モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
ぶくぶく茶釜の名前に反応したダークエルフの女性。彼女は訝しむ顔をした後、こいつらと話を続けなければいけないのだろうかと言いたげな顔になった。
しかし<伝言>? による通話なので、俺が切断しない限りこの状態が続く。諦めたのかこれみよがしにため息を吐きだした。
『……あなた達は、どうしてあたしの名を知っているのですか? それにアウラとは一体なに?』
俺とパンドラは、<伝言>越しに見えるダークエルフの女性をアウラだと認識しているが、向こうの認識では自分は茶釜なのだ。この世界風に表記するなら、ブクブク・チャガマか? 自分はチャガマであると自認しているのに、アウラと呼ばれてもだろうな。
まずは数百年前に、トブの大森林でザイトルクワエ退治を行ったダークエルフの話を聞いたことを伝える。すると向こうは、ああその件と答えてくれた。
『今から二百年ほど前、魔神退治をしていた時にあの森で強い何かが暴れている話を聞いたから、みんなで話し合ってあたしが倒しにいったけれど……もしかしてあいつが生きていて、それで助けを求めてあたしに連絡を? あとこの魔法は何? <伝言>……とは違うよね? ガテンバーグのことがあるから、初対面の人物に<伝言>で連絡なんて取らないし、あの魔法に幻術効果なんてない。新しく開発した魔法?』
『<伝言>を少し改造した魔法ですよ』
ガテンバーグは<伝言>が誰から来た連絡なのかの確認が取れない仕様を悪用され、戦争準備・首長暗殺計画・裏切者、この三つの虚偽情報により内乱を起こして自滅した国の名前だ。それ以来、<伝言>は信頼性の低い連絡手段になってしまった。
俺の場合はこうして映像をお届けしたりできるので、神官長らなども信用してくれるが、俺以外の使う<伝言>については全く信用してないらしい。
『それとザイトルクワエの件であれば復活はしていましたが、私の方で対処させて頂いたので問題ありません』
『……へぇ? あれを倒したんだ。あいつの触手は一本一本が魔神ぐらいはあったのに』
『という事は、やはりチャガマさんがザイトルクワエを?』
『そうだよ。あたしが鞭でバシッとして倒したんだ』
『それに二百年前の魔神戦争となると、チャガマさんは十三英雄の1人なのではないですか?』
『それも正解。なんだ、やっぱりあたしのことを知ってたんだ』
『今日までは、あなたの名前がチャガマであることは知りませんでしたよ……チャガマさん。私どもは、今から数百年前に消息を絶った、アウラと言う名前のダークエルフを探しているんです。その人物の特徴が、チャガマさんとそっくりでして』
もし生きていたらその人物は500歳を超えること。チャガマと同じ王の瞳を持つことなども伝える。
『それとこの改良型<伝言>は、連絡を取りたい人物が名前を変えたりしていても取れるようにした代物です』
『うん? てことは、二人はアウラって人物に連絡を取ろうとしたら、あたしに繋がったってこと?』
『はい。それであなたがアウラではないかと思ったのです』
『そう……でも、それならどうしてブクブク・チャガマの名前を知っているのかな? おかしいよね?』
『それはこの弓を見つけたからです』
パンドラに指をちょいちょい振って、アウラの弓を出させる。その弓を見て、チャガマはあ! と声を出した。
『この弓は、かつてアウラが使用していたものです。弓の製作者はチャガマ。つまりあなたの現在の名前ですね。アウラの持ち物は、殆どがお母さんのチャガマが娘のために作り上げた物です。その中には、ザイトルクワエ退治に使われた鞭『クィーン』もある』
『……消息を絶ったアウラ様が、もしも記憶喪失になっていたと仮定しましょう。その時持ち物を探れば、判明する名前はぶくぶく茶釜様。自分の名をそうであると考えるかもしれない。そう思い、私はぶくぶく茶釜様の名前を名乗られているのではないかと疑いました』
