしないんですよね? なら私とリクさんは利害が一致しています。今回第十一位階魔法をお使いになられた神は平穏を望まれた神でしたが、そうではない邪神が来た時、協力を求めたいのですが構いませんか?」
「……邪神であれば私が倒すべき敵だ。協力はしよう」
そう言ってくれると思ったよ。相手がプレイヤーで、なおかつ悪なら絶対に殺しておきたいものな。一対一でやるより、一対三で戦うほうが確実だ。
つつがなく話は進行し、リクは御家に帰っていった。殺し合いに発展しなくてよかったよ、ほんと。
……
あの鎧は
(あそこにおいてた武器。あれギルド武器っぽいんだよな。南の砂漠にある都市『エリュエンティウ』。もしかしてあそこのギルド武器か?)
見えていた情報が偽造の可能性もあるし、リクは気づきながらも俺を泳がせている可能性もある。なのであのギルド武器について、俺はこれ以上干渉する気は一切ない。『今回』は。
(もしもあれをどうにかするときが来るとしたら、
ま、それは一旦置いといて。そろそろ7万人の相手をしに行きますか。
ユグドラシルでは情報対策がマスト