モモンガさん、転生する   作:一人旅系亜種

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天空城塞

 俺が疑問に思った理由は、アウラに語った理由だけが全てではない。ユグドラシルプレイヤーが、自分から強者に喧嘩を売りに行くか? こう思ってしまったからだ。

 もしも俺がモモンガとして転移していたとしよう。その場合、絶対にNPCにも厳守させるのは現地勢力との不要な戦端を開かせないことだ。

 これで相手が弱いならこちらへの被害は殆どないから問題ないかもしれないが、500年前は違う。八欲王が駆逐するまでは、そこいらに始原の魔法(ワイルド・マジック)を使用するすごく強いバルブロが山ほどいたのだ。

 

(法国の研究では、ワイルド・マジックに対抗可能なのはワールドアイテムだけ。ナザリックが完全な状態でも、外に持ち出せるワールドアイテムは9個まで。とてもじゃないが、当時の現地勢力相手にやりあうには不安が大きすぎる)

 

 しかもこちらは、パンドラの話だと敵を過小評価するNPCを多数抱えている。無理。いくら何でもこっちから喧嘩を売るにはリスクが大きすぎる。ナザリックが殺したのは穏健派で非戦主義な竜王だが、これで相手がもっと卑劣で苛烈な性格をしていたら、八欲王との闘いの前に大きな被害を出していただろう。

 

(おでんだって、NPCに唆されるまでは隠れ住もうとしていた。ユグドラシルプレイヤーは、潜在的にリスクを嫌う傾向性がある)

 

 だから八欲王側から挑む可能性は非常に低いと踏んでいた。始めたのは竜王側だろうなと。ツアーに俺が語った、危険というなら竜王もだろというのは、この辺の考えをずっと持っていたからだ。

 

『今も生きている真なる竜王は、伝承では戦いに参加しなかった者達。反対に滅んだのは、八人と戦った竜王たち……これってようするに、アウラさんの話からは意図的に省かれていましたが、専守防衛で戦ったからですよね? 向こうから挑んできたから返り討ちにしたけれど、八人からは殺しに行ってない。最初から、八人側に竜王を皆殺しにする意図なんてなかった。あくまでも、自分達の身を守るために戦った』

『……正解。あたしが知る限りでは、キリトさんもクロウさんも、他のみんなも、自分達から仕掛けてはいない。もちろん亜人殲滅もね。たしかにあたしたちはたくさん殺したけれど、歪められた逸話のような狩りなんてしてない。竜王の手下達は殺しつくしたけれどね』

 

 この答えも想定内。当時の大陸の支配者は竜王だ。竜は竜同士で群れることは少ないが、他の生物を従えることが多い。当時の竜王らの下には、数多くの亜人や異形がいたはずだ。そいつらを軍として従えていて突撃させたのだから、それは被害も甚大になる。

 

(言ってしまえば、俺に差し向けられたバルブロと王国貴族が徴兵した七万人。あれのもっとスケールが大きい版で、それを見逃すのではなく全て抹殺した)

 

 たった一つの国の、更に主派閥ではない連中がかき集めるだけで七万人になったのだ。国全てを配下とする竜王が全力で総動員すれば、簡単に数百万の軍勢が集まる。それが一頭だけでなく、数頭、数十頭も狙ってくる。

 八欲王が眷属らと共に殺害した人数は、数億は軽く行くだろう。二度と刃を向ける気が無くなるように、徹底的に報復として叩く必要もあったに違いない。

 

『亜人殺しの逸話が多いのは、大陸に多かったのが亜人だから……で合っていますか?』

『うん。当時は人間種なんて殆どいなかったからね』

 

 これが亜人殺しの真相。そもそも当時の大陸には、人間種がかなり少なかった。大部分は亜人だ。現在の大陸中央部にいけば強い人間種もいるらしいが、当時の人間種といえば、六大神が保護しないと絶滅が確定していた種族などが主流。

 そうなると、竜王の配下にいるのは亜人の方が数が多くなる。分母が圧倒的に大きいのだから、必然八欲王に返り討ちにされて死ぬ亜人も多くなる。人間種が1死ぬ間に、亜人種は1000死ぬみたいな環境だ。

 そして、これだけ殺すと一つの問題が生じてしまう。

 

『当時の八人は多くを殺した。殺した数がそれだけ膨れ上がれば……穏健派も重い腰を上げる。ですよね?』

『二人ともほんとに頭が良いね。それも正解。流石に数千万だの返り討ちにしていたら、潜在的脅威? としてあたしたちを滅ぼさないといけないー……て言ってたかな、あいつらは』

 

 始まりが竜王だとしても、ここまで殺害数が膨れ上がったら脅威として排除するしかない。ここまで行くと、どっちが先か、どっちが悪いかなんて関係ない。数多を滅ぼす害獣は、先住民からすれば駆除するしかない相手だ。

 

『そこまで行くと、流石に八人側に不利。なにせ敵が一気に増えたわけですからね』

『そ。それに加えて、リクさんが消されてしまった。キリトさん達は言っていたよ。こうなったら、これを使うしかない』

 

