モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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ぶくぶく茶釜

 位階魔法。元はユグドラシルの魔法で、こちらの世界では八欲王が広めたとされている。代わりに、元から存在した始原の魔法(ワイルド・マジック)は駆逐されてしまったが。

 これは世界に元から魔法基盤と呼ぶべき法則の根幹が存在し、八欲王以前はこの基盤はワイルド・マジック仕様だった。竜や竜に連なる一部の存在だけが、この基盤に繋がる権限を有していた。

 しかし位階魔法仕様に書き換えられた際に、より多くの存在がこれにアクセスできるように。ただ歪められてもある程度はワイルド・マジック仕様が残ってはいて、八欲王以前から生存する竜王はまだなんとかワイルド・マジックを使用できる。

 というのが、長年魔法研究を続けてきた法国の見解。俺もワイルド・マジックを使えたらと思うのだが、これは根本的な資質がないと無理らしい。そもそも位階魔法との両立も基本は無理。どちらの基盤とも繋がろうとすると、かなりの無茶が要求されてしまう。

 使えないなら仕方ないと俺は諦めた。

 

「これがこうなって……ええい、ややこしい」

 

 位階魔法しか覚えられないなら、こちらを極められるように頑張るだけだ。極めると言っても、どこかの主席魔術師のように魔道の第一人者になるのではなく、あくまでも道具の使い手になるという意味だが。

 俺にとって魔法とは、便利な道具以上のものではない。学べば様々な不思議現象が起きる、摩訶不思議な道具。そんな認識の俺にとって、学びたい魔法は攻撃魔法などよりも生活魔法の方が多い。

 生活魔法はユグドラシルには無かった魔法で、名前の通り生活が豊かになる魔法達のことだ。有名どころだと紙を作成する魔法や、水を綺麗にする魔法。牛の乳を美味しくする魔法なんてのもある。

 ユグドラシルはどうしても攻略や冒険がメインになる関係上、情報魔法やそれに対抗する魔法。攻撃用の魔法などが主流で、6000以上魔法があったが、こちらで発展した日常向け魔法にはバリエーションで負ける。

 そんな中で俺が着目した魔法が二つあり、現在必死で学んでいる魔法が存在する。それは前述の紙を作成する魔法と、もう一つが石を作成する魔法。

 これらは共に第二位階にある魔法で、良質な白い紙と、良質で品質が一定した石を創る魔法。

 

(この二つがもしも俺の予想通りであれば、巻物(スクロール)と金属の供給が安定する)

 

 スクロールは魔法を封じておき、任意タイミングで魔法発動を可能とするアイテム。この世界とユグドラシルでは作り方が違い、ユグドラシル方式だと第一位階までしか籠められない。第二位階以上は、スクロールに使う材質を竜の皮など吟味しないと駄目……というのは従来の方式の話。

 法国が開発した秘匿式であれば、同一素材を使っても第四位階まで可能となる。ユグドラシルと違い、高レベルの竜の皮などが手に入りにくいこの世界で発展した技術達だ。非常に応用が利きやすい。

 

(法国式であれば、普通の紙でも第四位階……なら俺が<紙作成>を覚えて、なおかつ修正位階上昇最強化して作成した紙なら、第十位階まで封じ込めるかもしれない)

 

 そうすれば第十位階魔法のスクロールが流通させられるようになる。軍備を整えるという観点からすれば、非常に有利な点だ。

 だがこれは序の口。本命は<石作成>の方。これを修正して鉱石を作成可能とし、位階上昇と最強化をすれば、もしかしたらアダマンタイトやもっと上のグレードの鉱石。果ては七色鉱に届くかもしれない。

 

(魔法で七色鉱の作成が可能になれば、精錬した七色鋼が大量に確保可能になる。そして七色鋼が大量にあれば……あれに届く!)

 

 ワールドアイテム『熱素石(カロリックストーン)』に。これは夢のある話だ。魔法を介することで、ワールドアイテムの量産体制を築く。上手くいく可能性の方が圧倒的に低いが、何事もチャレンジ。それに七色には届かなくても、アダマンタイトやオリハルコンまで作成可能になれば、王国戦士団の装備類が一気に更新されるので何の問題もない。

 

「この世界にはこんな低級の金属しかないのか。私の手持ちには幾つか七色鉱があるが、とても全員を賄える量ではないな」

 

