モモンガさん、転生する 作:一人旅系亜種
数百年前に消えた人。つまり、消えたギルメンが姿を見せた。俺の言葉に、アウラはなんで? みたいな反応をしている。
『どうして分かったの?』
『十三英雄だけが、エリュエンティウからマジックアイテムの持ち出しを許可された。これは知る人ぞ知る情報ですが、なぜ三十人の都市守護者は持ち出しを許可したのか? アウラさんがいるからとも思いましたが、都市守護者が私の知る存在と同一であれば、それはまずありえない』
NPCがギルドメンバー不在の状態で、外様のアウラにマジックアイテムを貸し与えるか? これについては、同じくNPCであるパンドラに意見を求めたことがある。
答えは絶対にない。アウラは八欲王の仲間として一緒に戦ったようだが、それでもNPCにとって優先度は創造主より低い。自分が持たされていて裁量を任されているアイテムならまだしも、天空城塞からの持ち出しとなれば創造主の意見がいる。
この点についてはナザリックが証明済みだ。なにせ追い込まれるまで、宝物庫のアイテム使用について渋ったのだから。最初の攻防戦において、リソースを躊躇いなく吐き出していたら、八欲王との闘いはもっと違った結果になっていたと俺は推測している。
ナザリックとの闘いはさておき、魔神なんて全く関係ない連中との闘いにマジックアイテムを貸し出すとなれば、それは創造主の誰かが命じた時だけしか許されない。
『そうだね……あたしでも、あそこのマジックアイテムを外で使わせてほしいとお願いしたら、間違いなく断られる』
『ですよね。なら答えは簡単だ。都市守護者が許す相手なんて、それは自らの創造主達の誰かに限定される。このことから私は、伝承にある十三英雄のリーダーは、八人の誰かだと思っていました。そしてその誰かとは、アウラさんの話を聞く限りでは、一番可能性が高いのが
ユグドラシルから、こっちの世界にデータに過ぎなかったプレイヤーやワールドアイテム、そしてギルド拠点を転移させ、実体を持たせた何か。これはワイルド・マジックではないかと俺は睨んでいる。どの竜王かは分からないが、大儀式を実行した結果、別の世界からこちらに転移する現象が起きるようになってしまった。
そしてワイルド・マジックだとすれば、十三英雄のリーダーに対して似たような魔法を使ったのではないだろうか。こちらに引き寄せる転移の反対、はじき出す『追放』とでも呼ぶべき魔法を行使。
これで別世界に追い出せたらよかったが、転移を引き起こした魔法ほどの力はなく、あくまでもこの世界のどこかに飛ばすだけの効果しかない……ただこの魔法が転移現象魔法に近い魔法であれば、プレイヤーが百年ごとに転移してくるように、『追放』から再出現までにタイムラグが生じる可能性がある。
『……すごいね。大体正解だよ。あたしはその人と再会して、どこにいたのか聞いてみた。そうしたら、その人の時間間隔では、消えてから数日も経っていなかったんだ。あたしの感覚だと、250年以上は経っていたのにね……色々と話したよ。それから、その人は名前をリクに変えた。当時の自分の名前を名乗るのは、リスクだと考えたから』
リク。ハンドルネームではなく、本名を使う事にしたようだ。陸だろうか? それとも理久? どれにしろ、リクはアウラの話を聞いて魔神と戦うことに決めたらしい。皆がいないのであれば、俺が戦って守るしかないじゃないかと。ただ問題もあり、原因は不明だがリクは消滅前より恐ろしく弱くなっていた。アウラもリクも、ワイルド・マジックのせいかもしれないと考えてはいたらしい。
(たぶん『追放』が転移現象魔法、『召喚』と呼ぼうか。『召喚』に比べると、『追放』は相当弱い魔法なんだろうな)
『追放』が『召喚』に似ている魔法なのであれば、新たにこの世界に出現する時にはデータから実体になったように、体がたぶん再構築される。『召喚』であれば100%の能力で実体化させられるのに対して、『追放』による出現では完全な状態の数%まで低くなるのではないだろうか。
なんにしろ、リクはなんか弱くなっていた。それが事実らしい。
『それからあたしは、リクさんやその他の仲間と一緒に魔神退治をしてね。いつしか十三英雄なんて呼ばれてた……魔神戦争が終結したら、リクさんはあたしに君は君の道を進め、俺は俺の道を進むって言われて。それで別れて、また単独での世直しの旅をしていたよ』
それがアウラの今までの旅路。かなり端折って話してくれたが、数百年を語れば長くなってしまうからだろう。
幾つか質問してみたが、リクがその後どうなったのかはアウラも知らなかった。別れたあと、リクの噂をある時から聞かなくなったので、寿命死したんじゃないかなと言っていた。
