モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
ジルクニフに挨拶し、さて今度は向こうが自己紹介といったところで、なぜかジルクニフの隣にいたお爺さんが平伏し始めた。何事?
「お、おおおおお!!! ま、まさかぁ!! これほどの、これほどのぉおおお!! おおおお……神よ。あなたに帰依し、奉りまする……」
「……は?」
「はい?」
意味が分からない。何だこの人? 神? まさか俺を見て神がどうとか言ってるのか? ジルクニフに目で問うてみたら、向こうもなぜ身内がこんな真似をし始めたのか分からないらしい。何という事だ。
(俺を神なんて呼ぶって事は、もしかしてこのお爺さん……というかフールーダさんだよな? は法国の関係者で、俺のことを知ってるのか?)
なんとか答えを導こうとすれば、スルシャーナの生まれ変わりを知っているのではないか、だ。それなら、平伏涙帰依するとやらにも説明はつく。
でもフールーダ・パラダインと言えば、逸脱者に到達した魔法詠唱者として有名だ。それだけの人物が法国と繋がりがあるのであれば、既に俺の耳に届いてないとおかしい。つまり法国とは無関係の筈。
……分からん。なぜ急に俺に帰依して奉ろうとする?
「おいフールーダ! この場をなんと心得ている! エモット公に失礼だとは思わんのか! いますぐに立ち上がり、エモット公に謝罪を──」
「ジルよ、ジルクニフよ……頭が高い。我らの前におられる方を、なんと心得ておる! 我らの前には、今いと高き神が居られるのだぞ! ジルも私と同じように、早く平伏せぬか!?」
「……すまない、エモット公。フールーダはどうやら、長旅で心労が祟ったようだ」
意味わからんとジルクニフはフールーダを見下していた。こいつどうしてやろうかと眼にはっきり書いている。もしもフールーダ・パラダインが帝国最大の英雄にして、最大戦力でなければこの場で首が刎ねられていてもおかしくない。なにせ、一応はこの国で三番目に偉いことになってるのが俺で、帝国で皇帝の次に偉いのは目の前のジルクニフ……違うのかな? フールーダの方が地位は上かもしれない。
「違う……違うのだ。ジルよ。心労などではない。断じて……今我らの目の前にいるのだ。人類未踏の領域。あると言われ、だが実在を疑われた位階。第十位階の魔法詠唱者が、私たちの目に映る存在として顕現されておられる」
「……だい、十位階? それは……そんなものが存在する、のか?」
あー、そっちか。なるほど、そっちだったか。
今回は示威目的という事で、俺はエリートプレイヤーからパクった探知阻害の指輪を外している。フールーダがタレント持ちで、魔力系に限り何の位階魔法が使えるのか観測できることは有名。それを利用して、脳に衝撃を叩きこもう作戦だ。
どうせ第十位階が使えることについては、法国周りなどを調べられたらすぐに判明する。なのであまり隠す必要がない故の行動だ。
(第十位階魔法は切り札でもないからな。これは見せ札だ)
ユグドラシル時代に習得した718の魔法。それに加えて、こちらに来てから覚えた魔法23個を加えて総計741個の位階魔法。このうち第十位階はモモンガの時に習得したものしかないが、俺の場合741個全てが第十位階相当に出来る関係上、何の手札を持っているのかバレたところで支障がない。仮に741全部研究されても、修正強化で逐一効果を理想型に変えてしまえば、もっと習得しているのと同じ。
741個どころか、1万以上の魔法を習得しているのと同義なのが俺だ。フールーダに第十位階であることを悟られても、そんなに問題はないと考えていた。
……手札がどうたらよりも、別方向の問題が生じてしまった。こいつあれか。魔法そのものを特別視してるタイプだ。なんかこう……魔法コレクターとかそんな感じの。
(法国にも少なからずいるんだよな、このタイプ。魔法の研究に生涯を懸けちゃってる人。俺にとっては魔法はあくまでも道具に過ぎないが、道具そのものに意義を見出す研究者達……)
そんな研究大好きーな人らにとって、輪廻権現の第十位階は研究の対象だった。何度か質問攻めにあっているが、その度に俺はのらりくらりと躱している。俺のモモンガパワーで使う魔法は、手足をどう使うかに近い。こちらで覚えた魔法は、こうすれば使えると理論立てて使ってるのに対して、ユグドラシルで習得した魔法は何となく使えるものでしかない。質問されても答えられん。
(嫌な予感がする……第十位階魔法詠唱者そのものに神性を見出す研究者なんて)
とりあえず<虚偽情報・魔力>でMP量だけは調整してあってよかった。レベルが上がり過ぎたせいで、俺のMP量は純魔なエリートプレイヤーの倍ぐらいある。それは流石に見せるつもりはない。本当の総量については秘匿情報だ……魔力量まで見えるタレントで、なおかつ俺の本当の総量が見えていたらどんな反応をしていたのだろうか。気になるが、今はこの場をどうにかしないと。
「ええと……エル=ニクス殿下。殿下は先ほど、そちらで五体投地されている御老人をフールーダと呼ばれていました。その方が、帝国に名高き宮廷主席魔術師、フールーダ=パラダイン様でよろしい……のでしょうか?」
「……そうだ……この方が我が国が誇る……ほこ……英雄のフールーダです」
苦虫を何匹も嚙み潰した顔で、ジルクニフがフールーダであることを肯定してくれる。うん……自国の英雄が意味わかんない行動を取ったら、そんな顔をしたくもなるよね。
「フールーダ殿……には、私の行使可能な位階魔法が見えているのですね」
「その通りです。我が親愛なる魔法神よ」
「……その魔法神というのは?」
「私は魔法を司る小神を信仰しております。ですがその小神も、第十位階を司った話は聞いた事がありませぬ。ならば御身はその小神すらも上回る、偉大なる魔法神でございます」
「ああ……そう」
うん。今までで、一番話が通じないかもしれない。法国の人達は、スルシャーナの生まれ変わりだから云々で俺を神の化身『輪廻権現』として敬ってくれるのだが、フールーダはどうも違うらしい。第十位階が使えるイコールで魔法神と認識しているようだ。なんで?
