モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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ジルクニフ

「見た目はおかしくないか?」

「よくお似合いですわん」

 

 本日は帝国皇帝の息子、ジルクニフが俺に会いに来る。先触れの話では今日の正午には到着するそうなので、こちらから出迎える予定だ。迎えるにあたって、金糸などが使用された仰々しい赤い礼服で着飾る。

 

「俺は礼は取るべきだが、公的な場でのザナックに対する態度ほど畏まらなくても良い……で合ってるよな?」

「合っております。今回の行啓は、あくまでも向こうの方からの申し出です。モモン様に訪ねてこられる形ですので、必要以上にへりくだるのは逆効果。それにモモン様の御立場は、この国では王族に次ぐ公爵家ですからね」

 

 相手もお偉いさんではあるが、こっちもお偉いさん。それに今回は向こうの営業活動なので、まるで俺が臣下かのような態度を取ってはならない。大体感覚としては、ウロヴァーナやぺスペアを相手にするときの態度ぐらいでちょうど良いらしい。

 迎え入れるに当たり、王国戦士団をエ・ランテルの外に並べる。これはパンドラの提案で、あいつが相手の動きを読む限り、将来的には帝国は王国の吸収を狙っていたところがあるんだとか。

 親善外交という名目の戦力視察。それを向こうは兼ねているだろうから、間違った気を起こさないようにしっかりと釘を刺しておくのが良いみたいだ。

 この方針には俺も賛同する。俺の最大目標は人類守護をすることで、最終的には家族や知人・友人を守ること。しかし守る上で、俺のアルチメット・ハイパーブラックワンオペにならないように立ち回る必要がある。

 これを叶えるために法国では漆黒聖典の輪廻権現、王国ではエモット公爵として働いているのだ。現状法国の全面的な協力と、王国内で発掘した人材の協力、それに俺の手足として働かせているエルダーリッチなどの文官達。

 これらを総動員していてもなお、俺の休みは一切ない。いや、一応無理やり休んではいるんだ。応用型<時間停止>で自分だけ加速。寝る以外の行動を一切しない代わりに、停止可能時間を限界まで引き延ばす修正も追加してから時間延長。こうすれば他者には一秒未満、俺には数時間の睡眠時間が確保できる。

 これを仕事にも応用すれば、一日百時間以上の労働時間を確保しつつ睡眠時間も確保できるぜ! ……なんで俺、前世なんて目じゃないブラックな生活してんだろ。

 とにもかくにも、現状ですらブラック生活なのに、ここに加えて帝国との戦争? 冗談じゃない。勝てる勝てないではなく、これ以上無駄な仕事を増やしたくない。これ以上仕事が増えてしまったら、俺は疲労しないのに過労死してしまう。一体……俺はいつ休めるんでしょうね。

 

(うちの軍はこれだけすごいぜ~が目的だから、並べるのは俺の眷属が中心になるな)

 

 王国戦士団と言っても、まだまだ育ち切っていない。エ・ランテル領主就任後の三か月で全国民の調査を終わらせ、上からレベル上限が高い順にスカウトして集めた人数、実に五千人。

その内、法国であれば六色加入が検討される20レベル超えは千人ちょっと。英雄に到達可能な人材はなんと30人。ただ残念なことに、平均値は凄いが逸脱者まで到達できそうな人が全然見つからなかった。最大値だけであれば、アンティリーネ抜きでも人間最強や最近生まれた神人を抱える法国の方が上。

 平均値と人数の王国、最大値の法国みたいな関係になっている。なおエモット公爵を含めるなら王国が上回り、輪廻権現も参戦するなら法国がやっぱり上かもしれない。エモット公爵と輪廻権現、どっちが強いんだろうなぁ~……

 ……しょうもないことを考えていても仕方ないので、ゴーレムを急遽配置していく。さーて、ジルクニフとフールーダというのは、どんな人物なんだろうな?