 とはエリートプレイヤーの言葉。ちなみにあいつのハンドルネームはおでん。リアル世界の古い神様の名前を少し弄って採用したのだとか。自分のようなエリートにはこれが相応しい名前だと言っていた。リアルネームはオフレコらしい。うぜえ。

 あいつの名前はさておき、アダマンタイトが低級云々には納得できる部分もあれば、素直に頷けないところがある。

 もしも転移した立場であれば、おでんと同じ感想を俺も抱いていた。しかしこっちで育って13年だ。アダマンタイトどころか、ミスリルやオリハルコンですら貴重環境で育った身としては、高望み言いやがってと思ってしまう。

 鉱山型ダンジョンに潜れば、オリハルコンなんてザクザク採掘できた環境とは違うんだよこっちは。低位階の鉱山を巡って、戦争すらも当たり前に起きるんだ。

 そんな金属が大量生産可能になれば、なんにせよかなりお得だ。七色鉱がいける、いけない。どちらにしろ俺には損がないので、紙に魔法式を書き記しながら勉強していると、パンドラが入室してきて、新たな書類が追加された。魔法勉強以外にしなきゃいけない仕事が多いよぉ〜……

 

「これは……王国戦士団の糧食配分リストか」

 

 王国戦士団の本拠地はエ・ランテルにあるが、現在各地への派遣も開始している。五千人を常に僻地で遊ばせていても、金や食料が勿体ないからな。

 モデルとなったのは陽光聖典で、四人一組で班を組ませて、そこに俺の眷属を一体同伴させて安全性を確保。王国全土の見回り組として成立させた。

 今までは冒険者がモンスター退治を担っていたが、今後は戦士団が治安維持を担うようになる。五千人を四人に分けているので、全部で1250組。その内、250組千人を一師団として区切り、それぞれの頭には戦士師団長がいて統括するようになっている。第一師団がおでん。第二がガゼフ。第三以降はまだ決まっていないので、俺やパンドラやジェネラルが処理するようにしている。

 各部隊には食料を渡してあるが、それの配分はこれでよいかと決めるためのリストをパンドラが持ってきたものだ。俺はざっと目を通して、問題ないので捺印する。ちなみにこの時俺が書くサインは、『王宮筆頭魔導師』モモンではない。

 あれはランポッサの下で処刑人をやっていた時の名前で、エ・ランテル領主になった現在は王宮住まいではないので、別の肩書になる。

 その肩書がこれ。

 

「モモン様も『魔導元帥』のサインが上手くなってきましたね」

 

 魔導元帥。王国戦士団は王直轄の軍隊で、その下で軍隊を指揮することになるのは団長の俺。では正規軍の統括とは何かといえば、法国を真似て元帥に。そして元の名前が王宮筆頭魔導師なので、ここから魔導だけ持ってきて元帥と繋げる。

 すると『魔導元帥』モモンになる。俺の魔導戦隊長レッドアイは却下された。解せぬ。ザナックに赤目だからレッドアイと言ってみたが、よく分からんと却下された。解せぬ。英語文化をもっと広げておけよ六大神めぇ~

 

「魔導元帥なんてのも慣れないけどな。陛下と殿下がお決めになった以上は、仕方ないが……しかし問題はないと判を押したが、食料の消費速度がちょっと早いな。想定よりもよく食べているのか?」

「今までと違い、一日の運動量も上がっていますから、それだけ必要なエネルギーも多くなっているのでしょうね。中には重税地域の住民もいますから、彼ら自身も自分が必要な食事量を把握できていないのかもしれません」

 

 糧食の量については、五千人から数十人をピックアップし、一日の消費量を調査して算出している。それで各部隊への割り当てを決めていたのだが、当人が想定するよりも、本当はもっと必要だった。それが分からなかったのは、税率120%にして絞って領民を殺してたカス共のせい。まともに食べていなかったせいで、把握できていなかったのだ。

 その辺もリストを見る限りでは是正した内容にしているようなので、うちの参謀には本当に頭が上がらない。俺が領主なんて出来ているのは、パンドラの力が7割ぐらいはある。

 

「いつも助かる、パンドラ。お前がいないと、俺の仕事なんて全然回らないからな」

「私はモモン様の右腕としてこの世に誕生しました。御身に仕えることこそ、我が望みであり我が運命でございます。お礼など……御身から身に余るお言葉を頂けたことを励みとし、より一層尽くさせて頂きます」

 

 大げさな……とは言い難い。今は記憶封印をしているが、パンドラやセバスにペストーニャは、あの真っ暗な墳墓で四百年以上墓守をしていた。たった三人で、モモンガのアバターが、誰にも二度と汚されないように。