理由を聞いたアウラは、俺とパンドラをじっと映像越しに見る。見て、少しだけ沈黙したあと──
『……そうだよ。あたしには小さい頃の記憶がない。気が付いた時には、とある人物のもとにいた』
『その人物とは……八欲王ではありませんか? アウラ様は消息を絶つ前、八欲王に会いに行くと言ってましたので』
『……そっか。あたしが誰のもとにいたのかも知ってたんだ……クロウさんのところにいたのも……そこまで知ってるなら、あなた達、というかそっちのエルフかな? モモンの方は人間だから寿命関係でありえないけれど、パンドラは記憶を無くす前の私を知ってる?』
『はい。一時期は同じ村で過ごしていたこともありますよ』
『ふうん? ダークエルフとエルフが同じ村で過ごすなんて珍しいけれど、今はいいか……もしかして、あたしの母親、になるのかな、チャガマって人は? に頼まれて、探してたの?』
『いいえ。ぶくぶく茶釜様は、アウラ様が失踪されるよりずっと前に亡くなりましたよ』
『……少し悲しいね。覚えてないけれど、あたしを生んでくれた人に会ってみたかったな』
しんみりと呟くチャガマに、俺もパンドラも何も言えない。転移事故の前には会ったところで会話ができず、転移後はそもそもNPCは創造主に会えていない。NPCの中で直接の創造主に会えたのは俺と再会したパンドラだけ。もしアウラに記憶があったところで、会うも糞もない。
『ええと……チャガマさんと呼べばいいでしょうか? それともアウラさんの方が良いですか?』
『パンドラさんはあたしのことを良く知っているんですよね? ならモモンさんもパンドラさんも、あたしを呼ぶときにはアウラでいいですよ』
『ではアウラさんと。アウラさんは、八欲王のクロウさんといたと仰られましたね。失踪直前には八欲王のところに向かっている。なぜ記憶喪失になったのかは分かりませんが、これまでずっとどうされていたのですか?』
『ま、普通は行方不明だった人が見つかったら、知りたいとは思うよね……話してもいいけど、一つだけ訂正させて』
『なんですか?』
『クロウさんや、あの人の仲間を八欲王と呼ばないで。不愉快だから』
ここにきて、アウラの声に不機嫌さが混ざる。この大陸を支配した八人が、八欲王と呼ばれるのがどうも不愉快なようだ。俺とパンドラは目配せする。
……まぁそうだろうなと。八欲王に関するあれこれが俺とパンドラの考察通りなら、八欲王は加害者であり被害者だ。何をしようとしたのか。どうして世界の支配なんて目論んだのか。
彼らが何を優先したのか。ツアーの元にあった、天空城のギルド武器らしき何か。十三英雄だけが、八欲王亡きあと、天空城からマジックアイテムを持ち出せた理由。三十人の都市守護者達。なぜエリュエンティウなんて設立したのか。スルシャーナとの関係。それらを全て繋げると、ああ、八欲王とはそういう連中だったんだなとある事実が浮かび上がる。
(ナザリックを滅ぼしたことは許せない。これはパンドラと俺の共通認識で、この事については許せないが、彼らがしようとしたであろう事実。そのことを評価しないのは、少しばかり不公平だ……悔しいけどな)
記憶を消されたアウラは、長い間八欲王を間近で見て来たのだろう。だから、蔑称で呼ばれることが我慢ならないのかもしれない。
『申し訳ございません。私が知る八人については、名前を知っているのはクロウ・ホウガンだけですので、アウラさんが不愉快に思う呼び方しかできませんでした』
『……いいよ。クロウさん達について、あんな捻じ曲げられた伝承しか知らないなら、その嫌いな呼び方をしてもおかしくはないし。でも今後はその呼び方はやめて。せめてあたしの前だけでも』
『承知しました。今後はクロウさんとその仲間と呼ばせて頂きます』
『うん、それならいいよ……それじゃどこから話そうか? 最初からがいいかな?』
『それでお願いします』
『じゃ、ほんとに最初からいくね。私が目覚めたのは──』