 

 

 

 

 

 帝国皇帝の息子ジルクニフと、宮廷主席魔術師フールーダが乗る馬車は特に何事もなく街道を走り抜ける。

 

「……野盗の1人も現れんか」

「それだけ、エモット公爵を恐れたのでしょうな」

 

 貴族やそれに準ずる馬車が襲われる例は少ないが、無いわけでもない。見た目が豪華な馬車であれば、それだけ金があると考える不埒な輩は多い。もっともそういった馬車には、大抵実力者が護衛としてついている。

 いつぞやのモモンであれば、モモン自身が実力者で、御者兼執事のセバスと秘書であるパンドラが護衛役だ。

 今回のジルクニフで言えば、近衛騎士とフールーダが護衛になる。念のために野営地でも警戒していた一行だが、王国領に入ってから犯罪に手を染める者が一人として出ていない。

 

「例の大公検地とやらで、貴族以外にも国内の整理は済ませてしまったようだな」

 

 ジルクニフの予想は当たっている。大公検地は王国内全土を飛び回り、数多の村で多数の人間と交流する。その関係上どこどこに、どんな野盗が出た、このようなモンスターがいた、あの辺は亜人が危険といくつもの話がモモンの耳に届けられる。

 時にはエルダーリッチが街道で強盗殺人をしているから助けてくれと聞けば、漆黒やペスを派遣したり。どこそこにゴブリンの巣があるから潰してほしいと聞けば、引っ越しの交渉をゴブリンとして駄目だったら巣の中に大量の眷属を放ったり。

 これでもかと問題解決に働いた。働きまくった。働きまくったせいで、現在王国内の冒険者の需要は非常に低下したほど。モモンが領主就任後はエリートプレイヤーが後を引き継ぎ、王国戦士団第一師団長として各地を転移魔法で飛び回っている。

 そのほかにも、モモンが操ると言われる英雄の領域にあるゴーレムが街道を巡回。王国内の治安は急激に改善されてしまった。王都にいた犯罪組織などもこのままではまずいと感じたのか、全員王国内から逃げ出している。

 

「これだけの早さで国内を鎮めるとは、想像以上にエモット公は実力者なようだ」

「ますます楽しみですなぁ!」

 

 フールーダの喜色だらけの声に気色悪いなとジルクニフが思いつつも、そのまま街道を直進。先触れが伝えていた通り、帝国親善大使一行は無事エ・ランテルに到着した。

 さてどのような出迎えだろうなと馬車の外を眺めて、ジルクニフは言葉を無くす。見えた光景があまりにも出鱈目だったせいで。

 

「……爺。あれはアンデッドではないのか?」

 

 数分して気を取り直したジルクニフは、フールーダに意見を求める。自分の目がおかしくなったのではないかと思いながら。

 

(どう見てもアンデッドだろあれは!? なぜ当然のように死霊の群れが並べられている!! 神殿勢力の教えはどうした、教えはぁ!!)

 

 アンデッドとは、例外なく人類を殺しに来る不倶戴天の敵だ。生者を憎み、彼らの魂を狙う悪しき邪悪なる亡霊。ジルクニフも幼い頃からそう教えられて育ってきた。

 そんなアンデッドの群れが千はいて、まるで兵士のようにきっちりと整列している。あまりにも異様な光景だ。

 

「……爺?」

 

 自分の問いかけに対して、横にいるフールーダが何も答えない。不審に思ったジルクニフはそちらを見た。

 

「あれは……あれは、そんな……まさか、ありえない。死の騎士(デス・ナイト)まで並べられて……お、おおおおぉ!!! 魂喰らい(ソウルイーター)もぉ!! まさかこれほどの……」

「おい爺……おい……少しはこちらの話を聞け!」

 

 ジルクニフが頭を強めに叩いたら、フールーダがようやく我に返った。

 

「お前はあのアンデッドどもを見たことがあるのか? 名前を口にしていたが」

「過去に数度だけですが……デス・ナイトは、大昔にカッツェ平野で見かけたことがあります。当時の私では実力が足りず倒しきれなかったほどの、強大な力を持つ死霊です」

「当時は……今ならどうだ? 逸脱者とまで呼ばれる領域に至った爺であれば?」

「勝てるとは思いますが、かなりの魔力を消耗することが前提の話となります。冒険者が使う難度で言えば、100を超えますからな、デス・ナイトは」

「100……だと!? その100を超えるアンデッドが、ここには数体はいるぞ!!?」

「ですな。それよりも、あのソウルイーターもいることが信じられませぬ」

「どれだ、そのソウルイーターとやらは?」

「あのオーラを纏った骨の馬です。あれはたった三体でビーストマン10万を屠った伝説の大怪物。 あの骨馬が真実ソウルイーターなのであれば、デス・ナイトと共にどこかの小都市に放り込めば……」