 それが例のアーティファクトだ。それを使うことで、七人となった八欲王は今までの比じゃない強さを手にした。全ての竜を簡単に返り討ちにするほどの、絶大な強さを。

 

『時にアウラさんに尋ねたいのですが、そのマジックアイテムを使った後、七人には何か変わった様子はありませんでしたか?』

『……あったね。前よりも、戦闘時の言動とかがちょっと荒っぽくなってたかも。クロウさんたちはマジックアイテムの影響かもしれないとは言ってたけど……もしかして心当たりがあるの?』

『いえ……まだ何とも言えません。結局のところ、そのアーティファクトが何かは確認できていないので』

 

 嘘だ。戦闘時限定とはいえ、少しだけ性格に変化が生じるようなアーティファクト。それもガチプレイヤーの100レベルに相当する竜王を、あっさり倒せるほどに強化させられる代物。

 しかもリクが消されるまでは、使用を躊躇ったとなれば該当するアーティファクトは一つしかない。

 

(ワールドエネミーがドロップする固有アイテム。天空城塞のギルド、ワールドケントゥリアはガチ勢の集まりだ。何せ加入条件が、26あるワールド職のどれかを持っていること。ギルドメンバー全員がワールド持ちとかいう、ドリームギルド。ドリーム過ぎて百人集まらなかった悲しきギルド。それでも全盛期には36人以上いた。このギルドならワールドエネミーを複数体狩っていたっておかしくない。あれを使えば、元がワールド職持ちの七人だ。かつてのワールドチャンピオン・ムスペルヘイムのように、数十人のプレイヤー相手でも無双を可能とするまで強化される)

 

 ただしあれは、ボスモンスター化という名前の呪いだ。ムスペルヘイムも倒されたらキャラロストから運営にお気持ちメールを連打して、ゲームから永久BANされたと聞く。

 使えば強くなれるが、この世界でどんな変化をしたのか不明な、不可逆の変化を引き起こすアーティファクト。使うにはあまりにも勇気がいる。それでも必要だと考えて、七人はあれを使った。

 

(八欲王は絶大な力を使い大陸全土を支配した。でもこれはおかしい。なにせ当時は、近い実力を持つ竜王たちがいたのだ。竜王と同じぐらいの実力のプレイヤーを相手にこんな表現はしない。だがアーティファクトで数十倍にまで力を伸ばしたなら別だ。100レベル数十人を相手に、単体でも勝てるようになったプレイヤーが、チームを組んで戦う……ワールドエネミー七名のチーム。推定戦力は八階層のあれら相当だな。それも外で使用可能な)

 

 ならばツァインドルクスが恐れる理由もよく分かる。今の俺でも、一対一でたぶん互角。一体七なら五重戦士化を使って、二人は持っていけるがそこで死ぬぐらいの戦力差だ。ワールドリインカーネイターが最大まで育てば、互角まで持っていけるか?

 

『そうして戦い抜き、七人は大陸を支配したんですか? ……なんてのは愚問ですよね。彼らは支配になんて興味がなかった』

『そうだよー。竜王と戦う必要が無くなったなら、それ以上はリソースの無駄だし、そのまま放置したよ……そのせいで、八欲王なんて蔑称で呼ばれるようになっちゃったけれど』

 

 本気で七人が支配や殲滅を望んでいたなら、大陸に亜人なんて残っていない。全部殺しつくしたはずだ。でもアウラが言うように、七人はそんなこと望んでいなかった。ただし、爪痕は絶大だ。大部分の竜王を殺しつくし、その配下も大部分が葬られたのだから。

 戦争に駆り出されるとなれば、種族の核を担うような働き手の連中。それが大体死んだのだから、竜王が支配していた国家の大半が衰退を余儀なくされた。生き残った連中からすれば、八欲王は世界を混乱と混迷に叩き込んだ邪神達に他ならない。

 法国にしても、スルシャーナを滅ぼしたのは八欲王だと思い込んでいた。

 

『……それにしても。キリトさんやクロウさんは、法国の神に相当思い入れがあったようですね』

『どうしてそう思うの?』

『エリュエンティウの場所ですよ。あそこは七人が興した国ですが、不思議なことが一つあるんですよね。なぜ世界を支配したとまで言われた大陸の覇者が、あんな大陸の端っこの砂漠地帯に国を興したのか』

『……ふうん。ほんとにすごいね、モモンさんは……それともパンドラさん?』

『モモン様ですよ。私も地図を見て、ようやくその意図を理解しましたが』

 

 そう……地図を見ると一目瞭然なのだ。都市を築いた理由は維持金貨の問題だろうとパンドラは推測していたが、砂漠を選んだ理由。どうしてエリュエンティウをわざわざ砂漠に築いたのか。世界の支配なんて目論んでいなかったが、それでも何もない砂漠地帯なんかじゃなく、もっと肥沃な大地を選べたのに……それでもそこに築こうとした理由。それはある国が関係している。

 ほんの少しだけ北上すると、そこにはとある国がある。スレイン法国と呼ばれる国が。

 