アウラが眼を覚ました場所は、八欲王の本拠地と呼ばれている天空城塞の一室。今もなお、砂漠の都市エリュエンティウの上空に浮かび続けるギルド拠点だ。俺も一度見に行ったことがあるが、流石に巨大な城だった。ユグドラシルでは各ワールドに一つずつしかないと言われる、最大拠点の一つなだけのことはあると感じるほどに。
『あたしは最初、自分が何者なのかも分からなかった。どこで生まれて、どこからきて、何をしていたのか。そんな当たり前のことすら、何一つ思い出せない。自分が寝かされていたのがベッドであることや、すぐ傍のチェストに置かれているのが水差しだと分かる知識はあったの……でも、自己がなんなのか? それは何一つとして、あたしの中になかった』
自分に関する記憶だけが完全に消されたのか? そうなると、やはり使われたのは<記憶操作>だろうな。消費MPが膨大だが、あれを何日も使えばNPCの記憶の一つや二つ消滅させてしまえる。アウラがナザリックのNPCであったことが、彼女の中から抜け落ちてしまっていた。
『パニックになったあたしは、ここはどこ!? て叫んだかな。そうしたら背中に羽が生えた女の人や、眼帯をした女の子が来てね。あたしが目を覚ましたことをどこかに連絡したの ……そうして少ししたら、あたしと同じような左右で目の色が違うエルフの男性が来た。それがクロウさんだよ』
『背中に羽に眼帯……失礼、アウラ様。その羽が生えた人とは、綺麗な顔をしている黒い羽を生やした女性ですか?』
『え? ううん、白い羽だよ。もしかして、羽が黒い女性も探しているの?』
『そんなところです。こんな人を探していますなんて捜索依頼もありましたので』
『そうなんだ。もしかして眼帯の子も探している子かな?』
『その通りです。何かその子に、他に特徴的な要素などはありませんでしたか?』
『うーん……あ、そうだ。その子、最初は人間だと思ってたのに、詳しく聞いたら全然違って。オートマトンで、自分はからくり人形だって聞いた時には、少しびっくりしちゃった』
『……その子の名前を伺っても?』
『ガーネット。あと特徴と言ったら……なんか変な丸い小さな札を貼る悪癖があったかな。気に入ったものには、それを貼る子だった』
俺とパンドラは一瞬だけ目で語る。
そういうことか?
そういうことです
そうか……八欲王に捕まり情報を抜かれたあと、アウラと同じく記憶を消されてしまったが、生みの親であるガーネットさんの名前を名乗りながらも生きていたのか。少しだけ俺の顔が綻ぶ。そうか……シズは生きていたのか。
しかし変な丸い札ってなんだ? あとでパンドラに聞いておこう。NPCの設定なんて、もはや殆ど覚えてないからな。
あとパンドラが尋ねた黒い羽というのはアルベドのことだろうか? 彼女も捕まっているのではと考えたようだが、白い羽で別人なようだ。
『その眼帯の子は、パンドラさんが探していた……人? であってる?』
『直接会ってみない事には分かりませんね。ガーネット様は、どちらにおられるかご存じですか?』
『最後に会ったのは百年前だけど、生きているならたぶんエリュエンティウじゃないかな?』
『では、またいつかあの都市にもお邪魔したいですね』
シズのことをさておいても、天空城塞にはいずれは訪問したいと考えている。いずれの話にはなるが。
『話を戻すね。クロウさんの話では、あたしは森の中で倒れてた。このままだと衰弱するかもしれないと考えたクロウさんは、あたしを天空城まで連れて帰り、看病してくれたの』
クロウはアウラにそう教えたのか。実際には殿を引き受けたアウラと戦闘して倒し、気絶した彼女を持ち帰ったか。そして<記憶操作>でアウラであった事実を全て消した。なぜそんなことをしたのかと考えたら、単純に考えれば戦力を欲したからあたりか。
100レベルのビーストテイマーを殺すよりは、シズにしたように記憶を消して仲間にした方がよほど都合がいい。俺だってクロウと同じ立場であれば、確実に同じことをしている。おでんにやったようにな。