 

 一晩で都市が壊滅します。その言葉を聞いて、ジルクニフは馬鹿なと言いたくなる。

 

「で、伝説のアンデッドとやらが、どうしてあれほど揃っているのだ!? 今の話からすると、他のアンデッドも伝説とやらに名を残す存在ではないのか!」

「分かりませぬ。デス・ナイトもソウルイーターも、目撃例は殆ど残っていない貴重なアンデッド。それがこれだけの数を揃えて……もしや、エモット公爵の?」

「エモット公の? ……死霊術師(ネクロマンサー)というやつか? ネクロマンサーであれば、伝説のアンデッドでも従えられるのか?」

「不可能です。歴史上もっとも優れたネクロマンサーは、十三英雄の一人、リグリット・ベルスー・カウラウですが、彼女でもデス・ナイトほどのアンデッドを使役した例はありません」

「だ、だが目の前に実例がいるのだぞ! それもあれほどの数が!」

 

 ジルクニフ達が乗った馬車は、街道に並ぶ死者で構成された列の間を縫うように走る。心なしか、馬車を引くスレイプニールの鳴き声に、怯えが混ざっているようにすらジルクニフには感じられる。

 たった一体いれば都市を落とせるほどの怪物が、何をするでもなくジルクニフ達の馬車を迎え入れる。ジルクニフは思わずごくりと唾を呑み込んだ。馬車越しですら感じ取れる、人間なんて超えたアンデッドの群れに本能が怯える。

 

「アンデッドの間に、人間もいるな……」

 

 並ぶ黒い兵士らの間には、人間も見て取れる。まるで同僚のように立ち並ぶ人の兵を見て、なぜあんな風に平然としていられるのだとジルクニフは思う。考え、その言葉を口にした。

 

「爺よ……俺は突拍子もないことを言うぞ」

「……なんですかな?」

「もしもエモット公爵が、お前の弟子の一人が見たという、小都市を破壊したほどの魔法詠唱者だとすれば……ここに並ぶ伝説の存在達でも、手足のように従えられると思うか?」

「それは……ううむ……可能やもしれません。しかしそうなると……いやまさか……エモット公爵は第五位階などではなく、もっと遥か上の?」

「爺は言ってたな。エモット公は第五位階だと。だがそれは直接見たわけではない。このアンデッドが、エモット公の使役するアンデッドだとするなら……お前はどれほどの術者だと想定する?」

「……七すら超えて、八……魔神を上回るほどの……ふは、ふはは……ふはははは!!! 素晴しぃいいい!! すぅううばらしいぃいいいい!! 最低でもはちぃい! 最低で八だぞ、ジルよ!! 下手をすればモットうぅえええ!! 人跡未踏の、遥かなる頂きに! エモット公はいることになるうううう!!」

 

 狂ったように口を開き、唾を飛ばしながらフールーダは吠える。第五位階だと侮っていた。だが見える光景が違う。帝国にも、モモンはゴーレム使いかもしれないとの話は回っていた。では目の前の光景はなんだとフールーダは狂気に踊り狂いたくなる。いや、もしかしたらゴーレムなのかもしれない。しかし感じる圧が違う。一体一体が自分と同等か、それ以上の力を内包する存在達。

 それが何十、何百と居並びジルクニフと自分を迎え入れようとしているのだ。仮にこれらがゴーレムだとして、自分に操れるだろうかとフールーダは思案する。答えは絶対に不可能。魔法の召喚・使役のルールとして、自分より強い存在を操る事は出来ない。それをこうして運用している時点で、モモンの魔法詠唱者としての力量は証明されている。それも一体ではなく、何百も……

 

「ふ、ふふふふ……嬉しそうだな、フールーダ。随分といい笑顔じゃないか……そうか。第八位階魔法詠唱者か。歴史上最強の魔法詠唱者と言われたのはお前だ、フールーダ。そのお前ですら、到達できたのは第六位階まで。ははは……」

 

 ジルクニフは、自分もフールーダのように狂気の笑顔を浮かべられたら楽なのだろうかと……そうすれば、もっと気楽に今回の査察に挑めたのだろうか。

 