 NPCにとって、主人に仕えることは至上命題。その役目を転移してからで考えたら500年近く果たせず、NPCにとっては無意味としか言えない時間を過ごしてきた。

 NPCはその役目を果たせないと、いずれは魔神になってしまう。法国の従属神達も、大部分は魔神となって災禍を振りまいてしまった。パンドラ達が狂わずにいられたのは、曲がりなりにも墓守としてモモンガアバターを守護する役目があったから。

 今は使い道を考えるあまり勿体なさ過ぎて使えず、ペストーニャが屋敷で開設した診療所に骨標本として飾ってあるモモンガのアバターを、だ。

 それに連想される形で、そういえば確かめなければいけないことが一つあったのを思い出す。

 

「パンドラ、少しこっちにこい」

「どうされましたか、モモン様?」

 

 パンドラの記憶封印を一時的に解除する。俺が再封印しなくとも、一定時間が経ったら再度封じられるように細工もしておく。

 自分の記憶が戻ったことで、パンドラははっ! としていた。すぐに周りを見渡して、封印後の記憶と照合したのか、すぐに落ち着きを取り戻した。早いなー、流石に。

 

「……この処置が必要なお話があるのですね?」

「ああ。少し前に、俺がトブの大森林でザイトルクワエという名前の魔樹を退治したのを覚えてるな」

「覚えております。アンティリーネ様に助力を請われた件ですね」

「その時に、森の精霊ピニスンから気になる話を聞いた。ずっと昔に、ザイトルクワエの触手を倒した、桁違いの力を持つダークエルフの話を」

 

 俺が特徴や使った武器、時期などを伝えると、パンドラはそれは……と考え始めた。

 

「モモン様の懸念通りの可能性はあります。あの時、アウラ様は殿で残られました。その後連絡が取れず、私はアウラ様もお亡くなりになったと考えていましたが、違ったのかもしれないのですね」

「お前はどうやってアウラに連絡を取ろうとしたんだ?」

「<伝言(メッセージ)>です。<伝言(メッセージ)>で連絡を取れば、生死ぐらいは判明すると。ですが連絡は繋がらず、その他の情報魔法で行方を探そうにも逆探知される恐れから実行はできませんでした」

「で、そうこうするうちに八欲王死亡の話が流れて、アウラは生死すら分からないまま消息不明か……今生きているかもと情報を知ったうえで、<伝言>を使ったらどうだ?」

「やってみます」

 

 あけみさんボディーなら<伝言>が使えるので、そのまま魔法をパンドラは使う。結果は不発。繋がらなかった。

 

「ユグドラシルとこの世界での位階魔法は、微妙に効果が違うことが多い。<伝言>も使い手によっては距離が遠いと、ノイズが乗ったりする。もしかしたら、<伝言>には100レベルでも通信可能距離限界があるのかもしれんな」

「ではモモン様ならどうでしょうか? 私よりも優れた魔法詠唱者であるモモン様であれば、距離など関係なく使えるのではないでしょうか?」

「俺か。ふむ……ユグドラシルのアウラは知っていても、こちらに来てからのアウラが不明だ。精度を少しでも上げたいので、幻術で俺にアウラを見せてくれないか?」

 

 俺の指示通りに幻術を使えるギルメンの姿に変化してから、パンドラが知る限りのアウラを映像として映し出してくれる。

 

「ほう? アウラはこんな顔をして、こんな喋り方をするのか」

「ユグドラシルの時は違いましたか?」

「違うな。お前達NPCにここまではっきりとした意思が宿ったのは、こちらに来てからだ……もしかしたら、ユグドラシルの時にもはっきりとした意思はあったのかもしれないが、俺とパンドラ達では見ていた世界が違う。リアル世界にこそ主体があった俺では、ユグドラシル世界のデータを全て読み取れていなかったのかもな」

 

 AIに自律意思はあるのか? これは俺の手が届く範囲のテーマではない。今考えるべきは、アウラは生きているのか。それとも全然別人が、ザイトルクワエを一時的に倒したのか。それを確かめる行為に、ユグドラシルがどうのこうのは関係ない。

 

「……大体は分かった。ではやってみるか。<魔法修正位階上昇効果範囲拡大最強化・伝言>」

 

 おおよそ考えられる限り最大レベルの強化を施した<伝言>。これで駄目なら……駄目か。繋がらない。

 