(たぶんそれは違う。ギルド武器はツアーの下にあった。あれはリクが持ち出したんじゃないか? そしてリクは八欲王で、ツアーは竜王……正体がバレて揉めたのか? だがそうなると、ギルド武器をなぜリクが? リクはギルド長ではないから、あれを使えない。そもそも持ち出す理由が不明だ……ここについては、ツアーに聞き出さないと分からないか)
ともかくアウラの証言で、前からそうじゃないかと思っていた、十三英雄のリーダーの正体については確定した。アウラがどんな旅路を辿ったのかも。
『……リクさんは魔神と戦うことを選んだ。そしてアウラさんは、彼らは八欲王なんて名前で貶められたと証言してくれました。現在に伝わる彼らの伝説は、この世界を支配しようとした侵略者です。でも、リクさんは弱くなった身でも、自分が矢面に立って戦おうとした英雄。アウラさんは彼らと長い間共にいたんですよね? クロウさん達とは、あなたの目から見てどんな人達でしたか?』
『どんなって言われたら……優しい人達だったよ。特にあたしによくしてくれたのはクロウさんと、ギルド長だったキリトさん。この二人は特に優しかったかな』
『……キリトか』
アウラのおかげで、あのギルドの誰が転移してきたのかも判明した。ギルド長である、ワールド・チャンピオンアースガルズが来ていたことも。ギルド長のキリトに関しては、実力の伴ったイキリトさんとして有名だった。俺はよく知らないが、DMMOにはキリトネームが多いらしい。ユグドラシルにもたくさんいたからな、キリトは。由来のある伝統のネームらしいが、どんな由来なのか俺は知らない。
他のメンバーの名前もクロウ以外は、DMMOでは伝統的に使われている名前だった。ついでにキリト以外の全員もワールド職持ち。
『モモンさんとパンドラさんも……あたしがどんな人か話すまでは、あの人たちが悪人だと思っていた?』
少しは。NPCとは言え少女の記憶を消去・洗脳し、戦いに駆り出す人は優しいのかと問われたら微妙だろう。アウラの視点では、記憶喪失の自分に住む場所を与えてくれた人なので、ここでは指摘するつもりはないけれどな。
だが、それが八欲王の全てかと問われたら違う。誰にだっていろんな仮面があり、多様な側面がある。せっかくアウラが答えてくれるのだから、前から気になっていたことを全部質問してみよう。
『悪人となると、少し印象が違います。デケム・ホウガンから、彼らは法国が掲げる神と共に、悪魔達からこの世界を守るために戦ったと聞いているので』
『デケム? ……あ、あの子か。あの子かぁ……』
『出会ったことが?』
『クロウさんがまだいた頃にね。あたしの弓を、クロウさんからデケムに預けてもいいか聞かれたこともあるよ……モモンさん達があの弓を見せた時点で覚悟していたけれど、あの子は死んだの?』
『死にました』
『……法国だね。戦争してたものね、あの子は』
『デケムが死亡する前に、クロウさんの仲間であるアウラさんに説得されたら、デケムは戦争を止めたのでは?』
『それについては盟約があるからね……ツアーに、あたしがクロウさん達に協力してたことがバレちゃって。魔神退治とかの功績があるから咎めはしないけど、代わりにユグドラシルのことに関わるのはやめろって警告されたから機会を失ったの。もしも盟約を破れば、十三英雄の仲間ではなく、やつらの手先として、世界を守るために殺すって。これが弱い相手なら無視できるけれど、あたしじゃ本気のあいつには敵わないからさ』
アウラが仲間バレしたのは、たぶんリク経由だろうな。リクが八欲王であることが発覚すれば、芋づる式にダークエルフの話に繋がる。木っ端の竜ならまだしも、ツアーであれば当時の八欲王の仲間に、王の相を持つダークエルフがいた話ぐらいは手に入る立場だ。
それとアウラがかつての八欲王陣営と判明しても脅しに留めたのは、あいつが穏健派なのもあるだろうが、それ以上にアウラを殺すとなると大事になるからだろうな。
(流石に100レベルを相手にするなら、あんな鎧ではなく本体じゃないと無理なはず。しかしあそこにギルド武器があったという事は、あいつは多分あそこであれを守護しているんだ。だから俺の時も、直接自分で動くのではなく、鎧を介して会いに来た。しかし本体が動くとなれば、ギルド武器を動かすか武器から離れるリスクが生じる。それよりも、人助けをするアウラを見逃す方がメリットがある)
しかしあの野郎……脅迫してまで法国とエルフ国で潰し合いさせるか。アウラが参戦すればすぐに治まったのだろうが、それはツアーとしては好ましくない事態だ。なにせ放っておけば、ワールドアイテムを持つ法国と、八欲王の息子で削りあってくれるのだ。これほど楽なこともない。
『デケムを殺したのは……もしかして、モモンさんかパンドラさん?』
『それは……』
『あ、それはいいよ。二人が今は法国の住民……になるのかな? で、戦争相手を殺したなら、それは正当だから。ツアーの脅迫に屈したあたしが、何かを言える立場じゃないもの』
『……そう言って頂けると助かります』
『どういたしまして』