『守ろうとしたんですよね? スルシャーナ神亡きあと、人間だけで守らなければいけなくなった法国を。あの砂漠に都市を築くと、南側から侵攻する亜人の防波堤になる』

『北側には山脈があり、亜人でもそう簡単には北側からの侵攻は難しい』

 

 もっと近くには、元々鋼殻の竜王が治めていた肥沃な大地があるが、ここに築こうとはしなかった。肥沃で大きな平野は、脆弱な人間種にもってこいの大地だ。そこはいずれ栄えるであろう法国や、法国から出た人間種のために置いておいた。

 代わりに魔法で砂漠にも都市を築ける自分たちは、従来人間が住むのに適さない環境を書き換えてまでそこに住むことにした……というのが俺とパンドラの見解だったが、アウラの微笑む顔を見ると正解のようだ。

 

『……あの人たちはね……悪魔達と戦った時に命を落とした、スルシャーナのことをずっと気にしていた。せっかく同じ場所から来て、人間を保護していた同胞を守れなかったって。なら、俺たちがそれを引き継いでやらなくちゃ……志半ばで死んだあいつが可哀そうだ』

『………………』

 

 そのスルシャーナを殺害した張本人は、こうして語っているアウラだ。ワールドアイテムに閉じ込めることでリスポーンによる逃走を封じ、魔獣軍団及びコキュートスと共に殺し続けた。

 ここだけ切り抜くと、どんな感情でアウラを傍に置き続けたのだろうか、八欲王は。周りにいるのはカスみたいな力こそ正義なエリートみたいな連中ばかりで、そんな中同じユグドラシル出身者で、人類の保護をしているプレイヤーがいるとなれば接触をしたがるのは人間の感情としては至極普通だ。

 そんなスルシャーナから救援を求められて、行ってみれば煽りカスNPCなナザリック……そして山河社稷図を利用されて、助けに入った時にはスルシャーナは手遅れだった。

 このことについて考えたところで、今更どうしようもない。ナザリックは滅んで、スルシャーナも死んだ。それが全てだ。

 

『しかし……どうして、七人は法国に直接支援をされなかったのですか?』

『あたしたちが直接手助けすると、スレイン法国も目の敵にされる恐れがあったからだよ。大量殺害をした犯人が、一国に肩入れする。これって、他人から見たらどう映るんだろうね?』

『それなら納得です』

 

 スレイン法国はユグドラシル出身者による国だ。そこで目に見える形で助けたりすれば、やはりあの国も……そう思われてもおかしくはない。それに当時から法国には、八欲王がスルシャーナを殺害したと思われていた。ならばそれを利用した方がいい。

 法国も、八欲王の害を被った国。そう思われた方が都合が良かった。

 

『だから訂正しなかったんですね。スルシャーナ殺害の真実を誰にも伝えず、自分達の中だけの秘密にした……でもクロウさんも父親だった。デケムには伝えてたんだ、本当のことを』

『そこは人の親ってやつなのかもね。あたしは子供がいないから、その気持ちはちょっと分からないや』

『……クロウさんがエルフの国を興したのも、スレイン法国が理由ですか?』

『そうだよ。半分は法国、半分は当時森に隠れ住んでいたエルフのため。あそこに国を築けば、森や森の外に広がっていたアベリオン丘陵の亜人達の防波堤になる。その後は結局、あの子が戦争を起こしたりしてあれなことになっちゃったみたいだけど……』

 

 ……これが八欲王の真実。最後にはどこかに七人は消えてしまったようだが、お互いに殺し合いをしたわけではない。もしもギルドメンバー同士で争っていたら、そもそも都市守護者が三十人丸々残っているわけがない。

 だから、彼らは本当に忽然と姿を消してしまったのだ。

 

(アーティファクトのデメリット効果? 使うと一定時間が経ったら、キャラロスト……死亡してしまうのだろうか?)

 

 なんにせよ、どこに行ってしまったのかはアウラにも不明。一つだけ言えることがあるとすれば……彼らは被害者であり、加害者だった。最終的に数億以上の命を奪うことになった彼らは、善悪のどちらに振り分けられるのだろうか。

 ツァインドルクスはこのことを知っているのだろうか? 知ったうえで、それでも殺し過ぎだと批判している? どちらにしろ、生き残った竜王らはユグドラシルアンチになった。穏健派であろうツァインドルクスすら、ユグドラシル関係者の戦争を放置するぐらいのアンチに。

 

(……これ。俺がナザリックのモモンガだってバレたら、めっちゃめんどくさいことになるんだろうな)

 

 生涯スルシャーナの生まれ変わりを名乗るしかねえな、これ。




ワールドエネミー『八欲王(七人)』
ワールドエネミーアーティファクトを使用してワールド職七人(チャンピオン・ガーディアン・ディザスター・ハンター・スレイヤー・ナイト・メシア)がワールドエネミーになった姿。伝説に謳われる圧倒的な力とはワールドエネミー化した後の強さを指す。竜王のトラウマ

本作ワールド職
ユグドラシルではA〜Zまでの26種類実装されていたんじゃないか説を採用している(チャンピオンがC、ディザスターがDなど)
ちなみにリクが元はワールドブレイブ(B)
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