「エモット公。爺は先ほどから、そちらを指して第十位階と口にしている。エモット公が第十位階魔法詠唱者というのは、本当の事だろうか?」
「それは本当です、殿下。私には生来優れた魔法の才があり、法国で学んだことで一気に開花し、第七や第八を飛び越えて、六大神様が御使いになられたと言われる第十まで覚醒しました」
「なんと!?」
なんと! と言ってくれているが、フールーダと違いジルクニフはそんなに驚いた様子がない。驚いてはいるが、どれぐらい驚けば良いのかよく分からない……といった感じだ。ジルクニフが魔法を習得しているなんて話は聞いた事がないので、たぶんフールーダと違って第十と言われてもピンと来ていない。
なので、今も早く私と同じように平伏せんかと説教しているフールーダを無視しているようだ。
「……爺が言うように、私も同じようにした方が良いかな?」
「あくまでも私は魔法詠唱者で公爵に過ぎません。フールーダ様が仰られるような神などとてもとても……普通にして頂ければ結構です」
「だそうだ、フールーダ。とりあえず立て! 今のお前がすべきはそんな平伏ではなく、国の親善大使である俺の護衛だろうが!?」
「フールーダ殿。殿下の言うとおりです。私はあなた様の言うような神ではありませんので、そんな仰々しい礼をされる立場ではありませんよ」
「し、しかし……失礼を承知で御身に願い奉りたい! 私に第十に到達する道を示して頂きたい!! 先達として導いてほしいのです!! エモット閣下が見たであろう魔法の深淵! その淵だけでもどうかぁ!!」
「いい加減にしろフールーダ! お前が幾ら帝国最大の英雄と言えども、これ以上の我儘を申すなら、この場から追い出さざるを得んぞ!」
「申し訳ございません、フールーダ殿。第十位階とは、教えてどうにかなるような領域の話ではないのです。才ある者は自然とたどり着き、たどり着けない者は何をしても辿り着けない。世に溢れる魔法詠唱者がフールーダ殿の第六にたどり着けないのと同じように」
「では……私は第十には……?」
「殿下、このままだとフールーダ殿も納得はされないようですので、少しばかりお時間を頂いても宜しいですか? 少しフールーダ殿の魔法の才を調べてみます」
俺の申し出にジルクニフは少しばかり考えた後に、御厚意に甘えさせてもらいますと答えた。フールーダをこのまま放置する方が面倒くさいと判断したらしい。
俺はクラスを調べる魔法で、フールーダの才能上限を調べてみる……あ、いける。第七までなら伸ばせるなこの人。ただクラス習得がミスってるせいで、第六までしか伸ばせないだけだ。
「いけますね、第七までなら」
「な、なんとぉおお!! わ、私が第七位階まで習得可能なのですか!?」
「可能ですね。ただその代わりに、信仰系か精神系か魔力系のどれかに絞る必要はありますよ」
この世界の魔法となった位階魔法は、八欲王がこの世界に持ち込んだもの。法国も詳しい事までは把握していないが、竜王の証言から何かしらのワールドアイテムが使用され、始原の魔法の代わりに位階魔法が組み込まれたようだ。
俺はウロボロスか魔法システムを弄れる五行相克のどちらかだと睨んでいるが、どちらにしろ位階魔法のシステムはユグドラシル由来のシステム。習得についてもユグドラシルから引き継いでいる部分がある。
その最たる例が系列毎の魔法行使レベル。位階魔法は大別して四つの系統に分類される。俺が使う魔力系。ペストーニャや法国で一番研究されている信仰系。東洋の魔法である巫術や陰陽術、呪術などが多く学べる精神系。精霊術など三系統に分類されない魔法が全部突っ込まれたその他系。
これらの系統にはそれぞれ魔法行使レベルが設定されていて、このレベルを上げる事でより高位階の魔法が習得可能となる。そして魔法行使レベルを上げる方法は、それぞれの系統に紐づくクラスレベルか種族レベルを上げるしかない。俺の場合であれば、モモンガでスケルトン・メイジやネクロマンサーが魔力系に該当するので、これらを上げていくとその内第十位階まで習得可能になる。