「どうでしょうか?」

「駄目だな。アウラを相手に繋げようと試みても、全く反応がない。俺が考えたように、アウラではないのか? 例えばデケムの父親である、クロウがダークエルフとの間に儲けた子とか? それならデケムと同じように、かなりの高レベルまで上がる可能性が高い。本体は無理でも、触手であれば問題なく倒せるだろう」

「その可能性は確かにありえますね。ですが他にも可能性はあります。そのダークエルフが、あけみ様のようなプレイヤーだった。アウラ様が八欲王との戦いで敗れ、捕まり、<記憶操作>などの魔法で名前すら変えられてしまった。だから<伝言>が繋がらない……様々な可能性が出てきますね」

「プレイヤーであれば、ザイトルクワエは敵では無いな。それに<記憶操作>で名を変えられた……<伝言>対象が自分はアウラではないと思っているから、対象から外れてしまっている。これは仮説に過ぎないが、ならばそうであるとして修正してみるか。<魔法修正位階上昇効果範囲拡大持続時間延長最強化・伝言>」

 

 今度は一度でもアウラと名乗った事がある人物であれば、<伝言>の対象になると修正して発動。さてこれなら……クソ、駄目かな。糸が遠くまで伸びているような感覚はあるが、それが繋がる対象を探して彷徨っているのが手に取るように分かる。

 このまま放っておいたら、いずれは<伝言>の効果時間が終了する。やはり駄目かと諦めかけて──

 

『……誰ですか?』

 

 繋がった!? 頭の中に直接声がする。声は女性の澄んだ声だ。俺はメッセージに加えておいた修正効果を利用して、通話からビデオ通話モードに切り替える。これでこちらの映像は向こうに届いたはず。

 

『うわ! な、なにこれ……幻術? エルフ女性と……人間の男の子?』

 

 向こうはどこかの森にいるのか、周りには木々が立ち並んでいるのが見て取れる。推定アウラな女性は、かなり長身のダークエルフで、はっきりとしたボディーラインに腰まで届く金髪、あと左右で色の違う眼が特徴的だった。

 

『あっと、ごめんなさい。突然のメッセージで驚かせてしまいました。私はモモンと申します……あなたはアウラさんですか?』

『アウラ? 誰それ? あたしはそんな名前ではありませんが……』

 

 向こうから伝わるのは困惑。誰と間違って、こいつらは<伝言>? を繋げているんだという感情が伝わってくる。アウラではないのか? と思っていたら、パンドラが俺を通じて向こうと話し始めた。

 

『申し訳ございません、お嬢様。あなた様がアウラ様でないとしたら……ぶくぶく茶釜様を名乗られてはいませんか?』

 

 パンドラがそう告げたら、向こうは顔がはっきりと変わった。もしかして、こいつらは私を知っているんじゃないのか? みたいな感情が見える。俺はなぜ茶釜さんの名を? と一瞬考えて、ああそうかと気づく。もしも記憶を消されていたとして、それでも自分は何者なのかを探ろうとしたら持ち物を調べる筈。ザイトルクワエを倒したダークエルフは、鞭を使ったという。つまりアウラは、自分の持ち物をある程度は持ったまま。

 そして<道具鑑定>などの魔法で詳しく調べれば、製作者の名前などが判明する。アウラが持つ持ち物は、全て茶釜さん作成によるものだ。自分の持ち物の作成者がぶくぶく茶釜。ならば自分は茶釜であると認識してもおかしくはない。

 茶釜さんの名を名乗る、左右の目の色が違うダークエルフ。これはどう見てもアウラだろと、俺とパンドラは少し顔を見合わせた。




感想で前から指摘されていた

Q:モモンにオーバーロード要素混ざってない?
A:アインズ入ってる。原作がアインズ(モモンガ)に鈴木悟の残滓がある状態なら、こっちは反対にモモン(鈴木悟)にアインズ要素がちょっと入り込んだ状態

ついでに為政者達のカルマ値

モモン:-80(中立~悪)必要なら殺害なども辞さないし容赦なくアンデッドの刑に処す
ジルクニフ:-70(中立~悪)1を躊躇なく斬り捨てて9を取れる
ジルクニフパパ:-60(中立)王様優秀度ランキングでザナックと一緒ぐらい
パンドラ:-50(中立)原作と変わらず
ラナー:-30(中立)パンドラを見習って中立な観点
ザナック:+80(中立~善)普通に優秀でフラットな視点を持つ善人
ランポッサ:+130(善)善人だが善人ゆえに悪にキレてキリングマシーンに
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