(爺すらも及びもつかない、人外級の魔法詠唱者……だと! ランポッサ三世! ヴァイセルフ王家よ! お前達はカルネ村とやらで、一体何を創り出したのだ!! 爺の話が本当であれば、単体で国家間のありようすら変えられる怪物だぞ、モモンは! 話によれば、蘇生魔法すらも行使可能……蘇生は第五位階にあるから、それも爺のエモット公第五位階説の補強になっていたのだ。なのに……ともかく此度の親善大使としての任。これは試練だ。俺が皇帝になれるかどうかの試練! これを乗り越えられないなら、俺に皇帝になる資格はない!)

 

 もしもランポッサが、ジルクニフがそうしようとしていたように、帝国を落とす気であれば? そうなれば最後、帝国はモモンに蹂躙されるかもしれない。それを回避するためにも、まずはモモンの性格をジルクニフは探らねばならない。武力ではなく、外交と政治力で抑止する事が可能なのかどうかを検討。

 皇帝と宮廷主席魔術師の思惑はどうあれ、馬車はエ・ランテルへと入場し、領主宅を目指して進んでいく。

 到着したのは、公爵宅というには何とも華やかさのない建物だった。もしもここに来たのがジルクニフではなく、帝国のよくいる貴族であれば、公爵宅を見て鼻で嘲笑っただろう。国一番の貴族が住まうような屋敷ではないと。エモット公とやらは、ウサギ小屋に住むのが好みなのかと心底馬鹿にしていただろう。

 だがジルクニフにそのような気はない。あのアンデッドの軍団を見たことと、フールーダの第八位階発言。この二つがある相手が住む館なのだ。どのような魔法的仕掛けが施されているのか見当もつかない。それこそ入った瞬間に、気絶するような魔法罠などがあるかもしれない。

 

「ようこそおいで下さいましたわん。わたくし、この御屋敷のメイド長を務めますペストーニャと申します。親善大使ジルクニフ殿下と護衛の宮廷主席魔術師フールーダ様でございますねわん。御身らをご案内するよう、閣下より仰せつかっていますわん」

「こ、これはご丁寧にありがたい。案内嬉しく思います」

 

 いきなり出てきたのが犬頭メイドなことに、ジルクニフは顔が引き攣りそうになるのを堪える。

 

(どうなっているんだモモンとやらは! これは亜人……のメイドなのか? しかも亜人のメイドがメイド長? ……いかん、常識が違い過ぎて頭がおかしくなりそうだ)

 

 亜人を雇い入れる家は帝国にもあると言えばあるが、その屋敷の最高位につけるというのは非常に珍しい。意識を切り替えて、ペストーニャに案内してもらう。屋敷内は見た目通り質実剛健で、調度品なども大したものは置いていない。これはモモンとやらの趣味だろうかと、ジルクニフはくだらないことを考えているなと思いながらも部屋の前に辿り着き、ペストーニャに扉を開いてもらって中に入る。

 

「初めまして、ジルクニフ殿下。遠路はるばる、お越し頂き誠にありがとうございます。モモン・シャーナ・ライル・エモットでございます」

 

 迎えてくれたのは、見た目は普通の少年だった。自分より一歳年上な分背が高く、赤い目が特徴的なこと以外は普通の少年。最低でも第八位階魔法詠唱者かもしれないという情報からすれば、どこにでもいそうな見た目をしている。

 笑顔は柔らかく、言葉にも棘などが見当たらない。これは少し警戒しすぎたかなと思いつつ、ジルクニフは自らも自己紹介をする。

 

「歓迎を心より感謝する。私は此度の親善大使を務める、ジルクニフ・ルー──」

「お、おおおおお!!! ま、まさかぁ!! これほどの、これほどのぉおおお!! おおおお……神よ。あなたに帰依し、奉りまする……」

「……は?」

「はい?」

 

 いきなり膝をつき、涙を流し始めたフールーダにモモンとジルクニフが似たような困惑をする。いったい、こいつは急に何をし始めたんだ? 二人とも思わず顔を見合わせた。

 

この人何?

分からん

 

 出会ってまだ一分。二人はもうアイコンタクトを成立させていた。

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