『話を戻しますね。デケムの話を信じるならば、父親であるクロウさんは、率先して世界を脅かす敵と戦う人だ……アウラさんは、ユグドラシルについて、どこまでご存じですか?』
『大体は。こことは違う世界で、クロウさん達はそこから来た。でも望んで来たんじゃなくて、気が付いたらこの世界にいたとは聞いてる。モモンさんは詳しい?』
『私も新たに来訪した神、おでんさんのおかげで、ユグドラシルの神に匹敵する知識は持っています……アウラさんは、クロウさんから聞いていませんか?』
『何をですか?』
『
どっちから。その意味が伝わったのか、アウラは微笑んでいる。八欲王と呼ばれることになる彼らが、どうして竜王の殺害なんて始めたのか。その理由を聞くのに、どっちからなのかと聞く以上は、俺がそれに辿り着いていると確信した。
確信したからこそ、微笑んでいるのだ。俺が決して、八欲王を欲の王だと思っていないことに。
『あたしはそのころ、まだクロウさん達とは一緒にいなかった。だから聞いただけになるけれど、それでも間近で見たあの人たちの印象と、その話には嘘がないと信じてる……竜王からだよ』
『やはりですか』
そうではないかと思っていたが、これで確定だ。この世界に転移した天空城塞に対して、先に仕掛けたのは竜王の方だという事が。
この結果に対して、俺は特に驚きもない。
法国は八欲王に対して悪感情しか持っていなかったが、滅ぼされた竜王に対しても良い感情は持っていない。
(そもそもドラゴンのエピソードには、いつだって財宝がつきもの。この世界でも、竜には欲望の話が付きまとう)
ツァインドルクスやナザリックが滅ぼした
そんな竜が、空に浮かぶ荘厳な城を見つけたら? そこを根城にしているのが、虫けらの中でも、更に虫けらの人間だったら?
『奪おうとしたんですよね。キリトさんやクロウさん、リクさん達から天空の城と、そこにある財の数々を』
『うん。それで引き渡しを要求されて、断ったらワイルド・マジックで攻撃された……それで殺さないように反撃したら、国に帰って竜王は軍を結成。多数の配下を引き連れて、帰ってきた』
八欲王が転移した地域の竜王は、話を聞く限り、我が王国にたくさんいた貴族みたいな性格だったようだ。アウラの話なのでどこまで真実なのかは不明だが、伝聞からの印象ではものすごく強いバルブロっぽい感じもする。
そいつと戦ううちに、周りの竜王たちも漁夫の利を狙って次々参戦。八欲王はこれでもかと殺す羽目になってしまった。
(六大神が転移したこの辺は、まだ大人しい竜王ばかりだったようだからな。事情が違うとはいえ、なんとも……)
鋼殻以外の竜王にしても、デミウルゴスやアルベドが調べた限りでは非戦派ばかりだった。だからこそ、六大神が保護するまでこの地域の人間は生き残れて、六大神にしても法国に攻め込まれなかった。
だが八欲王は違う。これでもかと戦って、戦って、戦いまくった。財宝狙いのカス共を返り討ちにするために。
『どうして、モモンさんは竜王の方が先だと思ったの?』
『簡単です。天空城塞側に、そもそも竜王相手に先に攻めて、戦うメリットが薄いんです。たしかに、当時の大陸の覇者は竜王かもしれない。彼らの下には、たくさんの財があったかもしれません。たくさんの鉱石や、ワイルド・マジックアイテムが』
けれど、それらは果たしてユグドラシルから来たプレイヤーにとって、本当に価値があるものなのか?
俺はアダマンタイトを、パンドラにインベントリから出させる。この世界では価値が高い、希少な金属のインゴットだ。
『アウラさん。これはアダマンタイトですが、数百年生きるアウラさんは、これより価値のある金属を大陸で見たことがありますか?』
『ないね。アダマンタイト以上なんて、天空城ぐらいでしか……あ、そういうこと? だからおかしいなって?』
『そうです……この世界のどこに、最大級のギルド拠点を持つ存在から見て、絶対に殺してでも欲しいと思うほどの欲を持つ財があるんですか? ……ユグドラシルから来訪する神々からすれば、この世界にある物品の99%は価値のないゴミですよ、ゴミ』
俺は
ワールド・チャンピオンまでいたギルドメンバーが、八欲王なんて呼ばれるに値する金銀財宝。そんなのどこにあるんだろうね?
本作の真なる竜王の価値観については現代に生きている竜の王オラサーダルクのカルマ値を元にしています
オラサーダルク
カルマ値-25(中立)
改めて調べたらオラサーダルクで中立属性なんだ……となったので一般的な竜はオラサーダルクみたいな性格がデフォルトかもっと酷い(オラサーダルクの王様ランキングは凡人より上)。八欲王と戦った竜王の大半はカルマ値が低く、カルマ値が悪や凶悪、邪悪極悪な竜王はワールドアイテムを装備したフル装備シャルティアと互角に戦えるバルブロorフィリップが魔将クラスの王国貴族達を従えてると考えてくれたら分かりやすいかもしれません