『それからあたしの日々は、天空城で暮らす日になったの。記憶がない状態で彷徨うよりは、クロウさん達と一緒にいた方が安全だったし。その頃にはクロウさん達は、かなりの竜王と戦っていたわ。クロウさんやその仲間達に従う眷属も。あたしとガーネットも、同じように戦ったわ。無駄飯食いにはなりたくなかったから』
そこからは伝説にも謳われるようになった、八欲王の大陸支配の物語だ。時には苦戦し、時には圧勝する。そんな日々を過ごしていたようだが、ある日を境に少し状況は一変する。
『──さんが始原の魔法で、この世界から消されてしまったの』
『……つまり死んだのか?』
『分からない。一つだけ確かなのは、あの人はどこを探しても見つからなかった。クロウさん達はこの結果を受けて、ものすごい力を持つマジックアイテムを使用したわ。同じ始原の魔法が使われないように、この世界の魔法法則を書き換えるんだって言って』
どうやったのかは不明だが、ギルドメンバーが一人消されてしまった。それに対抗するために、ワールドアイテムが使用された。始原の魔法封じとして、位階魔法で塗りつぶしたようだ。
『それだけじゃない。クロウさん達は更なる力を求めて、天空城の宝物庫に納められていた七つの貴重なマジックアイテムを使用したの……そうしたら、今までの比じゃない力を手にしたわ』
『七つのマジックアイテム? まさかユグドラシルのアーティファクトか?』
『知ってるの?』
『もしかしたらの話だが……七つのアーティファクトを使い、比じゃない力……』
……なるほど。だから彼らの名は八欲王なのか? 色々な事と符合する。そうなると……ああ、だから彼らはいなくなったのか。そうなると消えたギルドメンバーは……そうか。そういうことか? それならギルド武器の件にも説明はつく。
『彼らは力を増した後、どうされたのですか?』
『誰にも負けない力を手にしたクロウさん達は、この大陸を支配したわ……支配して……ある日、いなくなった』
『いなくなった?』
『いなくなった。伝承では酒池肉林の末に、仲間同士で自滅したなんてなってるけど、あんなの嘘っぱち。負けた竜王達が捻じ曲げた伝説だよ。本当はただいなくなっただけ。あたしやガーネット、眷属の子達に言葉を残して、いきなり消息を絶ってしまった……それだけだよ』
どうやらアウラにも、どうして八欲王がいなくなったのかは見当が付かないらしい……そして俺には、アーティファクトの件と併せて、なんとなく察しはついている。推測に推測を重ねたものだが、諸々の件と組み合わせるならほぼ正解に近いだろう推測が。
『……いなくなる少し前に、クロウさんはあたしに言ったわ。この世界の困っている連中を、もし俺がいなくなったら、代わりに助けてやってくれないか。そんなことをね。あたしは何を言ってるんですかと言って……結局、その言葉通りになっちゃった。どうしてクロウさん達はいなくなったんだろうね……』
アウラは少し寂しそうにしていた。記憶を無くした後、長い間行動を共にした人達が消えたのだ。それはかなり堪えるだろう……俺にも覚えがある感情だ。
『それからは、あたしはクロウさんの言葉通り世界を巡ってみた。色んなところに行って、人を助けたりとかね。そうしていたら、魔神の噂が巷に溢れ出した。あたしはこれも人助けの一環だと思い、魔神との戦いに参戦したわ。そうしたら……とてもびっくりすることがあったの……』
『びっくりすることですか……それは例えば、数百年前に消えたはずの人が姿を現した……とかですか?』
俺がそう言うと、アウラはギョッとしていた。ああ、やっぱりか。それなら、十三英雄のエリュエンティウ遠征の件に説明がつくんだ。
八欲王周りとか言う、君のオーバーロードではそれが正解だよ案件
チャガマ=アウラは八欲王関連から十三英雄まで全部に関わっているので、語らせたらツアーだけしか知らないような情報以外は大体出てくる。ツアーも知らないような情報も出てくる