そしてフールーダはと言うと──
「キンジュツシやビショップを習得しているんですね、フールーダ殿は。これにレベルを割いているせいで、第六までしか習得出来ていない」
「……私が信仰系や精神系を習得してしまったことが原因……なのですか?」
「そうなりますね。見たところ魔力系のクラス数が一番多いようですので、信仰と精神のクラスは捨てて、代わりに魔力系に関連するクラスを習得すればなんとか」
俺は割とあっさり情報を開示する。理由は色々とあるが、これもワンオペ阻止作戦の一環だ。帝国には、王国に亜人が流れてこないように、東側の防衛を担ってもらう役目がある。つまり帝国の一員が強くなってくれるのであれば、俺にとってかなり有益なのだ。ブラック業務駄目絶対。
それにこうして教えておけば、帝国に対して恩も売れる。帝国最大戦力であるフールーダが俺に対して恩義を感じるのであれば、帝国も無駄な戦争などは仕掛けるのをやめるだろう。
俺の目論見は当たっていたのか、フールーダはボロボロと泣き始め……ええ。なんか俺の靴にキスし始めたんだけど。ジルクニフの方を見たら、両手で顔を覆って嘆いていた。なんか……大変そうだね、そっちも。
「あなた様こそ、我が恩師! 我が生涯における最大の師! ほんの少し私を観ただけで、第七に到達可能だと見抜く慧眼、まさしく魔法を司る偉大なる魔法神!!」
「ですから、魔法の神なんかではありませんよ」
「では魔法を極めた魔法師です!! 魔法詠唱者などと呼ばれるのは相応しくありません!! 唯一無二の魔法師! エモット法師や導師を名乗るべき御方です!!!!!」
「……私にはエモット公だけで十分ですよ」
なんか納得がいかないのか、フールーダはでも……みたいな空気を出している。仕方ない。こうなったら少し賭けに出てみるか。
「フールーダ・パラダイン! 魔法については後で手解きを少ししてやる! それまではそこで待機! 良いか!!」
「は! わが師よ!! あなた様のご指示に従わせて頂きます!」
俺が命じてみたら、フールーダは隅っこの方に行って本当に待機し始めた。その方向を見て、俺もジルクニフもこいつマジかよと凝視してしまう。いや、お前帝国の宮廷魔術師なんだよね? 俺ももしかしたらいけるか? と思ってやってみたが、本当に王国の公爵の指示を実行したら駄目でしょ。しかも我が師て。師匠になった覚えがないんだがこちとら? ジルクニフなんて、口を開けて自国の大英雄を呆けたように眺めている。
あ、ジルクニフが俺の方を見て眼で訴えてくる。
あれ何?
俺に聞かれても困ります
……いる?
いらない
「……フールーダ。お前がいると話が進まん。中庭にでも行って待機していろ」
「申し訳ございませんが、わが師からここで待機するように──」
「殿下の命を優先しろ」
「は! 承知致しました!!」
フールーダは、ジルクニフの命令を優先してすごすごと部屋から出て行った。
……沈黙だけが部屋を満たす。嵐のような老人が去った後には、重い静寂だけが横たわっていた。どうすんだよこの空気。完全に親善とかって空気じゃねえよ。
「……エモット公。私の中では、フールーダとは魔法に傾倒しているところはあるが、それでも時には私の教育係をこなしたこともある、国を代表する偉大な魔法詠唱者だったのだ」
「それは……伝え聞くフールーダ殿の逸話から察しはつきます」
「偉大な……魔法詠唱者だったんだがな。誰よりも信頼できて信用に値する……」
「それは。それは……殿下。殿下が来られると聞いて、最高級の茶葉と茶菓子をご用意しております。あちらでお召し上がりになりませんか?」
「……かたじけない。恩に着る」
なんか丁々発止のやりとりとか、そんなのを想定していたのに全然違った。ジルクニフはふふっと笑いながら、席につく。
「魔法とは……何なのだろうな」
そんな黄昏て問われても困りますよ、殿下。
明日の投稿は難しいかも